コンセプトとは何か?【誰に対してどのような価値を提供するか】

コンセプトってビジネスの現場でよく耳にする言葉だし、自分もよく遣っている言葉だけれども、よくよく考えたら、この言葉を定義しなさいと言われたら、なんと定義すればいいのかがわかっていないという、なんとも不思議な言葉だ。

マーケティングの本などを読んでいても、筆者によってコンセプトという言葉の定義は違うようであるし、一体全体どういった意味なのか教えてほしい。

このようなお悩みをお持ちの、学びと実践を大切にする経営者の方はとても多いように思われます。

この記事を読むことで、コンセプトという言葉の定義=本質が良く理解でき、ビジネスの現場で「新しい」事業や、「新しい」商品・サービスを生み出す必要に迫られたときに、考えるプロセスが良く理解できます。

本記事は中堅・中小企業の事業再生に取り組んで20年以上、200社超の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生へと導いてきた、企業再生のプロフェッショナルである公認会計士が書きました。

コンセプトとは何か?

コンセプトとは何か?コンセプトは、英語ではConceptであり、Conceiveから派生した言葉です。

Conceive=Con + Ceive = Con+Capereであり、CapereCapture(摑まえる)を表すラテン語です。
Conは強調を表す接頭辞なので、Conceiveは、「しっかりつかまえる」という意味になります。

コンセプトはいろいろな名詞の後にくっつくことができますが、例えば商品コンセプトと言った場合には、「商品をしっかりつかまえる」という意味になりますが、これはつまり、「商品の本質をしっかりつかまえる」という意味です。
また、商品の本質とは、商品の存在意義に他なりませんから、それは、商品の提供価値を指していることになります。

以上から、コンセプトとは、提供価値のことを意味しますが、その価値はターゲットによって異なることになりますから、コンセプトの定義は「誰にどんな価値を提供しているのか。」という問いに対する答えであると定義することができます。

つまり、コンセプトとは本質的な顧客価値の定義を表す言葉なのです。

コンセプトの特徴

コンセプトの特徴

コンセプトは見たままではない

たとえば、美味しいワインがあったとします。

僕たちは美味しいワインを欲して買い求めますが、よくよく考えてみると、美味しいワインを飲むことで、「リラックスして寛ぐ時間」を享受していることもあるし、「仲間と共有する楽しい時間」を求めていることもあるでしょう。

美味しいワインの見たままは、まさに「美味しいワイン」であるわけですが、それはコンセプトとは呼べないことになります。

最終的に僕たちが求めている価値は、「リラックスして寛ぐ時間」であったり、「仲間と共有する楽しい時間」であったりするわけなので、僕たちは「美味しいワイン」という外形的な表象を買い求めますが、結局のところ買っているものは、そういった価値なのです。

したがって、「美味しいワイン」の商品コンセプトは、「リラックスして寛ぐ時間」であったり「仲間と共有する楽しい時間」であったりすることになります。
このように、コンセプトは見たままの外形を言語化した言葉ではないことには注意が必要です。

コンセプトは一言で表現される

コンセプトは、顧客に対する提供価値の本質を一言で凝縮して表現した言葉です。

その簡潔な一言を耳にしただけで、この会社は何を売ろうとしているのか、どのような顧客ターゲットに対してどんな価値を提供しようとしているのかが一瞬で鮮明なイメージとなって現れてきます。
ただし、その一言が解像度の高い言葉で表現されていることはもちろん必要で、抽象的な名詞や、幅の広い形容詞で彩られただけの耳触りの良い言葉であってはならないことは言うまでもありません。

そういった要件を満たした一言で表現することができる事業や商品・サービスは、その提供価値やターゲットが明確であることに間違いはないので、そのコンセプトに基づいて練り上げられた戦略のロジックは秀逸なものとなりやすいと思います。

