金融検査マニュアルにおける債務者区分【廃止後も実務に変化なし】

債務者区分の基本的な考え方は、「債務者区分の基本的考え方【3つの要素で決まります】」を読んでよく理解できたけれども、2019年12月に廃止された金融検査マニュアルは具体的にどのように債務者を区分していたのか、詳しく知りたい。

金融検査マニュアルが実際にどのように債務者区分をしていたかを知ることで、債務者区分はより良く理解できるようになりますね。

そこでこの記事では、金融検査マニュアルが実際にどのように債務者区分をしていたかを詳しく説明していきますね。

この記事を読むことで、金融検査マニュアル廃止後も、債務者区分の考え方は融資実務の中心であり続けることがよく理解できます。
金融検査マニュアルの廃止に伴って、債務者区分の考え方がなくなるわけではありません。

そして、債務者区分に対する理解がより深まって、自社がどこに区分されているのかを知ることができるようになる結果、銀行の心証を悪化させずに、金利交渉によって金利の引き下げをすることができるようになります。

本記事は20年以上に渡って中堅・中小企業の事業再生に関わり、200件近い事業再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

マニュアル廃止後も債務者区分はなくならない

マニュアル廃止後も債務者区分はなくならない結論を申し上げますと、金融検査マニュアルが廃止されたことに伴って、債務者区分の考え方がなくなるわけではなく、事業性評価融資が導入されたとしても、金融検査マニュアルが遺した債務者区分の考え方は、今後も継続して金融実務の中に生き残ることは確実です。

したがって、事業性評価融資の本格的な導入が進んでいくであろう今後に備えて、金融検査マニュアルの廃止にあたっては、再度その内容を確認することが大切であると考えます。

債務者区分の基本な考え方

債務者区分の基本的考え方まずは「債務者区分の基本的考え方【3つの要素で決まります】」で書いたことを簡潔にまとめておきますね。

金融検査マニュアルによれば、債務者区分にあたっては、基本的には次の3つのポイントを確認した上で債務者区分を実施することを求めています。

  1. 収益性はどうか・・・黒字かどうか
  2. 財務内容の状況・・・実質債務超過に陥っていないか
  3. 返済能力の有無と返済状況・・・返済状況に問題がないか(返済原資が確保できているか)

これに加えて、要注意先以下の会社には、必要に応じて経営改善計画や他の金融機関の支援状況などについても考慮していくことになり、経営改善計画が実現可能性が高く合理的であると判断された場合には、ランクアップ出来る可能性もあることが示されていました。

実抜計画と合実計画についての詳細は、下記の記事を参考になさってください。

さらに、財務基盤が脆弱な中小・零細企業においては、中小企業の特性に鑑みて、形式的に金融検査マニュアルを当てはめて債務者区分を決定しないように求めています。

中小・零細企業においては、財務状況 のみならず、当該企業の技術力、販売力や成長性、代表者等 の役員に対する報酬の支払状況、代表者等の収入状況や資産 内容、保証状況と保証能力等を総合的に勘案し、当該企業の 経営実態を踏まえて判断するものとしています。
その詳細については、「金融検査マニュアル 中小企業融資篇」に記載されています。

「金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】」についての詳細は、下記の記事を参考になさってください。

6つの債務者区分

6つの債務者区分金融検査マニュアルはこういった基本的な考え方に沿って、債務者を基本的に5つに区分することを求めています。
そして、要注意先は、要管理先とその他の要注意先に区分することを求めているので、実質的には債務者を6つに区分することになります。
これらをいったん表にまとめておきます。

定義は金融検査マニュアル上の定義になります。

債務者区分 定義
正常先 正常先とは、業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段 の問題がないと認められる債務者をいう。

 

要注意先 要注意先とは、金利減免・棚上げを行っているなど貸出条 件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実 上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業 況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある 債務者など今後の管理に注意を要する債務者をいう。 また、要注意先となる債務者については、要管理先である 債務者とそれ以外の債務者とを分けて管理することが望ましい
破綻懸念先 破綻懸念先とは、現状、経営破綻の状況にはないが、経営 難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、 今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(金 融機関等の支援継続中の債務者を含む)をいう。 具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過 の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態 にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念が あり、従って損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営 破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。
実質破綻先 実質破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいう。 具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している債務者などをいう。
破綻先 破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、 民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破 綻に陥っている債務者をいう。

