債権分類と債務者区分の関係【担保と保証での保全が効いています】

債権分類と債務者区分の関係ってどうなっているのだろう?

債務者区分がどれだけ低くても、信用保証協会の保証でカバーされている部分は回収が確実だから、引当を取る必要はないのではないのだろうか。
同様に、不動産担保等でカバーされている部分の回収も確実だから、引当を取る必要がないのではないだろうか。
そうなると、非保全部分にのみ引当を積む必要があるのだけれども、債務者区分や債権分類によって引当率も変わるのだろうが、このあたりの金融検査マニュアルの考え方を詳しく知りたい。

この記事を読むことで、金融検査マニュアルが、債権分類を債務者区分等に基づいて、どのように実施しているのかがよく理解できます。

本記事は20年以上に渡って中堅・中小企業の事業再生に関わり、200件以上の事業再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

金融検査マニュアルにおける6つの債務者区分

金融検査マニュアルにおける6つの債務者区分債権分類の話をする前に、その前提となる債務者区分を簡潔にまとめておきましょう。
金融検査マニュアルは、債務者を基本的に5つに区分することを求めており、さらに要注意先は、要管理先とその他の要注意先に区分することを求めていますので、実質的には債務者を6つに区分することになります。

以下の債務者区分の定義は金融検査マニュアル上の定義になります。

債務者区分 定義
正常先 正常先とは、業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段 の問題がないと認められる債務者をいう。

 

要注意先 要注意先とは、金利減免・棚上げを行っているなど貸出条 件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実 上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業 況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある 債務者など今後の管理に注意を要する債務者をいう。 また、要注意先となる債務者については、要管理先である 債務者とそれ以外の債務者とを分けて管理することが望ましい
破綻懸念先 破綻懸念先とは、現状、経営破綻の状況にはないが、経営 難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、 今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(金 融機関等の支援継続中の債務者を含む)をいう。 具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過 の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態 にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念が あり、従って損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営 破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。
実質破綻先 実質破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実は発生しないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいう。具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能 力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しが ない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期 間延滞している債務者などをいう。
破綻先 破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、 民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破 綻に陥っている債務者をいう。

債務者区分の基本的な考え方につては下記の記事を参考になさってください。

6つの債務者区分についての詳細は下記の記事を参考になさってください。

この債務者区分を出発点として、各々の債務者に対する貸出債権をそのリスクに応じて分類することを債権分類といい、分類された債権に対して貸倒引当金の設定を実施して、貸出債権の評価を行うという流れになります。

債権分類を終えて、債務者区分と分類債権に対して貸出引当金を設定することになりますが、貸倒引当金の設定については別稿によるものとして、本記事では債権分類について説明するものとします。

債権分類の概要

債権分類の概要この債務者区分を前提として、債権分類を行っていくわけですが、貸出金に付帯する担保や保証などの保全状況を考慮した上で、貸出債権を個別に回収の危険性などに従って、債権分類していくことになります。通常は、下記に記載のようにⅠ分類からⅣ分類の4つのランクに分類されます。

資産査定において、Ⅱ、Ⅲ及びⅣ分類に区分することを「分類」といい、Ⅱ、Ⅲ及びⅣ分類とした資産を「分類資産」という。
また、Ⅱ、Ⅲ及びⅣ分類としないことを「非分類」といい、分類資産以外の資産(Ⅰ分類資産)を「非分類資産」といいます。

Ⅰ分類から4分類までの資産の定義は下記に記載のとおりとなります。

Ⅰ分類(非分類債権)
Ⅰ分類は、「Ⅱ分類、Ⅲ分類及びⅣ分類としない資産」であり、回収の危険性又は価値の毀損の危険性について、問題のない債権をいいます。

Ⅱ分類
Ⅱ分類とするものは、「債権確保上の諸条件が満足に充たされないため、あるいは、信用上疑義が存する等の理由により、その回収について通常の度合いを超える危険を含むと認められる債権及び何らかの理由により保有する債権として好ましくないと判定される等の債権」をいいます。
なお、Ⅱ分類とするものには、一般担保・保証で保全されているものと保全されていないものとがあります。

