マーケティング思考とは?【重要:ヒトの気持ちに寄り添います】

最近いろんなところで、これらからの経営にはマーケティング思考が重要だと最近特に耳にするようになった。

ところで、マーケティング思考とはいったいどのような思考法を言うのだろうか。

その中身がわからないことには、マーケティング思考に取り組むこともできないので、丁寧に解説して頂けるとありがたいのだけど・・・

マーケティングという言葉は昔から存在しますが、最近よく耳にすることの多くなったマーケティング思考とは、いったいどのような思考法を言うのか定義もないので、理解しづらいとお悩みの経営者は多いことと思います。

この記事を読むことで、マーケティング思考は何なのかがよく理解でき、ビジネス上の問題を考える起点が何であるのかがよく理解できるようになります。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生に取組んで20年以上、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

マーケティング思考は強力な思考ツール

マーケティング思考は強力な思考ツール結論から書きますと、マーケティング思考は極めて強力な思考ツールです。

伝統的なコンサルティング業界で重視されてきたロジカル・シンキングは、思考法の基礎として今でも重要であることは間違いありません。

ところが、ロジカル・シンキングは「ヒトの気持ち」という経済を動かす根本である主観性をできるだけ排除して、論理とファクトという客観的な要素だけで結論を導き出す思考法なので、「ヒトの気持ち」が絡むことが大半であるビジネス上の課題を実践的に解決するには少し物足らない所があるわけです。

一方、マーケティング思考は、そういったビジネス上の問題を、その原因となっている「ヒトの気持ち」を起点として解決に至る思考プロセスであり、高速PDCAを回すことが可能であるので、より実践的な思考プロセスであるということができるのです。

シンプルで強力なマーケティング思考を是非身に付けて、自社の諸問題の解決にお役立てください。

マーケティングとは何か?

マーケティングとは何か?マーケティング思考とは何かを考える場合、まず、マーケティングとは何かということに答えなければなりません。
つまりは、マーケティングという言葉を自分なりに定義するところから始めるということです。

マーケティングの定義には本当に様々なものがありまして、参考のためにここでいくつかをご紹介しておきましょう。

まず、アメリカ・マーケティング協会(AMA)によるマーケティングの定義は下記のとおりになります。
なお、この定義は、2007年に改訂されたものです。

Marketing is the activity, set of institutions, and processes for creating, communicating, delivering, and exchanging offerings that have value for customers, clients, partners, and society at large.

マーケティングとは、顧客、クライアント、パートナー、社会全体にとって価値のある提供物を創造・伝達・流通・交換するための活動、一連の制度、過程である。

(出典:アメリカマーケティング協会(AMA)

次に、日本マーケティング協会(JMA)の定義(2009年策定)は下記のとおりです。

マーケティングとは、企業および他の組織がグローバルな視野に立ち、顧客との相互理解を得ながら、公正な競争を通じて行う市場創造のための総合的活動である。

ここで、他の組織とは、教育・医療・行政などの機関、団体などを含むものとされ、グローバルな視野とに立つとは、国内外の社会、文化、自然環境の重視することとされ、顧客とは、一般消費者、取引先、関係する機関・個人、および地域住民を含み、総合的活動とは、組織の内外に向けて統合・調整されたリサーチ・製品・価格・プロモーション・流通、および顧客・環境関係などに係わる諸活動をいう。

(出典:日本マーケティング協会(JMA)

日米のマーケティング協会の定義は、どちらも本質を突いた素晴らしい定義であることは間違いないのですが、どちらの定義もしっくりきません。

それはなぜかというと、言葉のレイヤーが高すぎるからなのです。
つまり、言葉の抽象度が高すぎるので、結局マーケティングとは、具体的には何をするものなのだということがわかりにくくなっています。

たとえば、AMAやJMAの定義などは、関係者の方々が各々の持つ定義を持ち寄って議論しながら最終的な定義を導き出しているのだと思うのですが、その結果、マーケティングの機能や目的などを広く定義の中に取り込もうとしたために、言葉の抽象度が高くなってしまって、具体性が失われてしまってわかりにくくなっていると思うのです。

