中小企業再生支援協議会とは?【ガイドラインよりも柔軟に対応可】

当社のメイン銀行から中小企業再生支援協議会を利用して、経営改善計画の策定と金融機関調整を行いたいと提案をもらった。

中小企業再生支援協議会は具体的に何をしてくれる機関なのだろうか。
これからお世話になることになりそうなので、どういう機関なのかをしっかり理解しておきたい。

こんな悩みを抱えて、これから事業再生に取組もうとしている経営者の方は多いものと思われます。
中小企業再生支援協議会なんて、これまで利用したことがない人が大半ですからね。

この記事を読むことで、中小企業再生支援協議会とは何なのか、また、この協議会はどんなことをしてくれる機関なのかがよく理解でき、利用するにあたっての不安が解消されます。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

中小企業再生支援協議会スキームはガイドラインよりも優れている

中小企業再生支援協議会スキームはガイドラインよりも優れている結論から申し上げますと、中小企業再生支援協議会による準則型私的整理は、私的整理ガイドラインのそれよりも柔軟に対応することが可能ですので、ガイドラインよりも、中小企業再生支援協議会スキームを使った事業再生をおすすめします。

合理的であるとされる再建計画の内容も、私的整理ガイドラインと、中小企業再生支援協議会スキームはほぼ同じであり、手続き的にも大きな差異はありませんが、いくつかの点で後者のほうが柔軟な対応が可能であり、債務者企業の事業再生の可能性の幅を広げてくれるものであると考えられるからです。

特に、私的整理ガイドラインによれば、再建計画の成立にはすべての債権者の同意が必要とされていますが、不同意を表明する債権者が1行でもあれば、そのまま法的整理へ移行しなければならないとされています。

これに対して中小企業再生支援協議会スキームの場合には、債権者集会ですべての債権者が合意に至らなくても、必ずしも法的整理手続へ移行しなくてもよく、不同意の債権者の金融支援を除外した変更計画を策定し、不同意の債権者以外の対象債権者のすべてから同意を得た場合には、変更後の再建計画の成立を認めています。

このように、中小企業再生支援協議会スキームは私的整理ガイドラインに比べて、柔軟な対応を認めており、債務者企業の事業再生の可能性をより強く推し進めることができる制度であるといえます。

中小企業再生支援協議会とは何か?

中小企業再生支援協議会とは何か?中小企業再生支援協議会とは、地域における中小・零細企業の事業再生を支援することを目的として、産業競争力強化法134条に基づき、経済産業省からの委託を受けて商工会議所・産業支援センター・産業振興センター等の機関内に設置されている機関です。

また、中小企業再生支援協議会は、公正中立な第三者的な立場で、債務者たる中小零細企業者と金融債権者の間に立つ公的な機関であり、これらの代理人でもなく、ファンドやスポンサーの代理人でもないものとされています。

このような中小企業再生支援協議会は、債務者である中小零細企業者からの相談内容に応じて、経営改善計画の策定支援や、関係金融機関への支援要請や利害調整、さらには経営改善計画策定完了後のフォローアップを行うと謳っています。

私の経験から言えば、中小企業再生支援協議会の主な仕事は、金融機関が複数存在する場合の金融機関調整(利害調整)であり、経営改善計画の策定は債務者が自身で実施しなくてはならず、出来上がった計画書についてコメントを頂戴できる程度ですし、フォローアップにおいても具体的な施策のアイデアなどを頂戴できるわけではありませんので、注意が必要です。

さて、ここで、産業競争力強化法とは、日本経済の再興を図るために産業の競争力を強化することを目的として、産業活力再生特別措置法(1999年制定)の後を受けて、2014年1月20日に施行された法律です。

この法律は、過剰となっている様々な規制や、わが国への投資が促進されないことや、過当な競争が、世界的に見て我が国の産業競争力の足を引っ張っているものだとして、これらを是正するべく、創業期・成長期・成熟期といった事業の発展段階に応じて各種の支援策を整備し、新たなる成長を国として後押しすることを目的に制定されたものです。

この産業競争力強化法の中に、支援措置の1つとして事業の再生を考えている事業者に対する支援措置が講じられており、中小企業再生支援の強化と事業再生ADRの拡充が盛り込まれているものです。

そして、中小企業再生支援協議会は、産業競争力強化法の前身であった産業活力再生特別措置法(1999年制定)に基づいて2003年2月から全国に順次設置され、現在では全国47都道府県に1か所ずつ設置され、日々、中小零細事業者からの事業再生や経営改善に関する相談実務をこなしています。