Ⅲ分類
Ⅲ分類とするものは、「最終の回収又は価値について重大な懸念が存し、従って損失の発生の可能性が高いが、その損失額について合理的な推計が困難な債権」をいいます。
ただし、Ⅲ分類については、損失額の推計が全く不可能とするものではなく、個々の債権の状況に精通している金融機関が、自らのルールと判断により損失額を見積もることが適当とされるものです。

Ⅳ分類
Ⅳ分類とするものは、「回収不可能又は無価値と判定される債権」をいいます。
なお、Ⅳ分類については、その債権が絶対的に回収不可能又は無価値であるとするものではなく、また、将来において部分的な回収があり得るとしても、基本的に、査定基準日において回収不可能又は無価値と判定できる債権です。

担保と保証について

担保と保証について格付の低い債務者であっても、債権が担保等で保全されているのであれば、回収には問題ないと判断できますから、格付の低い債務者区分である債務者に対する貸出債権の全額が、回収可能性が低いと判断されるわけではありません。

そこで、債務者区分で格付された各々の区分における債務者に対する貸出債権の分類を行うことが必要になりますが、そこではまず担保や保証で保全された債権を考慮する必要があります。

では、金融検査マニュアルにおける担保と保証の考え方をまずは見ていきましょう。

担保について

担保により保全されているものについては、以下のように優良担保と一般担保に区分し、優良担保の処分可能見込額により保全されているものについては、非分類(Ⅰ分類)とし、一般担保の処分可能見込額(評価額の70%相当部分)により保全されているものについては、Ⅱ分類とします(ただし、正常先は非分類(Ⅰ分類))。

また、一般担保の評価額と処分可能見込額(評価額の70%相当部分)との差額(評価額の30%相当額)については、債務者区分に応じて、Ⅱ分類またはⅢ分類とします。

(1)優良担保

預金等(預金、貯金、掛け金、元本保証のある金銭の信託、満期返戻金のある保険・共済をいう。)、国債等の信用度の高い有価証券、決済確実な商業手形及びこれに類する電子記録債権等をいいます。

ここで、「決済確実な商業手形」とは、手形振出人の財務内容及び資金繰り等に問題がなく、かつ、手形期日の決済が確実な手形をいいます。
ただし、商品の売買など実質的な原因に基づかず、資金繰り等金融支援のために振り出された融通手形は除かれることとされています。

また、「これに類する電子記録債権」とは、電子記録債権の債務者の財務内容及び資金繰り等に問題がなく、かつ、支払期日における支払が確実な電子記録債権をいいます。
ただし、商品の売買など実質的な原因に基づかず、資金繰り等金融支援のために発生記録がなされた電子記録債権は除かれることは、商業手形の場合と同様です。

(2)一般担保(不動産担保)について

優良担保以外の担保で客観的な処分可能性があるものを一般担保といい、例えば、不動産担保、工場財団担保、動産担保、債権担保がこれに該当するものとされています。
動産担保は、換価を確実なものとするために、適切な管理及び評価の客観性・合理性が確保されているものがこれに該当するものとされ、評価が客観的でなく一意的に価値が決まらないものは除外されます。
債権担保は、回収を確実なものとするために、適切な債権管理が確保されているものがこれに該当するものとされています。

なお、不動産担保等で抵当権設定登記を留保しているものについては、原則として一般担保とは取り扱わないこととされています。
一方で、登記留保を行っていることについて何らかの合理的な理由があって、登記に必要な書類が全て整っていて、かつ、すぐに登記ができる状態となっているものに限って、一般担保として取り扱って差し支えないものとされています。