たとえば、アメリカのサウスウェスト航空の事業コンセプトは「空飛ぶバス」であることは有名な話です。

この一言を聞いただけで、「短距離路線だけを飛ぶこと」、「価格が安いこと」、「機内サービスがないこと」、「席は選べないこと」、「運転手が荷物の積み下ろしを行うこと」、「多能工システム」等々の言葉が連想されて、サウスウェスト航空が旅客事業でどんな戦略のロジックで事業を展開しようとしているのかが、解像度の高いイメージとして頭の中に立ち上がってきます。

「御社のビジネスの本質を聞かせてください。」と質問されても、「空飛ぶバスです。」とさえ答えておけば、その事業の内容と戦略ロジックはすぐに理解してもらえます。
説明に係る時間はほんの3秒程度ですね。

シリコンバレーで生まれたとされるエレベーター・ピッチという言葉があります。

エレベーター・ピッチとは、エレベーターに乗っている短い時間(15~30秒程度)の間に、自社のビジネスや商品・サービスについてその本質を説明することを指しますが、要するに短い時間で自社のビジネス等の本質を伝えるプレゼンテーションの要諦を表現したものです。

そういった短い時間で自社ビジネス等の本質を伝えなければならないとすれば、伝えるべき内容は「コンセプト」にならざるを得ません。

コンセプトは「新しさ」を含んだ概念である

Conceiveという言葉には、「受胎する、孕む」という意味もあります。
したがって、この言葉には本質的に「新しい」という要素が含意されていると理解することができます。

「新しい」という概念を含んでいないと、どこかで見たことのある商品やサービスを二番煎じで作ることになってしまい、そのマーケットで「競争」することを前提に商品やサービスを作り込んでしまうことになります。
戦略の本質が「競争しないこと」であるとすれば、これから考えるコンセプトには「新しい」という要素がどうしても必要になります。

反対に、戦略的に他社の商品やサービスを模倣して、圧倒的な経営資源の格差を背景に競争に打って出るという戦略はもちろん存在しますが、それは経営資源の豊富な、つまるところ、資金が潤沢な大企業にのみ許された戦略オプションだと思います。

そういった経営資源に乏しい中堅・中小企業は、どこかで見たようなことのあるコンセプト開発をすることはやはり避けるべきであり、「新しい」という要素を含んだコンセプト開発を実践するべきでしょう。

たとえば、仲間由紀恵が主演して高視聴率を誇ったテレビ番組「ごくせん」。
あまりに高視聴率だったため、シリーズ化された伝説のテレビ番組です。

「ごくせん」という言葉は、「極道」と「先生」という2つの言葉の組み合わせで出来ています。
「もしも先生が極道だったら・・・」という話の設定ですね。

「ごくせん」というこれまでにない全く新しいドラマのコンセプトは、今まで視聴者が見たことのない聞いたことのない概念だったので、「新しさ」を感じ取った多くの視聴者が興味を持って視聴し始め、その内容がこれまでにないドラマだったので、毎回ハラハラドキドキしながらテレビにかじりつき、最終回まで高視聴率が継続したわけです。

このように、コンセプトにとって「新しさ」は独自性を出すためには切っても切り離せない要素となります。

補足ですが、「ごくせん」という言葉は、今までにない全く新しい概念(記号)だったために、この一言だけを伝えてもその本質は伝わらないので、補足説明が必要になる点がさきほどの「空飛ぶバス」とは違います。

「空飛ぶバス」は、「空を飛ぶ」と「バス」という既存の概念の組み合わせで出来ていますから、説明は不要で一気にそのビジネスのストーリーが眼前に立ち現れてきますが、「ごくせん」は全く新しい言葉なのでそのままでは伝わらず、「極道X先生」という説明は必要になります。

さらに補足しておくと、「ごくせん」という新しいコンセプトは、「極道」と「先生」という正反対の意味内容を持つ言葉を組み合わせてできています。
このように、新しいコンセプトは既存の2つ以上の概念の組み合わせで出来上がりますが、その2つが正反対のものであると、掛け合わせて出来上がる新しいコンセプトは非常に尖がったものになりえるのです。

