事業再生における清算価値とは何だろう。
事業を再生するのに会社を清算した場合の清算価値を算定するのはなぜだろう。
事業再生を進めて、会社の再建を図ろうとしているのに、清算価値などという会社を清算してしまった時の企業価値を算定するのってよくわからないですよね。
この記事を読むことで、事業再生において清算価値を算定する意味が理解できるようになって、銀行等の金融債権者による債権放棄の額がどのようにして決まるのかが理解できます。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生に取組んで20年以上、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロである公認会計士が書きました。
事業再生における清算価値とは何か?
事業再生における清算価値には、2つの意味があります。
1つは債務者企業を破産させた場合の企業の価値をいいます。
企業価値と呼ぶものには2種類のものがあって、1つはこの清算価値、他方は継続価値と呼ばれるものです。
企業は半永久的に事業を継続してキャッシュを獲得するものと捉えられ、たとえば、ある事業をM&Aで買収する場合には、その事業から生み出される将来キャッシュフローの割引現在価値が継続価値と呼ばれ、買収価格の1つの目安となります。
一方、会社事業を継続することが困難となった場合には、会社を清算して資産を現金化し、債権者に弁済を行わなくてはなりませんが、その場合に企業の資産と負債を時価に引き直して評価しますが、この時の企業の価値を清算価値と呼ぶのです。
清算価値のもう1つの意味は、債務者企業を破産させた場合の債権者の回収額を指します。
前述の企業を破産させた場合の企業の清算価値をベースに算定される、各々の債権者の回収可能額をさして清算価値と呼びます。
このように清算価値には2つの意味があるので、文脈によってどちらの意味で遣われているのかを判断しなくてはなりませんが、再生実務の現場で清算価値と呼べば、大方は後者の意味、すなわち各々の債権者の回収可能額を指します。
清算価値の算定方法
清算価値を算定するためには、企業が記帳した結果としての簿価ベースの貸借対照表から、会計理論的に適正とされる実態貸借対照表を策定し、次に、その実態貸借対照表をベースに清算貸借対照表を作成して企業を破産させた場合の純資産額を確定します。
次に、貸借対照表上のビジネス的な機能別の勘定科目を、法律的な視点にたった勘定科目に組み替えます。この組替作業は負債組替表上で行います。
その後、清算貸借表上の資産査定額を用いて破産配当率を算定し、各債権者の回収可能額を算出することになります。
簡単な設例を使って、各債権者の清算価値を算定する流れを見ていきましょう。
実態貸借対照表の作成
まず、簿価ベースの貸借対照表から、会計理論的に適正とされる実態貸借対照表を作成します。
実務上は下記に示した実態貸借対照表策定ワークシートを用います。
(単位:千円) | ||||||||||
20XX年/3月 | AJE1 | AJE2 | AJE3 | AJE4 | AJE5 | AJE6 | AJE | 20XX年/3月 | ||
修正前B/S | 回収不能債権 | 商品の減額 | 貸付金の減額 | PPE | 引当金 | その他 | Total | 修正後B/S | ||
小口現金 | 11,699 | 0 | 11,699 | 小口現金 | ||||||
A銀行 | 157,218 | 0 | 157,218 | A銀行 | ||||||
B銀行 | 192,198 | 0 | 192,198 | B銀行 | ||||||
C信用金庫 | 5,687 | 0 | 5,687 | C信用金庫 | ||||||
現預金合計 | 366,802 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | 366,802 | 現預金合計 |
受取手形 | 15,120 | ▲ 1,870 | ▲ 1,870 | 13,250 | 受取手形 | |||||
売掛金 | 295,744 | ▲ 5,194 | ▲ 5,194 | 290,550 | 売掛金 | |||||
商品 | 55,280 | ▲ 19,600 | ▲ 19,600 | 35,680 | 商品 | |||||
貯蔵品 | 22,868 | ▲ 20,380 | ▲ 20,380 | 2,488 | 貯蔵品 | |||||
貸付金 | 165,650 | ▲ 100,000 | ▲ 100,000 | 65,650 | 貸付金 | |||||
前払費用 | 3,809 | ▲ 3,809 | ▲ 3,809 | 0 | 前払費用 | |||||
貸倒引当金 | 2,821 | ▲ 2,821 | ▲ 2,821 | 0 | 貸倒引当金 | |||||