また、動産を担保とする場合には、対抗要件が適切に具備されていることのほか、数量及び品質等が継続的にモニタリングされていること、客観性・合理性のある評価方法による評価が可能であり実際にもかかる評価を取得していること、当該動産につき適切な換価手段が確保されていること、担保権実行時の当該動産の適切な確保のための手続きが確立していることを含めて、動産の性質に応じ、適切な管理及び評価の客観性・合理性が確保され、換価が確実であると客観的・合理的に見込まれることが必要とされています。

また、債権を担保とする場合は、対抗要件が適切に具備されていることのほか、当該第三債務者(目的債権の債務者)について信用力を判断するために必要となる情報を随時入手できること、第三債務者の財務状況が継続的にモニタリングされていること、貸倒率を合理的に算定できること等、適切な債権管理が確保され、回収(第三者への譲渡による換価を含む)が確実であると客観的・合理的に見込まれることが必要になります。

(3)担保評価額について

担保評価額とは、客観的・合理的な評価方法で算出した評価額(時価)をいいます。

担保評価額については、必要に応じ、評価額の推移を比較分析し、償却・引当などとの整合性を検討し、処分価格について、担保不動産の種類別・債務者区分別・処分態様別・実際の売買価額の傾向など、多面的な視点から検証を行う必要があります。

また、担保評価においては、現況に基づく評価が原則であり、現地を実地に確認するとともに権利関係の態様、法令上の制限(建築基準法、農地法など)を適切に調査する必要があります。
さらに、土壌汚染、アスベストなどの環境条件等も評価額に影響を与えるため、これらにも留意することが求められます。

  • 債務者区分が破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先である債務者に対する債権の担保不動産の評価額の見直し(再評価又は時点修正)については、個別の貸倒引当金が毎期必要額の算定を行わなければならないこととされているので、公示地価、基準地価、相続税路線価など決算期末日又は仮基準日において判明している直近の データを利用して、少なくとも年1回は行わなければならず、可能であれば半期に1回は見直しを行うことが望ましいものとされています。
    また、債務者区分が要注意先である債務者に対する債権の担保不動産の評価額についても、年1回見直しを行うことが望ましいとされています。
    加えて、担保評価額が一定金額以上のものは、必要に応じて不動産鑑定士の鑑定評価を実施していることが望ましいものとされています。
    なお、賃貸ビル等の収益用不動産の担保評価に当たっては、原則、収益還元法による評価とし、必要に応じて、原価法による評価、取引事例による評価を加えて行っているかを検証することとなります。
  • 担保の評価の方法を変更した場合には(例えば、評価の基準を公示地価から相続税路線価に変更した場合など)、評価の方法を変更したことの合理的な理由があるかどうかを確認することが必要です。
  • 動産・債権担保の担保評価については、実際に行って いる管理手段等に照らして客観的・合理的なものとなっているかを検証することが求められます。

(4)処分可能見込額について

処分可能見込額とは、その評価額(時価)を踏まえ、当該担保物件の処分により回収が確実と見込まれる額をいいます。
評価額の精度が十分に高い場合には、評価額と処分可能見込額が等しくなります(評価額=処分可能見込額)。

イ.担保評価額を処分可能見込額としている場合は、担保評価額の精度が高いことについて合理的な根拠があるかを確認することが求められます。
具体的には、相当数の物件について、実際に処分が行われた担保の処分価格と担保評価額を比較し、処分価格が担保評価額を上回っているかどうかについての資料が存在し、これを確認できる場合は、合理的な根拠があるものとして取り扱われます。

ロ.直近の不動産鑑定士による鑑定評価額又は競売における買受可能価額がある場合には、担保評価額の精度が十分に高いものとして当該担保 評価額を処分可能見込額と取り扱って差し支えないものとされています。
しかしながら、債権保全という性格を十分考慮する観点から、鑑定評価の前提条件等や売買実例を検討するなどにより、必要な場合には、当該担保評価額に所要の修正を行っているかを確認する必要があります。
なお、不動産鑑定士(不動産鑑定士補を含む。)による鑑定評価額及び競売における買受可能価額以外の価格についても、担保評価額の精度が高いことについて合理的な根拠がある場合は、担保評価額を処分可能見込額とすることができるものとされています。

