地方の事業再生、誰に頼めばいい?【結論:都会の専門家を頼るべし】

地方で中小企業を経営しているのだけれど、儲かって仕方なかった30年前が嘘のように、今ではじり貧な状況で、どうしたらいいのかさっぱりわからない。
税務顧問の税理士の先生にどうするべきかを聞いても、「私の仕事は税金を安くすることですよ。売上を上げて儲けるのは社長の仕事ですよ。社長が仕事を放棄してどうするの?」と全く話にならないんだよな。

こんなお悩みをお抱えの地方の中小企業経営者は多いのではないでしょうか。
経営者の一番の身近な専門家である税理士や会計士が、ビジネスそのものの相談に乗れないという現実。

この記事では、地方のこういったお悩みをお持ちの経営者の方に向けて書きました。

この記事を読むことで、地方で業績悪化に悩む経営者の方は誰に相談するべきか、身近だからと言って下手に地方の税理士や会計士に頼むとどうなるのかについて理解が深まります。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、マーケティングと管理会計と組織再編の力で200社超の会社を再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

地方の現状

地方の現状(出典:Resas)

昨今メディアでも大きく取り上げられている感のある日本の人口減少ですが、人口減少は日本に限った話ではなく、先進国とされる多くの国でも人口はすでに減る局面に入っています。
日本、韓国、スペイン、イタリア、東欧の各国。こういった国を初めとして約25の国々ですでに人口は減り続けており、人口減少国は2050年までに35か国を超えると予想する学者もいます。

そういった学者は今世紀末には世界人口は減少に転じると予想しています。
そして、日本がこういった国々と同様に、人口減少という難題に世界で最初に取り組むべき国であるという事実は変わりません。

日本の場合、上の図を見ればわかるように、都道府県で区切った場合、東京都、千葉県、滋賀県、福岡県の4都道府県が人口増加を保っている一方で、他の43都道府県が人口減少のフェーズにに入っています。

特に地方とされる地域ではこの傾向は強く、各々の地方においては、今後のインフラの維持はもとより、地方の地場産業の存続にも大きな影響を与えています。
特に狭いエリアでビジネスを展開している従来型の地方ビジネスは人口減少、出生率の低下、高齢者の増加という地方の経済社会の変化に伴って、大きな岐路に立たされていると言っても過言ではないでしょう。

単純に考えれば、人口が減少すれば買ってくれる人が少なくなるのですから、商売がだんだん厳しくなるのは当然と言えば当然であり、その傾向は人口減少の激しい地方において顕著となっています。

こういった地方の経済社会の変化に伴って淘汰されていく企業を、横目で何もせずに眺めているだけの立場の人は、淘汰されるべき運命の地方企業は淘汰され、新しい時代に適合した企業が再び生まれて、市場の新陳代謝につながっていいではないかと主張するかもしれません。

たしかに何ら価値を生まない事業を抱え込んでいる地方の企業を事業再生で支援して、延命を図るようなことは厳に慎むべきですが、社会に対して付加価値を与え続けるべきと目される地方独特の事業については、事業再生支援をして、地方から世の中に広くその価値を提供し続けてもらうべきではないでしょうか。

地方の事業再生の難しさ

地方の事業再生の難しさ地方の多くの事業再生の大半が、銀行などの金融債権者主導で実施されていると思われます。
地方に置かれた債務者企業自身が、自ら自社の現状の厳しさに気付いて、事業再生に取り組むといったケースは珍しいようです。

そんな状況なので、地方の事業再生の多くで、経営者自身が自ら事業再生の指揮の陣頭に立って、泥と汗にまみれながら地面に這いつくばる思いをしているケースはとても稀なように思います。

事業再生の渦中にいる多くの地方企業の経営者は、銀行とそこが連れてきたコンサルが何とかするだろうという意識がとても強いように感じられ、自らが率先して泥にまみれることが少ないようです。

このように、人口が減少していくという地方における外部環境の大きな変化の中で、その渦中にいる経営者自身の改革意識が薄いようでは、地方で事業再生を進めて構造改革を進めていくのは極めて難しいですね。

外部の事業再生のアドバイザーとしては、地方の案件に入って、こういった方向でビジネスを展開していきましょうという提案はできますが、実際にそれを実行するのは経営者であり、その会社のマネジメントでありスタッフです。

どんなに素晴らしい絵を描いても、実行の伴わない戦略では、ないに等しいのです。
こういった歯がゆさは、地方の事業再生の案件では特に何度も経験してきました。
いっそハンズオンで地方に入り込んで直接自らが指揮を執れればどれだけ再生も進捗するかと思ったことは一度や二度ではありません。

また、地方の案件では、金融債権者の大半は地方銀行であり、各々の地域に根差した経営を行っています。
そういった地方でたとえば民事再生の申し立てがあったとして、その申立者の有する事業に価値がないと銀行側が判断したとしても、地方の独特のしがらみなどから容易に反対などできず、本来であれば市場から退場してもらうべき企業が延命されてしまうような話はよく地方の銀行員から耳にしました。