流動資産合計 | 928,094 | ▲ 7,064 | ▲ 39,980 | ▲ 100,000 | 0 | 0 | ▲ 6,630 | ▲ 153,674 | 774,420 | 流動資産合計 |
建物 | 488,550 | ▲ 78,030 | ▲ 78,030 | 410,520 | 建物 | |||||
建物付属設備 | 85,630 | ▲ 35,180 | ▲ 35,180 | 50,450 | 建物付属設備 | |||||
構築物 | 5,454 | ▲ 2,769 | ▲ 2,769 | 2,685 | 構築物 | |||||
機械装置 | 12,754 | ▲ 7,076 | ▲ 7,076 | 5,678 | 機械装置 | |||||
什器備品 | 12,870 | ▲ 8,370 | ▲ 8,370 | 4,500 | 什器備品 | |||||
土地 | 450,000 | 0 | 450,000 | 土地 | ||||||
有形固定資産合計 | 1,055,258 | 0 | 0 | 0 | ▲ 131,425 | 0 | 0 | ▲ 131,425 | 923,833 | 有形固定資産合計 |
ソフトウェア | 3,987 | ▲ 3,987 | ▲ 3,987 | 0 | ソフトウェア | |||||
電話加入権 | 1,091 | ▲ 1,091 | ▲ 1,091 | 0 | 電話加入権 | |||||
無形固定資産合計 | 5,078 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | ▲ 5,078 | ▲ 5,078 | 0 | 無形固定資産合計 |
出資金 | 1,500 | ▲ 300 | ▲ 300 | 1,200 | 出資金 | |||||
投資有価証券 | 54,560 | ▲ 39,980 | ▲ 39,980 | 14,580 | 投資有価証券 | |||||
保証金 | 14,500 | ▲ 7,000 | ▲ 7,000 | 7,500 | 保証金 | |||||
保険積立金 | 115,858 | ▲ 50,373 | ▲ 50,373 | 65,485 | 保険積立金 | |||||
会員権 | 30,000 | ▲ 25,200 | ▲ 25,200 | 4,800 | 会員権 | |||||
敷金 | 65,680 | ▲ 36,400 | ▲ 36,400 | 29,280 | 敷金 | |||||
投資その他の資産合計 | 282,098 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | ▲ 159,253 | ▲ 159,253 | 122,845 | 投資その他の資産合計 |
固定資産合計 | 1,342,434 | 0 | 0 | 0 | ▲ 131,425 | 0 | ▲ 164,331 | ▲ 295,756 | 1,046,678 | 固定資産合計 |
資産合計 | 2,270,528 | ▲ 7,064 | ▲ 39,980 | ▲ 100,000 | ▲ 131,425 | 0 | ▲ 170,961 | ▲ 449,430 | 1,821,098 | 資産合計 |
買掛金 | 140,580 | 0 | 140,580 | 買掛金 | ||||||
未払金 | 55,450 | 13,060 | 13,060 | 68,510 | 未払金 | |||||
賞与引当金 | 0 | 18,850 | 18,850 | 18,850 | 賞与引当金 | |||||
預り金 | 12,670 | 0 | 12,670 | 預り金 | ||||||
未払法人税等 | 21,005 | 0 | 21,005 | 未払法人税等 | ||||||
未払消費税 | 12,882 | 0 | 12,882 | 未払消費税 | ||||||
流動負債合計 | 242,587 | 0 | 0 | 0 | 0 | 18,850 | 13,060 | 31,910 | 274,497 | 流動負債合計 |
長期借入金 | 1,877,540 | 0 | 1,877,540 | 長期借入金 | ||||||
退職給付引当金 | 0 | 240,650 | 240,650 | 240,650 | 退職給付引当金 | |||||
固定負債合計 | 1,877,540 | 0 | 0 | 0 | 0 | 240,650 | 0 | 240,650 | 2,118,190 | 固定負債合計 |
負債合計 | 2,120,127 | 0 | 0 | 0 | 0 | 259,500 | 13,060 | 272,560 | 2,392,687 | 負債合計 |
資本金 | 50,000 | 0 | 50,000 | 資本金 | ||||||
別途積立金 | 75,000 | 0 | 75,000 | 別途積立金 | ||||||