ハ.処分可能見込額の算出に当たって、掛け目を使用している場合は、その掛け目が合理的であるかを確認する必要があります。

①不動産、動産及び売掛金の処分可能見込額の算出に使用する掛け目について、処分実績等が少ないとの事由により、掛け目の合理性が確保されない場合は、次に掲げる値以下の掛け目を使用しているかを確認する必要があります。
なお、安易に次に掲げる値以下の掛け目に依存していないかに注意しましょう。
(不動産担保)土地 評価額の70% 建物 評価額の70%
(動産担保)在庫品 評価額の70% 機械設備 評価額の70%
(売掛金担保)売掛金 評価額の80%

②有価証券の処分可能見込額が担保評価額に次に掲げる掛け目を乗じて得られた金額以下である場合は、妥 当なものと判断して差し支えない。こととされています。

(有価証券担保)
国債 評価額の95%
政府保証債 評価額の90%
上場株式 評価額の70%
その他の債券評価額の85%

保証について

保証等により保全措置が講じられているものについては、以下に記載のとおり区分し、優良保証等により保全されているものについては非分類とし、一般保証により保全されているものについては、Ⅱ分類とします(ただし、正常先は非分類(Ⅰ分類))。

(1)優良保証等

イ.公的信用保証機関の保証、金融機関の保証、複数の金融機関が共同して設立した保証機関の保証、地方公共団体と金融機関が共同して設立した保証機関の保証、地方公共団体の損失補償契約等保証履行の確実性が極めて高い保証をいいます。
ただし、これらの保証であっても、保証機関等の状況、手続不備等の事情から代位弁済が疑問視される場合及び自行(庫・組)が履行請求の意思がない場合には、優良保証とはみなされないことには注意を要します。

「公的信用保証機関」とは、法律に基づき設立された保証業務を行うことができる機関であり、信用保証協会、農林漁業信用基金・農漁業信用基金協会等をいいます。
なお、公的信用保証機関の保証の種類によっては保証履行の範囲が100%ではないものがあることに注意が必要です。(現在では信用保証協会と金融機関との間に責任共有制度が導入され、100%保証の保証メニューばかりではなくなりました。)

以下の場合は、「保証機関等の状況、手続不備等の事情から代位弁済が疑問視される場合又は履行請求の意思がない場合」として、優良保証とはみなさないものとされています。
①保証機関等の経営悪化等の理由から、代位弁済請求を行っていない場合又は代位弁済請求を行っているが代位弁 済が受けられない場合(ただし、上記イの公的信用保証 機関を除く。)
②保証を受けている金融機関が代位弁済手続を失念あるいは遅延する等の保証履行手続上の理由により、保証機関等から代位弁済を拒否されている場合
③その他保証を受けている金融機関が保証履行請求を行う意思がない場合

ロ.一般事業会社の保証については、原則として金融商品取引所上場の有配会社又は店頭公開の有配会社で、かつ保証者が十分な保証能力を有し、正式な保証契約によるものを優良保証としています。

ハ.住宅金融支援機構の「住宅融資保険」などの公的保険のほか、民間保険会社の「住宅ローン保証保険」などの保険等をいいます。

(2)一般保証

優良保証等以外の保証をいい、例えば、十分な保証能力を有する一般事業会社(上記(1)のロを除く。)及び個人の保証をいいます。

保証会社の保証能力の有無等の検証に当たっては、当該保証会社の財務内容、債務保証の特性、自己査定、償却・引当、保証料率等の適切性等を踏まえた十分な実態把握に基づいて行う必要があります。
また、保証が当該金融機関の子会社によるものである場合には、例えば、当該子会社が親金融機関等から支援等を受けている場合には、経営改善計画の妥当性や、その支援等を控除した場合等の状況についても踏まえることに注意する必要がります。