コンセプトは数値目標ではない

「数値」というものは戦略に具体性を与えてくれる極めて優れた道具です。

因果のロジックで繋がったナラティブなストーリーとしての戦略は、言葉で表現されますが、言葉だけでは具体性に欠けたものとなりがちですが、そこに具体性の息吹を与えてくれるものが「数値」なのです。

このように、戦略策定において「数値」の果たす役割は非常に大きいわけですが、「数値」だけではコンセプトにはなりえません。
なぜならば、「数値」だけから、コンセプトの重要な2つの要素である「誰に=ターゲット」と「何を=提供価値」を理解することは全く不可能だからです。

コンセプトはあくまで社外に存在する「顧客」に対して提供する本質的な価値を定義したものであり、社内の我々が達成するべき目標などではないのです。
「数値」としての目標を設定したからといって、自動的に「顧客」に提供されるべき価値が自動的に定義されるわけではありません。

「数値」はコンセプトとして「顧客」に対する提供価値を定義した結果として後からついてくるものであって、コンセプトをベースに練り上げられた戦略の達成目標として機能すると同時に、戦略の巧拙を判断する材料となるだけなのです。

コンセプトはビジョンと結びついた概念である

コンセプトは単独で存在するものであるという誤解は、ビジネスの現場では非常に多いと思います。

コンセプトは「誰に対してどんな価値を提供するのか」という問いに対する答えなのですが、ビジネスの本質が社会に存在する様々な問題を解決することである以上、自社がビジネスを通じて実現したいよりよい社会と、自社事業や自社商品等の提供価値との関連は必然となってきます。

つまり、自社の提供する商品やサービスの価値が、顧客の抱える問題解決の手段として受け入れてもらえることによって自社のビジネスは継続することが可能になるわけですが、その提供価値の顧客の受容を通じて世の中の問題を解決することによって、世の中がより良い世界へと変貌を遂げていくわけです。

したがって、自社のビジネスを通じて実現したいより良い世界=ビジョンと、自社の事業、または商品やサービスの提供する価値=コンセプトとの間には密接な関連があるということになります。

たとえば、ブックオフ・コーポレーションのコンセプトを見てみましょう。
ブックオフ・コーポレーション(以下、ブックオフ)は1990年に1号店をオープンさせて中古書店チェーンを全国展開していきましたが、開業当初の事業コンセプトは、「中古本のコンビニ」であったと思います。

開業当初から、ブックオフは中古本の販売よりも中古本の買取こそが事業成功のKSFKey Success Factor=重要成功要因)であると考えていたはずで、それは「本を売るならブックオフ」というわかりやすいメッセージをテレビなどのマスメディアで繰り返し流していたことから伺い知ることができます。

ブックオフは成長の過程で、本の買取をさらに重視して、顧客が最寄りのブックオフに中古本を満ち込んで売りやすくするために平均的な店舗では少なくとも20台分の駐車スペースを確保するようにし、自宅まで中古本の買取に伺うこともサービスとして実施し、送料無料でブックオフに中古本を送ることができる「宅本便」も提供したのでした。

このようにしてブックオフは買取重視の姿勢を鮮明にして、事業コンセプトの軸足を販売よりも買取に移し替え、テレビで流れるメッセージも「捨てない人のブックオフ」へと変化していきました。
つまり、事業コンセプトが「中古本のコンビニ」から「捨てない人のための社会インフラ」へと再定義されたことがわかります。

このような歴史を見てみると、現在のブックオフが誰にどのような価値を提供しようとしているのかが理解できます。

開業当社は、「中古本を安く買いたい人」に対して「安い中古本」という価値を提供していましたが、買取重視を鮮明に打ち出したころには、「買って捨てるという生活スタイルを疑問に感じている人」や「不要となったモノを捨てたくない人」が価値提供のターゲットであると再定義されることとなったのです。

