事業再生を成功させるポイント【事実:99%失敗します。】

年々減少していく売上に頭を悩ませて、銀行のすすめもあって事業再生に取り組むことになったんだけど、事業再生って初めてのことだし、事業再生のツボというか、ここだけは押さえとかないといけないというポイントがあったら教えてほしい。

事業再生を成功させるポイントなんてよくわからないから、ネットでググってみたんだけど、ピントのずれたことしか書いてないページばかりで、悩みが解決しないよ・・・といったようなお悩みを抱えながら、自社の再生に取り組もうと決心されている経営者の皆さんはとても多いのではないかと思います。

この記事を読むことで、事業再生のポイントが理解でき、せっかく再生に取り組んだのに、時間とお金だけかけて無駄だった・・・ということにならなくなります。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生に取組んで20年以上、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた実績を持つ、事業再生のポイントを熟知した公認会計士が書きました。

失敗させないポイント【総論】

事業再生を失敗させないポイント【総論】

事業再生における「成功」とは何か?

事業再生における成功とは何を指すのでしょうか。
事業再生とは「事業を再生すること」であり、それは「事業の収益力を依然と同レベルかそれ以上に回復させることです。」

したがって、事業再生における「成功」とは、「以前と同レベルかそれ以上に収益力を回復させることができたこと」に他なりません。

ところが、広く世の中で実施されている中堅・中小企業の事業再生は、この言葉が本来持つ意味からはかけ離れたものとなっています。

広く世の中で実施されている事業再生は、外部の専門家が債務者企業に代わって、その専門的知識を駆使して再建計画書を作ること、もしくは、その再建計画書を担保としてニューマネーを債務者企業に流し込むことでしかありません。

つまり、財務の再生に終始しているだけで、事業の再生になど何ら手を付けられていないのです。
いうなれば、専門家自身が事業再生のポイントを外しまくっているわけですが、多くの専門家がその事実にさえ気付いていません。

これが中堅・中小企業の事業再生の現場で行われている再生実務の現実であり、資金繰りが多少良くなったために事業そのものも良くなったという錯覚に陥っているだけなのです。

こんなことを聞くと、これから専門家の先生を入れて自社の再生に取り組もうと思ってらっしゃる経営者の皆さんはびっくりされるかもしれませんが、これが日本の中堅・中小企業の事業再生について、最もポイントを突いた表現なのです。

もちろん、しっかりと事業そのものを見直して、戦略的思考をもってマーケティングの知識をフルに使って、事業が儲かるように的確な指導ができる専門家もいらっしゃるでしょうが、それは極めて少数です。

ためしに、銀行の紹介で入ってきた事業再生の専門家の先生に聞いてみたらいいですよね。
「あなたは事業そのものを再生することができますか?」と。
残念ながらほとんどの場合、専門家の先生は答えに窮するはずです。

このようなことから、世の中で広く行われている事業再生の多くは、「事業を再生するという本質的な意味において」失敗に終わるのです。

日本の事業再生の抱えている問題点については、下記の記事を参考になさってください。

外部専門家に早期に相談するべし

まず総論のポイントの1つ目は、中小企業が事業再生に取り組むにあたっては、必ず外部の専門家を入れなければならないということです。

経営不振に陥った原因は、外部環境の変化、つまりはお客様のニーズに付いていけなかったからでありますが、残念ながらまずその事実にも気づいていない経営者の方が多いですよね。
もし気付くことができていれば、事業再生に取り組む必要などなかったはずです。

だから、外部の視点で事業を客観的に見てもらうために一度外部の専門家を入れることが大きなポイントになります。
それもできるだけ早期に入れることがポイントです。
こうして悩んでいる間にも事業はどんどん劣化しているのですから。

