整理回収機構(RCC)とは何か?【単なる回収屋ではありません】

整理回収機能(RCC)は、昔ほど名前をきかなくなったが、今でも業務を行っているのだろうか?

昔は整理回収機構(RCC)といえば、できるだけ多く回収して倒産の追い込むというような悪いイメージしかなかったけど、実のところどうなんだろうか。

また、整理回収機能(RCC)は具体的にどんな仕事をしているのだろうか。

このように、昔は良く聞いた整理回収機構(RCC)という名前を時々思い出す経営者の方は、実は整理回収機構(RCC)の真の姿をよく理解してないかもしれませんね。

この記事を読むことで、整理回収機能(RCC)とは何なのか、また、整理回収機能(RCC)の具体的な業務内容がよく理解でき、実は再生支援業務にも長けていることが理解できます。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生に取組んで20年以上、200社超の事業再生案件に関わって、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

整理回収機構に対するインサイト

整理回収機構に対するインサイト結論から申し上げれば、整理回収機構はその成り立ちから「回収屋」というネガティブなイメージが強かった結果、RCCが債権者の場合には、民間の金融機関が融資に消極的になることも多く事業再生がスムーズに進まなかったことという一面もあり、そのような中で粛々と不良債権処理を進めた機構の貢献度はもっと評価されて然りということです。

たとえば、債務者の所有する不動産の登記簿謄本を入手して、そこに担保権者として整理回収機構の名前があると、それだけで他の金融機関は融資に及び腰になるケースがとても多いのです。

整理回収機構は、その成り立ちを金融業界の人間は誰もが知るところであり、「回収をおこなう公的機関」なので、民間の金融機関が新たに融資してもそれは整理回収機構への返済に向かうだけではないかという、整理回収機構の持つ「回収屋」というネガティブなイメージから、新規の融資を難しくさせてしまっていました。

また、整理回収機構には、銀行の破綻処理の過程で受皿銀行に引き取ってもらえない債権が集約されていましたので、今後その事業に手を入れても業況が回復する可能性が低いという見方をされてしまい、融資リスクが高いと判断され、融資先としては敬遠されたことも多かったように思います。

以上のようなことから、整理回収機構に対するネガティブなイメージが先行して再生実務が進みにくいという問題があったことは確かであり、このような中で不良債権の処理を進めた整理回収機構のスタッフの方々の貢献には感服する次第です。

また、整理回収機構に限らず誰が債権者であっても、事業再生においては、債権者が債権放棄をする場合には、経済合理性が確保されていることが求められます。
原則として、この要件を満たさない場合には合理的な再建計画とは認められず、再生実務は頓挫することになります。

経済合理性とは、債権放棄を実施する場合に、債務者を破産させた場合の回収額よりも、債権者が債権放棄を実施した後の将来の事業収益から弁済をさせたほうが回収額が多くなることをいいます。

整理回収機構は、その唯一の株主が預金保険機構であり、国民の税金を原資として成り立っている公的性格の強い債権回収会社であるので、経済合理性を満たさないような債権放棄を実施することは、広く国民に負担をかけることに他ならないので、整理回収機構は民間の金融機関よりも経済合理性の確保については非常にセンシティブです。

国民負担を避けるという大きな命題をも抱えながら、再生実務の現場で不良債権の処理に奮闘された整理回収機構のスタッフの方々の気苦労は大変なものだったろうと思います。
債権カットして事業を継続させてあげたいが、経済合理性が邪魔をしてそうもいかず、事業用の不動産の処分をせざるを得ないようなケースは断腸の思いだったかもしれません。

以上のような制約の中で、日本の不良債権の処理に多大な貢献をした整理回収機構の存在は現代を生きる我々にとってとても大きなものだと感じざるを得ないのです。

整理回収機構(RCC)とは何か?