では、これらの債務者区分を1つ1つ見ていきましょう。

正常先

正常先とは、業況が良好であり、かつ、財務内容にも特段 の問題がないと認められる債務者をいう。(金融検査マニュアル)

正常先に区分された会社への融資縫い関しては、金融機関は非常に積極的です。
今後の銀行との取引を考えても、いかにして正常先にとどめておくかは、会社経営にとってとても重要な課題になります。

正常先に対する債権の貸倒引当率は0.2〜0.3%程度です。

要注意先

要注意先とは、金利減免・棚上げを行っているなど貸出条 件に問題のある債務者、元本返済若しくは利息支払いが事実上延滞しているなど履行状況に問題がある債務者のほか、業況が低調ないしは不安定な債務者又は財務内容に問題がある債務者など今後の管理に注意を要する債務者をいう。

また、要注意先となる債務者については、要管理先である 債務者とそれ以外の債務者とを分けて管理することが望ましい。(金融検査マニュアル)

金融庁のこの定義によれば、要注意先には2種類があって、1つは要注意先であり、もう1つが要管理先というものです。

また、要注意先に区分されるための要件は、原則として①金利の減免、金利の支払猶予や、元本返済・利払が事実上停滞しているなど、元本返済または利払いの履行状況のいずれかに問題がある、②業況が低調または不安定である、③財務内容に問題がある、のうちのいずれかに該当することです。

上記のうち、①は借入金の元本返済や利払いに関する要件であり、②は損益計算書、③は貸借対照表から判断されるものです。

②の「業況が低調ないしは不安定な債務者」とは、直近決算で経常赤字または当期赤字である、または直近決算で繰越損失があることをいい、③の「財務内容に問題がある」とは、債務超過であることをいいます。

そして、債務超過であるとは簿価ベースでの債務超過ではなく、資産負債を時価に引き直した場合の実態ベースでの債務超過を指します。

簿価ベースでは資産超過であっても、実態ベースでは、回収不能な売掛金や陳腐化した商品在庫に減損を認識した場合に債務超過に転落すれば、それは実質債務超過ということになり、「財務内容に問題がある」という要件を満たすことになります。

以上をまとめると、下記のいずれかに該当すれば、債務者区分は要注意先となります。

・金利の減免、金利の支払猶予を受けている。
・元本返済・利払いが事実上停滞している。
・直近の決算で経常赤字、または当期赤字である。
・直近の決算で繰越損失がある。
・実質債務超過である。

要注意先に対する債権の貸倒引当率は一般的には2%~5%程度になります。
正常先への貸倒引当金の設定率が0.2〜0.3%程度に比べると、ぐっと引当率が高くなります。

貸倒引当率が2%~5%ということはどういうことかというと、新たに貸し出した債権について、金融機関が金利として融資先から受け取ることができるのが1%~3%であるのに対して、それ以上の貸倒引当金を積まなければならなくなるため、しばらくの融資期間が経過しない限りは採算が合わないので、非常に貸しにくくなるということです。

このため、債務者区分が正常先から「要注意先」にランクダウンしてしまうと、いろいろな説明を求められ、様々な資料を徴求されたりした上で、金利は1~ 2%上がることになります。
このように、正常先と要注意先とでは金融機関の態度はかなり変わってくることになり、借入のしやすさや借入条件が天と地ほどの差が出ることになります

要注意先に区分された債務者に対するプロパーでの貸付はこういった理由で難しくなりますが、信用保証協会付であれば検討してもらえます。
保証付債権は保全が効いていますから貸倒引当金の設定対象からは除外されるからです。

2013年頃から金融庁の指導によって徐々にではありますが、金融機関に広がりつつあった事業性評価の普及は、2019年12月に金融検査マニュアルの廃止によってさらに推し進められることになりましたが、現在でも融資実務に大きな変化は見られず、基本的に融資を受けられるのは、要注意先までと考えて差し支えありません。

二期連続赤字を計上するとは致命傷であるとよく言われますが、実は単年度でも赤字を計上すれば、評価にマイナスです。
なぜならば、二期続くのではないか と想像させるからです。

そのため、赤字を計上せざるを得ないのであれば、①赤字が恒常的なものではなく、一過性のものであるのだと主張できるのであれば、一過性の経費については特別損失に計上し、経常利益は黒字を確保しておくことです。

また、②一過性の赤字であることが、一過性の経費で主張できないのであれば、次期の決算では黒字が確実であることを経営改善計画書で論理的にしっかりと説明することが必要になります。