外部専門家の選定は慎重に行うべし

そして、総論のポイントの2つ目は、外部の専門家を招聘する際には、慎重に行うということです。

ここが事業再生を成功に導く最大のポイントです。
ここを抑えることができたら、あなたの会社の再生が成功する確率がぐっと高まります。

反対に、ここに時間をかけず銀行から勧められるがまま、紹介された外部専門家を受け入れることになると、あなたの事業再生が成功するか否かは、商店街の年末の福引のようなものとなります。
なので、このポイントだけは必ず外さないと、肝に銘じてください。

たとえば、中小企業再生支援協議会の支援スキームにのって事業再生に取り組む場合、「認定支援機関(=経営革新等支援機関)」に登録している専門家(税理士、公認会計士、中小企業診断士、弁護士等)の紹介を受け、その専門家が調査を実施して経営改善計画書をまとめて金融債権者(銀行等)に提出します。

外部の専門家の紹介を受けた債務者企業側の対応としては、銀行さんの言うことだし間違いはないだろうと、通常は言われるがまま、すんなりと紹介された外部専門家を受け入れてしまいます。
大事なポイントは、その紹介された外部専門家に、事業を再生に導ける力量があるかどうかです。

多くの場合、銀行が求める経営改善計画書を作ることだけに終始してしまう専門家が紹介されてきますので、事業そのものの再生に的確なアドバイスができるかどうかを確かめる必要があります。

その先生がしっかりとビジネスに関するアドバイスが適切にできるかどうかが、事業の再生にとってはとても大事なことなので、しっかりと確認するのは大事なポイントになります。

もし、あなたが本気で事業の立て直しを考えているのであれば、事業そのものに対して適切にアドバイスできる人に変えてもらうか、自分で探すかの決断ができることが、事業再生を失敗に終わらせない大きなポイントになります。

認定支援機関に関する詳細については、下記の記事を参考にされてください。

事業再生にあたって相談するべき専門家の選択については、下記の記事を参考にされてください。

失敗させないポイント【各論】

事業再生を失敗させないポイント【各論】

再建計画策定のための調査に振り回されないこと

各論の1つ目のポイントは、外部の事業再生の専門家の調査に振り回されすぎないということです。

外部専門家が決まり、その先生による財務デユ―デリジェンス、事業デユ―デリジェンスの調査が開始されると、膨大な資料の準備を求められたり、会社の業況などについて多くの時間が奪われることとなります。

調査に必要な資料はもちろん準備しないといけませんし、質問にも的確に答えないといけないのは当然なのですが、経営者の中にはこの調査に忙殺されてしまって、やるべき実務の仕事が疎かになってしまう方が少なくありません。

調査の期間も会社の業況の悪化は進行している可能性は高いわけで、調査が開始された途端にその悪化が止まるわけではありません。
調査が開始されたことで一種の安心感が生まれてしまうのか、多くの経営者が実務への取り組みの手を緩めてしまいます。

「実務の手を緩めずに、かつ、調査にも積極的に協力する」というのが正しい姿です。
調査に振り回されすぎないように自制することが大切なポイントです。

経営改善計画書の策定には経営者自らがコミットすること

2つ目のポイントは、経営者自らが経営改善計画書の策定にコミットし、外部専門家任せにしないことです。

経営改善計画書の策定を外部の専門家に完全に委ねてしまい、出来上がった計画書の内容の説明を受けるだけで、何も考えることもなくそのまま金融機関等に提出してしまう経営者の方も少なからず存在します。

しかし、そういった専門家は経営改善計画書の策定のお手伝いをするだけであって、そのすべてを専門家だけで完成させるものではありません。

特に事業デユ―デリジェンスの結果と、それに基づいた今後の戦略のあり方や具体的な活動の部分は、今後の自社の事業の大きな柱になるべきものなので、その部分の基礎となるアイデアは外部の専門家に依拠したとても、その戦略と活動に経営者として本当にコミットできるのかどうかをよく吟味しなくてはなりません。

経営改善計画書に立派な戦略と活動を記載したけれど、結局そんなことは実行できなくて、その計画書の役割は、「銀行の借入金の長期リスケをお願いするため」のものでしかなかった、というような笑い話のような計画書が世の中にはたくさんあふれています。