整理回収機構とは何か?株式会社整理回収機構は、株式会社住宅金融債権管理機構(略称:住管機構)と整理回収銀行(略称:RCB)が合併して1999年に創設されたものです。

北海道拓殖銀行、山一證券が破綻した後、日本の金融システムは一気に不安定さを増したために、これまで以上に強力で効率的な債権の回収機関の必要性が声高に叫ばれました。
そこで、1999年に住宅金融債権管理機構(住管機構)が整理回収銀行(RCB)を吸収する形で両社が合併し、株式会社整理回収機構(RCC)が発足したのです。

では、株式会社整理回収機構の母体となった、株式会社住宅金融債権管理機構(略称:住管機構)と整理回収銀行(略称:RCB)の2つの公的機関の設立の経緯とその業務の内容を概観しておきましょう。

住宅金融債権管理機構(略称:住管機構)とは何か?

高度経済成長期を終え、所得も大きく伸びた1970年代には、住宅に対する需要が大きく伸び、これに伴って住宅資金の需要も大きく伸びていました。

この頃の銀行は、個人向けローンのノウハウが乏しく、また、小口の融資は手間がかかるだけでそれほど儲からないため、さらには、重厚長大産業分野がまだまだ成長過程にあり、この分野に対する融資に注力していたことから、個人の住宅資金の需要に銀行が応えることができていませんでした。

この状況を重く見た大蔵省(現:財務省)は、銀行等の金融機関が共同で出資して、住宅金融の専門会社を設立することを主導しました。
こうしてできたのが住宅金融専門会社(通称:住専)です。

大蔵省が共同で出資して住専を設立させたのは、会社法で定められた5%ルールに抵触しないようにするためであり、各銀行の住専への出資は最高でも5%となりました。

日本住宅金融㈱は、三和銀行、東洋信託銀行、三井信託銀行等が、住宅ローンサービス㈱には第一勧業銀行、富士銀行、三菱銀行等が、日本ハウジングローン㈱には、日本興業銀行、日本債券信用銀行等が、第一住宅金融㈱には、野村證券、日本長期信用銀行が、地銀生保住宅ローン㈱には、日本生命等の生命保険会社が、協同住宅ローン㈱には、農林中央金庫、JAバンクが、各々5%を上限に出資して、多くの住専が生まれたのです。

住専は、母体の金融機関から資金を調達し、個人や事業者に融資を行いましたが、店舗網を持たいないので、案件は母体行から紹介を受けるのが一般的でした。
そして、代表者には多数の大蔵省のOBが天下っていて、母体行からも役員を送り込まれていました。

1980年代になると、資本市場が活発に機能し始めたこともあって、大企業は銀行融資等の間接金融から、資本市場からの直接金融に切り替えることが多くなり、銀行の収益力に陰りが見え始めました。

そこで、銀行はそれまで手を付けていなかった個人の住宅ローンに目を付けて、住専に送り込んだ役員経由で顧客リストを入手し、住宅ローンの肩代わりを受けることで住専から顧客を奪っていきました。

さらに、低利・固定・長期で住宅ローンを提供している住宅金融公庫も住専のビジネスを圧迫し続け、大手信販会社も住宅ローンに注力し始めたことから、住専は競争の激しい環境に置かれることとなりました。

このような中で、住専は事業者向けの不動産融資に活路を見出し、その分野へ傾注しだしましたが、住専のこういった動きに対して母体行がこれに乗じて、銀行本体ではリスクが高くて融資できない相手、反社会勢力系や不良債権化した融資先などを紹介し、リスクの高い融資を引き受けさせる存在として活用し出しました。

世の中はバブルの好景気を迎え、地価高騰の影響から住専の融資額は一気に膨らんでいきました。

銀行に対しては1990年3月の総量規制が功を奏してバブル崩壊へと導いたのですが、この総量規制は住専や、農協系の金融機関を対象としなかったために、住専には農林中央金庫等の農林系金融機関から資金が流れ、不動産投資の融資を支えました。

銀行への総量規制によってバブル崩壊への道を加速させた一方で、住専等への総量規制の適用はないという矛盾した政策によって、バブル崩壊による損失は大きく膨らんだ事実は否めないでしょう。

