会社分割も事業譲渡もなんだか同じような方法に見えるのだけど、どう違うのか誰か説明してほしいな。そして、会社分割も事業譲渡のどちらがより良い方法なのかも教えてほしい。
こんな悩みをお持ちの会社経営者の方は多いと思います。事業を誰かに譲り渡すことなどをお考えの経営者であれば、会社分割も事業譲渡の違いは必ず押さえとかないと勿体ない結果に終わることも多くあります。
会社分割と事業譲渡はどちらも権利・義務を承継する方法としての機能を持ち合わせていますが、本質的には全く違うものなので、その本質的なちがいが様々な面で違いを持たすことになります。
この記事を読むことで、会社分割と事業譲渡のちがいは何なのか、そしてどちらが優れた方法なのかがよく理解でき、事業を誰かに譲ることを考えていらっしゃるならば、どちらの方法を採用するべきなのかについての判断を正しくできるようになります。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、マーケティングと管理会計と組織再編の力で200社近くの会社を再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。
会社分割と事業譲渡のちがい
結論から申し上げますと、会社分割と事業譲渡には、個別の論点ごとに各々メリットとデメリットがあり、総じてどちらが有利かは会社が置かれている状況等に依存することになります。
特定の事業の移転を行うといっても、企業グループ内なのか外なのかで、目的がリストラなのか事業再生なのか、免除益課税回避のためなのか事業承継のためなのか等々、様々な状況が考えられますし、事前にデユ―デリジェンスを実施する時間はあるのか、契約書に承継資産負債の範囲を特定して記載することを相手方が許してくれるのかどうか等々の、様々な文脈が考えられ、こういった文脈を総合的に判断して初めて、会社分割と事業譲渡のいずれが妥当なのかの判断ができるものなのです。
したがって、事業の売却等をお考えの場合は、会社分割と事業譲渡のいずれを用いるかを自分で判断せずに、組織再編税制、会社法に詳しい公認会計士に事前にご相談されることを強くお勧めいたします。
本質的なちがい
会社法では、会社分割とは「株式会社又は合同会社がその事業に関して有する権利義務の全部又は一部を分割後他の会社に承継させることをいう。」(会社法2条29号、30号)と定めています。
簡単に言えば、会社を分割して分けることをいいます。
この定義にあるように、会社分割によって会社が有する権利義務の全部又は一部が他の会社に引き継がれます。
会社分割については、下記の記事を参考になさってください。
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一方、事業譲渡とは、会社が営んでいる事業を対象に、範囲を特定して売却することをいいます。
ここでいう事業とは、一定の営業目的のために組織化された有機的一体として機能する財産をいい、得意先関係等の経済的価値のある事実関係を含むものとされます。(最高裁判決昭和40年9月22日)
会社分割も事業譲渡も、会社が営む事業を会社の外部に移転するという点では同様の機能を持ちますが、会社分割は分割事業が包括的に承継される組織法上の行為(包括承継)であるのに対して、事業譲渡は契約で限定された範囲で財産等を移転の対象とする取引法上の行為(特定承継)である点で、本質的に大きく異なります。
ここで、取引法上の行為とは、法人を含む人と人との相対の取引のことをいい、取引法上の行為とは、つまりは売買に該当します。
一方、組織法上の行為とは、組織法である会社法が包括承継を認めた行為であるという意味であり、合併、会社分割、株式交換、株式移転、現物出資がこれに該当します。
取引法上の行為は、個別に移転手続きが必要となるのに対して、組織法上の行為は、個別に移転手続きをしていたのでは機動的な組織再編を阻害することから、会社法が包括承継を認めたものです。
なお、旧商法下では営業譲渡という言葉が遣われていましたが、会社法が制定されて事業譲渡という言葉に統一されたことから、今では事業譲渡という言葉遣いが通例となっています。
したがって、営業譲渡と事業譲渡の指す内容は本質的には同じです。