事業そのものを再構築するために貴重な時間を遣って調査等を実施するわけですから、経営改善計画書本来の意義を見失わず、自らがコミットして再建計画書を策定することはとても大切なポイントです。

実質債務超過額について

ポイントの3つ目は、実質債務超過額がらみの話を聞いて落ち込まないということです。

外部から税理士や会計士が入って財務デユ―デリジェンスを行いますが、その結果、実質債務超過額がこれだけですというようなお話が必ず出ると思います。
そして、実質債務超過が解消するには現在の収益力だと〇〇年かかりますねということを必ず言われます。

実質債務超過額とは、時価ベースでB/Sを評価し直した時に、負債の額が資産の額を超過した部分のことを言います。
簡単に言うと、会社を今倒産させた場合に、どれだけの負債が返済できないかを表したものです。

たしかに実質債務超過の額と実質債務超過解消年数は、再生スキームに乗るか乗らないかの1つの目安になるので大事と言えば大事なのですが、もっと大事なのは、その実質債務超過がどういった原因で生じたのかということです。

ここは、経営者自身でもわかってないことが多いので、必ず確認するのがポイントです。
今後やってはいけないことが確認できますからね。
(これは次項の事業デユ―デリジェンスの話ともかかわってきます。)

また、この実質債務超過額をやたらと気にする銀行関係者がいます。
彼らからすると従来の金融検査マニュアルが実質債務超過の金額と今後の収益力によるその解消年数を重視しているので仕方がないところもあるのですが、実質債務超過額は、言ってみれば過去の経営の結果でしかありません。

これから未来に向けて、外部の専門家の手を借りて、自社の事業構造を変え収益力の再構築に挑むわけですから、過去の経営の結果である債務超過額など実は関係ありません。
なので、あまりそこにばかり注目しても実質的に意味がないので、そこを見て、もしくはしつこく指摘されてもくよくよしないことがポイントです。

債務超過については、下記の記事を参考にされてください。

事業デユ―デリジェンスについて

4つ目のポイントは事業デユ―デリジェンスにかかわる以下の事項です。
事業デユ―デジェンスを実施する目的は、大きく2つあります。

1つには窮境に陥った原因を把握することです。
そしてその原因を把握することができて初めて、その原因を解消するためには、どういった課題を設定してどういった具体策を打てばいいのかということを決めることが可能になります。

2つには、環境分析(内部環境と外部環境)を実施して、今後の事業の基本的方向性を決定し、つまりは課題設定をして、戦略を構築し具体的な活動を決定することです。

1つ目の原因の把握というと簡単に聞こえますが、実は原因の把握はとても難しいものなのです。
詳細は別記事に譲りますが、ここをしっかり実施できる外部の専門家はかなり少ないですし、外部の専門家の中にも、原因把握が実は難しいということさえ理解していない者が多いのです。

会計士や税理士は論理的な職業だから、論理には強いはずだというのも、世の中の多くの人のバイアスのかかった単なる思い込みでしかありません。
実のところ事業再生実務に従事している士業の多くは論理思考に極めて弱いのです。

なぜならばロジカル・シンキングを学んで論理思考スキルを身に付けていないからです。
論理思考は大きなスキルの1つなので、しっかり学ばないと身に付かないものです。

2つ目の戦略の構築についても、戦略論や様々な戦略立案のためのフレームワークは良く知っているけれども、実際に戦略を立案しろと言われたら、どうやっていいのか全く分からない先生はとても多いのです。

戦略論はたくさんの書籍が出ていますし、ビジネススクールでも戦略論は学べますし、様々なフレームワークの知識も教えてもらえます。
ところが戦略を実際に立案する思考のプロセスについては教えてもらえません。
ここは自らが考えて自分なりのものを構築する必要があるのです。

