コロナの影響を受けてお客さんが9割減。わずかな蓄えも底をついてきて、毎月の借入金の元本返済がかなりきつくなってきた。
これまで元本返済のリスケなど一度も銀行にお願いしたことはないんだけど、銀行さんは快く聞き入れてくれるんだろうか。
もし、リスケジュールを申し入れて断られでもしたら、銀行からの評価も下がって、またお金が必要な時に貸してもらえないかもしれないな。
こんなお悩みをお抱えの会社経営者はきっと多いことと思います。コロナの影響をもろに受けてる先は多くて、どこも資金繰りが大変ですよね。また、銀行にリスケジュールなどのお願いをすると評価が下がるなどと気にかけている経営者も多いのかもしれません。
この記事を読むことで、リスケジュールとはどういうものなのか、またリスケジュールの要請に対しては金融機関はどういう受け止め方をして、どのように対処をするのかがよく理解できます。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で会社を再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。
優先して止めるのは銀行への返済
結論から申し上げれば、資金繰りが逼迫した場合には、まずは銀行への返済を止めることを考えましょう。
我々からすれば当たり前のことなのですが、なぜだか、銀行への返済は約定通りに行って、仕入先への支払を遅らせたり、カードローンで資金を調達したり、ひどいのになると、スタッフへの給与の支給を遅延させて資金繰りを破綻させないようにするなど、信じられないような光景は何度も目にしてきました。
銀行への返済を優先させて、仕入先や従業員への支払を遅延させると、事業の継続が困難な事態が次々と立ち現れてくるようになって、再生実務に大きな支障を来すことになります。
なので、資金繰りが逼迫したら、仕入先や従業員への支払は必ず守るようにして、銀行への返済を優先的に止めるように銀行へ早急にお願いに上がるべきなのです。
また、リスケジュールは簡便な方法ですが、効果は非常に高いものがあります。
それまでの約定返済をストップするだけで、その止めた返済額だけの融資を毎月受けているのと同じ効果があるのです。
資金繰りに変調を来したら、事業が傷みだしている証拠ですので、早急に事業再生の専門家に相談して、事業再生に取組むことが必要です。
リスケジュールとは何か?
リスケジュール(=リスケは略称)とは、金融機関からお金を借りている者が、交渉によって、融資を受けた時に約束した返済条件を、返済の負担が軽くなるように変更することをいいます。
具体的には、元本の返済を一時ストップしたり、完済期限を延期することで毎月の返済額を減額することです。
リスケジュールを行うことによって、毎月の銀行への返済額が一時的になくなる、または減額されますので、その分新しい融資を受けたことと同等の効果を持つことになります。
銀行からすれば、債務者の財務状態等によっては新しい融資を実行することは不可能だけれども、リスケジュールには応じることはできる、というケースはとても多いので、新規の融資を断られたからリスケジュールも無理だろうと諦める必要など全くありません。
リスケジュールという金融支援を受けることができたら、資金繰りに追われるという日常から解放されることから、まるで事業上の問題が解決したかのように感じてしまって、安心してしまう経営者はとても多いのですが、リスケジュールの期間中に今までどおりの経営を続けていたら問題は先送りされるだけです。
その間に事業再生を急いで実施して、やがて来るリスケジュール期間の終了後にしっかりと備えることが必要になります。
リスケジュールによれば、一時的に毎月の返済額がゼロになる、または減額され、新しい融資を受けたことと同等の効果がありますが、リスケジュールは借入金元本自体が減るわけでなく、最終の返済期限が先延ばしされているだけです。なので、リスケジュールによって金利の負担額は借入期間を通じては増加することにはご注意ください。
そういうことから、当社では、リスケジュールのお願いと金利の引き下げを同時にお願いするように指導させて頂いています。
金利交渉して金利の引き下げをするなんてことしたら、銀行の心証が悪くなって今後新しい借入ができなるかもしれない。だから、これまで交渉をして金利を積極的に下げるなんてやってこなかった。そんなことが可能ならば是非その方法を知りたい。
リスケは受けにくくなったのか?
