銀行との資金繰り改善支援交渉で注意するべき7つのポイント!

銀行に資金繰り改善のために協力を仰ぐための交渉は、一昔前に比べれば随分としやすくなりました。
しかしながら、銀行の担当者が仕事しやすいように配慮して差し上げることは債務者として非常に大事です。
実際に私が出会ったとある経営者の対応を事例としながら、銀行との資金繰り改善交渉において特に大切なことを7つに絞ってまとめてみました。

1.事例

株式会社名古屋は愛知県に本社を置く製造設備の製造メーカーで売上規模は約30億円の会社ですが、コロナ・ウイルス蔓延の影響を受けて売上が急減し、銀行への毎月の元本返済が困難になっていました。
私が経営者から連絡を受けて資金繰りの現状を確認したところ、2つの金融機関からの借入金が大きく膨らんでいましたが、毎月の銀行への元利金の支払と営業キャッシュフローの状況が全くあっておらず、コロナ融資で新規に借り入れた資金も数か月で底をつくような状況でした。

毎月の営業キャッシュフローが約500万円、一方毎月の銀行への元本返済額が約1,000万円なので、差引毎月500万円のキャッシュが社外流出している状況で、コロナ融資8,000万円と経営者個人や家族からの借入金3,000万円の合計11,000万円を新たに調達したものの、現預金の残高は2,000万円程度にまで減少しており、約4ヶ月もすれば資金ショートすることは明らかでした。

(株)名古屋は10年ほど前に顧客に導かれるままにベトナムへ進出することを計画して、同地に子会社を設立し、新たに機械設備を投資するための資金をメイン銀行から融資を受けましたが、ベトナムの事業がうまく立ち上がらずに投資後5年ほどして撤退することを余儀なくされ、赤字続きだったベトナム子会社への投資資金の回収はできず、またベトナム工場に投資した機械設備は日本で生産する設備の生産には転用できなかったため、廉価で売却することを余儀なくされました。その結果、投資に要した借入金の大半は(株)名古屋が返済を続けていました。

このようなこともあって制度融資の枠はほぼいっぱいで、プロパーでの新規借入も非常に難しい状況でした。
また、新規に借入ができたとしても、近い将来始まるコロナ融資の返済をも考慮すると、いつ回復するかわからない事業からのキャッシュフローで返済原資を確保しようとすることは非常に難しいだろうと思われ、早かれ遅かれリスケの依頼をする必要性があると判断しました。

経営者には現状を説明して、銀行へリスケのお願いをしましょうとお話ししたところ、その経営者は銀行への元本返済を止めることを頑なに反対しました。銀行返済は何が何でも優先して実施するべきことは先代の社長(創業者)から口を酸っぱくして言われてきたそうで、街金から借りてでも銀行への返済は継続するんだと強くおっしゃっていました。

コロナ禍で売上が大きく減少して資金繰りが逼迫しているにも関わらず固定費の大部分を占める人件費カットも行わず雇用を守り続けているこの経営者は立派ですが、街金から借りてでも銀行に返済するなどというのはさすがにやり過ぎです。
この経営者には、3日ほど晩御飯を食べながら説得した結果、「先生がそう言うなら。」ということで、リスケの依頼を行うことに同意して頂けました。
翌朝、宿泊先のホテルからこの会社に向かった所、この経営者はすでに銀行に銀行の担当者に連絡をしてリスケのお願いをしていらっしゃいました。
その際に銀行の担当者から提出を依頼された資料があるので作成を手伝ってほしいとのことでした。

さて、この事例にも関わることですが、リスケ等の資金繰り改善支援交渉を行う時に抑えておくべきポイントを7つまとめると以下のようになります。

資金繰りの異常を感じたらすぐに専門家に相談すること。
多くのケースで資金繰りの異常を察知した後ずいぶん経ってから我々のような専門家に連絡を入れられるケースが本当に多いのですが、顧問税理士でも構わないのでとにかく異常を察知したらすぐに相談をすることが何より肝心です。
顧問税理士の中には税務だけしかわからないという方が結構いらっしゃいますので、顧問税理士に相談しても不安が残る方は、ネットで検索して我々のような事業再生の専門家にご相談されることを強くお勧めします。
銀行にリスケ等を依頼することは滅多にないことですので、その方法や影響をご存じない方も多いと思われますので、安心してリスケ等に臨むためにも多少の費用をかけてでも専門家の知見は活用されるべきだと思います。

2.銀行へ返済ストップをお願いすることを厭わないこと。

このケースのように、銀行への返済をストップすることはけしからんことだという固定観念をお持ちの経営者の方は結構いらっしゃって、それは銀行への返済をストップしたら二度と新しい借入を起こせないからだという思い込みを持たれているからであることがほとんどです。
確かに昔は銀行返済を止めたら、それ以降新たな融資を受けることは非常に難しかったのですが、現在では金融庁の金融行政が大きく転換されていて、リスケを行って一時的に銀行返済をストップすることは随分とやりやすくなりました。
また、昔は、リスケの対象となった借入金が残っている間は新規の融資を受けることは難しかったのですが、現在では業績が回復して元本返済を開始することができれば、そういった借入金が残っていたとしても、新規融資を受けることは難しいことではなくなっています。