中小企業再生支援協議会では、事業再生や経営改善に関する知識と経験とを有する専門家(公認会計士、弁護士、税理士、中小企業診断士、金融機関のOBなど)が統括責任者(プロジェクトマネージャー)および統括責任者補佐(サブマネージャー)として常駐していると謳っています。

そして、資金繰りが逼迫しているなどの窮境な状況にある中小零細事業者からの相談を受け付け、解決に向けたアドバイスを行ったり、支援機関の紹介や、場合によっては認定支援機関に登録している各種専門家等の紹介などの窓口対応(第一次対応)を行い、事業性など一定の要件を満たす場合には再生計画の策定支援(第二次対応)を実施しています。

中小企業再生支援協議会には、事業再生や経営改善に関する知識と経験とを有する専門家(公認会計士、弁護士、税理士、中小企業診断士、金融機関のOBなど)が統括責任者として常駐していると謳ってはいますが、私の経験から言えば、事業そのものの再生については不得手な士業の方々ばかりなので、そのあたりは事前に大きな期待などは持たないでおきましょう。

このように、中小企業再生支援協議会自体が、事業再生に向けた課題設定や具体的なアイデアをアドバイスしてくれる機関ではなく、そのあたりの事業再生のキモの部分は、債務者企業自身で事業再生の専門家を招聘するなどして自らが考えなければいけないということです。

中小企業再生支援協議会には、「中小企業再生支援協議会スキーム」と呼ばれている中小企業再生支援協議会の私的整理手続があり、このスキームについては、「中小企業再生支援協議会事業実施基本要領」に記載されています。

認定支援機関については、下記の記事を参考になさってください。

日本の事業再生の抱える問題点については、下記の記事を参考になさってください。

スキームの対象となる債務者

スキームの対象となる債務者中小企業再生支援協議会スキームは、下記の要件を満たす債務者企業が対象とされています。

①中小企業であること。
②過剰債務、過剰設備等により財務内容の悪化、生産性の低下等が生じ、経営に支障が生じ、もしくは生じる懸念があること。
③再生の対象となる事業に収益性や将来性があるなど事業価値があり、関係者の支援により再生の可能性があること。

(出典:中小企業再生支援協議会事業実施基本要領6(1)

①の中小企業の定義については、中小企業庁のウェブサイトに記載がありますので、業種ごとに該当するかどうかの確認をする必要があります。
中小企業・小規模企業者の定義(中小企業庁)はこちら。

②の財務内容の悪化、生産性の低下、経営に支障が生じる又はその懸念があること、とありますが、明確に数値基準を明示していないことからもわかるように、「懸念が生じた」段階で早期に相談することができるような配慮となっています。

このように中小企業再生支援協議会は広く門戸を開いて受け入れて頂けますので、遠慮などする必要はなく、なんだかおかしいなと感じたら早期に相談をするように心がけてください。
手を打つのが早ければ早いほど、効果が高いのが事業再生ですからね。

③の「事業価値がある」とは要するに、少なくとも営業段階で利益が確保できていること、または、現状は営業利益の確保はできていなくても、商品・サービス・コンセプトの転換や、ポジショニングの変更を行う事業構造の改革を行うことで、営業利益の確保ができると見込まれるという意味に解されています。

したがって、営業段階で赤字だからと尻込みせずに、中小企業再生支援協議会スキームに乗せるんだという意気込みで、まずは適切な事業再生の専門家に相談をしてください。
そのまま中小企業再生支援協議会に持ち込んでも、「営業赤字からの本質的な脱却ストーリー」を描ける専門家はまずおられないので、相談に乗れないと思いますから。

また、対象となる債権者に対し、債権放棄等(実質的な債権放棄、債務の株式化(DES=デット・エクイティ・スワップ)、債務の劣後化 (DDS=デット・デット・スワップ)の要請を含む再生計画の策定を支援する場合は、上記①~③に加え、下記の要件が求められます。

④過剰債務を主因として経営困難な状況に陥っており、自力による再生が困難であること。
⑤法的整理を申し立てることにより相談企業の信用力が低下し、事業価値が著しく毀損するなど、再生に支障が生じるおそれがあること。
⑥法的整理の手続きによるよりも多い回収を得られる見込みがあるなど、対象債権者にとっても経済合理性があること。

(出典:中小企業再生支援協議会事業実施基本要領6(1)

④の「自力による再生が困難である」とは、金融債権者の負担を伴う再建計画が描ければ、再生が可能であるという意味になります。
裏を返せば、本業では一定の営業利益の確保はできているが、過剰な債務の存在によってその元本返済や利払いが経営を圧迫しているような状況をいいます。