具体的なちがい
会社分割が組織法上の行為であり、事業譲渡が取引法上の行為であるという根本的な相違が、具体的に様々な点でちがいをもたらしています。
それらを具体的にまとめると下記の表のようになります。
事業譲渡 | 会社分割 | |
本質 | 取引法上の行為(売買) | 組織法上の行為 |
意思決定機関 | 下記※参照 | 下記※参照 |
反対株主の株式買取請求権 | あり | あり |
契約・計画の本店備置 | なし | あり |
主な対価 | 現金 | 現金(株式もあり) |
負債の承継 | 特定承継(同意必要 | 包括承継(同意不要) |
債権者保護手続き | なし | あり |
簿外債務 | 承継リスクなし | 承継リスク高い(不承継可能) |
契約の承継 | 特定承継(同意必要 | 包括承継(同意不要) |
従業員の承継 | 個別同意必要 | 個別同意不要(労働承継法の適用) |
許認可の承継 | 再取得必要 | 再取得必要 |
競業避止義務 | 義務を負う | 義務を負わない |
移転損益 | 認識する | 原則認識する(例外有:適格再編は繰延) |
株主課税 | なし | 原則認識する(例外有:適格再編は繰延) |
消費税 | 課税 | 不課税 |
不動産取得税 | 軽減措置なし | 軽減措置あり |
登録免許税 | 軽減措置なし | 軽減措置あり |
※意思決定機関 | ||
譲渡会社 | 取締役会決議 | 株主総会特別決議 |
ただし、事業全部の譲渡または事業の重要な一部の譲渡の場合には株主総会特別決議 | ただし、組織に与える影響が軽微な場合は取締役会決議で足りる。 | |
譲受会社 | 取締役会決議 | 株主総会特別決議 |
ただし、事業全部の譲受の場合には株主総会特別決議 | ただし、組織に与える影響が軽微な場合は取締役会決議で足りる。 |
では、以下で上記の表を詳しく見ていきましょう。
意思決定機関のちがい
譲渡側の会社の意思決定機関のちがい
事業譲渡は取引法上の行為であるので、原則取締役会の決議事項とされていますが、企図している事業譲渡が、事業の全部の譲渡または事業の重要な一部の譲渡に該当する時は、会社組織に与える影響が大きいので、株主総会の特別決議が必要とされています。
事業譲渡が「事業の重要な一部」に該当するか否かは、株主の重大な利害にかかわるかという観点から、量的重要性と質的重要性の双方から判断されます。
量的重要性の観点からは、売上高、利益、従業員数等の諸要素が総合的にみて事業全体の10%程度を超えるか否か同課が1つの目安になります。
また、質的重要性の観点からは、会社の歴史や沿革等から会社のイメージにどの程度影響を与えるかといった点を勘案します。
このような点から勘案して、企図している事業譲渡が「事業の重要な一部」に該当しなければ、株主総会の特別決議は必要なく、原則通り取締役会の決議で足ることになります。
一方、会社分割は組織法上の行為であって、会社組織に与える影響がそもそも大きなものです。
従って、会社分割の場合には原則株主総会の特別決議が必要とされています。
ただし、会社分割であっても、組織に与える影響が軽微である場合には、例外的に取締役会決議で足るものとされています。
会社分割も事業譲渡も、株主総会で反対の意思表示をした株主には株式買取請求権が認められています。
また、会社分割の場合には、吸収分割契約・新設分割計画に関する書面を、本店に備置きする義務が課せられますが、事業譲渡ではその必要はありません。
譲受側の会社の意思決定機関のちがい
事業の譲受の場合には、取締役会決議で足りますが、事業全部の譲受の場合には、株主総会の特別決議が必要とされています。
一方、会社分割の場合には、組織法上の行為であり、組織に与える影響が極めて大きいので、原則、株主総会の特別決議が必要とされています。
ただし、会社分割であっても、組織に与える影響が軽微である場合には、例外的に取締役会決議で足るものとされています。
会社分割も事業譲渡も、株主総会で反対の意思表示をした株主には株式買取請求権が認められています。
また、会社分割の場合には、吸収分割契約・新設分割計画に関する書面を、本店に備置きする義務が課せられますが、事業譲渡ではその必要はありません。
承継に関するちがい
