金融検査マニュアル別冊【事実:決算書以外の評価が意外と重要】

金融検査マニュアル別冊というものがあるらしく、銀行は大企業と同じようなスタンスで我々中小企業を見ているのではなく、中小企業独特の特性を考えて、様々な視点で中小企業を評価しているらしい。

具体的にどんな視点で中小企業を評価しているのか教えてほしいし、また、その評価を上げるためにやるべきことは何かを教えてほしい、というお悩みを抱えた経営者はたくさんいらっしゃるはずです。

そこでこの記事では、金融検査マニュアル別冊が実際にどのように中小企業を評価するべきと書いているかを詳しく説明していきます。

別冊に関するこの記事を読むことで、銀行の中小企業に対する評価の視点が理解でき、今後その評価を上げていくために何をするべきかが理解できるようになります。

その結果、自社の評価を上げて金利の引き下げに繋げたり、経営難の場合にはそこから脱出する方法も理解できるようになります。

本記事は20年以上に渡って中堅・中小企業の事業再生に関わり、200件近い事業再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

金融検査マニュアル別冊の要点

金融検査マニュアル別冊の要点結論を申し上げますと、金融検査マニュアル別冊は、中小・零細企業独特の特性を見極めたうえで債務者区分を実施することを求めており、債務者企業単独で収益性、財務内容(実質債務超過の判定)、債務償還能力を判定するのではなく、代表者等の個人資産、収入(債務者企業からの収入とそれ以外の収入)を勘案し、債務者企業と代表者等との経済的一体性との観点から、判定をすることが求められます。

また、別冊においては、企業の技術力、販売力、経営者の資質やこれらを踏まえた成長性なども債務者区分を判定する際の大きな要素であるとされ、経営改善計画を策定している場合には、その進捗状況も加味され、一方では、経営改善計画が策定できていないことをもって形式的・画一的に破綻懸念先に落とされることもありません。

さらに、資本型劣後ローンが適用できる債務者区分が、従来の要注意先(要管理先含む)からすべての債務者区分に拡充されたこともあって、中小・零細企業の資本の充実による債務者区分のランクアップを通じた新規融資の可能性も出てきたことになります。

加えて、中小・零細企業が、実現可能性の高い合理的な経営改善計画を策定することで、こういった恩恵に与れる可能性は飛躍的に高まりました。

金融検査マニュアルは2019年12月をもって廃止されましたが、その考え方は今後の金融機関の融資実務の中心となることは間違いありません。

金融検査マニュアルの内容とその廃止の影響については下記の記事を参考人されてください。

別冊誕生の背景

別冊誕生の背景不良債権の大量発生と、それに伴う金融システムの不安定化という緊急事態の中で、1999年に誕生した金融検査マニュアルは、こういった事態の収束を第一の念頭に置いて作成されたものでした。

そういう第一義的な目標を持ったマニュアルなので、中小企業に対する小口の債権ではなく、大企業に対する大口の債権のリスク管理をまずは徹底することを主眼に作成されていました。

一方で、同マニュアルが大企業だけではなく、それらに比して財務基盤がもともと脆弱な中小企業に対しても金融機関の自己査定において用いられることを当然に念頭に置いていた金融庁は、金融検査マニュアルの中に、注意的に何度も、以下のような記載をしていました。

債務者区分の検討にあたっては、

中小・零細企業等の債務者区分の判断について、「特に、中小・零細企業等については、当該企業の財務状況のみならず、 当該企業の技術力、販売力や成長性、代表者等の役員に対する報酬の支払状況、 代表者等の収入状況や資産内容、保証状況と保証能力等を総合的に勘案し、当 該企業の経営実態を踏まえて判断するものとする。」

とし、経営改善計画書の検討にあたっては、

特に、中小・零細企業等については、必ずしも経営改善計 画等が策定されていない場合があり、この場合、当該企業の 財務状況のみならず、当該企業の技術力、販売力や成長性、 代表者等の役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状 況や資産内容、保証状況と保証能力等を総合的に勘案し、当 該企業の経営実態を踏まえて検討するものとし、経営改善計 画等が策定されていない債務者を直ちに破綻懸念先と判断 してはならない。

