マーケティング戦略の立て方【行ったり来たりで作りましょう】

マーケティング戦略の立て方は、考えるべきことが多すぎて、何をどのような順番で考えればよいのかがさっぱりわからない。

マーケティング戦略の基本的な立て方があれば教えてほしい。

このような悩みを抱えた学びと実践を重視する経営者の方は多いのではないかと思います。

マーケティングを学ぶ時には、ターゲティングやポジショニングといった各々のテーマで分断されてしまうことが多く、その全体像をつかむのは意外と難しかったりします。

そこで、この記事では、マーケティング戦略策定の全体像をそのポイントとともに説明していきますね。

この記事を読むことで、マーケティング戦略策定の全体像が理解でき、戦略全体が因果の論理でつながりやすくなって、効果の高いマーケティング戦略を立てることができるようになります。
そして、その結果、策定される戦略の筋の良さが担保され、実現可能性が高まることになります。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生に20年以上取組んで、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

事業再構築補助金に採択される方法については、下記の記事を参考にされてください。

マーケティング戦略とは何か?

マーケティング戦略とは何か?マーケティング戦略とは、「誰に」、「どんな価値を」、「どのように提供するか」を決めることをいいます。

マーケティングの基本的な機能は、社会に存在する様々なニーズを見つけ出して、そのニーズを解決する価値を提供することですが、そのニーズは一様ではなく生活者ごとに微妙に異なっています。

そこで、ほぼ同じようなニーズを持つ生活者を切り取ってターゲットとし、そのターゲットのニーズを満たすように自社独自の価値を提供することになりますが、その価値を求めているターゲットに最終的に買ってもらえるように、どのように価値を提供するのかを具体的に決めることになります。

マーケティング戦略の重要性

マーケティング戦略の重要性マーケティング戦略とは、「誰に」、「どんな価値を」、「どのように提供するか」を決めることであると、先ほど書きましたが、これらの要素を決定することで、自社の経営資源を有効に活用することが可能になります。

マーケティング戦略を立案することなく、なんとなくの直感やこれまでの経験に基づいて具体策をいきなり実施してしまうと、自社の経営資源が有効活用できなかったり、不足する経営資源に気付いていなかったりすることで、時間を無為に過ごしたり、機会損失を被ったりする確率が極めて高くなります。

また、マーケティング戦略を立案するプロセスで、様々な視点で環境、市場、顧客、自社を俯瞰することになりますので、これまで気づいていなかったビジネス上のチャンスを見つけ出す良い機会にもなりえます。

さらに、上席者や役員会へのビジネスの施策を説明を求められた場合には、立案したマーケティング戦略に沿ってロジカルに説明することが可能となって、承認を得やすくなるとともに、戦略策定者の評価も上がることは間違いないでしょう。

マーケティング戦略の立て方

マーケティング戦略の立て方マーケティング戦略の立案プロセスでは、基本的に下記のようなステップを踏むことが求められます。

つまり、マーケティング戦略を立案する際には、R(Research)→STP分析→M/M(マーケティング・ミックス)という順番で思考することを求められるのです。

マーケティング戦略の全体像
R(Research)のフェーズでは、環境分析を行いますが、外部環境と内部環境に分けて分析を行うほうが、検討するべき情報の抜けや漏れが少なくて済むと思います。

STP分析のフェーズでは、セグメンテーション(市場の細分化)→ターゲティング(特定市場の標的化)→ペルソナ設定→生活者インサイトの把握→ポジショニングという順で思考を進めていくことになります。

そして、最後に、ターゲットに対して自社独自の提供価値をどのように具体的に提供していくのかを決定するために、M/M(マーケティング・ミックス:4Pなど)を検討することになります。

また、マーケティング戦略の立案プロセスはここで終了するわけではなく、決定された具体的施策を実行するフェーズ(I:Implementation:実行)、さらには、その結果を管理しフィードバックすることでPDCAを回すフェーズ(C:Control:管理)をも含むことになります。

マーケティング戦略の策定においては、各々のフェーズでビジネス・フレームワークと呼ばれる思考の枠組みを使います。

マーケティング戦略の立案のプロセスで、すべての情報を思考対象としていたのでは、どれだけ時間があっても足りませんので、思考対象とするべき情報をMECEに限定してくれるフレームワークを使うことで、時間を有効に活用してマーケティング戦略の策定を行うことが可能となるのですね。