会社分割も事業譲渡も、事業を会社外部に移転する機能を持つ点では共通ですが、前者は組織法上の行為として会社法が包括承継を認めたものであり、後者は事業の移転とはいえ、原則通り個々の財産等の特定承継が必要になることから、会社分割と事業譲渡の間には、資産・負債の承継、従業員の承継、許認可の承継などで大きなちがいがみられることになります。
権利・義務の承継に関するちがい
事業譲渡における契約関係(権利・義務)の移転については、個別に移転する必要があります。
たとえば、債権(売掛金等)の移転には債権譲渡の手続が必要となりますし、債務(借入金等)の移転には債権者の承諾が必要となります。
これに対し、会社分割では、契約関係が丸ごと全て相手方に包括承継によって移転されますので、相手方の同意等を得る必要はありません。
もっとも、会社分割の場合は、債権者の利益が害されるおそれがあるので、債権者保護の観点から、債権者保護手続が設けられています。
具体的には、分割会社は、分割後に分割会社に対して債務の履行を請求できなくなる債権者等がいる場合には、債権者が一定期間(1ヶ月以上)内に異議を述べることができること等の所定の事項を官報で公告し、かつ、各債権者に個別に催告しなくてはならないことになっています。
また、債権者が異議を述べた場合には、分割会社は、債務の弁済や担保の提供、財産の信託等をすることが義務付けられています。
事業譲渡の場合には、このような債権者保護手続きは求められていません。
それは事業譲渡が債務の移転には債権者の同意が個別に必要とされるからです。
このように、会社分割の場合、分割事業にかかわる資産・負債を含めた権利義務関係が包括的に承継されますので、貸借対照表に計上されているものの回収可能性に疑義のある売掛債権や貸付金、陳腐化して販売不可能な商品在庫等も含めて承継会社に引き継がれることになります。
最も厄介なのが、簿外債務や偶発債務など貸借対照表には計上されていないものの、将来支払義務が発生する債務の存在です。
こういったものも移転する事業に関連するものであれば、包括的に引き継がねばなりません。
たとえば、サービス残業が横行しており、従業員の未払賃金が貸借対照表上には計上されていないものの、分割後に元従業員からの訴訟によって未払賃金の支払義務を負ったり、従業員の退職給付引当金が未計上であったために、分割後に退職金の支払が必要になったり、さらには係争案件があったにもかかわらず、その発生可能性を見込んでおらず、偶発債務引当金が未計上であったり等々、様々な形で簿外債務や偶発債務が存在する可能性はあるわけです。
会社分割で分割事業を包括承継するとは、こういった資産・負債に関わるリスクを全て承継会社が背負うことになります。
従って、通常は会社分割によって分割事業を引き継ぐ場合には、事前にデユ―デリジェンスを実施して、こういった問題点を洗い出しておき、分割対価の算定の際にディスカウントを求めるなりして分割後のリスクに備えるべきことになります。
一方、事業譲渡の場合には、個々の財産等ごとに移転の契約を締結する特定承継が原則ですので、有機的一体としての事業を譲り受けるにしても、個々の財産ごとに1つ1つ引き継ぐかどうかを検討する必要があります。
会社分割のように包括承継ではないので、手続き的には面倒ですが、不良資産や簿外負債、偶発債務といったものも含めて引き継いでしまうリスクはかなり縮減できることになります。
以上のようなことから、資産・負債を含む権利義務の引き継ぎに関しては、分割事業の規模とビジネスの複雑さにもよりますが、会社分割を採用する場合には事前にデユ―デリジェンスを実施することが必須となりますし、デユ―デリジェンスを実施する時間を割きたくないのであれば、特定承継の事業譲渡を選択するべきということになります。
そうは言うものの、やはり事業譲渡によれば個別の同意が必要となるため手続きが煩雑ですし、事業譲渡によることなく、なんとか会社分割の包括承継のメリットを生かしつつ、簿外債務等を引き継いでしまうリスクを最小化できないかどうかは検討するべきです。
そこで、会社分割で「事業まるごと」を承継するのではなく、買い手が引きつぐ権利義務を特定して分割契約に列挙することで簿外債務をシャットアウトすることを考えるべきでしょう。
