経営改善計画書のシンプルな書き方【時間をかけるのは本末転倒です】

経営改善計画書を作成して提出してほしいと、リスケをお願いした銀行から依頼を受けた。
経営改善計画書なんて、書いたことないし、書き方なんてさっぱりわからない。
でもいい加減なものを提出したら、当社に対する銀行の心証が悪くなって、新しい融資も下りなくなるかもしれないし、かといって、そんなことに多くの時間をかけたくはない。

債務免除、DES、DDSなどの大掛かりな金融支援を受けるわけでもなく、単に資金繰りの改善を行うためにリスケを受ける程度であれば、経営改善計画書の作成のそんなに時間をかけたくないでしょうから、シンプルな書き方があればいいですよね。
でも、いい加減な書き方で経営改善計画書を提出して銀行の心証を悪くることも避けたいですよね。

この記事を読むことで、一定の体裁を保ちながら、銀行の心証も悪くしない、もしくは心証が良くなるかもしれない経営改善計画書の書き方のポイントが理解できます。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生に取組んで20年以上、200社超の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

事業再構築補助金に採択される方法については、下記の記事を参考にされてください。

経営改善計画書(簡易版)のシンプルな書き方

経営改善計画書のシンプルな書き方結論から書きますと、リスケを目的とするシンプルな経営改善計画書の書き方は、銀行の担当者の頭にすっと入りやすいもので、1つのストーリーとして読みやすいという要件を満たしているような書き方を心がければOKです。

そのストーリーとは、「当社はこんな会社で、現状こんな問題を抱えていて、その問題の原因がこうで、その原因を除去するための課題はこうで、その課題を達成するために具体的に今後はこのような対策を実施していきます。」という書き方の流れに乗ったものです。

さて、資金繰りの改善を目指して銀行にリスケのお願いをすると、必ず銀行から経営改善計画書の作成と提出を依頼されます。
これは、銀行からすればリスケの応じても「実現可能性の高い経営改善計画書」の提出を受ければ、銀行の自己査定上、不良債権に分類しなくてもよいからです。

「実現可能性の高い経営改善計画書」等の銀行が求める経営計画書の詳細についてへ、下記の記事をご参考になさってください。

リスケの詳細についてへ、下記の記事をご参考になさってください。

ところで、経営改善計画書を策定する目的は、下記の3つがあると私は考えています。

①足元の資金繰りを確保するために、リスケを金融機関にお願いするため。
②私的整理の枠組みの中で、金融機関に対して、債務免除、DES(=Debt Equity Swap:債務と資本の交換)、DDS(=Debt Debt Swap:債務の劣後化)のような大きな金融支援を受けて財務の抜本的再生を図るため。もしくは、業況が不調な中で投資等のための新規の融資を依頼するため。
③自社の経営の改善、事業構造の抜本的改革を図り、収益性の拡大を図るため。

②のように大掛かりな金融支援を金融機関から受けようとする場合には、財務の再生に関する高度な知識と実務経験を要しますので、自社で経営改善計画書を作成することなどできませんから、外部の事業再生コンサルタントに依頼して、経営改善計画書を策定支援を受けるべきです。

また、③の目的で、つまり、時代の市場ニーズに沿った商品やサービスを提供したり、ウェブやSNSなどのデジタル・コミュニケーションツールを使ったマーケティング・コミュニケーションを活性化してブランディングを行ったり、ファンコミュニティを育成するなどの事業構造の抜本的改革を実施するための目的であれば、これも自社内で経営改善計画を策定することはできませんから、外部の事業再生コンサルタント、特にマーケティングやデジタル・マーケティングに詳しい事業再生コンサルタントに依頼して、経営改善計画の策定支援を受けるべきでしょう。

また、②を目的にするような場合には、必然的に③も同時に実施するべきことになるので、②と③はセットで考えたほうが賢明でしょう。

一方で、①のように単に足元の資金繰りを確保したいような場合で、外部の事業再生の専門家に経営改善計画書の策定支援を依頼する必要もないと判断される場合には、本記事で紹介するようなシンプルな書き方に従って、社内で相応の経営改善計画書を作成して銀行へ提出すれば事足りると思います。
(この場合であっても、資金繰りが悪化している、つまりは事業の収益力の問題が顕在化している可能性が高く、事業の再構築そのものの必要性があることは重々ご承知おきください。)

以上のようなことから、本記事では、リスケを依頼する場合(上記①のケース)にシンプルかつ本質を外さなくて、銀行の心証も悪くしない経営改善計画書の書き方をお教えします。

