粉飾決算の事例【問題の先送りは止めましょう。】

売上がどんどん落ちてきて、銀行からも事業再生に取り組んでほしいと言われ続けているんだけど、実は当社は10年前から粉飾決算を繰り返していて、会計士さんたちが調査に入ったら一発で粉飾決算がばれてしまう。

粉飾決算がばれたら、事業再生どころではなく、支援してもらえずにそのまま倒産しなくちゃいけないかもしれない。

事業再生に取り組みたいけど、取り組めば粉飾決算がばれて銀行から見放されるだろうし、事業再生に取り組まなければこのまま資金繰りが破綻して倒産するしかないし・・・

このように粉飾決算を過去から長期に渡って繰り返してしまった経営者のお悩みの深さは計り知れないものがありますよね。

そこで、この記事では、過去から粉飾決算を繰り返してしまった会社の再生案件に数多くたずさわり、その多くを再生に導いた著者の経験から、代表的な粉飾決算の事例をお話しますね。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、200社超の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

粉飾が融資を阻むことはない

粉飾決算が融資を阻むことはない結論を申し上げておきますと、粉飾決算に手を染めているからといって、事業再生にあたって銀行に支援をしてもらえないということはありません。

ここでご紹介するのは粉飾決算の事例は、私がこれまで経験した中でも最強の部類に入るレベルのものですので、意図的に粉飾決算を繰り返している経営者の方がいらっしゃっても、この記事を読んでも過度にご心配なさらぬようにお願いいたします。

粉飾決算には、意図的に財務数値を虚偽の数値に置き換えるものと、意図していないにもかかわらずミスで結果的に虚偽の数値を計上してしまうものとがあります。

いずれにしても粉飾には変わりはないのですが、前者のほうが悪質なのは明白で、中小企業の多くは、銀行の融資を継続してもらうために利益を過大に計上する場合と、逆に、税金の過少申告のために利益を過少に申告する場合に大きく分かれます。

私の経験では、事業再生のフェーズにある会社は、ほぼ全ての会社が多かれ少なかれ意図的に粉飾決算を行っていました。

粉飾決算を行って借入を行えば、場合によっては詐欺借入に該当し、本来であれば銀行の支援など受けられないはずですが、銀行としては中小企業には多かれ少なかれ粉飾はあり得るものとして構えていますので、粉飾の有無が金融支援に直接影響を与えることはないようです。

しかしながら、いつまでも粉飾の事実を隠しながら銀行との金融取引を継続するのも後ろめたいでしょうから、後々ののことも考えると、銀行には打ち明けて謝罪してしまったほうが賢明であると断言します。

自分で報告するのは嫌だと思われる場合には、事業再生の専門家に相談をすることが肝要です。

粉飾決算とは何か?

粉飾決算とは何か?粉飾決算とは、会社が不正や誤謬(ごびゅう)によって財務諸表の虚偽記載を行うことをいいます。

ここで「不正」とは意図をもって虚偽記載を行うことを指し、「誤謬」とは意図を持たずに単なる間違いで虚偽記載をしてしまうことを指します。
ここで注意したいのは、単なる誤謬(間違い、ミス)で虚偽記載を行ったとしても、それは粉飾決算に該当するということです。

粉飾決算は、「紛飾」ではなく「粉飾」と書くことからもわかるように、「粉で飾った決算」、つまりは「お化粧をした決算」を意味します。

お化粧で外見を取り繕っているだけですから、お化粧をはがせば、実態が現れます。
決算書はほぼ数字でできていますから、お化粧する対象は決算書上の数字であることが大半です。

粉飾は、お化粧をして実態よりもよく見せることをいいますから、利益の金額を実態よりも嵩上げする、資産の金額を実態よりも嵩上げする、または負債の額を実態よりも少なく見せる、のいずれかの方法によることになります。

これに対して、「逆粉飾」と言う言葉もありますが、これは粉飾とは逆に、お化粧をして実態よりも悪く見せることをいいます。
逆粉飾は、利益の金額を実態よりも少なく見せる、資産の金額を実態よりも少なく見せる、または負債の額を実態よりも多く見せる、のいずれかの方法によることになります。

さて、なぜ不正による粉飾決算(逆粉飾も含む)は行われるのでしょうか?
それは会社を取り巻く利害関係者に意思決定をミスリードする、つまり、誤った方向へ意図的に導くためです。

