市場の定義とは何か?【新たな提供価値を見つけるチャンス!】

戦略を考える前には市場の定義を考える必要があるらしいのだが、市場の定義とはいったい何を決めることなのだろう。

市場の定義ができないと戦略が策定できないことになるから、誰かわかりやすく教えてほしい。

このようなお悩みをお持ちの、学びと実践を大切にする経営者の方はとても多いように思われます。

この記事を読むことで、マーケティング戦略を考える際に、市場の定義を行うことの重要性が理解できるとともに、実際に役立つ戦略の策定が行える確率が高まることになります。

本記事は中堅・中小企業の事業再生に取り組んで20年以上、200社超の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生へと導いてきた、企業再生のプロフェッショナルである公認会計士が書きました。

市場の定義とは何か?

市場の定義とは何か?市場を定義するということは、自社の顧客を定義することに他なりません。

市場という言葉には、大阪の黒門市場や京都の錦市場のように目に見える物理的に存在も含まれますが、マーケティング的には、市場は、取引の対象となっている製品・サービスの種類や、取引の主体となっている顧客の属性などによって定義されることになります。

マーケティング戦略における市場の定義市場を定義するということは、多くの市場を捨て去ってその中の限定的な市場を選ぶということになりますから、その選択の仕方によっては、収益性の低い市場を選択してしまうこともあるわけなので、市場の定義はSTP戦略に入る前の、自社の事業の命運を握る大きな選択になるわけです。

市場には、顧客以外に多くの競合ブランドも参加していて、そこでは必然的に競争が生じていますから、市場を定義するということは、おのずから競合ブランドの選定を行うことと同義になります。

競合ブランドには、すでに市場に参加している競合もあれば、これから市場に参加してくる可能性のある潜在的な競合もあります。
そして、市場には競合ブランドとの間に市場シェアが存在し、その市場のセグメントの仕方や差別化の方法によって、棲み分けが存在しています。

市場をどのように定義するかによって、競合ブランドそのものが変化するだけでなく、その定義した市場における競合ブランドと市場シェアも変化することになります。

PEST分析については、下記の記事を参考になさってください。

5フォース分析については、下記の記事を参考になさってください。

市場の定義の必要性

市場の定義の必要性市場は、市場ごとに、または市場を構成するセグメントごとに、その成長性や収益性が異なっているものです。

そして、企業自体の成長性や収益性は、自社が定義して関与している市場の成長性や収益性の影響を大きく受けるとこになります。
当たり前のことですが、成長性が高く、収益性も高いような市場を選択することが、ビジネスに取り組む者からすれば、極めて重要であることは疑う余地がありません。

清涼飲料水の市場規模の推移のグラフ上のグラフは、清涼飲料市場の生産量の推移を表したものですが、生産量はほぼ販売量と同じであると考えれば、市場の消費量の推移のデータと読み替えても問題ありません。

2000年以降一貫して消費量が伸びているのが、ミネラルウォーターであり、炭酸飲料や緑茶飲料なども成長市場であると言えます。
反対に、果汁飲料やスポーツ飲料は消費量自体が減少していて衰退市場であることが読み取れます。

このように清涼飲料水のカテゴリー全体では成長しているものの、飲料種類ごとの市場の成長性には大きな差があり、どの種類の飲料市場を選択するかでその後の収益性に大きな差異が出てくることは理解できるでしょう。

もちろん、炭酸飲料水自体は大きな成長を示していますが、さらに詳細にセグメンテーションすると、エナジードリンク等が大きな伸びを示している一方で、果汁無添加の炭酸砂糖水系の飲料の消費量は減少していたりしますので、さらにセグメンテーションを実施する必要があることは言うまでもありません。

このように、自社がビジネスを展開する市場の選択自体が、その後の自社の収益性に大きな影響を与えることになることから、市場をいかに定義するかは極めて重要であるということができるのです。

また、企業の有する経営資源は限られたものであり、その経営資源を効果的・効率的に使って利益を上げるためには、すべての市場を相手に事業を展開するべきではなく、市場を限定する他ないことも、市場を定義する理由になるものです。

市場の定義の方法

市場の定義の方法市場は、市場を構成している取引の相対ですので、その取引の持つ様々な要素で定義することが可能です。
取引を特徴づける要素は種々ありますが、その中で最も重要なものが顧客と提供価値になります。

顧客による市場の定義では、顧客の持つ様々な属性や嗜好によって市場を定義することになります。

男性市場、女性市場でれば、性別という属性を用いて市場を定義していますし、子供市場、若者市場、シニア市場などは年齢という属性を用いて市場を定義していることになります。