信用保証協会については下記の記事を参考になさってください。

分類対象外債権について

分類の対象としない債権は次のとおりとされています。

①決済確実な割引手形及びこれに類する電子記録債権(以下「決済確実な割引手形等」という。)並びに特定の返済財源により短時日のうちに回収が確実と認められる債権、並びに正常な運転資金と認められる債権。

債務者区分が破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に対する債権とされている債務者が振り出した手形並びにこれらの者が債務者となっている電子記録債権は、自己査定上は決済確実な割引手形等として取り扱わないものとされています。
「特定の返済財源により近く入金が確実な」場合とは、概ね1か月以内に貸出金が回収されることが関係書類で確認できる場合をいいます。

債務者区分が破綻懸念先、実質破綻先及び破綻先に対する運転資金は、自己査定上は正常な運転資金として取り扱わないものとされています。
なお、要注意先に対する運転資金であっても、自己査定上は全ての要注意先に対して正常な運転資金が認められるものではなく、債務者の状況等により個別に判断する必要があることに注意が必要です。
また、破綻懸念先に対する運転資金であっても、特定の返済財源による返済資金が確実に自行(庫・組)の預貯金口座に入金され、回収が可能と見込まれる債権については、回収の危険性の度合いに応じて判断するものとされています。

一般的に、卸・小売業、製造業の場合の正常な運転資金の算定式は以下のとおりですが、算出に当たっては、売掛金又は受取手形の中の回収不能額、棚卸資産の中の不良在庫に対する貸出金は正常な運転資金とは認められないので、これらの金額に相当する額を控除して算出することになります。

正常な運転資金=売上債権[売掛金+受取手形(割引手形を除く)]+棚卸資産(通常の在庫商品であって不良在庫は除く)-仕入債務[買掛金+支払手形(設備支手は除く)]
複数の金融機関が運転資金を融資している場合には、被検査金融機関の融資シェアを乗じて算出するものとします。

②預金等及び国債等の信用度の高い有価証券等の優良担保が付されている場合、あるいは預金等に緊急拘束措置が講じられている場合には、その処分可能見込額に見合う債権。

③優良保証付債権及び保険金・共済金の支払いが確実と認められる保険・共済付債権。
優良保証付債権の資金使途が運転資金であり、当該運転資金とこれ以外の運転資金との合計額が正常運転資金相当額を超える場合は、分類対象外債権は正常運転資金相当額を限度とします。

④政府出資法人に対する債権。
政府出資法人が出資又は融資している債務者及び地方公共団体が出資又は融資している債務者に対する債権は、分類対象外債権として取り扱わず、原則として一般事業法人に対する債権と同様の方法により分類されているかを検証するものとします。
具体的には、政府出資法人からの支援又は地方公共団体からの支援が確実であることの合理的な根拠がある場合は、当該支援内容を踏まえ、債務者区分の検討を行うものとし、単に政府出資法人及び地方公共団体が出資又は融資 を行っていることを理由として非分類としていないかを検証することとします。

⑤ 協同組織金融機関で、出資者の脱退または除名により、 出資金の返戻額により債権の回収を予定している場合には、その出資金相当額に見合う債権。

債権の分類

債権の分類これまで見てきたように、債務者区分に従い、上記で検討した担保及び保証等による調整を行い、分類対象外債権の有無を検討の上、債権の分類を行うことになります。
なお、プロジェクト・ファイナンスの債権については、回収の危険性の度合いに応じて見做し債務者区分を付して分類することになります。

正常先に対する債権

正常先に対する債権は、担保・保証の有無にかかわらず全て非分類(Ⅰ分類)債権とされています。
正常先の定義に照らして、何らリスクのない債権と見做せるからです。

要注意先に対する債権

要注意先に対する債権については、以下の①から⑤に該当する債権で、優良担保の処分可能見込額及び優良保証等により保全措置が講じられていない部分を原則としてⅡ分類とします。

