企業再生を相談できるコンサルタントは少ない【残念ながら事実です】

企業再生のコンサルタントに相談をして、先代から受け継いだ当社の経営上の問題点を洗いだしてもらって、これからの時代を生き抜けるだけの力のある会社に導いてもらいたい。

でも、なかなか企業再生のコンサルタントって周りにいないからすぐに相談なんてできないし、そもそも企業再生のコンサルタントって、なんだかイメージ的に古臭いんだけど、現代的なマーケティングやウェブ・マーケティングの相談にも乗ってもらえるんだろうか。

企業再生のコンサルタントに相談すれば、売上を大きくするためのマーケティング・アイデアや、新しいビジネスのコンセプト開発の相談にも乗ってもらえるのだろうか。

そんなだから、古臭いイメージしかない企業再生のコンサルタントに相談するにしても不安で仕方がないわ。

こんなお悩みを抱えた経営者の方は今とても増えているようで、特にコロナ・ショックを契機として、自社の構造改革を志向されている賢明な経営者が、企業再生のコンサルタントを探しているケースが増えているようです。

この記事を読むことで、企業再生や事業再生のコンサルタントを名乗っている方の多くが、実は「片手落ちの企業再生」の仕事しかできないコンサルタントであり、真の意味での再生のプロフェッショナルな仕事をこなせる人は一握りであることがよく理解でき、どのようなコンサルに相談すればいいのかがよくわかります。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

事業再構築補助金に採択される方法については、下記の記事を参考にされてください。

企業再生を相談できるコンサルタントは少ない

企業再生を相談できるコンサルタントは少ない結論から申し上げますと、中堅・中小企業向けの企業再生コンサルタントを名乗る者の中で、本当の意味での企業再生を実現できるコンサルタントは極めて少ないというのが日本の現状です。

企業再生=企業のビジネスを再生することという当り前の言葉の定義からすれば、企業のビジネスそのものを再生して収益力を上げることができる企業再生のコンサルタントはなかなか見つかるものではないでしょう。

日本の中小企業における企業再生の大半が、財務の再生、つまりは過剰債務への対処と、それに基づく経営改善計画書の形式性の確保にだけに終始していますが、その一つの原因が、ビジネスには疎い銀行員が主導して企業再生実務を牽引してきたことにあり、その結果、日本ではビジネスそのものの再生を企業再生の本丸であると位置づける企業再生実務が育たなかったのです。

また、企業の収益力を上げるというのは、固定費をカットして見せかけの利益を上げることではないはずですが、痛ましいほどの固定費カットを強要して、見せかけの利益でPLを改善したように見せる銀行主導の企業再生もいまだに横行しています。

本当の意味での企業再生のコンサルタントを見つけるのはなかなか難しいのですが、日本の企業再生のに備わっている資質を検討しながら、どういった企業再生のコンサルタントを見つけて相談すればいいのかを検討していきましょう。

企業再生のコンサルタントの問題点

企業再生のコンサルタントの問題点

企業再生のコンサルタント1―認定事業再生士

日本の企業再生のコンサルタントといえば、まず思いつくのが事業再生士でしょう。
正式名称は「認定事業再生士」といい、一般社団法人日本ターンアラウンド・マネジメント協会(略称:日本TMA)という民間団体が認定を行っている企業再生の専門家に与えられる資格の名称です。

「認定事業再生士」の資格を認定してもらうためには、「経営」、「会計」、「法律」の3科目の試験に合格し、一定の企業再生のコンサルティングの実務経験を有することが必要です。

この試験に合格して晴れて「認定事業再生士」となって企業再生のコンサルタントとして企業から相談を受け、企業再生の実務に携わったとしても、「企業再生=企業のビジネスそのものの再生」という当り前の定義の観点からすれば、企業再生のコンサルティングなどできる人はほぼいないと思われるのです。