このようなブックオフの事業コンセプトの再定義は非常に大きな意味があったように思います。

従来、生活者が不要になった中古本は、古紙回収業者によってトイレットペーパーとの交換で再生紙工場へと流れていくしかありませんでした。
自分がお世話になった本を再生紙に転化することに躊躇する生活者の深層心理では非常に不本意であったのかもしれませんが、不要となった本の行き場所はそこしかなかったわけです。

しかし、回収される本の量が古紙再生の受容を超えて古紙の価格が急落してしまうと、古紙回収業者はビジネスにならないので一般家庭を昔ほど巡回しなくなってしまいました。
このままでは、不要となった中古本はいよいよ廃棄するしかなくなってしまい、廃棄コストがかかること、焼却による環境汚染の問題も孕むようになります。

そういった時代に、ブックオフが事業コンセプトの転換を行って、ごみの回収や環境汚染の問題を解消する、つまりはより良い世界を作るというビジョンとの関連性を強めたことは、ブックオフという会社に対する社会の見方は随分と印象の良いものになったことと思われます。

このようにいいコンセプトは、素晴らしいビジョンと強いつながりを持つものなのです。

言語化されたビジョンとの強い関連性を持つコンセプトはこれからの時代はとても大切になります。
なぜなら、あらゆるカテゴリーで成熟化が進んでいる日本のようなマーケットでは、コンセプト自体の独自化を作り込むことはとても難しいかもしれませんが、ビジョンとの関連性、整合性の中での独自性を考えることで、まだまだ「新しい」という要素の確保が可能であると考えられるからです。

コンセプトに必要な2つの要素

コンセプトに必要な2つの要素コンセプトとは、「誰に対してどのような価値を提供するのか。」という問いに対する答えであると書きました。
この定義には2つの要素があって、それは「誰に(=ターゲット)」と「何を(=提供価値)」であることは言うまでもありません。

当たり前の話ですが、提供価値はターゲットによっては大きな価値になりますが、反対に何の価値も持たないために自分ゴト化されずにスルーされてしまうターゲットだって存在します。
つまり提供価値はその価値を享受するターゲットを想定して初めて「価値」として定義できるわけです。

したがって、ターゲットを想定しない「提供価値」は価値とはなりえないことが多く、ぼんやりとした解像度の低い抽象的な価値にとどまってしまって、その後のマーケティング・ミックスを具体的に考え出すことができなくなってしまいます。

「誰に(=ターゲット)」と「何を(=提供価値)」の2つを1つのペアで考えることによって、その価値は具体的なモノとしてイメージしやすくなりますし、マーケティング・ミックスへとつなげていきやすくなって、戦略の実現可能性が高まります。

具体的なターゲット顧客がその商品やサービスを認知し、興味を持って自分ゴト化してその商品等に対する態度変容が生じ、最終的に購買に至って、その使用経験等をブログやSNSでシェアし、ますますその商品等を気に入ってファンになってブランドのエバンジェリストとなって布教していく姿がリアリティを以て眼前に現れてくることになります。

コンセプトを考え抜くという作業をすっ飛ばして、いきなりマーケティング・ミックスから考え出す人が多いですが、全くのナンセンスです。
新しさの鎧をまとったコンセプトを考え抜くことで、その後に紡ぎ出す戦略のロジックがありありと浮かび上がってきて、魅力的な戦略のストーリーとして落ちてくることになります。

そういったコンセプト抜きで、「サブスクリプション・サービス」や「カスタマイズ」などの「how」にあたる具体的なマーケティング施策をいきなり思いついても、それはコンセプトなどではなく、したがって、それだけでは骨太な戦略の因果のロジックを策定することは不可能です。