として、もともと大企業とは企業存立基盤や背景が全く異なる中小・零細企業へ、同マニュアルの画一的・形式的適用をすることがないよう、金融機関に対して求めていました。

ところが、金融検査マニュアルにおけるこういった記載が抽象的過ぎて、実際に中小・零細企業の債務者区分にあたっては具体的にどのように考えればよいのか見当がつかない金融機関が多く、金融庁の当初の思惑とは異なり、中小・零細企業にも大企業と同等の基準で債務者区分を実施してしまう例が全国で散見され、その結果、債務者区分が要管理先以下に区分され、新たな資金調達の道を絶たれ、倒産や廃業に追い込まれた中小・零細企業が後を絶ちませんでした。

金融庁の当初の思惑とは異なる結果に対して政府も憂慮し、また、有識者からの指摘もあったことなどを受け、2002年2月に政府から発表された「早急に取り組むべきデ フレ対応策」において、これまでの金融検査マニュアルでは十分になされなかった中小・零細企業等の債務者区分の判断について、金融検査マニュアルの具体的な運用例を作成し、公表することが盛り込まれました。

そして、同年6月に「金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】」が公表され、別冊では、債務者の経営実態の把握の向上に資するため、金融検査マニュアルの中小・零細企業等の債務者区分の判断に係る検証ポイント及び検証ポイントに係る運用例(以下、「検証ポイント等」という。)が示されています。

その後、2003年3月に公表された金融庁の「リレーションシップバンキングの機能強化にかかるアクションプログラム」において、この金融検査マニュアル別冊が検査官、金融機関だけでなく、債務者たる中小企業にも広く浸透されるようにするとともに、この別冊の定着状況をモニタリングして、その内容が中小企業の実態により即したものになるように改訂するとされました。

これを受けて、2004年2月に金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】が改訂されました。
そして、金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】においては、中小・零細企業の債務者区分を適切に判断するためにも、金融機関自らが、日頃の債務者との間の密度の高いコミュニケーションを通じて、その経営実態の適切な把握に努めることが重要であるとされました。

別冊の基本的な考え方

別冊の基本的な考え方中小・零細企業は、そもそも財務基盤が脆弱であり、資本の蓄積が進んでいないという問題点を抱えていますが、この点が大企業とは決定的に異なっています。

中小・零細企業において、資本の蓄積が進まなかった最大の原因は税制にあるわけですが、法人に利益として残すよりも稼いだものは役員報酬として払い出してしまったほうが、法人への法人税課税と経営者の個人所得税課税のトータルで見れば、後者のほうが有利であるからです。

法人に利益として残せば、そこで一旦法人税課税を受け、その後に役員報酬として払い出せば再び個人所得税課税を受けるという、いわゆる2重課税が生じてしまうので、税理士の指導を受けた中小企業の経営者たちは、役員報酬として取れるだけ取って、個人の資産の蓄積を進めた結果、法人の資本蓄積は進まなかったのです。

反対に、中小企業が投資等を目的として、資金を社外流出させずに社内留保を考えてみても、留保金課税という配当金課税の脱法行為の回避という趣旨の法律でもって課税されるという中小企業独特の課税体系が中小・零細企業の資本蓄積と阻害してきました。

このような中小・零細企業の特性を鑑みれば、その財務内容の判定には、大企業と同様に法人単独で見るよりも、法人と経営者等の資産負債を一体として見るほうが、より実態を現すということができるわけです。

収益性を見るにしても、法人の利益が赤字であったとしても役員報酬として多額のキャッシュが社外流出しているのであれば、その事実を反映して収益性を考慮するべきでしょう。

大企業のように株主が社外に多数散在している場合には、彼らに配当金を支払う源資を社内留保する必要があるため、また、株価の維持のために黒字を確保する必要がありますが、中小企業の場合には、そもそも黒字を確保しなければならないようなインセンティブはなく、赤字であっても一向に気にしない経営者だって多数存在しているわけです。

このように、大企業と違って中小・零細企業では、法人内部での資本の蓄積は進まない一方で、経営者個人の資産が積みあがるという中小・零細企業特有の資本の蓄積方法があります。
したがって、中小・零細企業等の債務者区分については、このような特性を踏まえて判断する必要があるのです。

また、このような資本の蓄積方法の特殊性によって、金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】では、次のような中小・零細企業等の特性にも留意する必要があるとしています。

・中小・零細企業は総じて景気の影響を受けやすく、一時的な収益悪化により赤字 に陥りやすい面がある。

・自己資本が大企業に比べて小さいため、一時的な要因により債務超過に陥りやすい面がある。また、大企業と比較してリストラの余地等も小さく黒字化や債務超過解消までに時間がかかることが多い。