では、マーケティング戦略の立案プロセスを順番に見ていきましょう。

環境分析

最終的に、「誰に」、「どんな価値を」、「どのように提供するか」を決めることをマーケティング戦略と呼ぶことは先に書いた通りですが、こういった要素を具体的に決定する前に、まずは、自社が置かれている環境を分析することが必要になります。

なぜならば、最終的に提供することになる自社独自の価値は、それが提供される環境や文脈の影響を大きく受けるからです。

環境分析は外部環境(マクロ環境とも呼びます)と内部環境(ミクロ環境とも呼びます)に分けて分析します。

外部環境は一般的に自社のコントロールが効かないものであり、内部環境は自社のコントロールが比較的効くところであるので、両者を分けて分析するのが望ましいと言えるのです。

外部環境(マクロ環境)分析

マーケティング戦略におけるPEST分析外部環境分析には、PEST分析を用いることが一般的です。

PEST分析は、フィリップ・コトラー先生が考案した外部環境を分析するフレームワークで、P(Politics:政治的要因)、E(Economics:経済的要因)、S(Social:社会的要因)、T(Technology:技術的要因)の4つの視点から外部環境の変化を捉えて、その影響が自社のマーケティング戦略に与える影響を把握するものです。

PEST分析によって外部環境を分析する目的は、市場機会とその課題の発見にあります。

つまり、自社を取り巻く経営環境はどういった方向へ変化をしようとしているのかを把握して、その先に存在する生活者の潜在ニーズを先読みし、市場を創造する機会を認識すること、およびその実現のための課題を発見することです。

PEST分析の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

内部環境(ミクロ環境)分析

マーケティング戦略における内部環境分析PEST分析で外部環境分析が終わったら、次に内部環境分析を実施します。

内部環境分析は、顧客・市場、競合、自社の分析を行うフェーズになりますが、これら3者の関係性を分析する3C分析、自社の経営資源を分析するVRIO分析、自社と競合が属する業界を分析する5フォース分析を用いることになります。

3C分析は、前マッキンゼー日本支社長で、現在はブレイクスルー大学院の学長である大前研一氏が提唱したフレームワークで、内部環境を顧客・市場、競合、自社の3つの視点から分析を行って、各々の関係性の分析から、市場機会とその課題の発見することを目的にしています。

3C分析は、まずは顧客・市場の分析から開始します。
なぜならば、市場の定義を行わないことには、競合が定まらないために競合分析を実施することができないからです。
市場を定義することは、競合を定義することでもあるのです。

そして、3C分析は、顧客市場分析→競合分析→自社分析の順に実施していきます。

市場の定義については、下記の記事を参考になさってください。

3C分析の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

VRIO分析は、オハイオ州立大学の教授であるJ・バーニー氏が提唱したフレームワークで、自社の保有する経営資源を4つの問いの視点から、自社の強みと弱みを把握して、市場機会とその課題の発見を目的とするフレームワークです。

経営資源を分析することで、自社の競争優位性におけるポジションが理解でき、経営資源の希少性と模倣困難性の獲得に向けた具体的な活動を開始する良い機会になえりえます。

VRIO分析の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

5フォース分析は、ハーバード大学教授のM・ポーターが提唱したフレームワークで、自社の属する業界の収益性と競合の状況を分析することで、市場機会とその課題の発見を目的とするフレームワークになります。

自社の属する業界自体の収益性が高ければ、戦略などなくても十分に利益を獲得することは可能ですが、業界自体の収益性は低い場合には、戦略の重要性は非常に高くなります。

5フォース分析の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

マーケティング戦略におけるSWOT分析これら以外に、SWOT分析という有名なフレームワークがありますが、私は、役に立たないフレームワークの典型例だと思っています。

環境分析で把握した強みと弱み、機会と脅威をまとめるための一覧表として利用するにはいいかもしれませんが、ここまでで紹介したフレームワークによる詳細な分析もなしに、いきなりSWOT分析で考えだすのは、大きな問題を孕んでいると考えます。

SWOT分析の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

STP分析

このフェーズでは、セグメンテーション(市場の細分化)→ターゲティング(特定市場の標的化)→ペルソナ設定→消費者インサイトの把握→ポジショニングという順でマーケティング基本戦略を定めていくことになります。