日米、各々の国のマーケティングを引っ張る立場の組織ですから、抽象度が高い言葉を遣って、マーケティングの機能や目的などの多くの「言いたいこと」を、その定義の中に取り込もうという思考がどうしても働きますので、こういったレイヤーの高い定義になってしまうのは仕方のないことなのです。

それでは、近代マーケティングの父と呼ばれているフィリップ・コトラー先生は、マーケティングをどのように定義しているかを見てみましょう。

マーケティングとは、どのような価値を提供すればターゲット市場のニーズを満たせるかを探り、その価値を生み出し、顧客に届け、そこから利益を上げることをいう。

(出典:フィリップ・コトラー『コトラーのマーケティング・マネジメント ミレニアム版』)

コトラー先生の定義は、マーケティングをそのプロセスの視点から定義化したもので、ターゲットを定め、そこに提供する価値を作り、その価値をしっかりとターゲットまで届けて、最終的に利益につなげる活動をいうものとされていて、非常にシンプルですが、網羅的な表現になっていると思います。

最後になりますが、グロービスによるマーケティングの定義も見ておきましょう。

マーケティングとは、顧客満足を軸に『売れる仕組み』を考える活動である。

(出典:グロービス

グロービスの定義は、非常にシンプルで、マーケティングとは「売れる仕組みを作ること」だとしています。

これはコトラー先生の定義を、一段レイヤーをあげて抽象化したものに他なりません。
コトラー先生の定義をさらにシンプルに本質を突いた言葉で定義しなおすとこのような定義になるのですね。
マーケティングを体系的に学んでこの言葉の具体化ができるようになれば、この定義の的確さは理解できると思います。

ここでは、日米のマーケティング協会、フィリップ・コトラー先生、グロービスの4つの定義を見てみましたが、全て定義が異なっていることがわかります。

さて、私ならばどのような言葉を遣ってマーケティングを定義するか。

マーケティングとは、顧客の気持ちを動かせて行動を変化させ、
顧客の問題解決を行うことである。

ここで、「顧客」とは、商品やサービスを買ってくれるお客様に限らず、企業を取り巻く利害関係者すべてを指しており、場合によっては社内のスタッフを指すこともありえます。

また、「顧客の気持ちを動かせて」とありますが、ヒトの最終的な行動そのものを動かすことは我々にはできません。
我々にできることは気持ちに訴えかけて、その気持ちに変化を生じせしめ、その結果として、行動を変化させることだけです。

さらに、「行動を変化させ」とあるのは、気持ちを動かせただけで行動に影響を与えられないのであれば、最終的な目標である問題解決には至らないことから、定義に含めたものです。

最後に、「問題解決を行う」とは、「顧客」が抱えている問題を解決することを通じて、より快適な、より生活しやすい、より良い社会を作ることを目指すものであるということです。

マーケティングは経営そのものである

マーケティングとは経営そのものであるこの定義からご理解いただけるように、マーケティングとは問題解決のプロセスに他ならないのですが、この定義は私の「ビジネスとは何か?」の定義と被るところがあるのです。

「ビジネスとは、顧客の問題解決で忙しい状況をいう」と私はビジネスを定義しているのです(businessは、busyの派生語)が、この2つの定義を並べてみると、マーケティングはビジネスそのものであるということがわかります。

たとえば、私は事業再生の専門家ですが、その私自身が事業再生の専門家にとって一番重要な知識とスキルはマーケティングであると考えているわけですが、その理由は、マーケティングはビジネス、つまりは経営そのものであるからなのですね。

マーケティング思考とは何か?

マーケティング思考とは何か?さきほど、私なりにマーケティングの定義をしてみました。

マーケティングとは、顧客の気持ちを動かせて行動を変化させ、
顧客の問題解決を行うことである。

マーケティングは問題解決のプロセスなのですが、その起点には「ヒトの気持ち」が必ずあります。

経済を支配しているのは、小難しい経済理論などではなく、そこで活動するヒトの気持ち以外の何ものでもありません。
その気持ちの総体として、何らかの経済学の法則などが生まれているわけです。

経済学は、ヒトの気持ちの動きの結果としての経済事象のみを取り上げて経済理論を構築しているわけですが、その原因としてのヒトの気持ちを取り上げないので、ミクロ的な施策を考える実務ではほぼ役に立たないわけです。