①不渡手形、融通手形及び期日決済に懸念のある割引手形 並びにこれらに類する電子記録債権。
②赤字・焦付債権等の補填資金、業況不良の関係会社に対する支援や旧債肩代わり資金等。

(注)繰越欠損や不良資産等を有する債務者に対する債権については、仮に他の名目で貸し出されていても、実質的にこれら繰越欠損等の補填資金に充当されていると認められる場合は原則として当該債権を分類することとされています。
また、その分類額の算出に当たって、どの債権がこれら繰越欠損等の補填資金に該当するか明確でないときは、例外的な取扱いとして債務者の繰越欠損や不良資産等の額と融資金融機関中の自行の融資シェアを勘案して、これら繰越欠損等の補填に見合う債権金額を算出することができるものとしています。

「自行の繰越欠損金等の見合い貸出金額」及び「自行の融資シェア」の算定式は以下のとおりです。

自行の繰越欠損金等の見合い債権金額
=繰越欠損金等の額×自行の融資シェア

自行の融資シェア
=自行の貸出金総額(割引手形を除く)/当該債務者の借入金総額(割引手形を除く)

③金利減免・棚上げ、あるいは、元本の返済猶予など貸出条件の大幅な軽減を行っている債権、極端に長期の返済契約がなされているもの等、貸出条件に問題のある債権。

「貸出条件の大幅な軽減を行っている債権」とは、債務者の業況等が悪化し、約定弁済が困難となり、債務者の支援のために金利減免・棚上げ、元本の返済猶予等を行っている貸出金、及び本来、収益返済によるべき設備資金などを合理的な理由なく最終期日に一括返済としている債権をいいます。
「極端に長期の返済契約」とは、設備資金として融資している場合で、返済期間が当該設備の耐用年数を超えているものが該当するほか、資金使途等から判断して、一定期間内に返済を行うことが適当であるにもかかわらず、債務者の収益力、財務内容等に問題があり、通常の返済期間を超えた返済期間となっているものをいいます。
なお、債務者が制度資金を利用している場合には、制度資金の内容、制度資金を融資するに至った要因等を総合的に勘案して、貸出条件の大幅な軽減を行っているかどうか又は極端に長期の返済契約かどうかを検討するものとし、 制度資金を直ちに貸出条件の大幅な軽減を行っている債権又は極端に長期の返済契約と判断してはならないとしています。

④元本の返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題のある債権及び今後問題を生ずる可能性が高いと認められる債権。
⑤債務者の財務内容等の状況から回収について通常を上回る危険性があると認められる債権。

破綻懸念先に対する債権

破綻懸念先に対する債権については、優良担保の処分可能見込額及び優良保証等により保全されている債権以外の全ての債権を分類することとし、一般担保の処分可能見込額、一般保証により回収が可能と認められる部分及び仮に経営破綻に陥った場合の清算配当等により回収が可能と認められる部分をⅡ分類とし、これ以外の部分をⅢ分類としています。
なお、一般担保の評価額の精度が十分に高い場合は、担保評価額をⅡ分類とすることができるものとしています。

なお、上記の回収可能見込額の解釈は次のとおりとなっています。
イ.「保証により回収が可能と認められる部分」とは、保証人の資産又は保証能力を勘案すれば回収が確実と見込まれる部分であり、保証人の資産又は保証能力の確認が未了で保証による回収が不確実な場合は、当該保証により保全されていないものとして、当該部分をⅢ分類とします。

ロ.「清算配当等により回収が可能と認められる部分」とは、被検査金融機関が当該債務者の他の債権者に対する担保提供の状況が明確に把握できるなど、債務者の資産内容の正確な把握及び当該債務者の清算貸借対照表の作成が可能な場合で、清算配当等の見積りが合理的であり、かつ、回収が確実と見込まれる部分をいいます。
なお、清算配当等により回収が可能と認められる部分をⅡ分類としている場合は、当該清算配当等の見積りが合理的であるかどうかを検証するものとします。