税理士や会計士が調査に入った場合、彼らの計画書に記載される事業デユ―デリジジェンスの結果の項目には、損益の5年推移比較みたいなデータを羅列して再建計画に貼り付けているだけのものが多いですが、それは事業デユ―デリジェンスではありません。

また、よく見かけるのがSWOT分析の結果を添付して、お茶を濁しているパターンです。
しかもクロスSWOTを使う先生はとても多いのですが、実はクロスSWOTは非常に使いにくい。
SWOT分析から何かの素晴らしい戦略アイデアが自動的に出てくると勘違いしている人は多いですが、何も出てきません。
戦略は自分の頭で考えるものなのです。

以上のような事業デユ―デリジェンスの2つの目的を達成するためには、各々高度なスキルが必要になりますが、そのどちらも身に付けている外部専門家は極めて少ないのです。

一般の税理士や会計士では、事業デユ―デリジェンスが実施できない理由はこういうことなのです。
せっかくコストをかけて事業再生に取り組んで先生に入ってもらうのですから、こういったことができる外部の専門家を事業再生の入り口で検討しておくのがポイントです。

外部専門家の専門性のことを先に書きましたが、その専門性の欠如が最もよく表れるのが、この事業デユ―デリジェンスの部分なのです。

事業再生を遂行するために必要なスキルについての詳細は、下記の記事を参考になさってください。

マーケティング思考については、下記の記事を参考になさってください。

事業再生におけるマーケティングの重要性については、下記の記事を参考になさってください。

具体的対策の具体性と実行可能性の擦り合わせ

5つ目のポイントは、再建計画書に記載された具体的な対策案に実行可能性があるかどうかをしっかり検討することです。

事業デユ―デリジェンスが終了し、先専門家の先生方から今後実施するべき具体的な対策が示されると思いますが、まずその具体策が本当に具体的に指示されているのかは必ず確認するのが大きなポイントです。

抽象的な言葉で書かれた具体策をよく見かけますが、実行するには具体的な言葉で書かれていないと実行などできないからです。
たとえば、

  • 営業部の活動を個人ごとに見える化する。
  • 店舗の対面販売においてお客様へのホスピタリティを大切にする。
  • ウェブサイトのSEO対策に取り組む。

これらは全てダメな言葉遣いです。
具体的対策は具体的にどうするのかが一瞬でわからないといけないのに、これらの言葉の抽象度ではそれが全く理解できないですよね。

このような空虚な言葉で埋めつくされた計画書が出てくることはよくありますが、いざ実行し用としても具体性がないので何も手につきません。
具体的な言葉に置き換えることは大切なポイントです。

また、具体的な言葉で具体策が書かれていたとしても、本当にそれが自社のスタッフ等の能力で遂行できるものなのかもとても大切なポイントです。

たしかに具体的な対策案のアイデアとしては秀逸であったとしても、それが自社の能力では実行不可能なものであれば、まさに絵に描いた餅でしかありません。
その場合には、秀逸なアイデアでなくても構わないので、実行可能な対策を選ぶことが大切なポイントです。

素晴らしいアイデアを70%実行するよりも、愚鈍なアイデアを100%実行するほうがはるかに結果は出るのですね。

債権放棄を受ける計画について

6つ目のポイントは、金融機関からの債権放棄の話になった時に、金融機関から経営者の私財の提供の打診があれば、積極的に受け入れることは、事業再生に向けて大事なポイントになります。

金融機関からの借入金がかなりの額に上っていて、その返済に100年かかりますみたいな状況だと、どれだけ収益力を上げても金利の支払いがかさんで利益を食ってしまい、また返済へキャッシュの多くが回ることになって、資金逼迫の状況がいつ再発するかもしれません。

こういった場合には債権放棄をしましょうという話になることもあります。

もちろん、債権放棄をするとなると金融機関に実損(貸倒損失)をもたらしますから、金融機関に貸倒損失についての予算が取れるくらいに儲かっていることが前提です。

この点、市場金利がほぼゼロの現在では銀行の収益力がかなり落ち込んでおり、そのようなマクロ環境の中では、なかなか債権放棄の話は私的整理の枠組みでは難しいかとは思います。