銀行への返済を優先してしまって、仕入業者等への支払を遅延させたり、従業員の給料の支給を遅らせたりしてしまう経営者の方も少なからずいらっしゃいますが、それは本末転倒な対応の仕方であり、事業を守ることを優先し、銀行への返済は後回しにすることが鉄則なのです。

3.銀行に経営者自らが出向いて、まずは謝罪をしてリスケのお願いをすること。

この事例の経営者の行動が早いことはとても素晴らしいことなのですが、電話でリスケの依頼を済ませてしまっていた点については、経営者として決して褒められた行動ではありません。
リスケをお願いする場合にはきちんと銀行にアポを入れて、経営者自らが銀行を訪問してお願いすることが最低限の礼儀であり、その際には必ず冒頭で、当初約束した返済を履行できず誠に申し訳ないことを謝罪するべきでしょう。

銀行とのお付き合いは、これほどデジタルが発達した現代でも生身の人間と人間が肌を突き合わせて行うものですから、リスケの依頼をする切迫した状況下では経営者としてというよりも1人の人間としての在り方が問われるものなのだと思います。

取引銀行が複数ある場合には、まずはメイン銀行を訪問し、その後にリスケの期間等が決まったらその後に他の銀行にも同様の内容でのリスケのお願いをすることになります。債権者である銀行の間で不平等な取り扱いは原則として認められませんので、この順番で交渉を行うようにして、リスケの条件も同じにしてもらいましょう。

4.銀行担当者から新規の追加融資を打診されても、安易に受けないこと。

資金繰りが逼迫しているような状況下ではプロパーの借入は難しくほとんどが保証協会の保証付きの融資になります。
銀行の担当者としては、リスケをしてしまうと業況が回復するまで新規の借入が困難になるので保証協会融資の枠があれば、それを使って新規融資を受けることをまず最初に提案してくれます。

その場合には、それをすぐに受けてしまう経営者の方も多いのですが、既存の借入金の返済に新規融資を充てることになるので、業況が回復しなければ早かれ遅かれリスケを依頼する必要があることには変わりがありません。

したがって、業況が回復することが近く見込まれる場合には新規融資を受けることを考えてもよいのですが、そうでない場合には、借入金を増やすだけになる新規融資での対応は避けるべきなのです。
この辺りの線引きはなかなか難しいのですが、「業況の回復が近く見込まれる場合」にだけ新規融資で対応してもらうようにしましょう。

5.経営改善計画書には、書くべきことをシンプルに記載すること。

リスケの依頼に銀行を訪問すると、リスケにあたって必要な資料を提出することを求められます。多くの場合、経営改善計画書、資金繰り実績予定表、試算表、借入金残高明細表となることが多いようです。
経営改善計画書は、リスケの依頼の場合には本格的なモノである必要はないので、必要最低限の事項についてしっかりと考えてシンプルに記載をすることが大切です。
経営改善計画書のシンプルな書き方については以下の記事を参考にされてください。

6.遊休資産の売却、固定費のカットなどの自助努力を行うこと。

銀行へ約束した返済の履行が一時的であるにせよできなくなることになりますので、可能な限り自助努力を行うことを必須と考えてください。自助努力とは、一定期間に渡って経営者本人の役員報酬のカットを行う、家族に役員の者があれば同様の扱いとする、不要不急の固定費のカットを行う、遊休資産(本業に関係のない不動産や有価証券など)の売却を行うなどを指します。
将来の経営者等の退職に備えて生命保険でその資金を積み立てている方がかなり多く見受けられますが、このような保険積立金も解約して返戻金を運転資金に充当するべきでしょう。

このような姿勢を見せることは、生の人間同士のぶつかり合う銀行交渉においては非常に重要な意味を持つことになります。
事業の継続性を第一に考えて真摯に再建に取り組んでもらえそうだという確信を持ってもらえれば、その後の関係も良好なものとなって何かにつけて協力して頂ける強い関係性を築く基礎になると思います。

7.銀行交渉の席には専門家に同席してもらうこと。

顧問税理士でも構いませんので、銀行交渉の場に同席してもらえるだけでも、金融機関サイドとしては外部の専門家がしっかりサポートしてもらっているのだなという安心感を得ることができます。

銀行交渉の席では専門的な言葉が飛び交うこともありますので、銀行サイドの考えていることをしっかり把握してもらってその後にわかりやすい言葉で翻訳してもらうためにも、できるならば、顧問税理士などではなく事業再生の専門家に依頼して同席してもらうのが、ベストです。その場合には、金融機関に与える安心度もさらに高いものとなります。

以上、資金繰りが悪くなった場合に銀行と資金繰りの改善の支援を依頼するための交渉において特に重要と思われるポイントを7つに絞って記載しました。

銀行を必要以上に恐れるのではなく、対等のビジネス・パートナーと捉えて、その協力を得ながら自社ビジネスを守りさらに発展させていくことを考えてみてはいかがでしょうか。
貴殿のビジネスに取り組む真摯な姿を見せれば、銀行の担当者もしっかりと応えてくださるはずです。