また、権利義務を特定して記載することが難しい場合には、事業に関する資産・負債・契約関係を包括的に承継するとしつつも、「ただし、売り手から開示された財務諸表に計上されていない権利義務は承継しない」と但書きで明記する方策も一考の余地があると考えます。
従業員の承継に関するちがい
会社分割は組織法上の行為であるため包括承継が、事業譲渡は取引法上の行為であるため特定承継が原則となりますが、これは個々の従業員との雇用契約についても同様にあてはまります。
事業譲渡の場合には、雇用関係を移転につき、個別に従業員の同意を得なくてはなりません。
1人1人の従業員と面談等を実施するなりして、雇用契約の継承につき同意を得る必要があります。
これに対し、会社分割では、従業員の個々の同意は不要ですが、労働承継法が適用されるため、この法律に定められた所定の手続を経る必要があります。
なお、この手続は、正社員はもちろんですが、嘱託職員やパートタイマーに対しても必要になります。
労働承継法が定める所定の手続きとは、話し合いや書面での通知などの簡易なもので、具体的にその内容を示せば下記に記載のとおりです。
- 承継される事業に従事する者との契約
分割契約書(吸収分割の場合)または分割計画書(新設分割の場合)の中に従業員との雇用契約が引き継がれる旨が定められている場合は、従業員は分割会社から承継会社に移籍となります。分割契約書または分割計画書に引き継がれる旨が定められていない場合は、原則的には分割会社に残留することになります。
ただし、従業員が異議を申し出た場合には、承継会社に移籍できることになります。 - 承継される事業に従事する者以外との契約
分割契約書または分割計画書の中に従業員との雇用契約も引き継がれる旨が定められている場合は、原則として従業員は分割会社から承継会社に移籍となります。
ただし、従業員が異議を申し出た場合には、分割会社に残留することが可能です。分割契約書または分割計画書に引き継がれる旨が定められていない場合は、従業員は分割会社に残留することになります。
なお、パートやアルバイト従業員に対しても上記の手続きは必要になることには注意が必要です。
許認可の承継に関するちがい
事業譲渡による事業の移転は、特定承継となりますので、許認可は引き継ぐことができず、新たに取得する必要があります。
一方、会社分割では包括承継の中に含まれるため、原則的には許認可も引き継ぐことができるはずですが、実務上は、引き継ぐことができないために新たに取得する必要があるものも多くあります。
許認可を新たに取得する必要がなく、所定の機関へ届け出ることで自動的に引き継がれる許認可の業種としては、飲食店営業、美容・理容業、アルコール製造業、旅行業、クリーニング業、浴場業、特定貨物自動車運送事業などがあります。
一方、ホテル・旅館営業、介護事業、パチンコ店営業などは、指定の機関から承認を受ける必要がありますし、宅地建物取引業、貸金業、および建設業においては許認可をすべて取り直します。
このように承継する業種によって許認可の取り扱いが異なるので、事前に関係官庁へ問い合わせて、再取得が必要であれば、その取得スケジュールも確認しておく必要があります。
課税関係のちがい
法人税法及び所得税法上の取り扱いにおけるちがい
税務上は、組織法上の行為、取引法上の行為にかかわらず、資産の移転があった時点で、簿価と時価との差額を損益として認識して課税所得を構成するのが原則です。
事業譲渡は取引法上の行為ですから、原則通り時価での取引が強制され、簿価と時価との差額を損益として認識します。
一方、会社分割は組織法上の行為ですが、資産の移転があった時点で、簿価と時価との差額を損益として認識するのが法人税法の原則です。
ところが、旧商法が機動的な組織再編を実現することが産業界の要請に応えることであるとして、会社分割を法制度の中に取り込んだ背景を受けて組織再編税制が整備された経緯から、全ての組織再編について原則通り課税することは、機動的な組織再編を阻害する面もあることから、一定の要件を満たす場合には、簿価での取引があったものとして課税を繰り延べる措置を講じました。
この要件を適格要件といい、適格要件を満たす組織再編を税制適格再編といいます。