過剰債務については、そもそも金融機関にも貸し手責任があるだろうという論調もありますが、借りたものは返すのが大原則ですから、もし債権放棄などの話が出たならば、できうる限りの個人資産の提供は当たり前のこととして受け入れるべきでしょう。

この辺りの話は経営者保証の論点と繋がりますから、専門家の先生方に経営者保証のガイドラインに沿ってしっかりと検討してもらうことがポイントです。

経営者保証については、下記の記事を参考になさってください。

事業承継について

7つ目のポイントは、事業再生に取り組むにあたっては、事業承継の必要性があればしっかりと先生方と話をすることです。

現代では、事業再生に取り組むにあたっては、事業承継も一緒に考えるべき必要性がとても高くなっています。
経営者の年齢が高く、後継者がまだ決まっていないケースが非常に多くなっているからです。

事業承継税制なども整備されて、昔に比べれば事業承継をやりやすい環境は整ってきました。
事業のオーナーがある一定の年齢に差しかかっているような事案の場合には、次の世代へのビジネスの承継も視野に入れた事業再生計画が望ましいですよね。

外部専門家として入る先生によっては、事業承継にまで目が行き届かない場合もあるので、先生方を入れる前に、事業承継計画にも対応できる専門家の招聘をお願いしたいと銀行と調整をしておくことも大事なポイントです。

後継者が親族にも従業員にもいない場合には、近い将来に廃業するか、M&Aを使って事業譲渡や会社分割の手続きを用いて第3者であるスポンサーへ事業売却することになります。

スポンサー型の事業再生については、下記の記事を参考にされてください。

廃業については、下記の記事を参考にされてください。

また、事業再生を機に、経営者の地位を後継者に譲るお考えがある場合には、経営者保証の承継をどうするべきかとうことも事業承継の大きなポイントになります。
このあたりについては、下記の記事をご参考になさってください。

バンクミーティングについて

8つ目のポイントは、バンクミーティングでは凛として経営者らしく振舞うということです。

取引金融機関が複数ある場合には、金融債権者全員の合意を得るために、再生スキームの中で数回のバンクミーティングが開催されます。

この場では真摯に、金融債権者の方々にご迷惑をおかけしたことについての謝罪と、再建の機会を与えて頂いたことへの謝意とともに、今後の再建計画の骨子について自分の言葉で熱意をもって語ることとがとても大事なポイントです。

大方の場合には、税理士や会計士の先生が、自分が作成した再建計画の要約を話すことになりますが、経営者自身も自分の事業にかける思いを自分の言葉でロジカルにかつ熱意をもって語ることで、金融債権者の方々の今後の支援が非常に協力的になることは間違いありません。

バンクミーティングでは厳しい言葉を浴びせられることもありますが、経営者としての自分のプレゼンテーションの場だと信じて、しっかり乗り切ることがポイントです。

金融機関からの理不尽な要請について

9つ目のポイントは、万が一金融機関から理不尽な要求があっても、それに屈してはならないということです。

債権放棄などの大きな金融支援を受ける場合には、金融債権者から理不尽な要請を受けることがこの時代でさえまだまだあります。
私が経験したケースでは下記のような事例がありました。

<ケース①>

先代の社長が繊維縫製業から半導体機器製造業へ業種の転換を図った時に、工場を建てる話になりました。
土地の取得や工場の建設、高価な機械設備の設置等に約50億円ほどかかりましたが、何とか竣工し工場も稼働し始めました。

韓国への半導体の後工程の機械を輸出することが事業の大きな柱となっていましたが、韓国企業が設備の内製化を開始したことで、売上が急減し、借入金の返済が全くできなくなりました。

弁護士の紹介で私が事業再生の専門家として債務者企業について、調査し再建計画書を作成し、金融機関と交渉して約40億円の債権放棄を受けることができました。

そして、その後しばらくするとメイン銀行の審査担当取締役が債務者企業に来社して、「今回は当行としても苦渋の決断で債権放棄に応じました。ところで、私の義理の弟が再就職先を探しているのだが、御社の総務部長として迎え入れてやってほしい。今度、ここへ挨拶に来させるから宜しく頼みます。」と言って帰っていったそうです。

社長がびっくりして私に電話して事の詳細を話してくれました。
私は呆れかえって、そんな話聞かなくても大丈夫ですから、放っておいてくださいと言いました.