提供価値による市場の定義では、自社が販売する製品・サービスの種類によって市場を定義します。
産業分類などは、製品・サービスという切り口を用いた提供価値による市場の定義に他ならず、自動車市場、家電市場、旅行市場、ゲーム市場等々、様々に区分されています。

なお、提供価値による定義は、商品の外形的な区分や、サービスの従来からのカテゴリー分類による区分をもとに定義づけるのが一般的ですが、この発想はあくまでも提供側の視点によるものであって、顧客の視点に立てば、外形的には全く違うものであるものの、提供価値としては同じということが往々にしてあるので、こういったこれまでにない新しい定義をすることができれば新市場を開拓することにもつながることには注意が必要です。

たとえば、ハワイ旅行と高級レストランでの食事は従来のカテゴリーからすれば全く違うものですが、各々の提供価値が「家族との楽しい思い出作り」であるとすれば、これら2つは提供価値が同じであることから、同一市場の中で競合する関係になるということになります。

このようなことから、提供価値による市場の定義、もしくは再定義は、商品やサービスの新しい価値を見つけ出す良い機会になることには念頭に置いておくべきでしょう。

さて、市場の定義の方法は、顧客や提供価値に留まるものではなく、その他にも、地域、用途、使用場面、取引場面なども市場の定義に用いることができます。

まず、地域とは、北米市場、中国市場、アジア市場、ベトナム市場、国内に限定すれば、北海道市場、関西圏市場など国や地域で市場を定義することになります。
世界的な地域別の市場の定義では、経済の発展段階、通貨、文化等々が大きく異なるために、地域を区切って市場を定義することには大きな意味があります。

次に、用途とは、何のために製品やサービスを購入するのかという、製品やサービスの使いみちのことを言います。
特に素材ビジネスでは、用途が極めて重要な役割を果たし、用途の開発は新市場の開拓を意味します。
お歳暮市場や、採掘現場用トラック市場、プラント用ポンプ市場など、用途で市場を定義することができるのです。

最後に、使用場面や取引場面とは、例えばコーヒー市場を、家庭消費市場、オフィス消費市場、屋外消費市場などと消費場面で定義することをいいます。
グリコは、菓子の消費市場のうちオフィス消費市場が、市場全体の約2割もあることを発見し、オフィスグリコという事業を開始しました。

以上のように、市場を定義する切り口には、顧客(who)、提供価値(what)、地域(where)、用途(why)、使用場面・取引場面(when)の5Wがあることになります。

市場の定義の事例

市場の定義の事例たとえば、公認会計士である私が、オンライン上で簿記を教えるビジネスを始めるとしましょう。
この時に、私はこのビジネスが対象とする市場を定義しなくてはなりません。
そこで、以下のような図を描いてみました。

市場の定義の事例の図

市場を定義する切り口は様々なものがあると先ほど説明しましたが、ここでは、提供価値を切り口にして市場を定義してみましょう。

提供価値を切り口にして、最終的に誰にお客様になってもらうかを考えないといけないわけですが、自社の対象とする市場を定義するもっとも簡単な方法は、実は、どの提供価値(または、どの提供価値を求めている人)が競合かを考えればいいのです。

そして、どこまでが競合相手で、どこからは競合相手ではないと考えて、ここまでがお客さんで、ここからはお客さんではないのか考えるのが、市場に境界線を引くこと、つまりは市場の定義になるのです。

先ほど描いた図で言えば、「オンライン上の簿記教室(自社)」の直接の競合先は、同じ「オンライン上の他の簿記教室」です。
これが一般的に思いつく市場の定義でしょう。

このように市場を定義すれば、オンライン上で簿記を教えてほしい顧客に市場を限定することになり、図で言えば、内側から2つ目の楕円で市場の境界線を引いたことになります。
そして、その後に続く3C分析などで実施する競合分析は、同じオンライン上で簿記教室を展開している競合ブランドだけを調べ上げて、その後のSTP分析へとつなげていけばよいことになります。

一方、現在リアルの簿記教室を提供しているビジネスまでを競合先と捉えた場合には、つまり図中の内側から3つ目の楕円で市場の境界線を引いた場合には、競合先はオンラインで展開する簿記教室だけではなく、リアルに展開する簿記教室も含むことになります。
このように市場を定義すれば、その後に続く3C分析で実施する競合分析には、オンライン上の簿記教室だけでなく、リアルの簿記教室も含まれることになります。

この市場の定義の方法は、リアルの簿記教室の提供している価値をオンライン上に取り込もうとするものであり、リアルの簿記教室を選好する顧客の感じている価値を、オンライン上の簿記教室で提供しようとする試みであり、新しいオンラインの簿記教室の市場を作ることにつながる可能性を秘めていることになります。