反対に、この要件を満たさない組織再編を税制非適格再編といい、原則通り時価での取引が強制され、時価と簿価との差額を損益として認識します。
また、適格再編の場合には株主にかかる譲渡所得も繰り延べされることとなりますが、非適格再編の場合には原則通り課税されることとなります。
消費税法上の取り扱いにおけるちがい
事業譲渡の場合には、個々の資産の売買となりますので、課税資産の合計額に消費税が課税されます。
課税資産は、土地以外の有形固定資産、無形固定資産、棚卸資産、そして営業権です。
一方、会社分割の場合には、不課税取引として課税されることはありません。
その他の税金の取り扱いにおけるちがい
事業譲渡の場合には、不動産取得税・登録免許税での軽減措置はありませんが、会社分割の場合には、不動産取得税・登録免許税の権限措置があります。
以上、課税関係の違いからは事業譲渡に比べて会社分割のほうが有利になります。
特に、事業譲渡の場合で、バイサイドに営業権が計上される場合には、営業権に対する課税が発生するため、営業権が大きくなる場合には消費税のキャッシュアウトが大きくなることには注意が必要です。
競合避止義務のちがい
事業譲渡の場合には、事業の売り手には競業避止義務が課されています(会社法第21条)。
競業避止義務とは、同一市町村内および隣接市町村において、事業譲渡したものと同種の事業を一定期間行わない売り手側の義務をいいます。
会社法では、事業譲渡の場合には、当事者の別段の意思表示がない限り、売り手企業は事業譲渡日から20年間の競業避止義務を負うものとされています。
一方、会社分割の場合にはこのような規定はないので、分割会社は会社分割によって譲り渡した事業と同種の事業を再び開始することは可能です。
とはいうものの、実務的には、会社分割等による事業の譲渡であっても、契約の中で売り手の競業避止義務を一定期間設けることが多くなります。
メリットとデメリット
以上のようなちがいから、会社分割と事業譲渡には、以下のように個別の論点ごとにメリット、デメリットがあることになります。
譲渡会社、譲受会社の各々の立場から見ておきましょう。
<譲受側> | メリット | デメリット |
事業譲受 |
・個々の財産等の特定承継なので、必要な資産負債、人材、ノウハウだけを選択して引き継ぐことができる。 | ・事業の対価としてキャッシュが必要になる。 |
・簿外債務の引き継ぎリスクを抑えられる。 | ・消費税は課税され、不動産取得税、登録免許税の優遇措置がない。 | |
・事業のすべてを譲り受けるケースを除いて、株主総会特別決議の必要がない。 | ・従業員の承継には個別の同意が必要なので、売り手側の優秀な従業員が流出する恐れがある。 | |
・特定承継なので、全体的に手続きに手間がかかる。 | ||
会社分割 |
・ケースによっては、自社の株式、承継事業の株式を分割対価として利用できるので、現金が必要ないこともある。 | ・税制適格要件等が複雑で理解しにくい。 |
・適格要件を満たせば移転損益は繰延られ課税されず、また、消費税は不課税である。 | ・簿外債務をはじめ、不要な資産なども引き継がなくてはならない。(契約で除外可能) | |
・労働承継法が適用され、従業員を流出させずに、事業を引き継ぐことができる可能性が高い。 | ・原則、株主総会特別決議が必要になる。 | |
・事業譲渡に比べると、手続きが簡易であり、機動的な組織再編が可能である。 | ||
<譲渡側> | メリット | デメリット |
事業譲渡 |
・譲渡事業の対価をキャッシュで得ることができる。 | ・消費税が発生するなど、税金面での優遇が適用されない。 |
・ケースによっては、株主総会特別決議が必要ない。 | ・債権者、従業員との個別の手続きが必要になるので、手続きが煩雑になる。 | |
・法律上、競業避止義務が課せられる。 | ||
会社分割 |
・消費税は不課税なので発生しない。 | ・分割対価が株式の場合、株式を現金化することが難しいケースがある。 |
・債権者、従業員との個別の手続きが不要なため、機動的な組織再編が実施できる。 | ・自社に残したい契約なども、原則、引継ぎの対象になってしまう。 | |
・法律上は、競業避止義務が課せられない。 | ・原則、株主総会特別決議が必要である。 |
どちらが有利?