このような中で、バブルは臨界点に達して脆くも崩壊することになりましたが、ご多分に漏れず、住専の不動産融資の多くが地価の下落に見舞われ、融資先が抱え込んだ不動産は処分するにできない塩漬け状態となり、住専は多額の不良債権を抱え込むこととなりました。

当事者たちは景気の回復による地価の高騰に期待しましたが、そのような時代は再来せず、この状況を問題視した連立与党は、1995年6月のいわゆる住専国会で、これを政治問題としました。
これを受けて大蔵省は同年8月に住専立ち入り調査が実施され、総資産の約5割に相当する6.4兆円の損失を抱え込んでいることが判明するに至ったのです。

この問題を先送りにすることは、金融システムの破綻を招くリスクがあることから、早期に損失を処理する必要性に駆られた政府は、母体行3.5兆円、一般行1.7兆円、農林系金融機関5,300億円の債権放棄を要請し、不足分の6,850億円については公的資金の投入を行うことを決定しました。

また、農林系の協同住宅ローンを除き、住専7社は実質的に破綻・消滅させました。

このため、預金保険法を改正して、預金保険機構の子会社として住専処理機構(のちに住宅金融債権管理機構と改称)を新たに設立して、住専7社の資産の譲渡を受けて、その債権の回収に当たらせることとしました。

これらを内容とする「特定住宅金融専門会社の債権債務の処理の促進等に関する特別措置法」が1996年の通常国会に提出されましたが、住専の不良債権処理に6,850億円の血税を投入することに対して多くの批判が出て、審議が紛糾しました。
これがいわゆる住専問題と呼ばれるものです。

このような背景の中で、この法律は最終的に可決され、住専が抱える不良債権の回収のため、1996年に住宅金融債権管理機構(住管機構)が設立され、中坊公平弁護士(元日弁連会長)が社長に就任し、強力な回収を開始したのです。

整理回収銀行(RCB)とは何か?

整理回収銀行(RCB)は、東京の2つの信用組合である東京協和信用組合と安全信用組合が乱脈経営を原因として破綻した際に、その受け皿銀行として1995年1月に設立された東京共同銀行が、翌1996年9月に改組されて整理回収銀行と名称変更したものです。

その後、1998年2月の預金保険法の改正で、信用組合以外の金融機関の処理も可能となり、1998年5月までに15の信用組合から事業の譲渡を受け、その後には、北海道拓殖銀行、徳陽シティ銀行や、六甲、西武、相模原等30の信用組合の資産の譲渡を受け、不良債権の引受け金融機関として活動していました。

RCCの業務

RCCの業務こういった経緯から設立された整理回収機構は、様々な業務を手掛けており、預金保険機構等との回収協定を結んだ銀行として、預金保険機構からの委託を受けた金融機能の再生等に関する業務を幅広く行なっています。

具体的に箇条書きにすると下記に記載のとおりとなります。

①破綻した旧宅金融専門会社の債権回収(住専法)
②破綻金融機関からの債権の買取並びにその管理、回収及び処分(預金保険法)
このような経緯の中で設立されたのが整理回収機構ですので、RCCが管理している債権は大きく分けると、住宅金融債権管理機構(住管機構)の管理していた住専債権と、整理回収銀行(RCB)が管理していたRCB債権とに分かれます。

住専債権は約4兆7千億円で買い取ったものですが、すでに3兆円以上が回収されており、破綻金融機関から買い取ったRCB債権も約4兆7千億円で買い取って、回収額は5兆円を超える額に達しており、取得価格を上回る回収実績を持っています。

現在では、整理回収機構は破綻金融機関からの資産譲受の業務は終了しており、また、今後、破綻金融機関からの大規模な資産の譲り受けは予定しておらず、現在保有する債権の回収業務がRCCの主たる業務となります。

③健全金融機関等からの債権の買取(金融機能の再生のための緊急措置に関する法律等)
整理回収機構には、経営の健全な金融機関から買い取った不良債権(53条債権)もありますが、債権全体に占める割合は僅少です。