科学としての経済学という学問に、ヒトの気持ちなどといったふわふわした得体のしれないものを採り入れるわけにはいかなかったのです。
そういった問題点を補う形で現れたのが行動経済学ですね。

マーケティングでは、問題解決プロセスの起点となる「ヒトの気持ち」をカスタマー・インサイト、または単にインサイトと呼びます。

「ヒトの気持ちを動かす」ためには、対象となるヒトが今いったいどんな気持ちであるのかを把握する必要があります。
ここが決まらないのに、その気持ちを動かすなんてできませんからね。

消費者インサイトについては、下記の記事を参考にされてください。

2種類の気持ち

たとえば、美味しいと評判の大福を売っている和菓子屋さんがあるとします。

20代、30代の女性にとても人気で毎日若い女性で長蛇の列ができるくらいです。
大福を食べた後にしつこい甘さが口に残らないので、とても美味しく、身体にも優しい和菓子のような錯覚に捕らわれることも、売れ行きが良い大きな原因でしょう。

ところが、5年ほど前までお客様の中心であったおじいちゃん、おばあちゃんがお店に買いに来ることはめっきりなくなりました。

昔よく買いに来てくれていたおじいちゃんやおばあちゃんに、最近お店に来てくれないねと声をかけたら、「昔は甘くて美味しかったんだけど、いつからか甘くなくなっちゃって、大福を食べた気がしないんだよ。」というお声を頂きました。

そこで店主は、和菓子屋を創業した先代当時のレシピで「復刻版の大福」を作って販売しました。

噂を聞いた昔はファンだったけど最近は他のお店へ気移りしていたおじいちゃん、おばあちゃんが喜んで、再びお店に買いに来てくれるようになりました。

このようなケースでは、「昔は甘くて美味しかったけど、最近のは甘くなくて大福らしくない。」というおじいちゃん、おばあちゃんの気持ちを見つけて、その気持ちに寄り添って「復刻版の大福」という商品を開発したことになります。

そして、見つけたその気持ちは、おじいちゃんやおばあちゃんの口から出てきたものであり、つまりは彼らが自分自身でその「お困りごと」に気付いていた類の気持ちです。

一方、次のようなケースはどうでしょう。

和菓子屋の店主は、北海道に旅行した際に現地で食べたメロンの美味しさに感激し、このメロンを大福に入れたらお客様に喜んでもらえると確信しました。

旅行から帰ると早速、北海道からメロンを仕入れて「メロン大福」を試作してみました。
試食してみると、びっくり仰天、なんて美味しいのだろう!ということで、販売を開始することにしました。

お店の若い女性のお客様が興味津々で試食した後に、口をそろえて「美味しい!初めての味!」を連呼するので、あっという間にヒット商品になりました。

このケースは、お客様に聞いてその気持ちを見つけたものではなく、日頃のお客様を観察していた和菓子屋の店主の「主観」だけを頼りに商品開発したケースです。

「きっとお客様は気に入ってくださるに違いない」という主観だけで、「メロンと大福のハーモニーを楽しみたい」などというお客様の気持ちを、お客様の口から直接聞いたわけでもありません。

「メロンと大福のハーモニーを楽しみたいですか?」と商品開発前に調査をしていたとしても、「その組み合わせは気持ち悪いし、食べたいと思わない。」などという回答が続出していたかもしれません。

お客様は、自分ではそんな気持ちに気付いていなくて、実際の商品を提供してもらって口にして初めてその気持ち「こんな商品、欲しかった!」に気が付くというケースです。

このように、「ヒトの気持ち」には、自分で気付いて言語化できている顕在意識化にあるものと、自分では気付いていなくて言語化できていない、深層心理という潜在意識化に潜んでいるものとの2種類があるのです。

お客様の顕在意識化にあるものは見つけやすく、その気持ちの確度は高い一方、見つけやすいので競合先もすでに見つけて商品化されてしまっている可能性が高いものなので、ビッグアイデアに結びつくことはあまりありません。

一方、お客様の深層心理に潜んでいるものは見つけにくく、その行動や言動を観察することでしか把握することができないものなので、その把握はとても難しく、その確度も非常に脆弱です。