自己株式 | ▲ 20,000 | 0 | ▲ 20,000 | 自己株式 | ||||||
繰越利益剰余金 | 45,401 | ▲ 7,064 | ▲ 39,980 | ▲ 100,000 | ▲ 131,425 | ▲ 259,500 | ▲ 184,021 | ▲ 721,990 | ▲ 676,589 | 繰越利益剰余金 |
純資産の部合計 | 150,401 | ▲ 7,064 | ▲ 39,980 | ▲ 100,000 | ▲ 131,425 | ▲ 259,500 | ▲ 184,021 | ▲ 721,990 | ▲ 571,589 | 純資産の部合計 |
負債及び純資産の部合計 | 2,270,528 | ▲ 7,064 | ▲ 39,980 | ▲ 100,000 | ▲ 131,425 | 0 | ▲ 170,961 | ▲ 449,430 | 1,821,098 | 負債及び純資産の部合計 |
売上高 | 1,845,000 | 0 | 1,845,000 | 売上高 | ||||||
売上原価 | 1,346,850 | 2,225 | 17,560 | 19,785 | 1,366,635 | 売上原価 | ||||
売上総利益 | 498,150 | 0 | 0 | 0 | ▲ 2,225 | ▲ 17,560 | 0 | ▲ 19,785 | 478,365 | 売上総利益 |
販売管理費 | 452,025 | 1,285 | 5,425 | 6,710 | 458,735 | 販売管理費 | ||||
営業利益 | 46,125 | 0 | 0 | 0 | ▲ 3,510 | ▲ 22,985 | 0 | ▲ 26,495 | 19,630 | 営業利益 |
営業外収益 | 13,580 | 0 | 13,580 | 営業外収益 | ||||||
営業外費用 | 46,580 | 0 | 46,580 | 営業外費用 | ||||||
経常利益(損失) | 13,125 | 0 | 0 | 0 | ▲ 3,510 | ▲ 22,985 | 0 | ▲ 26,495 | ▲ 13,370 | 経常利益(損失) |
特別利益 | 8,505 | 0 | 8,505 | 特別利益 | ||||||
特別損失 | 5,654 | 7,064 | 39,980 | 100,000 | 127,915 | 236,515 | 184,021 | 695,495 | 701,149 | 特別損失 |
税引前当期利益(損失) | 15,976 | ▲ 7,064 | ▲ 39,980 | ▲ 100,000 | ▲ 131,425 | ▲ 259,500 | ▲ 184,021 | ▲ 721,990 | ▲ 706,014 | 税引前当期利益(損失) |
法人税等 | 4,560 | 0 | 4,560 | 法人税等 | ||||||
当期純利益(損失) | 11,416 | ▲ 7,064 | ▲ 39,980 | ▲ 100,000 | ▲ 131,425 | ▲ 259,500 | ▲ 184,021 | ▲ 721,990 | ▲ 710,574 | 当期純利益(損失) |
前期繰越利益(損失) | 33,985 | 0 | 33,985 | 前期繰越利益(損失) | ||||||
当期未処分利益(損失) | 45,401 | ▲ 7,064 | ▲ 39,980 | ▲ 100,000 | ▲ 131,425 | ▲ 259,500 | ▲ 184,021 | ▲ 721,990 | ▲ 676,589 | 当期未処分利益(損失) |
このワークシートの左側には、債務者企業の簿価ベースの貸借対照表を勘定科目と金額とで記載します。
これは、直近の決算書をそのまま用いればOKです。
この事例では適当に数値を作って架空の簿価ベースの貸借対照表を用いていますので、財務分析上の勘定科目の数値のバランスについては無視してください。
中堅・中小企業の場合、公認会計士の会計監査を毎期受けているわけではなく、税務申告用に記帳がなされているだけですので、この簿価ベースの貸借対照表は会計理論的に適正なものではありません。
ここで適正とは、企業を取り巻く利害関係者の経済的意思決定をミスリードすることがない程度に適正であるという意味です。
会計理論的に全く正しい金額である必要はないわけですが、会計士監査では会計理論的に正しい金額に修正をするのが通例です。
この事例では、AJE1~AJE5までの5つの修正をかけて貸借対照表の適正化を図っています。
ちなみにAJE=Adjusted Journal Entry=修正仕訳の意味です。
紙面幅の関係でAJE5にはいくつかの修正仕訳をまとめて1つの仕訳としています。(後述)
では、AJE1~AJE5までの5つの修正の内容を見ておきましょう。
①AJE1