④金融機関に対する資本注入等(金融機能の早期健全化のための緊急措置に関する法律等)
金融機関に対する資本注入は、第3者割当増資と言う形で金融機関が発行する優先株式や劣後ローンの引き受けを整理回収機構が行い、必要な資金を預金保険機構が貸し付けるという形で実行されます。
この資本注入は、一般的には「公的資金の投入」と呼ばれているものです。

⑤金融機関の特定回収困難債権の買取り並びにその管理、回収及び処分(預金保険法)
2011年10月の改正預金保険法の施行によって、金融機関が反社会的勢力との関係断つことを目的に、金融機関の財務内容の健全性の確保と業務の円滑化を通じて、金融システム全体の安定化を図るため、整理回収機構に「特定回収困難債権」の買取り・回収機能が付与されました。

この買取制度は、整理回収機構が暴力団等の反社会的勢力に対する債権等の買取りを行うもので、買取りの対象となる債権は、金融機関が保有する貸付債権のうち「金融機関が回収のために通常行うべき必要な措置をとることが困難となるおそれがある特段の事情があるもの」と預金保険法に規定されているものです。

そのような事情の要件として、以下の2つが示されています。
1.債務者又は保証人が暴力団員であって、当該貸付債権に係る契約が遵守されないおそれがあること(属性要件)。
2.当該貸付債権に係る担保不動産につき、その競売への参加を妨害する要因となる行為が行われることが見込まれること(行為要件)。

具体的には、①債務者等が暴力団等である債権、②債務者等が暴力団でなくても、競売妨害、暴力的な要求行為、脅迫的な言動等による回収妨害行為が見込まれる債権等、民間金融機関が管理・回収することが困難な債権をいいます。

こういった債権については、整理回収機構がこれまで培ってきた債権の回収管理ノウハウを活用して、預金保険機構や警察と連携・協力して、厳正な管理・回収を行っています。

⑥承継銀行業務(預金保険法)
2011年10月の改正預金保険法の施行により、従前よりもより柔軟で効率的な金融機関の破綻処理を可能とするために、整理回収機構に承継銀行機能が付与されました。

承継銀行業務とは、破綻した金融機関から最終受皿となる金融機関に譲渡すべき付保預金及び資産をいったん承継し、最終受皿金融機関に譲渡するまでの間、その業務を暫定的に維持・継続するブリッジ・バンクとしての機能をいいます。

整理回収機構では、その業務については、破綻金融機関ごとに事業部制を採用し管理することとなっています。

⑦事業再生支援業務(預金保険法)
整理回収機構は、設立当初から事業再生や企業再生に注力し、債務者の再生計画の策定に関与するなどの活動を通じて、債権者の立場での債務者の再生に傾注してきました。

また、他の金融機関から持ち込まれた再生案件については、信託機能を活用した再生支援も行っています。

さらに、事業再生や企業再生を通じて、金融機関の不良債権処理に止まらず、地域経済の活性化や従業員の雇用維持にも大きく貢献しています。。
債権放棄等を伴わないその他の事業再生支援についても、貸付条件変更等により債務者の生活の維持や事業の再建・継続を図ることにも積極的に取り組んでいます。

詳しくは、RCCの事業再生支援業務RCC企業再生スキームの項をご覧ください。

⑧サービサー機能を活用した反社債権等の買取及び管理・回収受託業務(預金保険法)
2013年12月に金融庁から公表された「反社会的勢力との関係遮断に向けた取組みの推進について」に基づいて、特定回収困難債権の買取制度の対象とならない信販会社・保険会社等が保有する反社会的勢力に対する債権等を、整理回収機構のサービサー機能を活用して買取り又は管理・回収の受託を行うこととし、2014年3月より業務を開始しています。

この業務は、信販会社・保険会社等と反社会的勢力との関係を遮断することを目的としており、こういった債権の性格に鑑み、厳正な管理・回収を行っています。

⑨関与者責任の追及(預金保険法)
破綻金融機関の破綻処理には公的資金が投入されていることなどの理由で、破綻金融機関等の旧経営陣に対する責任追及を厳しく行うことが、整理回収機構に課せられた任務の一つとなっています。