たとえ民事再生等の法的整理でなく、私的整理の枠内での事業再生であっても、同じ地方で同じ業種の債務者企業がたくさんあって、その中の1つに対して債務免除等の大きな金融支援を施すと、同じ地方の他の債務者企業との公平性の観点からバランスが保てないので、結局地方では事業再生が遅々として進まないといった問題もあるようです。
もし万が一、1企業に対する債務免除の情報が漏れたりすれば、同じ地方の他の企業からの苦情が殺到して大ごとになるやもしれません。

事業再生における金融支援の手法については、下記の記事を参考になさってください。

さらに、そもそも地方は今後ますます加速するであろう人口の大幅な減少によって、そもそも購買力自体が大きく低下し、地方のGDPを押し下げています。
地方で創業した企業も大きくなれば東京に本社を移転することなども、地方における雇用の減少と購買力の低下に拍車をかけます。

このような経済的基盤の低下する一方の地方の経済圏の中で事業再生を施すことの難度はどんどん高くなっていると思います。

ネットを通じた収益力アップにマッチする業種であれば、地方であっても、ある程度の時間はかかるものの、販路を拡大する可能性は秘めています。
しかし、地方の一定地域内で完結しているようなビジネスはなかなか再生の道筋を描くことは難しいこともあるように感じます。

加えて、地方の人口減少を実感するのがスタッフの確保ができない時です。
私の地方のクライアントの多くでも、今最も切実な悩みが人手不足です。

業種にかかわらず、新卒の社員を募集しても集まらず、正社員で賄うことができないのでアルバイト人員で賄おうとしても、ちょっとした地方都市ならある程度時給をあげないとアルバイトでさえ集まらないし、アルバイトの時給をあげると正社員の給料を超えてしまうなどの問題が生じています。

飲食関係ならば、お客様は来ているのだけれどもお断りをしなくてはいけないなどの機会損失が多く生じてしまっています。
いくら素晴らしい戦略を描いても、実行するスタッフがいなくてはどうにもならないのです。

業種によっては外国人の雇用に頼るところもありますが、外国人のネットワークというのはすごいものがあって、日頃からネットやSNSで頻繁に連絡を取り合っていて、ある程度日本語が話せるようになって技術も身に付けると、地方を離れて都会のより好待遇な会社へすぐに移ってしまうという難しさも抱えています。

最後に、地方には事業再生の専門家が少ないことも、地方の事業再生を難しいものにしている一因です。

認定支援機関については、下記の記事を参考になさってください。

中小企業が事業再生を成功させるポイントについては、下記の記事を参考になさってください。

地方における再生の専門家の不足

地方における事業再生の専門家の不足今では、事業再生という言葉も市民権を得るようになって、事業再生に関わる様々な団体なども誕生して、事業再生創世の頃に比べれば、はるかに事業再生ビジネスにかかわる人は多くなったことは事実です。

しかし、別の記事でも書いていますが、日本で行われている多くの事業再生は財務の再生、いわゆるB/Sの再生であって、事業そのものの再生には手が付けられていません。
大手のコンサルティング会社が手掛ける事業再生は、事業再生本来の素晴らしい仕事が多いと感じていますが、全国の中小企業の事業再生を手掛ける専門家の多くは、財務の再生をもって事業再生と称しているに過ぎません。

私の経験から言っても、特に地方には本来の意味での事業再生を実施できる専門家はほぼ皆無と言っていいような状況だと思います。
地方はどんどん人口が減少していることもあって、事業再生のニーズは高いはずですが、地方にはそれを質量ともにこなせる人材が圧倒的に少ないと感じます。

私はこれまで地方の案件を多数手がけてきましたが、その地方で紹介される事業再生の仕事に携わっておられる専門家の方と話していても、事業そのものの今後の方向付けをできるような方はほぼ皆無でした。
なぜ、このような格差があるのかについては、色々理由はあると思いますが、地方で事業再生に取り組む金融機関の方もこのあたりは大きな悩みなのかもしれません。

日本の事業再生が抱えている問題点については、下記の記事を参考になさってください。

事業再生を成功させるポイントについては、下記の記事を参考になさってください。

再生の専門家は都会から招聘するべき

事業再生の専門家は都会から招聘するべきもしあなたが地方で事業を展開している経営者で、自社の事業再生をしっかりとしたものとしたいとお考えであれば、東京や大阪から事業再生に精通した専門家に入ってもらうべきでしょう。
地方銀行の担当者が連れてくるその地方の税理士や会計士(その多くは認定支援機関です。)に安易にすべて任せてしまうのは、事業再生が失敗する大きな原因となりかねません。

地方にはまだまだ世の中に知られていない素晴らしい伝統産業がたくさんあることと思います。
そういった地方のすばらしさがどんどんなくなっていくのは、日本そのものが失われていくような喪失感として感じているのは私だけではないでしょう。

素晴らしい地方の文化に根付いた日本らしい産業を未来永劫残していけるように、地方だけでなんとかしようとせず、都会の我々の力を使って頂くべきだと思っています。
地方においても、事業再生の成否は、アドバイザーをお願いする外部の事業再生の専門家の力量に大きく左右されますのでご注意ください。

大阪における事業再生については、下記の記事をご参考になさってください。

事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選択については、下記の記事を参考になさってください。

都会を拠点に仕事をする事業再生の専門家を経営顧問として招聘することについては、下記の記事を参考になさってください。