具体的なことはイメージしやすいので、僕たちの脳は安心して取り組むことに好意的ですので、ついつい枝葉の部分にあたる「具体的施策」を考えてコンセプトであると勘違いしやすいのですが、それは「how」の部分であって、ビジネスの根幹となる「who」と「what」にあたるコンセプトなどではないのです。

マーケティング・ミックスについては、以下の記事を参考になさってください。

コンセプトとマーケティングのSTPとの関係

コンセプトとマーケティングのSTPとの関係マーケティング戦略を立案する時には、市場を定義した後に、対象市場を細分化し(S:セグメンテーション)、多くのセグメントの中から標的市場を選定し(T:ターゲティング)、その頭の中に独特の価値を提供する存在として自社ブランド等を位置づける活動(P:ポジショニング)を行うことが必要です。

本稿では、何度となくコンセプトとは、「誰に対してどのような価値を提供するのか。」という問いに対する答えであると書きました。
それはまさに、多くのセグメントの中から標的市場を選定し(T:ターゲティング)、その頭の中に独特の価値を提供する存在として自社ブランド等を位置づける活動(P:ポジショニング)に他なりません。

つまり、事業コンセプト(商品コンセプトやサービス・コンセプトではない)を考えることは、マーケティングのSTPを考えることと同値であるわけです。
このようなことから、マーケティングのSTPを考えることは、事業コンセプトを考えることの裏返しであるので、両者の間を行ったり来たりしながら、各々を組み上げていくことになります。

事業コンセプトをマーケティングのSTPの立案とは切り離して別個独自のものとして論じる実務家が多いですが、そういった実務家の方は、コンセプトの定義を「誰にどんな価値を提供するか」とは捉えていないことが原因だろうと思います。

ビジネスが上手く回るのであれば、言葉の定義など何でもよく、1つの定義に拘泥する必要は全くナンセンスなのですが、本稿で僕が示した定義は、コンセプトの本質を突いた1つの定義として有効であろうと思います。
この定義の立場に立てば、マーケティングのSTP(マーケティング基本戦略)の立案と事業コンセプトは行ったり来たりしつつ策定するべきものなのです。

マーケティング戦略の立て方については、以下の記事を参考になさってください。

マーケティングのSTPについては、以下の記事を参考になさってください。



コンセプトの種類

コンセプトの種類コンセプトはいろいろな言葉とセットになって、「〇〇コンセプト」という形で遣われます。

一番大きなものが「事業コンセプト」と呼ばれるもので、自社の展開する事業そのもののコンセプトを表現するものであり、自社の事業は誰に対して、どんな価値を提供するのかを表します。

その次のレイヤーにくる言葉が、「商品コンセプト」や「サービス・コンセプト」ですあり、自社の事業に中で展開する商品やサービスのコンセプトを表現したものとなります。

商品(サービス)コンセプトは、事業コンセプトに包含される概念ですので、両者の言葉が異なる場合には、その包摂関係を十分に吟味しないといけないことになりますし、包摂関係が認められないような商品(サービス)コンセプトであれば、全く別事業として展開していくことを考えるべきでしょう。

もちろん、事業コンセプトと商品(サービス)コンセプトが同じになるケースだってあり得ます。

その他にも、デザイン・コンセプトやコミュニケーション・コンセプトという遣い方がされることがとても多いと思います。
デザイン・コンセプトといえば、そのデザインが誰にどんな価値を提供しているのかを言語化したものですし、コミュニケーション・コンセプトと言えば、そのコミュニケーションが誰に対してどんな価値を提供しているのかを言語化したものとなります。
デザインやコミュニケーションが「誰に対してどんな価値を提供しているのか」という、「デザインやコミュニケーションに関する一貫した考え方」なのです。