・中小・零細企業に対する融資形態の特徴の1つとして、設備資金等の長期資金を短期資金の借換えの形で融資しているケースがみられる。

以上のように、中小・零細企業独特の税制の下、資本蓄積方法が大企業とは異なる中小・零細企業の経営・財務面の特性や、これらの会社に対する特有の融資形態を踏まえれば、赤字や債務超過が生じていることや、貸出条件の変更が行われているといった表面的な現象のみをもって、債務者区分を判断することは適当ではありません。

「損益が赤字だから要注意先」、「債務超過だから破綻懸念先」というように大企業と同じ目線で機械的に査定をしてみても、それは中小・零細企業の経営実態にはなじまないのです。

したがって、中小・零細企業との過去の取引実績や、経営者個人もしくはその同族へ流れるキャッシュ・フローも斟酌して検証するとともに、貸出条件の変更の理由や資金の使途、性格を確認しつつ、債務者区分の判断を行う必要があることになります。

別冊の具体的内容

金融検査マニュアルでは、債務者区分の判定にあたっては下記のような記載をしています。

債務者区分は、債務者の実態的な財務内容、資金繰り、収益力等により、その返済能力を検討し、債務者に対する 貸出条件及びその履行状況を確認の上、業種等の特性を踏まえ、事業の継続性と収益性の見通し、キャッシュ・フローによる債務償還能力、経営改善計画等の妥当性、金融機関等の支援状況等を総合的に勘案し判断するものである。
特に、中小・零細企業等については、当該企業の財務状況のみならず、当該企業の技術力、販売力や成長性、代表者等の役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状況や資産内容、保証状況と保証能力等を総合的に勘案し、当該企業の経営実態を踏まえて判断するものとする。

そして、金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】では、以下の5点について詳しく解説しています。

代表者等との一体性

中小・零細企業等の場合、大企業のように株主が散在しているわけでもないので、内部統制や内部牽制のシステムを構築することもなく、その結果、企業とその代表者等との間の業務、経理、資産所有等との関係は、大企業のように明確に区分・分離がなされておらず、実質一体となっていることが通例です。

このようなことから、中小・零細企業等の債務者区分の判断に当たっては、当該企業の実態的な財務内容、代表者等の役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状況や資産内容等について、次のような点に留意し検討する必要があることになります。

なお、代表者等には、例えば、代表者の家族、親戚、代表者やその家族等が経営する関係企業等当該企業の経営や代表者と密接な関係にある者などが含まれることに注意します。

企業の実態的な財務内容

代表者等からの借入金等については、代表者等が返済を要求することが明らかとなっている場合を除き、原則として、これらを当該企業の自己資本相当額に加算します。

反対に、当該企業に代表者等への貸付金や未収金等がある場合には、その回収可能性を検討して回収不能額がある場合には当該企業の自己資本相当額から減算します。

このように、経営者等よりの借入金や貸付金を考慮することで、企業の実態的な財務内容を判断する必要があります。

企業の実態的な収益性、債務返済能力

企業だけを見れば赤字で返済能力がないと認められる場合でも、代表者等への報酬や家賃等の支払いから赤字となり、代表者から企業への貸付によって金融機関への返済資金を調達している場合があるので、赤字の要因や返済状況、返済原資の状況を詳細に確認した上で、企業の実態的な収益性や債務償還能力を判断する必要があります。

また、代表者等の企業以外からの収入、または預金や有価証券等の流動資産及び不動産(処分可能見込額)等の固定資産については、債務償還能力として加味することができるものとしています。
なお、その場合に、代表者等に係る借入金がある場合にはその額を控除するものとし、代表者の第三者に対する保証債務の有無についても勘案することとされています。

このように、代表者等と企業との間の資金の流れ、代表者等の個人資産の有無を確認した上で、企業の実態的な収益性、債務償還能力を判断する必要があります。

また、要注意先に分類された債務者のうち、要管理債権に該当する債務者は要管理先として分類することになりますが、この要管理債権の判断においても、企業と代表者との一体性が考慮されることになります。

つまり、要管理債権か否かの判定では、貸出条件緩和債権に該当するか否かの判定を実施する必要があり、「基準金利」と適用金利の比較が行われますが、実際の適用金利が基準金利より低い場合でも、代表者等の資産背景等を考慮した結果、適用金利が低いのであるならば、「基準金利より有利な金利」とは判定されず、貸出条件緩和債権には該当しないことになることには注意が必要です。