市場の定義によって、対象市場を決定したら、セグメンテーションによって市場を細分化します。

対象市場を細分化する時の切り口となる軸には、人口動態(デモグラフィック)変数、地理的(ジオグラフィック)変数、心理的(サイコグラフィック)変数、行動(ビヘイビア)変数があります。
ここでの切り口の筋の良さが後々のマーケティング戦略に大きく影響してきますので、慎重に切り口となる軸を選ぶ必要があります。

セグメンテーション(市場の細分化)の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

何らかの切り口となる軸で市場を細分化したら、次はその中の特定のセグメントを標的にして、そのセグメントに含まれる生活者のニーズにターゲティングします。

セグメンテーションによって複数のセグメントに市場を細分化していますが、そのうちのどのセグメントにターゲティングを行うかの選択は、マーケティング戦略の大きな要素である「誰に」を決定することに他なりません。

ターゲティング(特定セグメントの標的化)の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

ニーズとウォンツの詳細については、下記の記事を参考になさってください。

ターゲティングによって標的市場が定まったということは、マーケティング戦略の大きな要素である「誰に」が決まったことになります。

しかしながら、この「誰に」は、セグメンテーションで使った切り口で表現される極めて抽象的なターゲットであって、ターゲット像の解像度は極めて低いものであり、マーケティング戦略を具体的に決めるには漠然とし過ぎています。

そこで、抽象的なターゲット像の解像度を上げて、イメージしやすいように具体的なターゲット像を描く必要がありますが、これをペルソナと呼びます。

ペルソナ設定の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

ペルソナの設定が終わったら、ターゲットを代表するペルソナのインサイトを把握する必要があります。

人間には、合理的に論理に従って行動する側面と、非合理的に直感や感情で行動する側面とがありますが、人間の多くの行動は無意識の世界に支配された非合理的な意思決定によるものとされています。

したがって、生活者が自分自身では気付いていない、言語化できていない深層心理を突かれたり、経験したことのない新たな視点の提示を受けた時には、「そうそう、それが欲しかったんだよ!」となってこれまでの習慣を変えたり、行動をも変化させることがとても多いのです。

人間の行動を支配しているものが、自分でも気付いていない深層心理であるならば、その深層心理を突くような価値提案(バリュー・プロポジション)をすることがマーケティングの本質になります。

消費者インサイトの把握の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

ターゲットのインサイトを把握したならば、そのインサイトを突くような価値提案(バリュー・プロポジション)を行って最終的にターゲットの商品やサービスに対する態度変容を生じさせ、行動変容をまで導くことが必要になります。

そして、インサイトに対する価値提案(バリュー・プロポジション)が、そのカテゴリーにおける商品やサービスの購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)から作成されるポジショニング・マップにおける自社のポジショニングから生活者の頭の中にイメージされる独自の提供価値にシンクロする必要があります。

ポジショニングの詳細については、下記の記事を参考になさってください。

ところが、生活者インサイトに対する価値提案(バリュー・プロポジション)と、購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)から作成されるポジショニング・マップにおけるポジショニングから連想される提供価値がシンクロしない場合には、生活者インサイトを見直すか、購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)そのものの転換を図ることも考える必要があります。

そのような場合には、新たな購買決定要因(KBF:Key Buying Factor)を作り出して、世の中に認知させ、リポジショニングを行う必要も出てきます。
リポジショニングを行うための新たな購買軸の認知と市場への浸透には、戦略的PRなどが有効な手段になります。

リポジショニングの詳細については、下記の記事を参考になさってください。

リポジショニングと関連が深いコンセプトについては、下記の記事を参考になさってください。

マーケティング・ミックス(M/M)

これまで見てきたようなプロセスを経て、マーケティング基本戦略であるSTPが決定されることになり、「誰に」、「どんな価値」を提供するかが決まったことになります。
そして、次のマーケティング・ミックス(M/M)のフェーズでは、その提供価値を「どのように」提供するかを具体的に決定していくことになります。

マーケティング・ミックス(M/M)のフレームワークには多くのものが提唱されていますが、もっとも広く使われているものがマーケティングの4Pと呼ばれているものであり、製品(Product)、価格(Price)、流通(Place)、販売促進(Promotion)という4つの要素の頭文字を取って、4Pと呼ばれているものです。

この4つの要素が具体的に決まることによって、ポジショニングが与える提供価値を「どのように」提供するかが具体的に決まることになるのです。

マーケティング・ミックス(M/M)の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

マーケティング戦略の策定上の注意点

マーケティング戦略の策定上の注意点マーケティング戦略は、教科書的には上記の図を左から右へ流れていくように策定されていくものと説明がなされますが、現実的には、左から右へと各々のフェーズが確定されながら決まっていくようなことは決してありません。