売掛債権(受取手形、売掛金)の残高確認を実施(確認状の送付と回収)し残高の正確性を確認するとともに、債権の年齢調べを基礎として債権の回収可能性を検討した結果、受取手形1,870千円、売掛金5,194千円の回収可能性に大きな疑義が生じたため、同額を直接減額した。
②AJE2
商品については、毎期決算期末に実地棚卸を実施しているわけではなかったので、決算日から3ヶ月過ぎた時点で実地棚卸を実施し、その時点での確定数量から商品払出帳の記録から逆算して基準日時点の商品在庫数を確定した。
また、実地棚卸時に、長期滞留商品、不良品等の仕分けを徹底的に行って商品在庫の資産性を確認して、評価を行ったところ、19,600千円の評価減が必要と判断された。
貯蔵品は、販促用のポスターや店頭陳列小物、チラシが主たるものであり、今後の店頭プロモーション等で利用可能性がある物を除き、全て資産性がないものと判断して、20,380千円の評価減を実施した。
③AJE3
貸付金は、従業員貸付金制度によるものと、販売子会社に対する貸付金1億円とからなるが、子会社は近いうちに清算予定であることから、全額回収可能性はないと判断し全額を減額した。
④AJE4
有形固定資産は過年度において減価償却不足額が認めれらる。税務的には減価償却費は任意償却であり、当期利益額等を見ながら償却額を毎期決定しているが、会計的には一定の基準に則って毎期規則的に償却を実施することが求められるので、毎期の償却限度額までの不足分の累計額を過年度減価償却費として計上する。
うち、当期の期に属するものは、製造経費と販売管理費にわけて損益計算書に計上している。
その他の償却額は過年度損益調整項目として、特別損失に計上している。
⑤AJE5
引当金として、退職給付引当金と賞与引当金を計上した。
会社は従来から、退職金会計については現金主義を採用していたため、企業実態を現す発生主義の観点で、退職給付引当金の設定を行った。
退職給付引当金は、会社の退職金規定に基づき、期末自己都合要支給額を計算し、中小企業退職金共済からの期末における資産積立額を控除して未積立退職給付債務を算定し、この額をもって会計上計上するべき退職給付引当金とした。
賞与に関する会計につても同様に現金主義会計であったことから、発生主義に従って賞与引当金の設定を行った。
会社の賞与規定から、夏季賞与の支給対象期間から当期に属する期間を抜き出し、夏季賞与の予定支給額を按分して、当期の期に属するべき賞与費用の算定を行い、賞与引当金の計上を行った。
退職給付費用については、当期の期に属する部分は製造費用又は販売管理費として計上し、それら以外は過年度損益修正損益として特別損失へ計上した。
賞与費用は、製造費用又は販売管理費で計上している。
⑥AJE6
AJE6には紙面幅の関係で複数の修正仕訳をまとめて計上している。
<前払費用>
前払費用3,809千円は全額が信用保証協会への保証料であるので、資産性がないものとして全額を減額した。
<貸倒引当金>
貸倒引当金2,821千円は、税務上の貸倒引当金であるので全額を戻入れた。
<ソフトウェア>
ソフトウェアはホームページ作成費用であるがその内容から収益貢献度はゼロであると評価して資産性がないものと判断し、全額の3,987千円を減額した。
<電話加入権>
固定電話の電話加入権1,091千円は、市場での売却が困難なのでゼロ評価した。
<出資金>
同業者から作る協会への出資金であるが、協会の活動実績もなく返金もされるものではないので全額300千円を減額した。
<投資有価証券>
上場有価証券については時価評価して差額について減損を認識し、未上場の投資先については毎期の決算報告書の内容から判断して減損を認識し、合計で39,980千円を減額した。
<保証金>
役員3名のフィットネスクラブへの入会保証金のうち、退会時に返金されない7,000千円を減額した。
<保険積立金>
役員3名の生命保険料のうち、損金経理できない部分を資産計上したものであるが、基準日時点での解約返戻金の額を問い合わせて、簿価との差額25,200千円について減損を認識した。
<会員権>
ゴルフ会員権の時価(買い相場)を会員権取扱業者公表のデータから把握し、3業者の平均価格をもって時価とし、簿価との差額25,200千円の減損を認識した。
<敷金>
全国8カ所の営業所の事務所の敷金のうち、退去時に返還されない部分36,400千円を全額減額した。
以上のように修正仕訳を計上して、会計理論的に適正な貸借対照表(実態貸借対照表)を作成すると、ワークシートの右側の数値となり、修正前の純資産額が150,401千円の資産超過であったところ、修正後には▲571,589千円の債務超過となりました。
ここまでの会計処理が、企業の実態を表す時価ベースの実態貸借対照表の作成プロセスとなります。
実態貸借対照表はあくまで継続企業を前提とした評価方法となり、破産を前提とした次項の生産貸借表とは全く異なるものです。
同じ時価を使うと言っても、時価の種類が大きく異なります。
清算貸借対照表の作成
実態貸借対照表が作成できたら、次はこれをベースに清算貸借対照表を作ります。