銀行の担当者からすれば、リスケの応じる程度であれば、時間をかけて作り込んだ難解な書き方をした経営改善計画書よりも、シンプルな書き方で書かれた読みやすく本質を外していない経営改善計画書を好みます。
銀行の担当者も多忙であるので、難解な専門用語が多用された、分厚い経営改善計画書よりも、読みやすくてすっと理解できる書き方に従った経営改善計画書であるほうがありがたいのです。

そして、銀行の担当者の頭にすっと入りやすい経営改善計画書とは、1つのストーリーとして読みやすいという書き方の要件を満たしているものです。
そのストーリーとは、「当社はこんな会社で、現状こんな問題を抱えていて、その問題の原因がこうで、その原因を除去するための課題はこうで、その課題を達成するために具体的に今後はこのような対策を実施していきます。」という書き方に則ったものなのです。

そして、そのストーリーを数字に落とし込んで、以下に示す必要最低限の数値計画を記載すればOKです。

経営改善計画書のサンプル(日本政策金融公庫)の解説をご覧になりたい方は、下記の記事をご参考になさってください。

認定支援機関の外部専門家を利用して、金融支援を依頼する経営改善計画書を策定する場合には、下記の記事をご参考になさってください。

定支援機関の外部専門家を利用して、金融支援は依頼しない早期経営改善計画を策定する場合には、下記の記事をご参考になさってください。

具体的な記載事項

具体的記載事項銀行にリスケを依頼する時に求められる経営改善計画書はシンプルな書き方に従ったものでOKと書きましたが、以下ではその経営改善計画書の具体的な書き方をお示しします。
経営改善計画書は、決まった定型的は記載様式があるわけではありませんが、先ほど申し上げたストーリーを満たすために最低限満たすべき書き方があるものなのです。
その書き方に従って、リスケをお願いする場合に経営改善計画書の記載するべき事項は最低限下記のとおりとなります。

①はじめに(序文)
②ビジネスモデル俯瞰図
③経営改善計画における具体的施策と実施時期
④数値計画

以下で順番に説明を行います。

はじめに(序文)

まず最初に、経営改善計画を策定するに至った経緯の概略の説明と、リスケという金融支援を依頼することになったことに対して謝罪をすることが必要です。
加えて、自社の経営改善に尽力することの決意表明も併せて行いましょう。

下記に私が実際に経営改善計画書や事業再生計画書を策定を支援する時に使っている序文の文章の雛形です。

『平素より、株式会社〇〇〇の業務運営に対しまして、格別のご高配を賜りまして厚くお礼を申し上げます。

さて、弊社は創業以来順調に事業を営んでまいりましたが、半年前に当社の主要顧客の一角を占めておりました株式会社Bが物流を内製化したことに伴い、当社の運送売上が大きく減少するに至り、ここ3か月は営業段階で赤字を計上するに至っております。
結果、手元資金も漸次減少し、今般の資金繰り逼迫の事態を招くこととなりました。

ご高承のとおり、運送業を取り巻く経営環境は決して楽観視できる状況ではございませんが、減少した売上を補うべく3か月前より当社の元営業部長であったA氏を復職させ、新規顧客の開拓に努めている最中であります。

早期に新規の顧客開拓を進め、株式会社Bに変わる新たな顧客を確保し、また一方では役員報酬を初めとして固定費の圧縮に努め、従来当社が保持しておりました水準の収益の確保及びキャッシュフローの極大化に最大限努めてまいります。

弊社といたしましては、お取引金融機関様には金融支援(リスケジュール)をお願いすることとなり、誠に申し訳なく存じますが、何卒、本経営改善計画について御理解を賜りたく、お願い申し上げます。』

上記のような書き方に従って、自社の状況に合った内容に書き改めて頂ければ問題ありません。

ビジネスモデル俯瞰図

ここでいうビジネス・モデルとは、単なる商流のことを指しています。ビジネス・モデル・キャンバス等でいうところの難しい意味内容ではありません。
商流とは、「生産者から消費者までのモノの所有権が移転していく売買活動の流れ」を指す言葉です。
仕入先から材料を仕入れて自社工場で製品を生産して顧客に届けるという一連の商品やサービスの動きをわかりやすく図示したものを作成ください。
銀行の方が一目見てビジネスの概要を理解できれば十分です。
具体的にどのような図を書けばいいのかは、「簡易版経営改善計画書のひな型事例付」を参考にしてください。

また、必要と思われる方は、創業から現在に至るまでの企業の沿革・歴史、株主の状況、役員の状況、本社等の所在地の状況、使用人の状況等を記載してください。

経営改善計画における具体的施策と実施時期

この箇所は、自社の再生の具体的方向性を記載する箇所にあたりますが、実現可能性の高い施策をいかに論理的に説得力のある言葉で記載するかが非常に重要で、リスケ用の経営改善計画書(簡易版)のキモとなる部分です。