特定の事業を特定の事業を切り出して会社の外へ移転するといっても、企業グループ内での事業の移転なのか、企業グループ外への事業の移転なのか、また、その目的がM&Aによるリストラなのか、事業再生により債務免除益課税の回避なのか、事業承継によるものなのか等々、様々な状況が考えられます。
さらには、会社分割を採用した場合に分割契約書や分割計画書に移転する資産・負債を特定することが可能なのかも、相手型の意向によって異なりますし、デユ―デリジェンスを実施するのかしないのかという点も、大きく影響してきます。
したがって、会社分割と事業譲渡のどちらが有利かという問題については、明確な答えがあるわけではありません。
前項の両者のメリットとデメリットで記載したように、個々の論点で会社分割と事業譲渡の優位性を個別に判断はできても、全体感の中で会社分割と事業譲渡のどちらが有利かということは状況と文脈に大きく左右されてしまうものなのです。
会社分割は不課税取引なので消費税がかからないが、事業譲渡は課税取引なので消費税が課税されるといった経済的な優劣だけで、実務上は会社分割を選択するケースも多いようです。
しかし、簿外債務の存在を見抜くこと、は公認会計士という監査のプロでもとても難しいことであるので、事業を取得する場合には常にその存在を意識しつつ、全体感の中で会社分割なのか事業譲渡なのかを総合的に判断するべきです。
事業譲渡であれば避けることができた簿外債務を、会社分割を実施したために引き継いでしまった場合には、税金のメリットなど軽く吹っ飛んでしまうのですから。
以上のようなことから、特定の事業を切り出して会社の外へ移転させることを考えている、または、反対に特定の事業を他社から切り出して自社へ移転させることを考えているならば、ご自分で会社分割なのか事業譲渡なのかの最終判断をせず、組織再編税制、会社法に精通した公認会計士に事前にご相談されることを強くお勧めします。
事業再生や組織再編にあたって相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に取り組むにあたって誰に相談すればいいのだろう。再生支援協議会に行くと会計士や税理士を紹介してもらえるそうだけど、それで本当に事業再生は成功するのかな?こんなお悩みをお抱えの経営者の方は必見です。誰に相談するべきかがわかります。
第2会社方式を使った事業再生については、下記の記事を参考になさってください。
第二会社方式という言葉を事業再生の中でよく耳にするのだが、いったいどんな意味があるのだろう。会社分割とは全く別のものを指しているのだろうか。そろそろ自社の再生に取り組む必要があるので、言葉の定義を知っておきたい。こんなお悩みに回答します。
第二会社方式は優れた方法だとよく言われるが、問題点もきっとあるはずなのだがあまり知られていないようだ。第二会社方式を使って事業再生を進めていくにあたり、どんな問題点があるのかを事前にしっかりと知っておきたい。こんなお悩みにお答えします。