その後もしつこく何度も連絡があったようですが、放念していたところ、その審査担当取締役の義理の弟自身が債務者企業にふらっと来社して、社内を見学させてほしいと言ってきたそうです。
さすがに温厚な社長もぶち切れて、見学もさせることもなく帰らせたとのことでした。

金融庁に報告しようかなと思ったくらいの漫画のような出来事でしたが、現実にこのような話は存在します。

<ケース②>

ある地方の倉庫業の事業再生のコンサルティングをしていた時のこと。

耐用年数を優に超え、倉庫の老朽化が激しいので、立替投資が必要になっていたのですが、メインの地元信用金庫が建替え資金を融資してくれることとなりました。

ところが倉庫の建て替えについては地元の有力建設業者を使うようにとの指示が信用金庫からあり、倉庫業の社長も狭い田舎では信用金庫には逆らえないということで、その建設業者に仕事を発注しました。

ところが新倉庫の建設費用の見積もりが出てきたら、その高さにびっくりして社長から私に連絡がありました。

すぐに飛んで行って、見積書を拝見し、図面とともに大阪の建設コンサルタントに診てもらいましたが、概ね30%程度ほど高い価格が設定されていて、3割安くても20%程度の利益は残るという話でした。

あまりに高いのでこれでは他の建設会社に発注せざるを得ないと倉庫業の社長が建設会社の社長に直談判に行くと、次の日には信用金庫の担当理事から呼び出され、その見積価格通りで仕事を発注しろと強要されたとのことでした。

その建設会社は街でも知らない人がいないくらいの老舗企業なのですが、また、知らない人がいないくらいの実質破綻企業のようで、そのメイン金融機関は先ほどの地元の信用金庫でした。

これって、いわゆる不良債権の融資先とばしですよね。
私は呆れかえって、信用金庫からの融資の話はお断りしてもらって、立替投資も断念して、しばらく修繕を加えながら事業を継続することとなりました。

これも金融庁に報告するべきレベルの話ですよね。
こんな話が田舎に行けばごろごろしているのかと思うとぞっとしますが、くれぐれも金融機関からのこのような理不尽な要求に屈することがないようにするのがポイントです。

手元流動性の確認

10つ目のポイントは再建計画のスタート時にはできるだけ手元資金を厚くしておくということです。

再生計画書の最終の段階でメイン銀行からニューマネーをどれだけ入れましょうかというお話になると思いますが、可能ならば少し余裕を持った金額で融資をお願いするべきです。
再生計画などあくまで仮説に基づいた計画でしかないのですから、計画したことすべてがうまくいくとは限らないからです。

こんなところで遠慮などしないというのも大きなポイントです。

モニタリングについて

11つ目のポイントはモニタリングを担当する会計士等の選択においては、KPI設定ができ、KPI管理ができる会計士等の先生を入れるべきということです。

再建計画について金融債権者全てから同意を得れば、再生計画がスタートしますが、計画通りに進捗しているかどうか、計画した活動の結果がしっかりと財務目標にまで因果のロジックで繋がっているかどうかは、KPIを適切に設定して、そのKPIを追いかけなくては確認できません。

ところが多くの事業再生の外部専門家として活動している税理士や会計士はそもそもKPIとは何かを知らない者も多く、KPIをどこに設定するのか、どのように管理するのか、活動と財務目標の因果のロジックをどのように確認するのかということについても知識がないことがとても多いのです。