実質破綻先および破綻先に対する債権

実質破綻先及び破綻先に対する債権については、優良担保の処分可能見込額及び優良保証等により保全されている債権以外の全ての債権を分類することとし、一般担保の処分可能見込額及び一般保証による回収が可能と認められる部分、清算配当等により回収が可能と認められる部分をⅡ分類、優良担保及び一般担保の担保評価額と処分可能見込額との差額をⅢ分類、これ以外の回収の見込がない部分をⅣ分類とするものとします。
なお、一般担保の評価額の精度が十分に高い場合は、担保評価額をⅡ分類とすることができます。
また、保証による回収の見込が不確実な部分はⅣ分類とし、当該保証による回収が可能と認められた段階でⅡ分類とすることとします。

また、実質破綻先及び破綻先に対する債権は、可能な限り、担保等による回収が可能と認められる部分であるⅡ分類と回収の見込みがない部分であるⅣ分類に分類するものとし、Ⅲ分類とされるものは、「優良担保及び一般担保の担保評価 額と処分可能見込額との差額」以外にはないことに注意する必要があります。

なお、上記に掲げる回収可能見込額等の解釈は次のとおりとなっています。
イ.「保証により回収が可能と認められる部分」とは、保証人の資産又は保証能力を勘案すれば回収が確実と見込まれる部分であり、保証人の資産又は保証能力の確認が未了で保証による回収が不確実な場合は、当該保証により保全されていないものとして、当該部分をⅣ分類とします。

ロ.実質破綻先に対する債権における「清算配当等により回収が可能と認められる部分」とは、被検査金融機関が当該債務者の他の債権者に対する担保提供の状況が明確に把握できるなど、債務者の資産内容の正確な把握及び当該債務者の清算貸借対照表の作成が可能な場合で、清算配当等の見積りが合理的であり、かつ、回収が確実と見込まれる部分をいいます。

破綻先に対する債権における「清算配当等により回収が可能と認められる部分」とは、①清算人等から清算配当等の通知があった場合の清算配当等の通知があった日から5年以内の返済見込部分、②被検査金融機関が当該会社の他の債権者に対する担保提供の状況が明確に把握できるなど、債務者の資産内容の正確な把握及び当該債務者の清算貸借対照表の作成が可能な場合で、清算配当等の見積りが合理的であり、かつ、回収が確実と見込まれる部分をいいます。
なお、清算配当等により回収が可能と認められる部分をⅡ分類としている場合は、当該清算配当等の見積りが合理的であるかどうかを検証することとします。

ハ.会社更生法等の規定による更生手続開始の申立て、民事再生法の規定による再生手続開始の申立て、破産法の規定による破産の申立て、商法の規定による整理開始又は特別清算開始の申立て等が行われた債務者については、原則として以下のとおり分類するものとします。

①更生担保権を原則としてⅡ分類とする。
②一般更生債権のうち、原則として、更生計画の認可決定 等が行われた日から5年以内の返済見込部分をⅡ分類、5年超の返済見込部分をⅣ分類とする。
③切捨債権をⅣ分類とする。

なお、更生計画等の認可決定後、当該債務者の債務者区分及び分類の見直しを行っている場合は、回収の危険性の度合いに応じて分類するものとします。

ニ.会社更生法の規定による更生手続開始の申立て、民事再生法の規定による再生手続開始の申立て等が行われた債務者に対する共益債権については、回収の危険性の度合いを踏まえ、原則として、非分類ないしⅡ分類とします。

「金融検査マニュアル」についての詳細は下記の記事を参考になさってください。

「金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】」についての詳細は下記の記事を参考になさってください。

事業性評価融資についての詳細は下記の記事を参考になさってください。