少し時代をさかのぼりますが、2007年にリーマン・ショックが原因となって不況の嵐が吹き荒れたことは記憶には新しいのではないでしょうか。
この不況の中で中小企業の資金繰りが一気に悪化し、当時の金融担当大臣の亀井静香代議士の肝いりで実現した「中小企業金融円滑化法(以下、円滑化法)」によって、多くの中小企業が救われました。
円滑化法は2009年11月30日に国会で可決・成立し、当初は、2011年3月31日までの時限立法でしたが、その後2回にわたる1年延長を経て、2013年3月31日まで再延長されました。
円滑化法は、資金繰りに窮した中小企業が金融機関にリスケジュールを申し出れば、金融機関はその申し出に真摯に対応しなければならないというもので、強制力を持つものではなかったものの、リスケジュール等の実施件数を金融庁への報告することを義務付けたことで、各金融機関はほぼ無条件に債務者企業からのリスケの申し出に応じ、その実行率は90%を超えました。
この当時であれば、銀行へ申し出ればほぼリスケジュールは実現できましたが、2013年に同法は廃止されましたので、以降はそう簡単にリスケジュールには応じてもらえなくなっていると考えるべきなのでしょうか。
たしかに、中小企業者等に対する金融の円滑化を図るための金融円滑化法は、2013年3月末に期限を迎えましたが、金融機関が引き続き円滑な資金供給や貸付条件の変更等に努めるべきということは、今後も何ら変わらないという方針を金融庁が明らかにしています。
2020年2月28日付けで金融庁から金融業界へ送付された「年度末における中小企業・小規模事業者に対する金融の円滑化について」によれば、“中小企業・小規模事業者の資金繰りに支障が生じないよう、中小企業・小規 模事業者から相談があった場合は、その実情に応じてきめ細かく対応し、適切 かつ積極的な金融仲介機能の発揮に努めること。”とされています。
このことからもわかるように、時限立法として2009年から2013年まで効力を有した円滑化法の考え方は、現在でも金融行政の大きな柱となっているのです。
金融円滑化法の詳細については、下記の記事を参考になさってください。
金融円滑化法が2019年3月で名実ともに終了したと言われているけれども、我々中小企業の見方であったこの法律がなくなった後は、昔のように貸し渋りや貸し剥がしに苦労するのだろうか。金融円滑化法終了の影響を教えてほしい。こんな悩みを解決します。
したがって、債務者企業が資金繰りに窮した場合、もしくは窮することが明らかとなった場合には、速やかに金融機関へリスケジュールのお願いをするべきなのです。
ただ、単にお願いするだけでは金融機関も対処の仕方がありませんので、外部の専門家と協力しながら説得力のある経営改善計画を作成して提出することが必要になります。
リスケのポイント
先ほども書きましたが、資金繰りが逼迫したからただ単に銀行にリスケジュールのお願いに上がっただけでは、銀行としても対応しかねますので、しっかりと銀行を説得するロジックを準備しなくてはなりません。
つまり、「ここでリスケジュールに応じて頂いたほうが、リスケジュールに応じて頂けなかった場合よりも金融機関にとって得ですよ」ということを論理的に説明する必要があるということです。
ここで、「得ですよ」とはどういうことかといえば、それはリスケジュールに応じて頂いたほうが、「銀行の回収額が最大化されますよ」ということです。
このまま資金繰りが破綻して、倒産という状況になれば銀行は貸したお金を全額回収することはまずできません。
しかし、リスケジュールに応じて頂くことで、その間に業績を立て直すことができる結果、全額を回収できますよということをリスケジュールを依頼するための経営改善計画書で論理的に説明するということです。
また、リスケジュールは金融支援の1つになりますので、金融機関の債権管理回収業務の1つに該当しますが、金融機関の債権管理回収における考え方の基本は、「公平であること」です。
つまり、債権者の負担が公平になるようにということをすごく意識しますので、取引銀行が複数行あるのであれば、取引銀行すべてにリスケジュールに応じてもらえるように各行を回ってお願いする必要があります。
ここで「公平であること」は、必ずしも負担が全く同じであることを意味するものではなく、リスケジュールによる毎月の回収額の減少分をどの銀行がどれだけ負担するかを巡っては債権者間で調整が必要な場合もあり、リスケジュールによる回収額の減少分がメイン銀行にしわ寄せがくることも実務的には大いにあり得るということになります。
リスケの依頼方法
論理的な交渉方法
銀行等の金融機関に対してリスケジュールを依頼する場合には、作成した資金繰り表を提示しつつ、現在の悪化した資金繰り状況では、毎月の約定の返済を続けることが難しい、または期限に一括返済できないことを理解してもらうことがまずは必要になります。
その上で、経営改善計画書案を提示しながら、先に説明したようなリスケジュールのポイントを押さえつつ論理的に説得することが必要になります。