さらに、通常赤字に陥ることは年度末になって初めてというわけではなく、年度途中で概ね予想がつくはずです。

そこで、年度末を越えて赤字の決算書を金融機関に提出した結果、債務者区分がランクダウンしてしまうと、それ以降は新規の融資を受けることが難しくなりますから、正常先のままでいられる当期中に翌期の借入返済分を含めて金融機関から調達しておくことも視野に入れておくべきでしょう。

昨今は事業性評価融資への移行が叫ばれていますが、まだまだ従前の金融検査マニュアルに則った融資実務が銀行マンの思考を支配しているので、こういった方法も頭に入れておくべきということになります。

赤字になると資金繰りが逼迫することが通常ですので、赤字になるそうな場合には事前に手元資金を厚くすることを心がけましょう。

要管理先

要管理先とは、要注意先の債務者のうち、当該債務者の債権の全部又は一部が要管理債権である債務者をいう。
ただし、要管理債権が貸出条件緩和債権のみであり、貸出条件緩和債権の全てが、本別表1.(3)(注) 又は「金融検査マニュアル別 冊[中小企業融資編]7.資本的劣後ローンにおいて資本とみなすことのできるとされている債権である債務者は、「要管理先である債務者」に該当しない。(金融検査マニュアル)

ここにいう要管理債権とは、3か月以上延滞債権及び貸出条件緩和債権を指すものであり(金融再生法6条2項、金融再生法施行規則4条4項。)、3ヶ月以上延滞債権は、元本又は利息の支払が約定支払日の翌日から3月以上延滞している貸出金をいい、貸出条件緩和債権は、債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取決めを行った貸出金とそれぞれ定義されています。

つまり、金融機関の了承を得ることなく元本の返済や利息の支払いを延滞して3か月が経過すると、要管理先に区分されてしまいますし、銀行との協議の上銀行から金融支援を受ける形で、金利減免、利息の支払猶予、元本返済猶予等の支援を受けてしまうと、要管理先に区分されるということです。

要管理先に対する債権の貸倒引当率は15%程度です。

要注意先の貸倒引当率が2%~5%でしたから、そこからぐっと引当率が高くなりますから、銀行は当然に金利を引き上げたり、新たな担保を要求したり、追加融資を断ったりするわけです。

よって、要管理先に区分された場合、担保や保証人がある場合を除き、新たに融資を受けることは困難といえます。

金融円滑化法が施行される以前は、リスケを受けた途端に要管理債権となって、新規の融資などは受けることができなくなってしまったということです。

また、「金融検査マニュアル別 冊[中小企業融資編]7.資本的劣後ローンにおいて資本とみなすことのできるとされている債権である債務者は、「要管理先である債務者」に該当しないとされています。

そして、合理的かつ実現可能性が高い経営改善計画と一体として行われる資本的劣後ローンで、会計ルールに基づいて適切な引当を実施したものを、資本とみなすことができるとされています。
この要件を満たす資本的劣後ローンは資本とみなすことができるので、要管理先には該当せず、要注意先にとどめておくことが可能となります。

「金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】」についての詳細は下記の記事を参考になさってください。

破綻懸念先

破綻懸念先とは、現状、経営破綻の状況にはないが、経営難の状態にあり、経営改善計画等の進捗状況が芳しくなく、 今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者(金融機関等の支援継続中の債務者を含む)をいう。

具体的には、現状、事業を継続しているが、実質債務超過の状態に陥っており、業況が著しく低調で貸出金が延滞状態にあるなど元本及び利息の最終の回収について重大な懸念があり、従って損失の発生の可能性が高い状況で、今後、経営破綻に陥る可能性が大きいと認められる債務者をいう。

ただし、金融機関等の支援を前提として経営改善計画等が 策定されている債務者については、以下の全ての要件を充たしている場合には、経営改善計画等が合理的であり、その実現可能性が高いものと判断し、当該債務者は要注意先と判断して差し支えないものとする。(金融検査マニュアル)

業況が著しく低調であるとは、営業段階で赤字を計上しているようなケースであり、そのような場合には、そもそも借入金の返済原資など出ませんので、破綻懸念先以下に区分されてしまいます。