上場企業のような公認会計士の法定監査が義務付けられているような企業でも、不正による虚偽記載を伴った粉飾決算の事例が後を絶ちません。
ライブドア、カネボウ、オリンパス、最近では東芝なども粉飾決算で新聞紙上のにぎわせたことは、記憶に新しいことと思います。

こういった上場企業の経営者が粉飾決算に手を染めるのは、株主という利害関係者の意思決定をミスリードするためです。

たとえば、海外子会社に大きな損失が出ている場合に、それを公表すれば株主がその会社の将来を悲嘆して株式を投げ売るかもしれず、そういった株主が続出すれば株価が低迷し、最悪の場合上場廃止となるかもしれません。

そこで、海外子会社の大きな損失を隠蔽して、決算書上は堅調に黒字を確保したように見せかける粉飾決算を行うことで、株主がその会社の株式を保有し続けるという意思決定へと導くことができます。
これが「ミスリードする」の意味です。

上場企業でなくても、一般の中小企業でも粉飾決算はあります。
中小企業が不正による粉飾決算を行うのは、銀行という利害関係者の意思決定をミスリードするためです。

実態そのままの決算書類を提出してしまうと、融資が必要となった時に、自社のランク付けが下がって融資を断られてしまう可能性がありますから、それを恐れて、売上を過大計上する、または、費用を過少計上するなどの方法で利益を過大計上する粉飾決算を行うというものです。

この場合も、粉飾決算による虚偽の計算書類を提出することで、銀行員が次回の融資時に何の疑いもなく融資を実行するという意思決定へと導くことができます。

上場企業の場合には、不正による逆粉飾は発生しません。
逆粉飾によって会計上の利益を少なくした結果、税務上の課税所得を圧縮して法人税額を少なくすることで得られるメリットよりも、株価が下落するというデメリットを嫌うからです。

一方、上場企業ではない一般の中小企業は株価など気にする必要もなく、逆粉飾による法人税の流出回避には大きなメリットがありますので、逆粉飾もよく見られるものです。

ペナルティ

粉飾決算に対するペナルティ

刑事責任

意外に皆さんご損じないようなのですが、粉飾決算は犯罪行為です。

粉飾決算によって金融機関を欺いて融資を受けたのならば、詐欺借入を行ったとして詐欺罪(刑法第246条第1項(10年以下の懲役))に問われる可能性があります。

詐欺罪以外にも、粉飾決算に伴う刑事責任としては、特別背任罪(会社法第960条(10年以下の懲役若しくは1,000万円以下の罰金又はこれを併科))や、会社財産を危うくする罪(会社法第963条(5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれを併科))、違法配当罪(5年以下の懲役又は500万円以下の罰金、又はこれを併科)、有価証券報告書虚偽記載罪(10年以下の懲役又は1000万円以下の罰金、又はこれらの併科、法人には両罰規定として7億円以下の罰金)、財産状況書類等虚偽報告罪(3年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれらの併科)が成立する可能性も考えられます。

過料

会社法976条には、貸借対照表、損益計算書等に虚偽の記載をした者を計算書類等虚偽記載罪として100万円以下の過料に処するとの規定があります。
過料は刑事罰ではないので、その意味で刑事責任ではありませんし、前科になることもありません。

民事責任

粉飾決算によって損害を受けた人や会社がある場合、民事上の責任も追及される可能性があります。

取締役が粉飾決算によって違法に配当を行った場合や、粉飾決算によって納税額が過大になった場合など、会社に損害を与えた時は、取締役は会社に対して連帯して損害を賠償すべき責任を負います。(会社法423条第1項)

また、粉飾決算によって借入を行い、その後債務不履行になるなど第三者に損害が生じた時は、取締役は第三者に対して連帯してその損害を賠償すべき責任を負います。なお、虚偽の計算書類を作成した当事者は、他の取締役に比して責任を加重されています。(会社法429条第1項)

さらに、粉飾決算を実行した経営者がこのような民事上の責任を追及されるのは当然ですが、粉飾決算を発見すべきだったにも係わらず、発見できなかった他の取締役が責任を追及される場合もあります。