コンセプトの事例

コンセプトの事例ではここではいくつかのコンセプトの秀逸な事例をご紹介することとします。

ヘルシア緑茶

花王は自らが発見した高濃度茶カテキンという成分を使って、お茶というカテゴリーを選定して製造販売したのが「ヘルシア緑茶」です。

ターゲットは「メタボが気になる中高年」であり、その提供価値は「飲むだけで体脂肪を減少させる」でしたので、この商品の商品コンセプトは、「(メタボが気になる中高年が)飲むだけで体脂肪を減少させるお茶」でした。

「お茶」というカテゴリーに初めて特定保健用食品の認定を受けて、「健康茶カテゴリー」というサブ・カテゴリー市場を新たに作り出した非常にイノベーティブな商品だったわけです。

新しいサブ・カテゴリーの誕生を世の中に訴求して認知を取るために大々的にテレビCMが大量に流されましたが、販売チャネルとして、従来のお茶カテゴリーのようにスーパーは選択されませんでした。

ターゲットを「メタボに悩む中高年」と明確にしたことで、会社帰りに買いやすいコンビニを販売チャネルに選び、画期的な商品をたくさん売りたいコンビニの思惑と相俟って、店頭の棚を大きく使うことができた結果、ヘルシア緑茶は発売開始から非常に好調に売上が推移しました。

それまでの通常のメーカー発想だと大量にCMを投下して 大量に販売する飲料のようなマーケットは スーパーなど大量に販売できる販路チャネルを選んで販売しマーケットシェアをとるというのがお決まりですが、商品コンセプトが明確であったことから、ターゲット層にあったコンビニという販売チャネルが選ばれたのでした。

もしも商品コンセプトが異なって、主婦をターゲットにしていたら選ばれた販売チャネルはスーパーだったと思われますが、中高年をターゲットにしたことによって、彼らが毎日買えるコンビニを販路にしことが功を奏し、毎日会社帰りにコンビニで1本のヘルシア緑茶を買うという購買の習慣づけにも役立ったようです。

大勝軒

ラーメンを食べるシーンと言えば、おやつや夜食というのが定番で、その一般的なコンセプトは「小腹のすきを埋める」でしょう。

ところが、この一般的なラーメンのコンセプトを疑って、提供価値とターゲットをひっくり返したのが大勝軒でした。
大勝軒は、ラーメンをおやつや夜食に食べるものという一般的な常識をひっくり返し、食べるシーンをズラして事業(商品)コンセプトを考えました。
そのコンセプトは、「食事としてのラーメン」です。

このような明快なコンセプトの下、マーケティング・ミクスを考えていくと、食事として十分に機能するだけのボリューム、栄養素を満たすラーメンでなくてはなりませんから、3玉はあろうかと思われるくらいの大量の麺を使い、栄養価の高い美味しい煮干しを全国行脚して探し回り、スープの基本として味付けも大いに研究しました。
また、3玉分の大量の麺を残さず食べてもらうためには一般的なラーメンのようにおなかにもたれる油を使用することは避け、おなかにもたれない良質な油を使用していります。

ノルウェーの漁業

日本の漁業従事者の平均年収は約260万円ですが、ノルウェーの漁業従事者の平均年収は約900万円と、日本の3倍以上の年収を実現しており、ノルウェーでは漁業への転職希望者が非常に多いと聞きます。

もともとノルウェーの水産技術は、日本の技術者が派遣されて移植したものなので、日本の水産技術を基礎としています。
にもかかわらず、これほどまでに収益性に違いが出た理由は何でしょうか。

それは、漁業コンセプトの有無だろうと僕は思っています。

日本にはもともと高い水産技術があったにも関わらず、どんな漁業を営んでいくのかというコンセプトが不在でした。
その結果、国際競争力がない水産業が補助金でゾンビのように生きながらえることとなってしまった典型的な衰退産業と化してしまったのです。