具体的には、リスケジュール案に応じて頂くほうが、応じて頂けないよりも中長期的にみれば合理性がある、つまり銀行にとっては有利であることを説明して納得頂き、準メイン行以下、他の銀行にもリスケジュールによる相応の負担をしてもらうようこれからすぐに働きかけることを伝えることです。
なお、銀行等の金融機関に対してリスケジュールに応じて頂くためには、経営改善計画書のような書面の提出が必要不可欠となります。
経営改善計画書には、①資金繰りが悪化した理由、②資金繰り実績表と今後半年程度の資金繰り予定表、③抜本的収益改善策、④実績および予想貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書、タックスプラニング、借入金返済予定表、担保設定状況表等を記載することになります。
ただ単にリスケジュールを依頼する経営改善計画書を策定すればいいというものではなく、その計画書には実現可能性や経済的合理性、債権者間の公平性等の計画の合理性が求められるのは言うまでもありません。
金融機関側から見て、その内容に合理性がなく、リスケジュールをしても資金繰りが確保できない、経営改善計画書の実現可能性がないなどと判断された場合には、応じる意味がないとしてリスケジュールに応じて頂くことは難しくなります。
したがって、金融機関に、これならばリスケジュールに応じようと思って頂けるような内容の経営改善計画書を策定する必要があるのです。
このあたりは外部の専門家を頼って、計画書策定のサポートを受けるべきでしょう。
また、金融機関がリスケジュールに同意するまで通常は 3~4週間掛かりますので、その間に資金繰りが破綻してしまっては、その後の打ち手がなくなります。
したがって、資金ショートする前に 1日でも早く外部の専門家に相談をし、行動することが大切になります。
経営改善計画書のシンプルな書き方については、下記の記事を参考になさってください。
経営改善計画書の策定を銀行から依頼された。経営改善計画書に何を書けばいいのか見当がつかないが、いい加減なものを提出して銀行の心証を悪くしたくないし、かといって必要以上に時間をかけたくない。この記事を読むと、必要最低限の記載事項がわかります。
リスケか新規融資か?
資金繰りが逼迫した場合に、新しく融資をお願いするべきかなのか、リスケジュールをお願いするべきなのかの判断はつきにくいと思います。
税理士や会計士の先生の中には、リスケジュールをお願いすると銀行のランク付けが下がって、その後長らくは新規の融資に応じてもらえなくなるから、リスケジュールのお願いをする前に新規融資を申し込むべきであると主張される方もいらっしゃいます。
しかし、新規の融資をお願いする時には直近の月次決算書類の提出を求められますので、銀行の担当者が普通に見れば、どういう状態にあるのかなんてわかります。
月次決算書を偽って提出するなんてことは論外ですから絶対にやってはなりませんし、融資の申し込みの時には現状の事業の状況等は包み隠さずすべて事実を話しましょう。
その上で融資が実行されれば問題ないですが、虚偽の申告の上で融資を受けることは絶対にやってはいけません。
概ね、事実を正直に説明すればリスケジュールを勧めて頂けると思います。
リスケジュールを受けることで確かにランク付けは下がりますが、事業再生を頑張ってまたランクアップを図ればいいだけのことです。
債務者区分については、下記の記事を参考になさってください。
債務者区分は銀行が提示してくる金利と大きな関係があります。銀行に対して金利交渉を上手に行うために、債務者区分の基本的な考え方を詳しくご紹介します。これから金利交渉をしようと思案中の経営者の方は必見です。金利の引下交渉を成功させましょう。
断られた場合
金融円滑化法の流れを現在の金融行政も踏襲していますので、策定した経営改善計画書によほど問題がなければ、金融機関はリスケジュールに応じないことはありません。
万が一リスケジュールに応じてもらえなかった場合は、経営改善計画書に問題があった場合であり、それはつまり計画書が合理性に欠けていたということです。
最もありうる可能性は、現状の収益力が悪すぎて、そこから半年後にはこれくらいの収益力に回復して返済が十分に再開できますというような、誰が見てもその計画の実現可能性に疑義が持たれる場合です。
損益計画の実現可能性がないということですね。
このようなケースでは銀行等の金融機関にリスケジュールに応じて頂けない理由をしっかり確認するべきですが、リスケジュールという手法では合理的な計画が作成できないということなので、DDS、DES、さらには債務免除まで踏み込んだ金融支援が必要となります。
こうなると中小企業再生支援協議会等の公的機関を使った私的整理を模索する必要が出てきます。
リスケジュールに応じて頂けないことが分かった月から、毎月の約定返済をストップせざるを得なくなりますが、それは延滞の状態の発生を意味します。
延滞のまま数か月間はそのまま事業を継続することはできますが、いずれ、期限の利益を喪失させて債権の回収を始めることになりますので、早急に外部の事業再生の専門家に相談をして、私的整理への準備を始めましょう。