企業の技術力、販売力、経営者の資質やこれらを踏まえた成長性

企業の技術力、販売力、経営者の資質やこれらを踏まえた成長性については、企業の成長発展性を勘案する上で重要な要素であり、中小・零細企業等にも、技術力等に十分な潜在能力、競争力を有している先が多いと考えられます。

しかしながら、こういった技術力等は現行制度の下での決算書には表れてこないので、そこをしっかりと着目して企業の評価をすることは、企業の実態を適切に把握する上では欠くことができません。

もちろん、企業の技術力等を客観的に評価し、それを企業の将来の収益予測に反映させることは必ずしも容易なことではありませんが、当該企業の技術力等について、以下の点を含め、あらゆる判断材料の把握に努め、それらを総合勘案して債務者区分の判断を行うことが必要となります。

金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】では、具体的に下記のような事項を取り上げて、企業の技術力等の把握に努めるべきことを求めています。

企業の技術力、販売力等

(イ)企業や従業員が有する特許権、実用新案権、商標権、著作権等の知的財産権を背景とした新規受注契約の状況や見込み
(ロ)新商品・サービスの開発や販売状況を踏まえた今後の事業計画書等
(ハ)取扱商品・サービスの業界内での評判等を示すマスコミ記事等
(ニ)取扱商品・サービスの今後の市場規模や業界内シェアの拡大動向等
(ホ)取扱商品・サービスの販売先や仕入れ先の状況や評価、同業者との比較に基づく販売条件や仕入条件の優位性

経営者の資質

(イ)過去の約定返済履歴等の取引実績
(ロ)経営者の経営改善に対する取組姿勢
(ハ)財務諸表など計算書類の質の向上への取組状況
(二)ISO等の資格取得状況
(ホ)人材育成への取組み姿勢
(ヘ)後継者の存在等

そして、金融機関が日々実施している企業への訪問、経営指導、企業・事業再生の実績等を検証し、それらが良好であると認められる場合には、原則として、金融機関が企業訪問や経営指導等を通じて収集した情報に基づいて、企業の技術力、販売力、経営者の資質やこれらを踏まえた成長性を評価している場合には、当該金融機関の評価を尊重するものとしています。

経営改善計画

債務者区分の判定において、収益性、財務内容、債務償還能力等の状況からして破綻懸念先に分類される場合でも、実現性の高い合理的な経営改善計画等が適切に策定・実行されている場合には、要注意先に債務者区分を引き上げることが認められています。

しかしながら、中小企業の場合、マンパワー不足等を原因として、大企業並みの詳細な経営改善計画を策定しているケースは少なく、またその結果、計画の進捗状況自体を把握できないことが多々あります。
こうした場合には、経営改善計画の内容や、その進捗状況を機械的に勘案するのではなく、今後の具体的な資産売却の予定や役員報酬の削減計画などを考慮して判断していく必要があります。

実抜計画と合実計画については、下記の記事を参考にされてください。

経営改善計画等の策定

中小・零細企業等の場合、企業の規模や人員等を勘案すると、大企業の場合と同様な大部で詳細な経営改善計画等を策定できない場合が多々あります。
そのような場合に、経営改善計画そのものがないので破綻懸念先と画一的に判断しても、その債務者区分は中小・零細企業の実態を反映するものでありません。

債務者が経営改善計画等を策定していない場合であっても、今後の資産売却予定、役員報酬や諸経費の削減予定、新商品等の開発計画や収支改善計画等のほか、債務者の実態に即して金融機関が作成・分析した資料を踏まえて債務者区分の判断を行うことが必要となります。

経営改善計画等の進捗状況

中小・零細企業等の場合、必ずしも精緻で詳細な経営改善計画等を作成できないことから、景気動向等により、経営改善計画等の進捗状況が計画を下回る(売上高等及び当期利益が事業計画に比して概ね8割に満たない)ケースが多々あります。

このような場合には、計画に沿った活動の実施状況等に問題がある場合と、そもそも当初の計画そのものが妥当とは言えなかったという問題とが混在している可能性が高くなります。

したがって、このような場合の債務者区分の検証においては、経営改善計画等の進捗状況のみをもって機械的・画一的に判断するのではなく、計画を下回った要因について分析するとともに、今後の経営改善の見通し等を検討することが必要になります。

経営改善計画書についての詳細は下記の記事を参考にされてください。



貸出条件およびその履行状況

貸出条件及びその履行状況については、債務者区分を判断する上で重要な要素であり、仮に、条件変更等が行われている場合には、その条件変更等に至った要因について確認する必要があります。