こちらの気持ちは、まだ言葉として世の中に出ていないものなので、競合が気付いている可能性は低く、ビッグアイデアに結びつく可能性は非常に高くなります。

このように、2種類の「ヒトの気持ち」を洞察するところから、問題解決を始めるのが、マーケティング思考ということになります。

この和菓子屋さんの事例の場合には、前者は「甘くなくて大福を食べている気がしない。」というおじいちゃん、おばあちゃんが意識下で抱えている問題を、後者は「これまでにない新しくて美味しい大福を食べたい」というお客様が無意識の中で抱えている問題を解決していることになります。

コンセプトについては、下記の記事を参考にされてください。

ニーズとウォンツについては、下記の記事を参考にされてください。

マーケティング思考の特徴

このように、マーケティング思考は、「ヒトの気持ち」を起点として問題解決を図る思考プロセスです。

一方、伝統的なコンサルティング業界で重視される一般的なロジカル・シンキングによる問題解決プロセスでは、「論理」と「ファクト=事実」を重視し、厳密なロジックに従って思考を因果関係でつなぎ、解決策へと導いていきます。

そこでは「ヒトの気持ち」などという主観的な要素は一切排除され、客観的な「ファクト」だけでロジックを組み立てていきます。

問題を発見し、原因を探索し、課題を設定して、具体的対策を策定するという基本的な流れのロジカル・シンキングの思考プロセスの冒頭の問題発見フェーズでも、その問題は「事実」であることが求められ、主観的要素は排除され、客観的な数値と事実のみで構成されることが求められます。

この思考法の最大の欠点は、客観的なファクトの収集に時間がかかりすぎるということであり、また、帰納法的にそのファクトの積み上げができたとしても、そのようなデータはどこまで積み上げても厳密な意味での客観性の確保はできないという点です。

この事例でいうならば、「甘くなくて大福を食べている気がしない。」というおばあちゃんやおじいちゃんに気持ちは何人の声なのだというサンプル数の問題が指摘されることになって、そういった声のサンプル数が多く手に入らないと次の思考フェーズに進めないということになります。

さらに、「ヒトの気持ち」などというものは、どれだけ集めても帰納法的なロジックしか使えないので、どこまでいっても厳密な意味での客観性など持ち得ないのです。

ヒトは論理で動くケースもありますが、その多くは気持ちに支配されている生き物です。
ならば、客観的ではないにせよ、そこの焦点をあてて思考を進める思考法が必要なわけです。

ロジカル・シンキングではなく、マーケティング思考に則って、気持ちを見つけたならば、その気持ちから考えた課題仮説を信じてとにかくやってみて、お客様に聞いてみて、ダメならばやり直すという高速PDCAを回すことのほうがよっぽどビジネスでは大事なのですね。

このように、マーケティング思考は、主観的な「ヒトの気持ち」を重視して、そこにすばやく寄り添うことで世の中の顕在的な、または潜在的な問題を解決して、世界をより良い場所にしていくという、主観主導の思考法なのです。

ロジカル・シンキングは人の気持ちが介在しない問題のケースでは強力な威力を発揮します。

たとえば、工場で工作機械がすぐに故障するなどという場合、その問題を解消(機械が故障しないようにする)するケースを考えてみれば、よくご理解いただけると思います。

そこには「ヒトの気持ち」などほぼ介在しませんので、論理とファクトだけで最後まで思考を推し進めることができます。

しかし、顧客を相手にすることがビジネスの大半ですから、ビジネス上のほとんどの問題には「ヒトの気持ち」が絡んできます。

したがって、「ヒトの気持ち」を推し量って把握する能力がないと、ビジネス上の問題の解決はできないのですね。

このようなことから、論理思考一辺倒ではビジネス上の問題をすべて解決することなど全く不可能ですから、「ヒトの気持ち」を起点に問題解決思考を進めるマーケティング思考は、とても重要なわけです。

「ヒトの気持ち」という不安定であやふやな主観的な要素を重視する。
マーケティング思考の出発点であり、その要諦です。

マーケティングの歴史については、下記の記事を参考になさってください。

事業再生におけるマーケティングの重要性については、下記の記事を参考になさってください。

社員教育については、下記の記事を参考になさってください。

マーケティング思考導入コンサルティングについては、下記の記事を参考になさってください。