こういった金融機関の破綻の原因となった融資事案等に関する旧経営陣の関与責任について、預金保険機構との密接な連携・協働の下、徹底した調査および証拠の収集につとめ、旧経営陣に対する民事損害賠償の請求・訴訟提起などを行うこととされています。

⑩刑事告発および民事執行(預金保険法)
預金保険法等の法律により、整理回収機構には、業務遂行の過程で犯罪と考えられる事案を発見した場合には、刑事告発を行うことが義務づけられているため、こういった犯罪行為に対し、預金保険機構との密接な連携・協働を図り、厳正に対応しています。

また、担保物件等への反社勢力である暴力団等の不法占拠等に対しては、これを排除すべく民事執行等の保全処分を合わせて積極的に行っています。

RCCの事業再生支援業務

RCCの事業再生支援業務整理回収機構はもともと、譲り受けた債権の回収をする債権回収会社としてスタートしていますが、2001年に公表された骨太の方針「=今後の経済財政運営および経済社会の構造改革に関する基本方針」の中で不良債権処理の促進が謳われて以降、事業再生に注力をするようになりました。

整理回収機構が手掛ける事業再生は2種類あって、1つは整理回収機構自体が譲り受けた債権の債権者として事業再生を行う場合、もう1つはメイン銀行から相談を受けて、第3者の立場として調整機能を発揮する場合です。

今でこそ、調整機能を発揮する公的機関として、中小企業再生支援協議会や地域経済活性化機構(REVIC)、その他にも事業再生ADRなども事業再生のインフラとして整備されていますが、それらがまだ存在せず、もしくは存在はしているが機能が不十分なために私的整理ガイドラインに則るしか私的整理ができなかった時代には、整理回収機構に第3者的に公平中立な立場で調整機能を期待される案件が2010年前後には多くありました。

整理回収機構が調整役で入ることで、私的整理ガイドラインの大きな問題であったメイン寄せという問題も大きく改善されこととなりました。

また債権者に都市銀行が入っている案件などは、中小企業再生支援協議会では債権者調整が難しい事例もあります。
そのような案件では、中小企業再生支援協議会ではなく、整理回収機構に調整機能を依頼したほうがいい場合が確かにあるというのが私個人の実感です。

RCCの問題点

RCCの問題点ところで、整理回収機構は預金保険機構を唯一の株主とする株式会社であり、それは国民の税金で作られた会社という非常に公的性格の強い部分があるため、事業再生の現場ではなかなか判断が難しい事例が多くあるようです。

たとえば、不動産担保とその事業の収益が見合わないケースなどは典型例でしょう。
これは整理回収機構にだけあてはまる問題ではなく、他の一般の金融機関でもあてはまることなのですが、債権者が誰であれ,担保価値を割り込むような再生計画に債権者は基本的に同意することはできません。

特に、公益性が求められる整理回収機構は債権者としてこの姿勢を崩すわけにはいきません。

たとえば、町工場を経営している債務者企業に整理回収機構に対する債務が5億円あり、その町工場の土地の評価額が3億円で、年間利益はだいたい年間 1,000 万 円であるような場合、利息、税金を無視しても10年間で1億円の元本の回収、5億円の全額返済には50年かかる計算になりますから、債権の額面額の全額の回収は不可能です。

こういうケースは整理回収機構の担当者からすれば、非常に悩ましいでしょう。

少ないながらも利益を生んでいるので、事業価値はあるのだけれども、整理回収機構の場合、回収の極大化という公的機関としての大きな使命があるので、年間 1,000万円の弁済を50年間続けて返済してくださいとも言えないのです。
公的機関としての性格が、経済合理性や回収額の極大化という概念をより強固なものとさせてしまうのです。

このような例では、債権の購入額にもよりますが、たとえば5年間1,000万円の弁済を継続させて、5年後に土地を売却させて回収を図らざるを得ないのだと思います。
土地を友人の経営者などに購入してもらうことで事業の継続は可能となるでしょうが、そのようなスポンサーが現れなければ事業廃止ということになります。