⑤については、すべての債務者企業について言えることなので、特に気にしなくて結構です。

⑥については、法的整理と私的整理とを比較した場合に、後者のほうが金融債権者の回収額が多くなることをいいます。
一般的には、私的整理を選択したほうが経済的には合理性がありますが、担保権によってカバーされている債権の割合が高いなどのケースでは、一概にはそうは言えないこともありますので注意が必要です。

経済合理性の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

直近の業績が芳しくないような中小企業の経営者は、自社には事業価値など存在しないから、上記の要件に合致しないと、中小企業再生支援協議会スキームによる事業再生を諦めがちですが、事業再生によって将来的に収益を獲得する可能性さえあれば利用できる手続ですので、諦めることなく早急に相談するようにしましょう。  

再生支援の手順

再生支援の手順中小企業再生支援協議会の事業再生支援は、大きく分けて、第一次対応と第二次対応とに分けることができます。

第一次対応

第一次対応は、債務者たる中小零細事業者が、その所在地の中小企業再生支援協議会に直接相談をするのが基本です。

しかし、そもそも一般の事業者に中小企業再生支援協議会はなじみがないのが通例ですので、現実には、金融債権者である金融機関が債務者に代わって協議会に事前に相談したり、金融機関の後押しによって債務者が相談に訪れるケースのほうが多いようです。

この相談では、債務者企業の経営上の問題点や、その問題を解消するための具体的な課題を設定したり、課題の解決に向けての適切なアドバイスを無料で受けることができますが、そのためには、相談に伺うにあたって、代表者本人が、直近三期分の決算書や会社概要を記載した資料等を持参することが必要です。

そして、この窓口相談により中小企業再生支援協議会が、更に再建計画を策定して金融機関と調整する必要があると判断した場合には、第2次対応(再生計画策定支援)に移行するという流れになります。

第二次対応

第二次対応では、まず、中小企業再生支援協議会の支援業務責任者や窓口責任者だけでなく、認定支援機関である公認会計士等の士業の専門家から構成される個別支援チームが結成されます。

認定支援機関は、金融機関や再生支援協議会によって紹介してもらえることもありますが、ご自分で認定支援機関の登録者がわかるウェブサイトを見ながら探したほうがいいと思います。
認定支援機関の検索は、認定支援機関検索システムでご自分で行いましょう。

そして、チーム内の公認会計士等によって財務デューデリジェンスが、中小企業診断士等によって事業デューデリジェンスが実施され、その調査結果を踏まえて、具体的かつ実現可能性の高い経営改善計画の策定を、中小企業再生支援協議会の支援業務責任者や窓口責任者が支援することになります。

先程も書きましたが、経営改善計画を策定するのはあくまで債務者企業(もしくは認定支援機関の士業の先生方)であって、中小企業再生支援協議会の支援業務責任者や窓口責任者が経営改善計画の策定を実施するわけではありません。

具体的な経営改善計画の例としては、下記のように様々な事業再生スキームが考えられます。
ここに示したスキームはほんの一例であって、個々の債務者の置かれた文脈により様々な再生スキームが考えられます。

  • 金融債権者による債権放棄を含む第二会社方式を利用した債務免除益課税回避のための会社分割スキーム
  • 経営者の自己所有不動産の会社への現物出資による私財提供と金融機関のDDSを組み合わせた資本の増強スキーム
  • スポンサーが出資した新会社への承継事業の営業譲渡スキーム(営業譲渡後の債務者企業は特別清算で処理)
  • 金融債権者による債権放棄を内容とする私的整理ガイドラインの活用スキーム

また、中小企業再生支援協議会スキームでは、経営改善計画が合理的であると認められるために満たすべき数値基準というものがあって、原則として以下のとおりになります。

A:実質債務超過の解消は概ね5年以内
B:概ね3年以内の経常黒字化
C:再建計画完了年度における債務償還年数は概ね10年以内

もちろん、個々の企業の業種、置かれた文脈等に応じて合理的な理由があれば例外的な取り扱いが認められることもあります。
その他にも原則として、経営者責任の履行や株主責任の明確化も必須要件となっています。

これらの数値基準を満たす合理的な経営改善計画は、債務者自らが債権者会議において、計画案および金融債権者による金融支援策を説明し、最終的に金融債権者等のすべてが計画案と金融支援案に対し同意したことを書面等により確認できたことをもって成立することとなり、中小企業再生支援協議会としての経営改善計画策定支援は完了するに至ります。

中小企業再生支援協議会は、経営改善計画策定支援が完了した後も、同計画に盛り込まれている資産等の処分の確認のほか、売上、利益等の数値目標の達成率を定期的に確認する他、具体的な改善策に対して実際に取り組んでいるか、その結果はどうであったか等、いわゆるモニタリングを定期的に実施するものとされています。