基本的に左から右へと決まっていくものと考えてよいのですが、行ったり来たりしながら各々のフェーズを調整しながら各々の要素の全体のバランスを取りながら、最終的に全体が一気に完成するようなイメージを持ったほうが良いと思います。

いかにいくつかの例を挙げておきましょう。

まず、マクロ環境分析(PEST分析)をするに際しては、事前にどのような経営資源が蓄積されているかを知っていないと、何がより強い機会となりうるのか、何が脅威となりうるのかを適切に評価できないので、PEST分析を適切に実施するためには、事前にVRIO分析を終了しておく必要があります。

ところが、VRIO分析で、自社の保有する経営資源を適切に評価するためには、外部環境がどのように変化をしているかを事前に把握しておかないと、経営資源の価値性の判断さえ適切に実施できなくなってしまいます。

このように、PEST分析とVRIO分析は相互依存関係にあって、行ったり来たりしつつ分析を進める必要があるのです。

次に、3C分析の冒頭で、市場の定義を行うが、市場の定義は、あとのフェーズであるSTP分析の中の、S(セグメンテーション)とT(ターゲティング)をある程度念頭に入れながら行うことが実務的であろうと思います。

また、市場の定義は、上記の戦略策定の図では割愛していますが、「Vision設定」からのバックキャスティングによる事業コンセプトとの整合性の検討も必要なので、市場の定義が単独で決定されるわけではなく、ここでもほかの要素とのバランスの中で決定されると考えるべきなのです。

さらに、S(セグメンテーション)→T(ターゲティング)→P(ポジショニング)の順番で戦略策定を進めることとされていますが、この順番で各々の要素が決まることなどなく、ポジショニングによる提供価値がもっとも刺さるようなセグメントを念頭に置いて、セグメンテーションの切り口となる軸を探すのが実情でしょう。

したがって、ここでもこれらの要素がバランスを取りながら決定されていくと考えるべきなのです。

以上のような例示を見てもわかるように、教科書的には、マーケティング戦略の策定は上図の左から右へと進めることとされていますが、現実的には、そのような決め方は全く無理なのです。
各々のフェーズが、別のフェーズと相互依存関係にあって、バランスを保ちながら、ようやく意味を持つことができるからなのです。

各フェーズ間を「行ったり来たり」しながら、最終的に「強い因果のロジック=戦略」でつながったマーケティング戦略の全体像が一気に出来上がるというようなイメージを持ったほうがいいでしょう。

事業再生におけるマーケティング戦略

事業再生におけるマーケティング戦略事業再生のフェーズに陥ってしまった企業に共通することは、社内にマーケティング思考なるものが存在しないこと、言い換えればマーケティング戦略などのロジカルに考え抜いた企てなどというものが存在しないということです。

再生のフェーズに落ち込んでしまったことを嘆いてばかりでも仕方がないので、これを自社がジャンプ・アップするための良い契機と捉えて、マーケティング戦略をロジックの通った企てとして立案して、KPI管理によってPDCAを素早く回していく作法を社内に根付かせることに心血を注ぎましょう。

そのような社内改革のためには、マーケティングに精通した外部の専門家としての事業再生のスペシャリストの存在は非常に大きいわけで、再生企業のこれまでの社内の組織文化にはなかったマーケティング思考を経営の礎として作り上げるための、良き相談相手として利用するべきでしょう。

市場が極端に成熟化し、生活者から見ればどうでもいいような差別化に奔走する企業が多い現代において、生活者にとって意味のある存在となるためには、商品やサービスの表面的なカテゴリーの意味を超越して、生活者の深層心理に潜むインサイトを新しい視点で刺激し、独自のポジショニングを作り上げることが真に求められています。

これまでに事業再生のような単なる財務の再生や、コストカットを伴う短期的な縮小均衡を伴う赤字脱却策などでは、到底太刀打ちできない時代になっています。

これからの時代の事業再生には、マーケティング思考を基礎として、骨太なインサイトに基づいたマーケティング戦略を構築できることが必須なのですから、そのような相談をこなせる事業再生の専門家を選ぶことがとても大切です。

中小企業が事業再生を成功させるポイントについては、下記の記事を参考になさってください。

破綻懸念先のランクアップ方法については、下記の記事を参考になさってください。

事業再生を相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。