それは、この試験の科目とその試験の内容を分析すれば簡単にわかることなのですが、この試験を受ける過程で、企業再生のコンサルタントには必須の「マーケティング」を学ぶ機会が全くないことです。
また、中小企業がこれからの時代生き残っていくためには、様々な意味でウェブ・マーケティングが必須の時代なのですが、「ウェブ・マーケティング」を学ぶ機会も全くありません。

したがって、この試験を突破して晴れて「認定事業再生士」という企業再生のコンサルタントとなった人は、企業から企業再生の相談を受けても、マーケティング思考や、ウェブ・マーケティングのテクニックを駆使して、「企業再生=企業のビジネスそのものの再生」を導けるとは到底思えないのです。

この試験を受けに来る人達は、純粋に企業再生ができるようになって、企業再生のコンサルタントとして様々な相談を受け、社会に役立ちたいとの思いを持っていらっしゃることは間違いないのですが、残念ながら、この民間資格を創出した人たち、つまりは日本TMAの理事たちにマーケティングやウェブ・マーケティングに関する知見がないことが大きな原因だと思うのです。

日本TMAの理事会のメンバーを見ていても、その理事会は会計士や弁護士や税理士という旧世界のエスタブリッシュメントを中心に構成されており、誰一人としてマーケティングの専門家など関わっていないのですから仕方がないのです。

「認定事業再生士」の資格試験の模擬試験はウェブ上に公開されていますので、これを実際に解いてみた記事が下記になります。ご参考までに。
もともと会計士である私からすれば、会計士が高得点を取りやすい出題となってしまっていますね。

事業再生士補については、下記の記事を参考になさってください。

企業再生のコンサルタント2―認定支援機関

次に、日本の企業再生のコンサルタントといえば、経営革新等支援機関(認定支援機関)に登録している士業の先生方を思いつくのではないでしょうか。
認定支援機関は、中小企業等の様々な経営課題に対処できるように整備されたもので、多くの税理士や会計士や弁護士等が登録をしています。

そして彼ら士業の先生方の多くは、認定支援機関として受託可能業務に「企業再生(事業再生)」を掲げていらっしゃいます。
ウェブ上で、企業再生を業務としている士業の先生を見つけて、企業再生のコンサルティングの依頼をしてみたものの、思うようなサービスを受けることができなかったとお嘆きの経営者の方も多いようです。

それもそのはずで、彼ら士業の先生がいうところの企業再生や事業再生は、認定支援機関に求められる「経営改善計画策定支援業務」を指していることがほとんどです。

お金を借りている銀行に、毎月の返済がしんどくなったので、返済額の減額等(リスケ)をお願いしたり、金利の減免をお願いしたりする場合には、銀行からの求めに応じて、「経営改善計画」を策定する必要があるのですが、多くの中小企業はその策定方法をご存じないので、その策定を代行する「経営改善計画策定支援業務」という仕事があり、認定支援機関にその策定を依頼することが求められています。

経営改善計画書を策定して提出を受けておけば、銀行はリスケに応じても不良債権とはならないので、銀行は追加で貸倒引当金を設定する必要がなく、銀行の損益計算書を傷めることがないので、債務者が要望するリスケに応じる場合には、銀行は必ず経営改善計画書の策定を求めてくるのです。

そして、認定支援機関の士業の先生方の言う企業再生は、形式的な経営改善計画の策定を代行する業務に過ぎないのであって、企業のビジネスそのものの収益力を上げるとか、マーケティング思考を発揮して新たな顧客を開拓するとか、コンセプト開発による新商品のアイデア出しを行うとかいう類のものではありませんし、問題解決思考を発揮して、問題の発見、課題の設定、ソリューション案のアイデア開発と実行支援といった類のものでもありません。

このように、認定支援機関の先生方の業務範囲に自らが記載している「企業再生(事業再生」」とは、経営改善計画策定業務でしかないのです。

そもそも会計士や弁護士や税理士といった日本の士業の多くは、各々、会計と監査の専門家、法律の専門家、税法の専門家であり、そもそもビジネスに必須のマーケティングやウェブ・マーケティング、戦略論、オペレーション理論の専門家などではなく、自分の専門分野の知識・知見の習得に忙しく、そういった門外漢の分野の学びをする機会などほぼないわけです。