経営改善計画書には「具体的施策と実施時期」を記載すれば足りますが、事業再生を実現する可能性が高い具体的施策を考え出すにあたっては、必ず以下に示すような論理思考のフレームワークに従って考え抜くようにしてください。

多くの経営者は、問題を特定したらすぐに、自分の経験からくる知識の中だけから思いついた具体的施策を書こうとしますが、このような思考法(すぐに具体策から考え始める)はHow思考と言って厳に慎むべき思考法であり、そこから出てくる具体的施策は単なる思い付きでしかなく、事業を再生させるという大目的との因果関係が全く不明なので、大方の場合、その具体的施策を実施しても事業が再生することはありません。

では、その思考の流れを以下で簡単に説明することとします。

現状分析(問題の把握、原因仮説の探索)

リスケを依頼するための経営改善計画書ですから、リスケを依頼せざるを得なくなったのは、何が問題であるからなのかをしっかりと把握してください。

問題とは「あるべき姿」と「現状の姿」との間のギャップを指す言葉ですので、たとえば、「月次ベースの損益計算書レベルで、月次営業利益が3か月前に赤字に転落し、現在も継続している」ことが問題であるなどです。

そして、その原因は何かを考えて、原因仮説をたてることになります。
「月次営業利益が3か月前に赤字に転落した」ことが結果で、この結果と相応の因果関係があると思われる原因を探し出すということです。
因果関係の把握というものは実はとても難解であって、100%の因果関係と言い切れるようなものはありませんので、その因果の確度が高いと判断される原因を見つけ出すことがとても大切になります。
つまり因果関係とは、どのような場合であっても仮説でしかありませんので、100%の因果関係を発見しようと無意味に時間をかけすぎないことが肝心です。

本ケースが、たとえば運送業を営む会社であって、「月次営業利益が3か月前に赤字に転落した」ことの原因は、「主たる顧客であるB社が、運送会社を買収して物流を自社内に取り込んだこと」であるというのは、因果関係の確度はとても高い事例になります。

一方、本ケースがEC事業を営む通販会社であって、「月次営業利益が3か月前に赤字に転落した」ことの原因については、その原因の特定はかなり難しいですよね。
さまざまな原因が考えられて、しかもその原因が各々に影響を与えているようなケースでは、原因と結果の間の因果関係の確定はほぼ不可能です。
しかしその中で、おそらくこれが原因だろうというものを特定することが求められ、これを原因仮説といいます。

たとえば、EC事業の広告担当者が3か月前に交代しており、前任者はABテストを必ずきっちり実施してから広告運用を開始していたが、新任者はABテストを全く実施せず、外部の業者に作成させた広告クリエイティブをそのまま使っていたなどという、数値の転換点の前後で何らかの変更があった事実を見つけて、その事実を原因仮説として、課題設定と具体的対策案を考えてみるのです。

課題仮説の設定と具体的対策の立案

原因の仮説が特定できたならば、問題の解消に向けて実施するべき活動の大きな方向性を提示する必要があります。
これを課題仮説の設定といいます。

先の運送業の事例でしたら、課題設定を「主要顧客のB社の代わりになるある程度の運送量を見込める新規の顧客を営業で発掘すること」とすれば、具体的対策案は「定年退職した営業部長を復職させて、新規営業開拓を実施する」や、「物流ノウハウが蓄積されていないと思われる中堅クラス以上で、以前取引があった顧客を再訪問する」などの具体策があげられます。

また、課題設定を「取引がなくなったB社の利益相当額まで固定費をカットする」とすれば、具体的対策案は「役員報酬を30%カットすることと新規採用の凍結」であったり、「早期退職制度を使って、目標額まで従業員の退職を奨励する」などの具体策があげられます。

このように課題設定は常に複数考えられ、どの課題を設定するかで具体的な対策案は大きく変わってくるのです。

これが先のEC事業であれば、課題設定を「広告の運用前に精度の高いABテストを実施する」とすれば、具体的対策案は、「前任者を元のポジションに戻す」や、「前任者のノウハウを後任者に教えるために3か月間の猶予を与える」などが考えられます。

一方、課題設定を「SNSからの流入を大きく増やす」とすれば、具体的対策案は「Instagram運用コンサルティング会社よりコンサルティングを受ける」などとなります。
この課題設定は原因を解消することで問題を解消する方向は採用せず、原因は放置して別の課題設定で問題を解消しようとするアプローチになります。