リスケ以外の金融支援の方法については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生の金融支援にはどのような手法があるんだろう。金融支援の手法によっては、経営者である私にも責任を問われることがあるのかな。事前に知っておくと、事業再生に取り組むにあたって不安にならずにすむな。こんなお悩みを抱えた経営者は必見です。
事業再生の種類については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生っていろんな種類があるようなんだけど、どれを選んだらいいのかさっぱりわからないよ。専門家に相談する前に、事業再生の種類を理解しておきたいな。そんなお悩みをお持ちの経営者のためにその道のプロである公認会計士が書きました。
中小企業再生支援協議会については、下記の記事を参考になさってください。
中小企業再生支援協議会を利用して経営改善計画の策定と金融機関調整を行いたいとメイン銀行から提案されたが、中小企業再生支援協議会は具体的に何をしてくれる機関なのだろう。事前に知ることで、来る事業再生に備えたい。こんな経営者の悩みに答えます。
返済猶予は銀行を優先すること
中小企業経営者の中には、銀行等の金融機関への毎月の返済を絶対に遅らせてはならない絶対的なモノと考えていらっしゃる方が多いように思います。
これまで多くの経営者の方にお会いしましたが、銀行は怖いものというような感じで腫れ物に触るような雰囲気で接してらっしゃる方が多く、リスケジュールなんてとんでもないとおっしゃいます。
先代の時に、もしくは自分の代になってから、銀行との取引で怖い目に遭った経験をお持ちなのかもしれません。
そういったことから、仕入先への支払をストップしてでも銀行への返済を優先したり、ひどいケースになると社長個人がカードローンや消費者金融から借金をして銀行への返済を優先していたことも何度か目にしました。
びっくりしたのは、従業員の給与の支払いを止めて銀行返済を優先していたケースです。
従業員へ資金繰り悪化のしわ寄せをするのは、絶対にやってはいけません。
モチベーションが一気に下がって再生できるものもできなくなってしまいます。
もちろん銀行への返済を約定通りに続けることはとても大切なことです。
約束したことは誠実に実行することはビジネスというよりは人間社会の基本ですから、実直にその約束を守ろうとする姿勢は、そこだけを見れば評価に値します。
しかし、銀行へリスケジュールのお願いもせず、銀行への返済を優先した結果、他への悪い影響は確実に出てきます。
仕入先への支払が滞れば、仕入先は商品等を納入してくれなくなるかもしれません。
納入は継続してくれても現金払いしか受け付けてくれなくなるかもしれません。そうなると資金繰りはさらに悪化します。
さらには、仕入先にとってあなたの会社が大口の取引先であれば、仕入先の資金繰りは一気に悪化するはずですから、仕入先が事業を続けることができなくなるかもしれません。
そうなれば新たな仕入先を探さないといけないですし、今まで以上の品質と価格のバランスをもった商品等を仕入れることができなくなるかもしれません。
こうなるとあなたの会社の事業そのものに悪影響が出てきます。
また、資金繰り悪化のしわ寄せが従業員の給与未払に行き着いてしまうと、従業員の会社に対するロイヤリティは一気に下がります。
ロイヤリティどころか会社に対して不信感さえ抱く者も増えますし、会社の窮状は容易に察しますから、従業員を通じてそういった窮状の情報は社外に流出します。
その情報は仕入先にも流れることも多く、通常通りの仕入ができなくなることもあります。
さらに、そうした給与未払の状態をいつまでも続けておくと、退職者が出ることになります。
そうなると従業員の間では不信感とともに不安感も大きくなりますから、退職希望者が増加することにもつながります。
退職者が続けば事業そのものの再構築はどんどん難しくなり、再生への道のりはさらに厳しいものとなってしまいます。
このように、銀行への返済を優先させることによって、会社はより悪い状態に一気に進むことは間違いありません。
したがって、資金繰りに問題が生じたら、仕入先や従業員にしわ寄せすることは絶対にしてはならず、できるだけ早く専門家に相談して、銀行へお願いしてリスケジュールを行うことをまず第一に考えないといけないのです。
事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に取り組むにあたって誰に相談すればいいのだろう。再生支援協議会に行くと会計士や税理士を紹介してもらえるそうだけど、それで本当に事業再生は成功するのかな?こんなお悩みをお抱えの経営者の方は必見です。誰に相談するべきかがわかります。
コロナ渦中の事業再生については、下記の記事を参考になさってください。
コロナ禍の中での事業再生って何をやればいいのだろう。ウェブ・マーケティングにも取り組んでこなかったから、売上は激減しているのだけど、お客様が店に来ようとしない中で、何をどうすればいいのかわからない。多くの経営者のこんなお悩みにお答えします。