さらに、外形的に考えればオンライン上の簿記教室は、まさに簿記という技術や知識を身に着けるという価値を提供しているわけですが、この価値を提喩というレトリックを使って抽象化してみると、簿記を学ぶことは単に簿記という知識や技術を身に着けることでなく、キャリアアップにつながるという価値も持っていることになります。

図で言えば内側から4つ目の楕円で市場の境界線を引くことになりますが、こうなると競合は簿記教室だけではなく、キャリアアップという価値を提供する社会人向けの講座すべてを含むことになります。

さらに、抽象化すると、簿記を学ぶことで得られる価値が自己啓発であると考えれば、ビジネスの書籍を読むことも提供価値という観点からは競合となりえるわけです。

このように、提供価値を切り口にして市場の定義を行うと、提供価値の抽象化によって市場はどんどん広がって市場規模が大きくなっていくわけですが、あまりに広げすぎると自社の提供するサービスコンセプトが凡庸化するというアンビバレントな状況に陥ります。
多くの生活者に価値があると思ってもらえるコンセプトは、結局誰にも刺さらなくなるというジレンマです。

したがって、提供価値によって市場の定義を行う場合には、市場の境界線をどこにひくのかは、コンセプトのとんがり度と市場規模との双方から決定する必要があることになります。

市場の定義する際に考慮するべきポイント

市場の定義する際に考慮するべきポイント市場を定義するにあたっては、以下のポイントを考慮する必要があります。
ここで記載するポイントは、3C分析で検討する内容になります。

市場の定義を行ってから3C分析を行うという時系列が必ずしも当てはまるわけではなく、実際の実務では、複数の分析フレームワークをいったり来たりしつつ、同時並行的に進めるのが通常です。

3C分析については、下記の記事を参考になさってください。

市場規模

市場規模は自社がその市場でどれだけの売上を見込めるのかを検討して、収益性を測る基礎なとなる重要な指標になります。

市場規模についての統計調査などのデータがあれば、それを使うことで簡単に把握できますが、データが存在しない場合も多いので、競合も含めたすべての主要事業者の売上を合計して、主要事業者の全体に占める割合を推定して全体の市場規模を求めるのが一般的な方法になります。

市場規模が大きいほうが一般的には魅力的に映りますが、参入している競合数も当然に多くなりますので、市場規模だけで判断することは危険です。

市場の成長性

市場規模が小さくても、市場の成長性が高ければ魅力的な市場であるということができます。
過去からどのように市場規模が成長してきたかのトレンドを確認しておくことはとても重要です。

市場の収益性

市場の収益性を見るために、まずは価格レベルの調査を実施します。
価格レベルの調査には公開されたデータがあることもあれば、独自調査でインタビュー等に依拠せざるを得ないこともあることと思います。

一方、コスト構造については、自社でその製品を提供した場合の原価を見積もることで、市場の収益性を把握することができることになります。
競合企業が上場しているような場合には、有価証券報告書のセグメント情報等から情報が取れる場合もあります。

競合の状況

市場に参加している競合のうち、主要なプレーヤーについては調査をする必要があります。
主要プレーヤーはどういった企業で、どのような経営資源を持ち、どのような強みと弱みを持つのか、顧客から選ばれている理由などが調査項目となります。

競合に関する情報は限定的ですが、公開企業であれば、有価証券報告書やIR資料、非公開企業であれば、信用調査情報、顧客へのインタビュー、日経テレコン21などの記事から情報を得ることに努めましょう。
こういった競合の情報から、自社が獲得できる市場シェアの予測などの精度も上げることができると思われます。

顧客ニーズ

対象市場のセグメントごとの顧客ニーズも調査することが必要になります。
この情報はその後のSTP分析の際に必要になります。

この調査によって、自社ブランドの提供価値や、その差別性との適合性を見る上でとても重要になります。
特に、競合ブランドが提供できていない未充足にニーズが存在する場合には、自社のポジショニングの独自性が確保できる可能性が高まります。

自社の経営資源との親和性

選択した市場における顧客ニーズに対応するためには、自社の経営資源が生かせるかどうかという視点も非常に重要になります。

市場規模も大きく、成長性も高く、競合ブランドが少ないという、一見魅力的な市場であっても、自社の経営資源ではその顧客ニーズに対応できないのであれば、選択することは難しくなります。