こういったことも勘案すれば、認定支援機関に登録している士業の先生方によって行われる「企業再生のコンサルティング」の中身は自ずと察することができ、彼らが企業再生のコンサルタントとして、企業再生の相談に応じることなどできないことはすぐにわかるでしょう。

認定支援機関については下記の記事を参考になさってください。

認定支援機関である税理士や会計士が導入を勧めることの多い、管理会計ツールである予算実績差異分析については、下記の記事を参考になさってください。

企業再生のコンサルタントの問題点

大手企業の企業再生を担うことが多い大手の戦略系のコンサルティング・ファームなどの人材は、極めて優秀で、マーケティングやデジタル・マーケティングに詳しいスタッフには事欠きません。
しかしながら、そういった大手のコンサルティング・ファームのコンサルタントに企業再生の相談することは経済的な点で多くの中小企業には不可能です。

そして、中堅・中小企業の企業再生を担うコンサルタントとして期待される認定事業再生士や認定支援機関の士業の先生方も、その多くがB/S(貸借対照表)の再生(企業の負担する債務の調整)や経営改善計画の形式性に注力するだけで、銀行との交渉で債務免除やDDS(債務の劣後化)、もしくはリスケジュールをまとめること、そして、それらを計画書にまとめて関係者の合意を取りつけることに終始してしまっているのが、日本の企業再生の実態なのです。

「企業再生=企業のビジネスそのものの再生」という当り前の定義からすれば、問題解決思考を使って、ビジネス上の問題をあぶりだして適切に課題を設定して、具体的なソリューション案を立案し、実行にも伴走してさしあげること、もしくは、マーケティング思考やウェブ・マーケティングのテクニックを使って、新たな課題を作り出して企業のビジネスをジャンプさせることも、企業再生のコンサルタントには必須の基本的な能力なのですが、認定事業再生士や認定支援機関の士業の先生のほとんどが、そういった真の意味での企業再生のコンサルタントの役割を果たすことができていないのです。

日本の事業再生の問題点については、下記の記事を参考になさってください。

企業再生のコンサルタントに求められる資質

企業再生のコンサルタントに求められる資質企業再生のコンサルタントに求められる基本的な資質については、以下の記事にまとめていますので、そちらをご覧になってください。

これらの知識や知見以外にも、企業再生のコンサルタントには必須の能力が実はあると私は思っていて、ここでは3つの力をあげておきます。

経営者と同じビジョンを見ることができる力

企業再生のコンサルタントに相談することが必要となったフェーズにある会社の経営者は、目の前に現れる数々の問題に目を奪われて、自社の将来のあるべき姿に思いを馳せることがなかなかできません。

資金繰りに奔走し、目に付く自社の問題の解消に向けて日々奮闘することが多い企業再生のフェーズにある会社の経営者に、志高く将来のビジョンを思い描けといってもなかなか難しいかもしれません。

しかしながら、自社の将来のあるべき姿であるビジョンを解像度高く、良い距離感で、魅力あるものとして描くことは、自社を導いて社会の貢献するべき企業経営者としてとても大切なことなのです。

ビジョンを描くことで、現在の窮境を何とか抜け出そうとするモチベーションが経営者自身にも生まれやすいですし、苦楽を共にするスタッフに経済的な要素以外のインセンティブを与えることもできます。

何よりそういったビジョンを描くことで、そのビジョンが近い将来現実のものとして目の前に立ち現れる確率がぐんと高くなります。
ビジョンを描かない人には、そういった素晴らしい未来など訪れるはずがありません。