このような形で、問題と原因に対する課題の設定と具体的対策の立案を行い、目安となるスケジュール表も併せて添付するようにしましょう。

このような形で、ロジカルに、問題の把握→原因の探索→課題設定→具体的対策案というストーリーの書き方に従って、経営改善計画書に記載しましょう。
これらもコンパクトにA4サイズの用紙1枚または2枚にまとめましょう。

課題設定と具体的対策の立案の注意点

上記の例のように、落ち込んだ売上を回復させるための原因が具体的に特定できているのであれば、売上の回復や売上の増加につながる課題設定や具体策の立案を記載してもらっても構わないのですが、その原因がうまくつかみきれないというケースがとても多いのが中小企業の実情です。

マーケティングの精通した事業再生のコンサルタントに依頼するならば話は別ですが、今は経営者が社内で経営改善計画書を作成することを前提としていますので、売上の減少の原因が確定できない場合には、売上の回復や売上の増加につながる課題設定や具体策の立案は記載しないほうが無難です。
そのような場合に、売上を回復させる施策を記載したとしても、ほぼ回復させることはできないからです。
そうなると、半年や1年後に銀行の貴社に対する心証は極めて悪くなります。

そのような場合には、落ち込んだ売上でも資金繰りが回るような固定費のカットを重点的に実施してください。
経営者本人の役員報酬を中心に、役員報酬のカットや、事務所移転による賃借料の削減(事務所ってよく考えたら今の時代には不要かもしれません。)や、新規採用の凍結など、ぎりぎりまで固定費の削減を実施して資金繰りの改善につなげましょう。

因果関係の複雑な売上の回復策を記載するよりも、因果関係の明確な固定費のカットを記載する書き方のほうが、経営改善計画書に対する銀行員の理解度はぐっと高いものとなります。

課題設定の大切さについては下記の2つの記事を参考になさってください。

数値計画の策定

数値計画の策定現状分析→課題設定・具体的対策の立案まで進んで、経営改善計画書(簡易版)に「具体的施策と実施時期」を記載したら、それを具体的な数値に落とし込みます。
経営改善計画書に記載する数値計画は、一般的には、基本財務省表(貸借対照表、損益計算書、(製造原価報告書)、キャッシュフロー計算書)の3つ(または4つ)、これにタックス・プラニング(法人税計算書)、借入金明細書、借入金返済スケジュール表、担保設定状況表等なども作成しますが、リスケ用の簡易版の経営改善計画書なので、これらすべてを記載する必要はなく、最低限記載するべき数値計画は、以下の3つで良いと思われます。

①損益計画
②資金繰り実績予定表(過去実績2年分と将来予想3年分の合計5年分)
③資金繰り実績予定表(進行期)

実際に私がリスケ用の経営改善計画書の作成を依頼された場合には、これらの数値計画だけを記載するようにしています。
銀行によっては、他の数値計画を添付するように要請される場合もあるかと思いますが、その場合は後日追加部分を作成して修正版として再提出してください。

時間をかけるのは本末転倒

経営改善計画の使い分け先ほども書きましたが、経営改善計画書を策定する目的は、下記の3つです。

①足元の資金繰りを確保するために、リスケを金融機関にお願いするため。
②私的整理の枠組みの中で、金融機関に対して、債務免除、DES(=Debt Equity Swap:債務と資本の交換)、DDS(=Debt Debt Swap:債務の劣後化)のような大きな金融支援を受けて財務の抜本的再生を図るため。もしくは、業況が不調な中で投資等のための新規の融資を依頼するため。
③自社の経営の改善、事業構造の抜本的改革を図り、収益性の拡大を図るため。

②を目的として経営改善計画書を作成するならば、必然的に③もセットでついてくるものだと書きました。

一方で、①の目的で単にリスケのお願いをする程度であれば、自社内で完結するようなシンプルな書き方に従った経営改善計画書で十分だと思います。
ただし、この場合であっても、資金繰りが悪化しているのは事実であり、それは本業の収益性が悪化している可能性は非常に高いわけなので、ビジネスの検証とその再構築を目的にして事業再生コンサルタントに早期にご相談されることをお勧めします。

現在では国の補助金を利用して、再生に向けて抜本的な事業戦略の構築と銀行の納得する経営改善計画の作成支援を合わせて行うことが可能です。
この補助金では、我々のような認定支援機関である事業再生コンサルタントにかかる専門家費用の3分の2を補助金でカバーすることが可能となっています。

補助金の概要については、こちらを参考になさってください。
https://www.chusho.meti.go.jp/keiei/saisei/05.html

認定支援機関については、以下の記事を参考になさってください。

新規融資依頼用の経営改善計画書(原則版)については、以下の記事を参考になさってください。

事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選定には、下記の記事を参考になさってください。