そういった先生方の多くは、単に期末に計画値と実績値とを比較して、彼らが管理会計と称する「予算実績差異分析」を行って、差が出ないように頑張りましょうという話で終わってしまうことも多いのが現実です。

このようなモニタリングでは結果がでないのも当然なので、しっかりとKPI管理ができるような外部の専門家を見つけることは、再生が計画通りにが順調に進んでいるかどうかを確認するためだけでなく、KPI管理を通じて計値に落とし込むツールとして強力な武器になります。

したがって、KPI管理をしっかり実施できる専門家を選ぶことはとても重要なポイントになります。

あるべき管理会計については、下記の記事を参考になさってください。

やりきること

最後のポイントは、当たり前のことなのですが、多くの債務者企業ができないこと、つまり、やりきることです。

本当の意味での事業再生のプロフェッショナルは、債務者企業の今後のあるべき方向性について複数の仮説を持ち、その各々に対して今後実施するべき具体的な対策案に関して、いくつものアイデアを頭の中に描くものです。

そして、最終的にこれをやりましょうと提案するものは、最も斬新で魅力的な、かつ実行可能性の高いアイデアではありません。
この会社のスタッフの力量であれば実行可能であろうと高い確度を持つ愚鈍なアイデアであることのほうが多いのです。

あなたの会社に入った外部の専門家がそうであるならば、提案された対策案を愚直なまでに繰り返して実行すること、遂行することが大切なポイントになります。
結局、素晴らしい結果が伴うためにするべきことは、愚直なまでに最後まで諦めることなくやり続けることがポイントです。

私の経験では、結果の出ない会社に100%共通していることは、途中でやめてしまうことです。

少し結果が出なければそれで意気消沈して止めてしまうような、継続するということができないスタッフの集まりでは、何をやっても上手くいきません。
経営者が陣頭指揮を執って、結果が出るまで愚鈍に実直にやり続けること、これが最も大切なポイントなのです。

したがって、事業再生を成功に導く最後のポイントとして挙げておきたいことが、愚直なまでにやり続けるということであり、専門家の選択と並ぶ最も大事なことなのです。

事業再生は99%失敗する【事実】

事業再生は99%失敗する【事実】

世の中で広く行われている事業再生の多くは「事業を再生するという本質的な意味において」失敗に終わっています。

再生計画によってリスケが実施されたり、新しい資金が融資されることで、それまでの資金繰りが逼迫している状況から解放されたことから、会社が儲かるようになったという錯覚に陥ってしまう経営者が後を絶ちません。

事業構造そのものの転換を図ったり、戦略をしっかり構築したりするなど、これまでになかった新しい経営方法を社内に導入して根付かせないと、一旦落ち着いた資金繰りもいずれ再び逼迫し、再び再生のフェーズに転がり落ちるケースは後を絶ちません。
考えたら当たり前の話です。

お客様のニーズが変化したことなどの外部環境の変化に対応しきれなかったから事業再生のフェーズに至ったビジネスなのですから、根本的な荒療治を施さなければ、世の中のお客様には見向きもされないのは当たり前のことです。

そういった視点でしっかりとビジネスを方向転換(ターンアラウンド)させることを指導できる外部の専門家を選んでください。

事業再生というプロジェクトの成功を左右するまず大きなポイントは、事業再生の専門家として誰を選ぶかということです。
(外部専門家を入れないという決定はそもそも100%失敗しますからありえません。)

事業を再生するという事業再生の本来の目的を達成できる外部専門家を選ぶのが事業再生を成功に導く大きなポイントなのです。

外部専門家の選択には、銀行から紹介されたからという理由だけで決定せず、自分の目でしっかりと見定めて決定するべきです。
その上で、最後までやりきることが、事業再生の結果を大きく左右する大きなポイントです。これに尽きます。

あなたの事業再生が成功しますように。

事業再生の論点については、下記の記事を参考になさってください。

事業再生アドバイザーについては、下記の記事を参考になさってください。

事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。