経営改善計画書のシンプルな書き方!

金融機関に資金繰りの改善等への協力を依頼するためには、経営改善計画書を作成し提出することが原則求められます。しかしながら、資金繰りに追われて多忙な経営者の方がそのようなものの作成に時間をかけられないのが現実ですから、できるだけ時間をかけずにシンプルなものを作成するべきでしょう。

・事例

株式会社京都工務店は、和風建築を得意とし民間の住宅建築を京都を中心に関西一円で手掛けています。
現社長(48歳)は、大学の建築学科の大学院を卒業後の大手のゼネコンでの勤務を経て6年前に入社し、建築の現場から新たに学びを続け、1年前に創業社長の実父の後を継いで社長に就任しました。
まじめで穏やかな性格で社員からの評判もよく、社員一同新たなリーダーに期待を寄せいています。

社長に就任する前に前社長から財務内容を開示され、業績が毎年悪化傾向にあることに初めて気づきました。
また、先代社長の頃の杜撰な経営の結果、建築資材や売掛金に多額の不良資産が混在していることも判明し、これららを会計上処理すれば少なくない額の債務超過になることも明らかになりました。
現場ではとにかく良いものを作ってお客様に喜んでもらうことばかりに気を取られて、財務の視点から受注案件を見る機会はなかったのですが、経営者というポジションについてからは財務の視点から案件の収益性にも厳しく目を光らせるべきだと悟りました。

そのような中、10年前に手掛けた高級住宅の案件について、オーナーから2年前に訴訟が提起され、建築物の瑕疵の責任の所在について係争を続けていましたが、最終的に和解を勧告され、3千万円の損害賠償金を支払うことで合意せざるを得ませんでした。
損害賠償金について銀行は新たな融資を行ってくれるわけでもなく、手元資金で手当てする以外にないのですが、ただでさえ資金繰りが悪化している中で、手元資金のうち3千万円を賠償金として支払ってしまうと、通常の運転資金にも大きな影響が出てしまいます。

そのような中、社長より当社へご連絡をいただき、ご相談させて頂いた結果、銀行にリスケのお願いをすることになり、社長と共に銀行へリスケのお願いに上がり、その場で銀行から依頼された経営改善計画書を作成し後日提出することになりました。

2014 2015 2016 2017 2018
売上高 1,585,000 1,532,000 1,625,000 1,583,500 1,552,800
売上原価 1,293,360 1,274,624 1,387,750 1,364,977 1,358,700
売上総利益 291,640 257,376 327,250 218,523 194,100
売上総利益率 18.4% 257,376 327,250 218,523 194,100
販売管理費 245,680 243,560 235,525 220,225 210,850
営業利益 45,960 13,816 1,725 ▲1,702 ▲16,750
営業利益 45,960 13,816 1,725 ▲1,702 ▲16,750
原価滅却費 9,685 9,078 8,455 7,842 7,328
簡易キャッシュフロー 55,645 22,894 10,180 6,140 ▲9,422

過去5年間の損益の推移を確認したところ上記の表が得られました。
2014年以降の売上の大きな変化はなく15~16億円の間で安定的に推移していますが、粗利率を見ると見事に毎年低下しており、2014年に18.4%あった粗利率が2018年には12.5%にまで大きく低下していました。
その結果、2017年には営業利益が赤字、2018年には営業利益のみならず簡易キャッシュフローベースでも赤字となって、事業の継続性に大きな疑義が生じています。

2017年の決算が出た後には、メイン銀行の審査部長もわざわざ当社を訪問され、営業赤字の原因及び今後の改善策についてヒアリングが行われ、前社長は苦手な原価管理をしっかり行うことを約束しましたが、その後いつまでたっても社内で原価管理の実施を声高に叫ぶ者も経理部長以外におらず、翌2018年もさらに業績は悪化する結果となりました。
2015年に新たに与信を受けた当座借越枠の存在に安心したこともあって、工事案件ごとの原価管理を丁寧に実施することは行われませんでした。

2014年以前はおおむね20%弱の粗利率で推移していましたので、2014年以前に粗利率が低下するような原因の発生がなかったのかを確認したところ、工事部の原価管理の旗振り役であった工事部長が定年退職し、その管理ノウハウが後継者に引き継がれなかったという事実がありました。