一方、ノルウェーの漁業は明快なコンセプトの下、その運営がなされてきたようです。
そのコンセプトとは、「世界で最も安全な養殖魚をお届けする」でした。

魚は天然物が最も安全で美味しいと思われていますが、それは環境汚染のないきれいな天然の海の中で自由に動き回って成長した魚が美味しいからです。

自然の海と同じようにきれいな水と環境が確保されれば、養殖魚だって美味しくなるに決まっていますが、「養殖魚は天然物に比して美味しくない、天然物が一番だ!」という思い込みが強い日本では、このような発想によって、漁業のコンセプトを大きく転換することは無理だったのかもしれません。

ノルウェーの漁業関係者は、そのようなコンセプトを実現するために、徹底的に水質管理と栄養管理をコンピューター制御の生簀の中で行って、様々な菌から魚を守るために通常は摂取させる抗生物質の使用を禁止し、世界で最も安全で安心できる養殖魚のブランドの地位を獲得したのがノルウェーの漁業なのです。

こういった努力の結果、ブランドをまとったノルウェーの養殖魚は世界中から高い価格で取引されることとなり、漁業関係者の収入を飛躍的に高めて、ノルウェーの漁業そのものの持続可能性をも確保したのでした。

以上の事例から理解できることですが、コンセプトの転換を図ることは、ポジショニングの転換を図ることでもあるので、リポジショニングの発想とも密接に絡んでくるものになります。

リ・ポジショニングについては、以下の記事を参考になさってください。

事業再生におけるコンセプトの重要性

事業再生におけるコンセプトの重要性事業再生のフェーズに落ちってしまった企業の多くに対して、コストカットや人員削減、資産売却などの対策を施すだけで、事業再生の仕事をしたと勘違いしている事業再生の専門家はとても多いのが日本の事業再生の現状です。

現代において事業再生のフェーズにいる企業の多くは、そもそも世の中の生活者のニーズと提供している商品やサービスの価値がズレてしまっていることが大きな原因となって売上が減少し収益性の低下に至ってしまっているものが大半です。

勿論その中には、提供価値とニーズのズレは存在していなくて、単に認知の壁を越えられていないだけの企業や、顧客との関係性の構築が下手過ぎて、利益の多くを顧客サイドに移転させられてしまっている企業も中にはあると言えばあるのですが、そういった例外的な事例は極めて少なく、再生のフェーズに落ち込んだ大きな原因は、生活者ニーズと提供価値とのズレであることが大半なのです。

そういった再生フェーズの企業がまず取り組まなくてはならないことは、コストカットでも人員削減でも、資産売却でもなく、提供している商品やサービスの提供価値と世の中の生活者のニーズとのズレの修正であり、それはまさに商品コンセプトやサービス・コンセプトの転換に他なりません。
もっと言えば、事業そのもののコンセプトの転換を図る必要さえあるのです。

商品やサービスの提供価値と世の中の生活者のニーズとのズレは可視化できるものではなく、ずっと事業に従事している経営者やスタッフでは気付いて見抜くことは非常に困難です。

じわじわと売上が落ちてきて、よくよく見ればお客さんがシルバー世代だけだよというようなビジネスを展開している企業は要注意です。
シルバー世代からの評価は非常に高いのだけれども、若い世代からは見向きもされないBtoCビジネスを展開するブランドは、本稿で説明したような事業コンセプトがズレていてその修正が必要なフェーズにいることは間違いないと思います。

そういったビジネスを展開している経営者は、できるだけ早く、コンセプトを熟知して、コンセプト転換を図ることができる事業再生の専門家の視点で客観的にそのズレを見抜いてもらって、あるべきコンセプト転換の方向性をアドバイスしてもらう必要性が非常に高いと言えます。

本気で事業の再生を図りたいのであれば、事業コンセプトから客観的に評価出来て、必要であればコンセプトの転換を実現することができる事業再生の専門家の方を探してできるだけ早くサポートを得ることが肝要です。

事業再生の専門家の選び方については、以下の記事を参考になさってください。

日本の事業再生の問題点については、以下の記事を参考になさってください。

事業再生コンサルティングについては、以下の記事を参考にしてご相談ください。