このようなことから、私は、企業再生のコンサルタントに相談するフェーズにある企業の将来のあるべき姿としてのビジョンの設定にもこだわりを持っていて、素晴らしいビジョンを描いて、それを経営者の方と共有し、その世界に向かって、経営者の方に伴走させて頂くことにすごく生きがいを感じています。

経営者の方とビジョンを見ることができる力。私が事業再生のプロフェッショナルとして、大切に思うことの1つです。

中小企業のスタッフの育成することができる力

企業再生のコンサルタントに相談する必要性が生じた企業の多くを、これまでたくさん見てきましたが、全ての会社でスタッフをビジネスマンとして育てて伸ばして戦力として活用するという思想がありませんでした。

中堅・中小企業にはそもそも優秀な人材が入社してきません。
潜在的に問題解決能力に優れた多くの学生が大手企業へ入社していきますから、中堅・中小企業にはそうではない学生しか入社してこないと割り切らないといけません。

もちろん、学歴が全てではないことなど重々承知はしていますが、学校の勉強などというまじめに努力すれば結果が出る類のことさえやってこなかった若者が多いはずなので、しつこく時間をかけて何かをやり遂げる経験を持ったことがない者が多いと思うのです。

こういった人たちを企業再生のプロジェクトに巻き込んで、何らかの課題を与えてできるまで伴走してあげることが、彼らを成長させる意味ではとても大事なことであるということを、多くの企業再生のコンサルタントを務めてきた経験の中で、とても強く感じています。
試行錯誤しながら、答えのないビジネスの世界で結果に辿り着くという経験は、とても貴重なものだと思うのです。

経営者一人では企業経営など上手くいくものではなく、優秀な幹部が何人いるかでその会社の命運が決まると言っても過言ではないでしょう。

こういったことから、企業再生のコンサルタントとして相談を受けて関わらせていただく間に、一人でもいいので、そういったスタッフの育成に関わらせて頂くこと。
これも私が事業再生のプロフェッショナルとして、大切に思うことの1つです。

社員教育については、下記の記事を参考になさってください。

学び続けるための好奇心を死ぬまで失わない力

世の中は日々変化しています。
1日ごとの変化は小さく、その小さな積み重ねの中でしか我々は生きていけないので、その変化に気付くことはほぼありません。
しかし、年単位で変化を後から概観すれば、大きな変化が起こっていることにようやく気が付きます。

世の中が変われば、人の心も変化します。
これまで価値を感じていたものに何ら価値を感じなくなったり、これまで見過ごしてきたことに大きな価値を見出すようになったりと、個人レベルでの価値観は変化しますが、これらが積み重なって社会全体の価値観が変化し、大きなうねりとなってトレンドを形成します。

この大きなトレンドに気付けないとビジネスは大きく陳腐化し、売上は減少し利益は枯渇し、いずれ社会から淘汰されてしまうことになります。

企業再生のコンサルタントに相談する必要性が生じている企業のほとんどが、社会のトレンドに乗り遅れていることに自分たちで気付いていません。
社会のトレンドは分解すれば生活者個人の価値観であり、ニーズであり、ウォンツです。

そういったものが変化しているにもかかわらず、依然と変わりない価値の提供にこだわり続けている企業の多くが、企業再生のコンサルタントに相談する必要が生じているのです。

そういった企業再生のフェーズにある会社の赤字を解消しようと経費カットで対応しようとする企業再生のコンサルタントもいますが、本質的に課題設定を間違っています。

そういった企業再生のフェーズの会社の多くの設定するべき課題は、商品コンセプトの見直し、それに基づく戦略の構築、つまりは事業構造の改革ということになります。

企業再生のコンサルタントは学び続けなければなりません。
世の中の価値観の変化に気付くために、つまりは、世の中の人の気持ちを動かしているものは何なのかに気付くために学び続けなければならないのです。

学び続けるための好奇心を死ぬまで失わない力。
これも私が事業再生のプロフェッショナルとして、大切に思うことの1つです。

事業再生アドバイザーについては下記の記事を参考になさってください。


事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。