また実質債務超過の解消に超長期を要するような場合も、破綻懸念先以下に区分されることが多くなります。

概ねこのような会社は、元本返済や利払いについて延滞の状況にある相関係数は高くなります。

そして、破綻懸念先以下に区分された会社は放っておくと、近いうちに実質破綻先へとさらに悪化して最終的に倒産してしまう可能性が高いので、金融機関がイニシアティブをとって、経営改善計画書を策定し、業況を改善することによって債務者区分のランクアップが図られることになります。

金融検査マニュアルも、経営改善計画書は基本的に破綻懸念先の債務者に対するものと位置付けており、「実現可能性の高い合理的な経営改善計画書」の策定をもって、破綻懸念先から要注意先へのランクアップを認めており、破綻懸念先の会社へ新規融資ができる状況を整えて、破綻懸念先の債務者企業の再生可能性の道を確保しています。

そして、経営改善計画書の合理性、実現可能性を検証するための目安として以下の4つの要件を定めています。

  • 経営改善計画等の計画期間が原則として概ね5年以内で あり、かつ、計画の実現可能性が高いこと。ただし、経営改善計画等の計画期間が5年を超え概ね10年以内となっている場合であれば、実績(売上および当期利益)が計画の概ね8割以上を確保できていれば問題ないものとしています。
  • 計画期間終了後の当該債務者の債務者区分が原則として正常先となる計画であること。
    ただし、計画期間終了後の当該債務者が金融機関の再建支援を要せず、自助努力により事業の継続性を確保することが可能な状態となる場合は、計画期間終了後の当該債務者の債務者区分が要注意先 であっても差し支えないものとしています。
  • 全ての取引金融機関等において、経営改善計画等に基づく支援を行うことについて、正式な内部手続を経て合意されていることが文書その他により確認できること。
  • 金融機関等の支援の内容が、金利減免、融資残高維持等 に止まり、債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金 提供を伴うものではないこと。
    ただし、経営改善計画等の開始後、既に債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金提供を行い、今後はこれを 行わないことが見込まれる場合、及び経営改善計画等に基づき今後債権放棄、現金贈与などの債務者に対する資金提供を計画的に行う必要があるが、既に支援による損失見込額を全額引当金として計上済で、今後は損失の発生が見込まれない場合を含むものとしています。

以上の4つの要件を満たしていれば、経営改善計画は合理的で実現可能性が高いものと判断して、当該債務者は要注意先に留めおくことが認められています。

ただし、これらの要件を満たさないからといって直ちに債務者を破綻懸念先に落とすことはあってはならず、債務者区分の検討は、業種等の特性を踏まえ、事業の継続 性と収益性の見通し、キャッシュ・フローによる債務償還能 力、経営改善計画等の妥当性、金融機関等の支援状況等を総 合的に勘案して行うものとしています。

特に、中小・零細企業等については、必ずしも経営改善計画等が策定されていない場合があるので、経営改善計画書がないことを理由に破綻懸念先に落とすことがないように注意喚起を図っています。
中小・零細企業に特有の経営実態を総合的に勘案して債務者区分を判断するように求めています。

実抜計画と合実計画についての詳細は、下記の記事を参考になさってください。

破綻懸念先に対する債権の貸倒引当率は50〜70%程度です。
破綻懸念先に区分された会社は、原則、融資の対象外となります。

経営改善計画書についての詳細は下記の記事を参考にされてください。



破綻懸念先からのランクアップ方法についての基本的な考え方は下記の記事を参考にされてください。

破綻懸念先の事業再生の事例は下記の記事を参考にされてください。

実質破綻先

実質破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通し がない状況にあると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者をいう。

具体的には、事業を形式的には継続しているが、財務内容において多額の不良資産を内包し、あるいは債務者の返済能力に比して明らかに過大な借入金が残存し、実質的に大幅な債務超過の状態に相当期間陥っており、事業好転の見通しがない状況、天災、事故、経済情勢の急変等により多大な損失を被り(あるいは、これらに類する事由が生じており)、再建の見通しがない状況で、元金又は利息について実質的に長期間延滞している債務者などをいう。(金融検査マニュアル)

法的・形式的には経営破綻の事実はまだ発生していなくても、自主廃業によって営業所を廃止しているなど、実質的に営業を行っていないと認められる場合には、実質破綻先となります。

また、「金融機関等の支援を前提として経営改善計画等が策定されている債務者」のうち、経営改善計画等の進捗状況が計画を大幅に下回っており、今後も急激な業績の回復が見込めず、経営改善計画等の見直しが行われていない場合、又は一部の取引金融機関において経営改善計画等に基づく支援を行うことについて合意が得られない場合で、今後、経営破綻に陥る可能性が確実と認められる債務者については、「深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況にある」ものとして、実質破綻先と判断して差し支えないものとされています。