間違っても、年間1,000万円の弁済を20年継続した後の残債は債権放棄しますというような計画は認められないわけです。

また、整理回収機構が債権者であると、なかなか事業再生もスムーズに進まないという現実もあります。

なぜならば、登記簿謄本をとった時に、担保権者として整理回収機構の名前が登記簿上に現れてしまうからです。

所有不動産の登記簿謄本に整理回収機構の名前があると他の金融機関は融資に及び腰になるケースがとても多いのです。

整理回収機構は、回収をおこなう公的機関なので、新たに融資してもそれは整理回収機構への返済に向かうだけではないかという、整理回収機構の持つ「回収屋」というマイナスのイメージから、新規の融資を難しくさせてしまいます。

銀行員の整理回収機構に対するインサイトは、『回収屋じゃん!』なのですね。

さらに、金融機関の破綻の局面で受皿金融機関に債権が譲渡されずに、整理回収機構に譲渡された債務者なので、業況の回復可能性が低いという見方をされてしまい、リスクの高いと判断され、融資を避ける傾向はどの金融機関も強いので、新規融資を得られないことも多いと思われます。

以上のようなことから、再生実務の中では、整理回収機構のイメージが邪魔をして再生実務が進みにくいという問題があったのです。

一方、政府もこの辺りの問題はしっかりと察知していて、信用保証協会の保証メニューにおいてしっかりと対策を講じています。

このような場合には、信用保証協会のセーフティ・ネット保証制度(8号:金融機関の整理回収機構に対する貸付債権の譲渡)が有効ですので、もしこのようなケースに該当する場合には、お近くの信用保証協会へお問い合わせください。

セーフティ・ネット保証については下記の記事を参考にされてください。

RCC企業再生スキーム

RCC企業再生スキームさて、整理回収機構にはRCC企業再生スキームという事業再生のスキームが用意されています。

RCC企業再生スキームは、整理回収機構が現在行っている企業再生の対象、手続、再生計画 の要件等を取りまとめて公表したものであり、RCCが今後行う企業再生も、RCC企業再生スキームにしたがって行われることとなるとされています。

したがって、整理回収機構が保有する債権に関する事業再生も、第三者の調整役として関わる事業再生の案件の多くが、RCC企業再生スキームに則って処理されていくことになります。

RCC企業再生スキームの対象となる私的整理

(1)「RCC企業再生スキーム」の対象となる「私的再生」は、RCCが主要債権者(再生対象債務者に対する金融機関債権者のうち、相対的に上位のシェアを有すると認められる者)である再生可能な債務者について、会社更生法や民事再生法などの法的再生手法によらず、金融債権者間の合意の下で事業の再生を行わせることにより、事業収益から最大限の回収を図ることを意図して行われるものであり、すべての「私的再生」を対象としない限定的なものとされています。

<出典:整理回収機構-RCC企業再生スキーム

私が事業再生アドバイザーとして関与した債権放棄を伴う事業再生のケースで、主要債権者であるメイン銀行が手続きの透明性の確保を求めてきたので、整理回収機構に第3者的立場で調整機能をお願いしました。

この時は、債権者の有する債権を銀行から一旦整理回収機構へ譲渡してもらって、整理回収機構に債権者として再生スキームに入ってもらい、RCC企業再生スキームに則って、私的整理手続を進めました。

その後、整理回収機構から債権放棄を受けた後に、すぐに元の金融機関に債権を買い戻してもらい、実質的にはこれらの金融機関から債権放棄を受けた形になりました。

このケースでは、整理回収機構はワンタッチで債権を元の債権者に買い戻させるという再生スキームをとりましたが、RCCが債権者であるのでRCC企業再生スキームを使うことができたわけです。
債権者にしても、債権放棄の税務リスクを債権の譲渡損に置き換えて、回避することができました。

(2) 「RCC企業再生スキーム」にしたがって行われる「私的再生」は、債権者の立場にたって行われるものであるので、事業を清算した場合の回収額よりも、事業を再生継続させた場合の回収額が債権者にとって上回ると見込まれる場合にのみ、すなわち債権者にとって経済合理性が認められる場合にのみ行われるものとされています。