自社の経営資源の分析については、下記の記事を参考にされてください。

市場の定義をする時の注意点

市場の定義をする時の注意点

顧客、提供価値以外の切り口

市場を定義する際の切り口として、顧客等の切り口があることを説明しましたが、このうち顧客と提供価値という切り口での市場については、政府の統計や各種の業界団体の統計など、有償・無償で誰でも入手できる公開情報の形で整備されていることが多いと思います。

こういった公開情報は、他の競合ブランドも入手しているはずなので、その情報から今後伸びることが客観的に推測できる市場には、多くの競合ブランドが殺到しますから、市場としての魅力度は大きく低下することになります。

一方、それら以外に用途や使用場面などに関する公開情報は乏しいので、自社独自の調査によって新たな切り口で有望市場を発掘できる可能性は、どのカテゴリーの士製品やサービスにも、まだまだ残されていると言えます。
したがって、競合も使っていないような今までにない新しい切り口で市場を定義して、調査を行い、高成長・高収益な市場の発見にトライするべきでしょう。

提供価値による切り口

先にも書きましたが、我々は商品の外形的な区分や、サービスの従来からのカテゴリー分類による区分をもとに、市場の定義を行ってしまいがちですが、これはサプライヤーズ・ロジックに他ならず、顧客からすれば、外形的には全く違うものであるものの、提供価値としては同じということが往々にしてあるので、バイアスのかかった視点での提供価値による市場の定義には注意をする必要があります。

また、先ほどの事例で書いたように、提供価値の抽象化による市場の拡大は、とんがったコンセプトを維持と逆行することが多いので、このバランスを考えつつ、市場の定義を行うという視点も大切になります。

情報の不完全性

市場を定義するために必要な情報が完全に揃うことなどは絶対にありえないわけなので、不十分な情報の中で市場の定義を行って、自社が戦う土俵を決定することが求められます。

また、公開されている情報は競合ブランドも入手しているはずなので、その情報をもとに論理的に考えれば誰もが同じ市場を選択することになってしまいます。

したがって、得られた情報から未来の市場をどのように予測するかなどの洞察力の差が、戦略策定に大きな差異をもたらすことになります。
得られた情報を画一的に見るのではなく、視点を複層的にもって独自の解釈ができるようになることはとても大切になります。

市場の定義とビジョンとの関係

市場の定義とビジョンとの関係ここまでは、市場の定義はそれ単独で決定できるものとして説明してきましたが、実は、市場の定義に制約を課すものが存在します。
それは、ビジョンであり、ビジョンとは「作りたい世界」のことであり、解像度の高い言葉で表現したものになります。

ビジョンとは、自社が行うビジネスを通じてどのような世界を作りたいかを表す言葉なのですが、ビジョンを言語化した後で、その実現したい未来からバックキャスティングで、決定するべきものの1つが市場の定義になります。

「簿記のスキルで誰もがビジネス力を持つ世界」を作りたいというビジョンを持つのであれば、先ほど例示した市場の図もまた違ったものとなってくることになり、たとえば、小学生に対して無料で簿記の手ほどきを実施することも市場の定義として必要になってくるかもしれません。
最終的に4Pとしてのプロダクト(カリキュラム)自体も変わることになるでしょう。

このように、市場を定義することは、作りたい未来と大きく関係することになりますので、この関係も意識して市場を定義することは実はとても重要なのです。

事業再生における市場の定義

事業再生における市場の定義中堅・中小企業の事業再生に長きに渡って取り組んでいると、その経営者のすべてが、自社の市場の定義など全く行っていないことに気が付きます。

市場を定義するということは、顧客を定義することに他ならず、それは自社の製品やサービスの提供価値を定義していることに他なりませんが、市場を定義していないということは、顧客を視ていないということになりますし、自社の製品やサービスの提供価値=コンセプトを言語化していないということにな通じます。

市場を定義して、顧客を言語化し、提供価値=コンセプトを言語化することで、思考が極めてクリアになって、ロジカルに物事の判断ができるようになります。
繰り出す打ち手の理由も明確になりますから、打ち手がうまくいかなかった時の原因の探索も効率的になります。
このように、市場を定義するということの効用は、思いの他高いのです。

コンセプトについては、下記の記事を参考にされてください。

「うちは中小企業だから、そんなことやる必要ないんだよ。」と、ビジネスが小さいことを逃げ口上に使わずに、ビジネスが小さいからこそ、当たり前のことをしっかりとやることが、ビジネス上の飛躍につながるのだと思います。
教科書通りにやることの大切さを、中小企業の経営者の方々に伝えていけたらよいなと思います。

中小企業が事業再生を成功させるポイントについては、下記の記事を参考にされてください。

事業再生におけるマーケティングの必要性については、下記の記事を参考にされてください。

事業再生を相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考にされてください。