例えば、設備資金として融資された貸出金が、収益が減少して返済能力が低下し、約定返済ができないため元本の期日延長が行われている場合や、運転資金等が他の貸出金の元本や利息の返済額に流用され、結果として、元本又は利息の延滞が回避されている場合などは、貸出条件及びその履行状況に問題があると考えられるので、これらを踏まえた上で債務者区分の判断を行う必要があります。

前者の場合、そもそも証貸での貸付が、収益の減少によって約定返済を実施することができず、手貸に切り替えられて元本の借換を繰り返しているような状況が想定され、表面上は手形の書き換えであって延滞等は生じていないとも考えられます。

ところが、この債務者の経営実態は、固定資産の調達を短期資金で賄っている状況、つまり、当該短期資金が長期に渡って期日延長を繰り返している状況であり、本来ならば設備資金として約定返済されるべきものが返済能力の低下から約定返済できずに期日延長を余儀なくされている状況です。

このような状況は事実上の延滞の発生、もしくは返済猶予を受けている状態と見るべきでしょう。

後者の場合、運転資金として融資した貸出金が、他の、たとえば設備資金の貸出金の返済に充当されているような場合、外形的には返済が順調に行われており何ら問題がないように見えますが、実質的には設備資金の延滞の発生、もしくは返済猶予を受けている状態であると判断するべきでしょう。

資本的劣後ローンの取扱い

金融機関の中小・零細企業向けの要注意先債権(要管理先への債権を含む)で、貸出債権の全部または一部を債務者の経営改善計画の一環として、「資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)」に転換している場合には、下記の要件(①~⑦)をすべて満たしていることを条件として、債務者区分等の判断において、当該資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)を当該債務者の資本とみなすことができます。

①資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)への転換は、合理的かつ実現可能性が高い経営改善計画と一体として行われていること。

②資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)についての契約が、金融機関と債務者との間で双方合意の上、締結されていること

③資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)の返済(デフォルトによらない)については、資本的劣後ローン(早期経営改善特例 型)への転換時に存在する他の全ての債権及び計画に新たに発生することが予定されている貸出債権が完済された後に償還が開始されること。

④債務者にデフォルトが生じた場合、金融機関の資本的劣後ローン(早期経営改善特 例型)の請求権の効力は、他の全ての債権が弁済された後に生じること。

⑤債務者が金融機関に対して財務状況の開示を約していること及び、金融機関が債務者のキャッシュ・フローに対して一定の関与ができる権利を有していること(コベナンツ条項が付いていること)。

⑥資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)が⑤コベナンツ条項その他の約定違反により、期限の利益を喪失した場合には、債務者が当該金融 機関に有する全ての債務について、期限の利益を喪失すること 。

⑦金融機関において、資本的劣後ローン(早期経営改善特例型)の引当につき、「資本的劣後ローン等に対する貸倒見積高の算定及び銀行等金融機関が保有する貸出債権を資本的劣後ローン等に転換した場合の会計処理に関する監査上の取扱い」(2004年11月2日日本公認会計士協会)を参照の上、会計ルールに基づいた適切な引当を行っていること。

また、貸出債権の全部または一部を十分な資本的性質が認められる劣後ローン(以下「資本的劣後ローン(准資本型)」に転換している場合には、債務者区分等の判断において、上記①~⑦の諸条件を満たしているか否かにかかわらず、当該資本的劣後ローン(准資本型)を当該債務者の資本とみなすことができます。

(注1):コベナンツ条項
コベナンツ条項とは、金融機関が債務者に対して貸し出しを行う際に締結される債務者の義務をいいます。
たとえば、重要事項の事前報告(ex:キャッシュ・フローに重大な影響を及ぼす資産の取得等について事前に報告する)、財務指標(ex:計画された営業利益を20%以上下回らないこと)、債務者企業への財政状態に関する調査への協力などがあげられます。

担保主義が融資実務の中心であった時代にはそれほど重視されなかったコベナンツ条項ですが、プロジェクト・ファイナンスの普及等に伴いキャッシュ・フロー担保の融資が一般化してくると、金融機関はリスク軽減のために、債務者企業が事業運営上リスクを過度に取りすぎないよう注視する必要が出てきたことから、融資期間中常に情報を収集して債務者の現況を確認する必要性が高まり、融資実務における重要性が高くなったものです。