粉飾決算の事例

粉飾決算の事例

財務調査の事例

ここで、私が実際に経験した粉飾決算の事例のうち代表例となる事例を紹介します。
なお、数字等は適宜変更しています。

株式会社HMは、関西の街に本社を置く創業50年の内装設備機器の工事請負業者です。
1980年代には売上高は50億円を超えていましたが、工事単価の下落、工事受注の下落のダブルパンチで、2000年以降売上は減少の一途をたどり、ここ3年間は売上が15億円程度、経常段階で赤字が継続(営業段顔損益は黒字)していました。

地方銀行の1行がメイン銀行であり、その要請で事業再生に取り組むこととなりました。
金融債権者は地方銀行3行と政府系金融機関1行、地元信用金庫2つの合計6金融機関でした。

メイン銀行の方とHM社を最初に訪問した時に、社長室に通されましたが、カーテンは閉めたままで社長の執務机と思われる場所は、書類が山積み。どう見ても不要な書類の山に囲まれているだけにしか見えない滑稽な風景でした。

この社長室に通されただけで、「これは駄目かも・・・」と直感的に感じてしまいました。

工事関係の会社なんて、まともな利益率で受注して、どれだけ細かく工事案件を管理できるかで業績はほぼ決まります。
この会社、おそらく管理なんかできていないと直観的に感じてしまうのでした。

デユ―デリジェンス入る前に、社長と営業担当役員、調達担当役員、経理部長の4人からヒアリングしました。
デユ―デリジェンスの課題の仮説設定と、重点調査項目を決めるためです。

まず社長からヒアリングを始めましたが、元気はものすごくある人なんだけど、話に具体性がない。

売上減少の原因をどう考えているかと聞けば、「受注件数の減少と工事の受注単価の下落ですね。このダブルパンチがきついんですわ。」

なぜ、受注件数は減少したのですかと聞けば、「稼ぎ時の夏前の受注が最近取れないんですわ。」と答えてきます。

それは理由でなくて、問題の所在の話ですよねと切り返すのは止めて、なぜ夏前の受注が落ちてるんですか聞くと、「最近は冷夏やさかい、クーラー設置数が落ちてるんですわ。」と返してくるのですが、ここ数年は猛暑続きで冷夏など久しくないような気がする・・・どうもこの社長、売上減少の原因などは把握できていないようだ・・・(涙)

続いて午後から営業部長にもヒアリングしたものの、こちらも要領を得なかったものの、営業オペレーションのプロセスについては詳しくいくことができたのは収穫でした。

翌日に経理部長のヒアリングを予定していましたので、朝9時に会社にお伺いすると、経理部長は急な発熱でお休みされることのこと。

仕方ないので、お願いしていた資料を経理スタッフが中心に準備してくれたので、財務デユ―デリジェンスから開始しました。
その後、3日たっても1週間たっても経理部長は出社せず、結局そのまま退職されてしまいました。

経理部長がいなくなった中、質問するべき相手は社長と若い経理スタッフしかおらず、社長も経理の中身には疎いようで、少々心許ない中で調査を進めました。

そして、財務調査の中では修正事項(会計基準に準拠するために財務諸表を修正しなくてはならない事項)がたくさん出てきました。
それらをまとめると以下のとおりです。

(単位:千円)

修正前B/S 修正額 修正後B/S
現預金 35,000 35,000
完成工事未収入金 375,000 ▲ 125,000 250,000
未成工事支出金 412,000 ▲ 150,000 262,000
未収入金 65,000 ▲ 63,000 2,000
仮払金 15,000 ▲ 15,000 0
短期貸付金 25,000 ▲ 25,000 0
建物 265,000 ▲ 225,000 40,000
建物付属 173,200 ▲ 165,000 8,200
機械設備 45,000 ▲ 40,000 5,000
用具器具備品 12,500 ▲ 9,500 3,000
車両運搬具 5,400 ▲ 5,000 400
土地 356,000 356,000
電話加入権 1,250 ▲ 1,250 0
出資金 5,000 ▲ 4,800 200
投資有価証券 25,000 ▲ 24,700 300
長期貸付金 65,000 ▲ 65,000 0
資産合計 1,880,350 ▲ 918,250 962,100
買掛金 250,000 4,500 254,500
未払金 50,000 3,500 53,500
未払費用 12,850 2,200 15,050
短期借入金 120,000 0 120,000
退職給付引当金 0 55,000 55,000
長期借入金 1,280,000 0 1,280,000
負債合計 1,712,850 65,200 1,778,050
資本金 50,000 0 50,000
資本準備金 12,500 0 12,500
利益剰余金 105,000 ▲ 983,450 ▲ 878,450
資本合計 167,500 ▲ 983,450 ▲ 815,950
負債資本合計 1,880,350 ▲ 918,250 962,100