<出典:整理回収機構-RCC企業再生スキーム

整理回収機構は、公的機関であり公益性が強く求められるため、経済合理性を満たさない再建計画は認められないものとしています。

担保価値と事業収益のバランスが悪いようなケースでは、経済合理性の確保と事業再生とのアンビバレントな状況の回避がなかなか難しいですが、このあたりは整理回収機構のスタッフの方々の頭を悩ませることが多かったように思います。

整理回収機構が公的機関というのであれば、国民の多くがどのように思うのかという観点から、経済合理性と事業の再生・債務者の生活・生命の尊さとをバランスよく判断するべきでしょう。

経済合理性の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

(3) このような「私的再生」を行うには、当該債務者自身の再生への意欲、自助努力が前提であり、また、債権者に債務の猶予や減免を求めるものである以上、経営責任及び株主責任の明確化が求められることはいうまでもないこととされています。

<出典:整理回収機構-RCC企業再生スキーム

自助努力をすること、株主の責任をとることは当然であるとして、経営責任については、これを履行することを原則としながらも、案件ごとに勘案するのが実務的な取扱いであろうと思われます。

私が事業再生アドバイザーとして関与した案件でも、仕事のノウハウが社長個人に俗人化されてしまっているケースが多くありました。

このような場合に、社長に経営責任を履行させて退任させてしまうと、経営自体が成り立たず事業の継続性が担保できない再生計画となってしまうため、社長の自宅を含めた個人資産を保証履行の形で返済へ充当し、役員報酬もしばらくの間大きくカットして、社長の続投を債権者に認めてもらった案件がいくつかあります。

中小企業の場合には、事業のノウハウが社内で形式知として共有されているケースはそう多くなく、逆に社長個人の暗黙知となっているケースが多くあります。

形式知として社内で共有するのが本当にいいのか、暗黙知だからこそ模倣されることなく、中小企業でありつつ独自性を発揮できるのかもしれません。

対象となり得る企業

次のすべての要件を備える企業であれば対象債務者になり得るものとされています。
これは、他の準則型の私的整理の手続きと大きく変わるものではありません。

(1) 過剰債務を主因として事業の継続が困難な状況に陥っており、自力による再生が困難で あると認められること。

(2) 弁済について誠実であり、その財産状況を債権者に適正に開示していること。
企業再生を行うのは、あくまでも債権者の利益を最大限確保するためであり、債務者が弁済に誠意がなく、財産状況も適正に開示していないようでは、債務者を信頼できず、債務者と当該事業や債務の再構築についてそもそも協議を進めることができないのである。

(3) 債務者の再生の対象となる事業自体に市場での継続価値があること。
そもそも事業自体が、従業員や取引先の協力やリストラ等を見込んだ上で採算性がとれるようなものでなければ、いくら債務免除等を含む債務の再構築を行っても事業を継続していくこと は不可能なので、企業再生を行うことは困難である。

(4) 債務者の事業の再生を行うことが、債権者としての経済合理性に合致していること。
会 社である債権者は、その株主等との関係でその利益を最大限にするように行動しなければその責務を果たしていることにならないので、債権者として債務者の企業再生に 応じるためには、清算型回収に比してより多くの回収が見込めること、すなわち、債権者としての経済合理性があることが必要となる。

他の準則型の私的整理手続きと比較して、相違点を述べるとすれば、債務者の誠実性を文言として要件に記載しているところでしょうか。

債務者の誠実性は、私的整理手続きを行う上で大前提となる重要な事項ですが、私的整理を実施する上での前提となるものなので、他の準則型の私的整理手続きでは文言として要件に加えられていません。

なお、整理回収機構では、対象債務者の再生適格要件の判定に当たっては、「再生適格要件のチェックリスト」 を使用して、その適格性を判断しています。

その他の準則型私的整理の手続きについては下記の記事を参考にされてください。

事業再生アドバイザーについては下記の記事を参考にされてください。