(注2):資本的劣後ローン(早期経営改善特化型)と資本的劣後ローン(準資本型)
2008年10月3日に金融検査マニュアルの改訂が行われましたが、この改定時に新しく設けられた資本的劣後ローンが「準資本型」であり、それ以前の金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】で記載されていたものを、新しく設けられた「準資本型」と区別するために、あらためて「早期経営改善特化型」として区分したものです。

先ほど説明した資本的劣後ローン(早期経営改善特化型)要件①~⑦の全てを満たしたものを、「早期経営改善特化型」と呼び、下記の要件を満たすものを新しく「準資本型」と呼ぶこととしました。

※準資本型の資本的劣後ローンの要件

  • 債務者区分を問わない
  • 十分な資本的性質が認められること

(注):十分な資本的性質が認められる借入金とは?
これは、償還条件や金利等の貸出条件が資本に準じるような借入金については、本来なら負債である当該借入金を資本とみなすことができるとするものです。
これにより、資産査定において、当該借入金を資本とみなした上で実質債務超過額を算定し、債務者区分の検討を行うことができます。

ここで資本に準じるような貸出条件とは、例えば、償還期間が長期であることや、業績の悪いときには利子負担がほとんど生じないような配当に準じた金利設定であること等です。
このような条件をつけることにより、経営難にある企業等が債務超過・繰越損失の解消、さらに内部留保の蓄積といった、経営改善に向けた見通しを立てやすくなります。

<早期経営改善特化型と準資本型の具体的な相違>
まず、「早期経営改善特化型」の資本的劣後ローンについては、合理的かつ実現可能性が高い経営改善計画と一体として行われることが必要であるとされているように、経営改善計画の策定が必須となっています。
一方、「準資本型」の資本的劣後ローンについては経営改善計画が必ずしも要求されるものではありません。

次に、「早期経営改善特化型」の資本的劣後ローンが要注意先債権(要管理債権府含む)に限定されていたのに対して、「準資本型」の資本的劣後ローンは、債務者区分を問わないので、経営難に陥っている企業に対しても資本的劣後ローンの採用によって、たとえば破綻懸念先から要注意先へランクアップすることが可能となり、新たな融資による支援を実施することが可能となりました。

ただし、破綻懸念先に対して、既存の債務を「準資本型」の資本的劣後ローンに転換したからといってすぐに要注意先へランクアップされるというわけではなく、あくまでも経営改善効果があると認められて収益改善の余力があると判定した場合に限られることには注意するべきでしょう。

したがって、資本的劣後ローン(准資本型)の利用効果は、経営改善計画書がなかった場合、一定の見通しを立てつつ、業況を改善していくという中でこそ発揮されるものであることに留意する必要があります。

資本的劣後ローン(DDS)については下記の記事を参考になさってください。

破綻懸念先のランクアップに関する基本的な考え方は下記の記事を参考になさってください。

破綻懸念先の事業再生の事例は下記の記事を参考になさってください。

決算書以外の評価が意外と重要

決算書以外の評価が意外と重要別冊によれば、中小・零細企業の債務者区分については、形式的・画一的に過去の経営成績等だけから判断されるのではなく、代表者等の資産や収入背景との経済的一体性、事業の持つ技術力、販売力経営者の資質などの定性要因、経営改善計画書の進捗状況等、様々な観点で判定されることになります。

つまり、経営成績が悪いからと諦めるのではなく、金融機関に対していかに自社の強み等をしっかり伝えることができるかどうかで、債務者区分も変わり、融資に対する金融機関の姿勢も大きく変わることになります。

したがって、実現可能性の高い合理的な経営改善計画をしっかり策定して、金融機関に対してプレゼンすることがとても重要な時代となりました。

事業性評価融資へと金融実務が大きく移行していく時代において、自社のビジネスについては深く理解できていない銀行の担当者に、自社のビジネスの要諦を経営改善計画書にまとめあげてしっかりとプレゼンし、銀行の担当者にしっかりと事業の評価をしてもらって自社の債務者区分をあげ、銀行取引をスムーズにし、金利を引き下げることで、さらに儲かるよい会社にすることが可能な時代なのです。

自社の債務者区分のランクアップに向けて、事業再生の専門家を招き入れてじっくりと財務と事業の再構築に取り組むべき時代なのです。

事業性評価については、下記の記事を参考になさってください。

経営改善・事業再生等の外部専門家に関しては、下記の記事を参考になさってください。


事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。