中小企業の事業再生のポイントについては、下記の記事を参考になさってください。

スキームにおける数値基準

スキームにおける数値基準先にも記載しましたが、中小企業再生支援協議会スキームでは、再建計画が合理的であると認められるために満たすべき数値基準というものがあって、それは再掲すれば下記のようなものです。

A:実質債務超過の解消は概ね5年以内
B:概ね3年以内の経常黒字化
C:再建計画完了年度における債務償還年数は概ね10年以内

また、金融検査マニュアル等には、「実抜計画」と「合実計画」と呼ばれる計画があり、各々次のような定義となります。

「実抜計画」:実現可能性の高い抜本的な経営改善計画
A:概ね3年以内に債務者区分が正常先となること。
B:関係金融機関の同意を得られること。
C:売上等の予想数値が厳しめに設定していること。

「合実計画」:合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画
A:計画期間が概ね5年以内(中小企業の場合、5年を超え概ね10年以内)であること。
B:計画期間終了後の債務者区分が正常先となること。
C:全ての取引金融機関において、支援を行うことについて文書その他により確認できること。

「実抜計画」の詳細については、「主要行向けの総合的な監督指針」および「中小地域金融機関向けの総合的な監督指針」に記載され、「合実計画」は、金融検査マニュアル(本篇)に記載されているものです。
「実抜計画」が、「要注意先」のうち「要管理先」を対象としているのに対し、「合実計画」は、「破綻懸念先」を対象としている点で、この2つの計画は異なるものです。

中小企業の場合は、「合実計画」の要件を満たしていれば、自動的に実抜計画の要件を満たすことになっています。

金融機関は自己査定を行って、債務者の債務者区分をランクアップする材料として、債務者企業が策定した経営改善計画を「実抜計画」と「合実計画」の要件に照らし合わせて検討するわけですが、「実抜計画」と「合実計画」に該当する経営改善計画であっても、中小企業再生支援協議会のスキームでいう「合理的な再建計画」には必ずしも該当するわけではないことには注意が必要です。

実抜計画と合実計画の詳細については下記の記事を参考になさってください。

私的整理ガイドラインとのちがい

私的整理ガイドラインとのちがいまず、私的整理ガイドラインによる手続は、債務者と主要債権者(メインバンク)が主体となって私的整理を進めるのに対し、中小企業再生支援協議会スキームは、中小企業再生支援協議会という公正中立な第三者機関が、調整役として表に立って各調整等を進めるという違いがあります。

そういった公正中立な第三者による調整機能の結果、中小企業再生支援協議会スキームでは、私的整理ガイドラインによる手続に比べて、いわゆるメイン寄せが生じにくいという違いがあります。

また、合理的な経営改善計画とされる内容については基本的に同じですが、中小企業再生支援協議会スキームでは、債務者企業の経営者が私財を開示した上で、保証履行のためにその私財を提供する場合には、残った個人保証を免除したり、個人破産をせずに引続き経営者として経営の任に当たったり、もしくは経営者一族の誰かに経営者の地位を引き継いだりすることを許容している点が特徴的です。

さらに、中小企業再生支援協議会スキームにおける一時停止や債権者集会等の手続も、実質的には私的整理ガイドラインと同じように進められます。

ただし、中小企業再生支援協議会スキームでは、一時停止を発した後3ヶ月以内に合意に至らなくても引続き協議を継続でき、また、たとえ合意に至らなくても必ずしも法的整理手続へ移行しなくてもよく、同意しない債権者の協力を除外した経営改善計画書の策定での同意の道を探ることも認めている点が、大きな相違点としてということが挙げられます。

このようなことから、両者は基本的手続において共通する部分は多いものの、中小企業再生支援協議会スキームによる方が柔軟で弾力的な運用を期待することができ、債務者の事業再生の可能性をより広げるものであるということができます。

加えて、税務処理の観点からは、中小企業再生支援協議会スキームで支援をした案件は、私的整理ガイドラインによった支援スキームと同様に、債務者側においては、一定の要件のもと、債務免除益について青色欠損金および期限切れ欠損金との損益通算が認められます。

また、企業再生税制が利用できるかどうかは、債権放棄をする金融機関が複数あることが要件となります。

一方、債権者側においては、債権放棄額を損金に算入することが認められています。

企業再生税制については下記の記事を参考になさってください。

中小企業再生支援協議会のメリットとデメリットについては、下記の記事を参考になさってください。

その他の準則型の私的整理手続きについては、下記の記事を参考になさってください。