現在の工事部長は、大工から工事部へ転籍された経歴を持ち、どちらかというと現場重視の管理者であり、数値等を精緻に管理して工事の進捗管理を行うことを苦手としていました。
そのために、前工事部長が退職後は受注価格の検討会議は開催されず、工事部の担当者が実施した工事原価の積算を工事部長が承認し、営業部が顧客から聞き出した建築予算を参考に受注価格を決定されており、工事原価の低減プロセスが全く抜け落ちることとなっていました。
つまり受注段階で、案件によっては非常に少ない利益予算が組まれてしまっていたことになります。

また、前工事部長が在職中には、毎月20日頃に工事進捗会議が開催され、進捗が予定よりも遅れている工事案件はないか、想定外のコストが発生している案件はないかを厳重にチェックしており、遅れが出そうな工事案件については、予定よりも遅れることがないように早め早めに手を打っていました。
工事原価は工事が遅れることでより一層その発生額が大きくなって工事利益を圧迫してしまいますので、工事の進捗管理を徹底することは理にかなった管理手法と言えるのです。

ところが、現工事部長は管理者であるにも関わらず現場に出ることを好み、社内で管理業務を行うことはほとんど行わず、現場での技術管理や施工管理に時間をかけていたため、当然ながら工事の進捗管理という大切な仕事は放棄されてしまったのでした。
その結果、遅れるべき工事案件は必要以上に遅れるか結果となり、竣工に間に合わせるために工事の後半に外注大工を大量投入することになって人件費を中心に工事原価は高止まりしていきました。

もともと高級和風住宅を中心として事業の展開をしていたために、受注価格を適正に算定し、その後の工事の進捗管理と原価管理を徹底すれば自ずと利益はついてくる業態であり、受注もお客様からの紹介が中心で営業が受注に苦労するということもありませんでした。

論点(イシュー)は何か?

大論点(解決するべき問題)は、「粗利額が減少していること」であり、その第一階層の原因は「受注価格が適正ではない(安い)こと」と「工事の進捗管理と原価管理が行われていないこと」の2つです。
したがって、設定するべき論点(イシュー)は、「適正な受注価格の算定と工事の進捗管理と原価管理の徹底をいかにするべきか?
となります。

設定するべき課題は何か?具体策は何か?

論点(イシュー)が、「適正な受注価格の算定と工事の進捗管理と原価管理の徹底をいかにするべきか?」なので、設定するべき課題として、「顧客に満足頂いて当社も十分な利益を確保できる受注価格の設定方法の開発」と、「工事の進捗管理と原価管理を一体のものとして運用できる社内の合議体の設計」としました。

そしてその課題に従って実施するべき具体策は、受注価格決定会議の開催と工事進捗会議の開催でした。
受注価格決定会議では、顧客から聞き出した予算と住宅に対するスペックの要望を照らし合わせて、予算内で実行可能なのか、バランスが悪ければどのように対処して顧客を満足させながら受容可能な価格を設定するのかが会議を通じて十分に話し合われることを目指しました。
工事進捗会議では、前月までに発生している原価を発生ベースで報告させ、当初の工事予算を100とした場合の予算進捗率と、スケジュールにおける進捗率を1つのグラフでわかりやすく表現させて、竣工時の予算利益を確保できるような体制を整えました。

債権者(銀行)の対応

上記の内容をまとめた経営改善計画書を提出して、リスケに応じて頂くことができました。当社は1年間のリスケの要請を行いましたが、メイン銀行は6ヶ月ごとに検討するという回答を頂いたので、当初は6ヶ月のリスケ、その後再度のリスケを受けて、ようやく工事利益がほぼ予算通りに確保できるようになったため資金繰りも安定し、銀行からの借入金の元本返済も再開することが可能となりました。
損害賠償金も、相手方が分割返済に応じてくれたことも資金繰りの早期の安定化に繋がった要因でもあります。
その後も順調に粗利額の確保はできており一安心といったところです。

まとめ

本案件は、受注サイドの特に問題はなく、品質レベルの高い住宅を提供してきた実績のおかげで口コミによる紹介が後を絶たず、マーケティングの知見を活用して売上を回復させる、増加させるといった課題を設定する必要のない案件でした。
つまりは、ロジックの力だけで発生型問題(問題の原因が過去に存在し、その原因を除去することで問題が解消されるタイプの問題)を解くという実にシンプルな問題解決の事例となりました。
そのロジックに管理会計のフレームワークをかぶせて数値管理を徹底すること、さらには数値管理が誰にでも簡単に行えるように社内にシステムとして落とし込むことが大切なポイントです。

経営改善計画書

本事例は、メイン銀行をはじめとした数行の取引銀行にリスケを依頼するために経営改善計画書作成しましたので、原則通りの本格的なモノは作成せず、簡便的なモノを作成してご対応いただきました。