(注1):完成工事未収入金:建設業における売掛金を表す勘定。過去から売上の架空計上を行っておりその累計が193,000千円である。
完成工事未収金勘定の減額分が125,000千円、差額の63,000千円については未収入金勘定へ振り替えているため、未収入金勘定で減額している。
(注2):未成工事支出金:建設業会計における工事仕掛品を表す勘定。過去から工事原価の過少計上を行い、未成工事支出金勘定で繰り延べられている。
その累計が150,000千円であるので全額を減額している。
(注3):(注1):完成工事未収入金参照。
(注4):仮払金勘定:従業員の出張旅費の事前仮払を実施しているが、精算がなされておらず全額を過年度の旅費交通費として全額を減額する。
(注5):有形固定資産:過年度の減価償却不足額を税法限度額まで減額する。土地については時価はやや下落しているが減損の兆候はないものとして扱う。
(注6):電話加入権:ほぼ時価はゼロなので全額を減額する。
(注7):出資金:各種の団体や法人への出資金であるが、大方が解散しており回収の可能性はないため減額する。
(注8):投資有価証券:ゴルフクラブ会員権であるが、時価(買い相場)まで減額する。
(注9):長期貸付金:メンテナンス部門を子会社化しているが、その子会社への貸付金。子会社も業況不調であり回収の可能性はないために全額を減額する。
(注10):買掛金:基準日時点で計上漏れのあった仕入金額をオンバランスした。
(注11):未払金:未払給与等を計上。
(注12):未払費用:借入金に関わる未払費用等を計上。
(注13):退職金規定に基づき、期末自己都合要支給額で計算された退職給付債務を計上。
外部に積み立てている退職金に充当予定の生命保険は年金資産の要件を満たさないので考慮しない。

このように会計基準に則って貸借対照表を修正すれば、修正前の資産超過額が167,500千円であったところ、修正後には債務超過額が▲815,950千円となりました。約10億円近く純資産が目減りしたことになります。

財務調査は続く

一旦ここまで作業を終えて、最後に総勘定元帳をレビューして気になる取引がないかのチェックを実施しました。
すると、工事原価の中に「支払利息〇〇〇千円」という仕訳が目に留まりました。

支払利息は原価性を有しない費用なので、営業外費用として計上するのが通例ですから、工事原価の中に支払利息が計上されることはまずありません。

特定の工事に関わる借入金(つなぎ資金で短期的に借り入れるもの)の利息を管理目的で一旦原価に落としたのかなと思いましたが、その後に営業外へ振り替える仕訳は計上されていないので、ひょっとして簿外借入金などがあるのではと思い、すぐに社長に問いただしました。

社長は、否定するどころか、すぐに、「良く見つけましたね。でも見つけてもらってほっとしました。これがその利息に関連する借入金の書類です。バブルの頃に、〇〇〇銀行(都銀)が営業に来られて、先代の社長が買った仕組債を購入するための借入金に関わる利息です。借入金の残債の8億円は決算書からは消しています。先日退職した経理部長は、実はその〇〇〇銀行から送り込まれてそのまま当社に転籍した元銀行マンなのです。その取引の処理のために送り込まれたようです。」

話を詳しく聞けば、もともと15億円ほどの取引だった仕組債の取引を解消したら8億円の残債が残ったとのことでした。
その後、粉飾決算を繰り返しては、地元の銀行や信用金庫から融資を引っ張って、数年かけて〇〇〇銀行へ完済したとのことでした。

経理部長は、自分の銀行の回収を進めるために送り込まれて、粉飾決算を主導し、地銀や信用金庫へ不良債権飛ばしをやっていたことになります。

さて、その8億円の簿外債務を計上すると、先ほどの修正表は下記のようになります。

(単位:千円)