また、「実質的に長期間延滞している」とは、原則として実質的に6カ月以上延滞しており、一過性の延滞とは認められないものをいうものとされています。

実質破綻先に対する債権の貸倒引当率は100%です。
実質破綻先に区分された会社は、原則、融資の対象外となります。

破綻先

破綻先とは、法的・形式的な経営破綻の事実が発生している債務者をいい、例えば、破産、清算、会社整理、会社更生、民事再生、手形交換所の取引停止処分等の事由により経営破綻に陥っている債務者をいう。

ただし、会社更生法、民事再生法等の規定による更生計画等の認可決定が行われた債務者については、破綻懸念先と判断して差し支えないものとする。
(金融検査マニュアル

そして、更生計画等の認可決定が行われている債務者については、以下の要件を充たしている場合には、更生計画等が合理的であり、その実現可能性が高いものと判断し、当該債務者は要注意先と判断して差し支えないものとされています。

  • 更生計画等の認可決定後、当該債務者の債務者区分が原則として概ね5年以内に正常先(当該債務者が金融機関等 の再建支援を要せず、自助努力により事業の継続性を確保することが可能な状態となる場合は、債務者区分が要注意先であっても差し支えない)となる計画であり、かつ、更生計画等が概ね計画どおりに推移すると認められること。
  • ただし、当該債務者の債務者区分が5年を超え概ね 10 年 以内に正常先(当該債務者が金融機関等の再建支援を要せず、自助努力により事業の継続性を確保することが可能な状態となる場合は、債務者区分が要注意先であっても差し支えない)となる計画となっている場合で、更生計画等の 認可決定後一定期間が経過し、更生計画等の進捗状況が概ね計画以上であり、今後も概ね計画どおりに推移すると認められる場合を含む。
  • なお、特定調停法の規定による特定調停の申立が行われた債務者については、申立が行われたことをもって破綻先とはしないこととし、当該債務者の経営実態を踏まえて判断するものとする。

破綻先に対する債権の貸倒引当率は100%です。
破綻先に区分された会社は、原則、融資の対象外となります。

マニュアル廃止後の債務者区分の考え方

マニュアル廃止後の債務者区分の考え方金融庁は、2019年12月をもって金融検査マニュアルを廃止し、事業評価制融資へと大きくかじ取りが行いました。
一方で、具体的な事業性評価融資については各々の金融機関の置かれた環境でその内容は異なるものとして、各々の金融機関の自主性を尊重する方策を取っています。

債務者からすれば自社ビジネスをなんとなく経営するのではなく、理論的に戦略等を構築して、その戦略等にしたがって実行することができれば、その戦略ロジックは金融機関に対して言葉で説明しやすくなるはずなので、事業性評価融資が金融実務として定着することは、成長性のある事業に対して融資が付きやすくなるというメリットがあり、非常に喜ばしいことです。

しかし、事業性評価融資というものの客観的な内容が定まらない中で、もっと言えば、一律に客観的に定めにくいというそもそもの特性を持つものなので、早晩に事業性評価融資が金融実務として定着するとは思えず、これまでの金融実務を取り仕切ってきた金融検査マニュアルに依拠した融資実務は、当分の間続くことがかなり高い確度で予想されます。

また、事業性評価融資が金融実務として定着しても、これまで金融検査マニュアルの制度下で培ってきた定量的なデータに基づく債務者区分と債権分類、および金利水準の決定という金融実務が大きく変化することはないと考えられます。

金融庁もこの辺りを斟酌して、事業性評価融資の導入は、これまでの融資実務を否定するものではないとの発表をしています。

したがって、金融検査マニュアルが廃止されたから、そこに書かれていた債務者区分の基本的な考え方、具体手的な6つの債務者区分については、今後の金融実務においても中心的とまではいわないまでも、大きな部分で残ることは多いに予想できるものですので、金融検査マニュアルの廃止にあたっては、再度その内容を確認することが大切であると考えます。

「金融検査マニュアル」についての詳細は下記の記事を参考になさってください。

「金融検査マニュアル別冊【中小企業融資篇】」についての詳細は下記の記事を参考になさってください。

事業性評価融資についての詳細は下記の記事を参考になさってください。

債権分類ついての詳細は下記の記事を参考になさってください。