修正前B/S 修正額 修正後B/S
現預金 35,000 35,000
完成工事未収入金 375,000 ▲ 125,000 250,000
未成工事支出金 412,000 ▲ 150,000 262,000
未収入金 65,000 ▲ 63,000 2,000
仮払金 15,000 ▲ 15,000 0
短期貸付金 25,000 ▲ 25,000 0
建物 265,000 ▲ 225,000 40,000
建物付属 173,200 ▲ 165,000 8,200
機械設備 45,000 ▲ 40,000 5,000
用具器具備品 12,500 ▲ 9,500 3,000
車両運搬具 5,400 ▲ 5,000 400
土地 356,000 356,000
電話加入権 1,250 ▲ 1,250 0
出資金 5,000 ▲ 4,800 200
投資有価証券 25,000 ▲ 24,700 300
長期貸付金 65,000 ▲ 65,000 0
資産合計 1,880,350 ▲ 918,250 962,100
買掛金 250,000 4,500 254,500
未払金 50,000 3,500 53,500
未払費用 12,850 2,200 15,050
短期借入金 120,000 0 120,000
退職給付引当金 0 55,000 55,000
長期借入金 1,280,000 800,000 2,080,000
負債合計 1,712,850 865,200 2,578,050
資本金 50,000 0 50,000
資本準備金 12,500 0 12,500
利益剰余金 105,000 ▲ 1,783,450 ▲ 1,678,450
資本合計 167,500 ▲ 1,783,450 ▲ 1,615,950
負債資本合計 1,880,350 ▲ 918,250 962,100

最終的に、簿価ベースの貸借対照表は167,500千円の資産超過でしたが、修正後は▲1,615,950千円の債務超過となりました。
約18億円の純資産が目減りしたことになります。

引き続き清算貸借対照表を作成すれば下記のようになりました。
清算貸借対照表は、仮に基準日時点で会社を破産させたら、どれくらいの資産が残って、それに対してどれ位くらいの負債が残るのかを把握するために作成するものです。

(単位:千円)
修正後B/S 修正額 清算B/S
現預金 35,000 35,000
完成工事未収入金 250,000 ▲ 50,000 200,000
未成工事支出金 262,000 ▲ 262,000 0
未収入金 2,000 2,000
仮払金 0 0
短期貸付金 0 0
建物 40,000 ▲ 40,000 0
建物付属 8,200 ▲ 8,200 0
機械設備 5,000 ▲ 5,000 0
用具器具備品 3,000 ▲ 3,000 0
車両運搬具 400 ▲ 300 100
土地 356,000 ▲ 84,000 272,000
電話加入権 0 0
出資金 200 200
投資有価証券 300 300
長期貸付金 0 0
資産合計 962,100 ▲ 452,500 509,600
買掛金 254,500 254,500
未払金 53,500 35,000 88,500
未払費用 15,050 15,000 30,050
短期借入金 120,000 120,000
退職給付引当金 55,000 55,000
長期借入金 2,080,000 2,080,000
負債合計 2,578,050 50,000 2,628,050
資本金 50,000 50,000
資本準備金 12,500 12,500
利益剰余金 ▲ 1,678,450 ▲ 502,500 ▲ 2,180,950
資本合計 ▲ 1,615,950 ▲ 502,500 ▲ 2,118,450
負債資本合計 962,100 ▲ 452,500 509,600

(注1):完成工事未収入金:残高の20%を減額している。
(注2):未成工事支出金:全額を減額している。
(注3):有形固定資産:建物等は老朽化が激しく時価がなくゼロとした。車両は中古車市場価格を採用。土地は不動産鑑定結果の早期売却価格を採用した。
(注4):未払金:総資産額の5%を清算費用(弁護士費用等)として計上した。
(注5):従業員の解雇予告手当を計上した。

この清算貸借対照表に基づいて、負債組換表を作成すると下記のとおりです。

優先債権は税金等の優先的に弁済される債権をいい、共益債権は清算中に発生しその支払いが保護されるもので、典型的なものが破産手続きを進める弁護士費用があげられます。

別除権付債権は府不動産担保等の担保権によって回収される債権です。

そのいずれにも該当しない債権が一般債権となります。

負債組替表 (単位:千円)
清算B/S 優先債権 共益債権 別除権付債権 差引:一般債権
買掛金 254,500 254,500
未払金 88,500 35,000 53,500
未払費用 30,050 21,000 9,050
短期借入金 120,000 120,000
退職給付引当金 55,000 55,000 0
長期借入金 2,080,000 272,000 1,808,000
負債合計 2,628,050 76,000 35,000 272,000 2,245,050

そして、一般債権に対してどの程度の配当があるのかを試算するために破産配当率を計算すると、下記のとおり5.64%となりました。
100円の債権を持つ人は5.6円の配当があり、94.4円は切り捨てられて回収ができないということになります。

私的整理の枠組みで検討される案件の破産配当率としては、とても低い部類にはいります。
普通に破産手続きを選ぶ案件の配当率が大体これくらいなので、かなりいたんだ貸借対照表だと言えます。

(単位:千円)
財産評定にいる総資産額 509,600
優先債権 ▲ 76,000
共益債権 ▲ 35,000
別除権付債権 ▲ 272,000
差引:A 126,600
一般債権:B 2,245,050
破産配当率:A/B 5.64%

さて、その後に事業デユ―デリジェンスも実施して、2つのデユ―デリジェンスの結果を取りまとめ、メイン銀行へ説明に伺いました。
銀行の担当者の方は、完成工事未収入金や未成工事支出金には不良資産があることは薄々気づいていたそうですが、まさか簿外の借入金があるなんて夢にも思わなかったそうです。

彼らは、5億円程度の債務超過を予想していたそうで、16億円を超える債務超過と聞いて驚くとともに、長年に渡って簿外債務の隠蔽をし、地元行からの融資を、仕組債を販売した都銀への残債の返済に充当していたことを聞いて顔の色が曇りました。

何らかの金融支援をすれば持ち直すのではないかと期待して、私にお願いされたそうですが、粉飾の質が悪すぎますねとのこと。
当行で再考して改めてご連絡しますとのことでした。

その3日後にこの担当者の方から連絡があり、当行では支援が不可となりましたとのご連絡を頂戴しました。
メイン行に支援できないとの表明を受けたので、私的整理の線はこれでなくなりました。

建設業の事業再生も多く経験しましたが、ほぼすべての企業で、売上の先行計上や架空計上、工事原価の繰り延べは見かけるものです。
しかし、それらに加えて、20年近くに渡って粉飾決算を続け、地元の銀行を騙して融資を受け、その融資金を仕組債を販売した都銀へ返済するなどという行為は許されるものではないでしょう。
結局この会社は、事業再生は諦めて破産手続きを選ぶことになりました。

私にとっても忘れられない粉飾決算の事例の1つとなりました。

事業再生の論点については、下記の記事を参考にされてください。

粉飾はどの程度まで許されるのか?

粉飾決算はどの程度まで許されるのか?どの程度までの粉飾決算を金融債権者が認めてくれるかなどということは金額的に表現できるものではありません。

事業再生のフェーズにある多くの中小企業で多かれ少なかれ粉飾決算は実施されていると銀行の方は見ていますし、粉飾決算があるから事業再生のために金融支援はできないということではありません。

どの銀行の方も、多少の粉飾決算の存在はある程度予想しながらも、支援できるところは支援して行く気概をお持ちです。

今回ご紹介したケースは極端にひどい粉飾決算の事例でしたので、銀行の支援を得ることが最終的にできませんでしたが、私が経験した事例では、多かれ少なかれ粉飾決算をしていた会社のほぼ全てが銀行の支援を受けることができています。

もちろん粉飾自体は犯罪であり、それを肯定することはできませんが、やってしまったことはやってしまったこととしてしっかり謝罪し、心根を入れ替えて真摯に事業に邁進するという言葉と姿勢を見せれば、金融機関の方も応援して下さるものです。

粉飾決算に手を染めてしまって、そこから抜け出すことができずにずっと粉飾決算を繰り返して悩んでらっしゃる経営者をこれまでたくさん見てきました。

私から言えることはできるだけ早く、今すぐにでも粉飾決算からは足を洗って、全てを取引銀行に報告をし、再スタートを切ることです。
このまま永遠に隠し続けることは不可能です。
粉飾決算はいつかは必ず100%の確率でばれるものであり、永久に隠し続けることができるものではありません。

当社では、粉飾決算に手を染めていた数多くの会社の事業再生を、銀行の支援を得ながら成功に導いています。
粉飾決算の事実を銀行に万が一知られたら、それ以降は支援を受けることは無理だろうと決めつけずに、一度当社にご相談ください。

事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。

事業再生アドバイザーについては、下記の記事を参考になさってください。