(単位:千円) | ||||||
20XX/3 | 相殺 | 別除権 | その他 清算調整 | 20XX/3 | 摘要 | |
修正後BS | 清算BS | |||||
小口現金 | 11,699 | 11,699 | ||||
A銀行 | 157,218 | ▲ 157,218 | 0 | |||
B銀行 | 192,198 | ▲ 192,198 | 0 | |||
C信用金庫 | 5,687 | ▲ 5,687 | 0 | |||
現預金合計 | 366,802 | ▲ 355,103 | 0 | 0 | 11,699 | |
受取手形 | 13,250 | ▲ 2,650 | 10,600 | 80%評価 | ||
売掛金 | 290,550 | ▲ 58,110 | 232,440 | 80%評価 | ||
商品 | 35,680 | ▲ 32,112 | 3,568 | 10%評価 | ||
貯蔵品 | 2,488 | ▲ 2,488 | 0 | ゼロ評価 | ||
貸付金 | 65,650 | ▲ 13,130 | 52,520 | 80%評価 | ||
前払費用 | 0 | 0 | ||||
貸倒引当金 | 0 | 0 | ||||
流動資産合計 | 774,420 | ▲ 355,103 | 0 | ▲ 108,490 | 310,827 | |
建物 | 410,520 | ▲ 410,520 | 0 | ゼロ評価 | ||
建物付属設備 | 50,450 | ▲ 50,450 | 0 | ゼロ評価 | ||
構築物 | 2,685 | ▲ 2,685 | 0 | ゼロ評価 | ||
機械装置 | 5,678 | ▲ 5,678 | 0 | ゼロ評価 | ||
什器備品 | 4,500 | ▲ 4,500 | 0 | ゼロ評価 | ||
土地 | 450,000 | ▲ 135,000 | 315,000 | 特定価格評価 | ||
有形固定資産合計 | 923,833 | 0 | 0 | ▲ 608,833 | 315,000 | |
ソフトウェア | 0 | 0 | ||||
電話加入権 | 0 | 0 | ||||
無形固定資産合計 | 0 | 0 | 0 | 0 | 0 | |
出資金 | 1,200 | 1,200 | ||||
投資有価証券 | 14,580 | 14,580 | ||||
保証金 | 7,500 | ▲ 5,000 | 2,500 | 原状回復費用控除 | ||
保険積立金 | 65,485 | 65,485 | ||||
会員権 | 4,800 | 4,800 | ||||
敷金 | 29,280 | ▲ 15,000 | 14,280 | 原状回復費用控除 | ||
投資その他の資産合計 | 122,845 | 0 | 0 | ▲ 20,000 | 102,845 | |
固定資産合計 | 1,046,678 | 0 | 0 | ▲ 628,833 | 417,845 | |
資産合計 | 1,821,098 | ▲ 355,103 | 0 | ▲ 737,323 | 728,672 | |
買掛金 | 140,580 | 140,580 | ||||
未払金 | 68,510 | 25,000 | 93,510 | 清算費用10,000千円、解雇予告手当15,000千円 | ||
賞与引当金 | 18,850 | 18,850 | ||||
預り金 | 12,670 | 12,670 | ||||
未払法人税等 | 21,005 | 21,005 | ||||
未払消費税 | 12,882 | 12,882 | ||||
流動負債合計 | 274,497 | 0 | 0 | 25,000 | 299,497 | |
長期借入金 | 1,877,540 | ▲ 355,103 | 1,522,437 | |||
退職給付引当金 | 240,650 | 240,650 | ||||
固定負債合計 | 2,118,190 | ▲ 355,103 | 0 | 0 | 1,763,087 | |
負債合計 | 2,392,687 | ▲ 355,103 | 0 | 25,000 | 2,062,584 | |
資本金 | 50,000 | 50,000 | ||||
別途積立金 | 75,000 | 75,000 | ||||
自己株式 | ▲ 20,000 | ▲ 20,000 | ||||
繰越利益剰余金 | ▲ 676,589 | ▲ 762,323 | ▲ 1,438,912 | |||
純資産の部合計 | ▲ 571,589 | 0 | 0 | ▲ 762,323 | ▲ 1,333,912 | |
負債及び純資産の部合計 | 1,821,098 | ▲ 355,103 | 0 | ▲ 737,323 | 728,672 |
清算貸借対照表は、企業を破産させて早期に債権者への弁済を実施して、清算結了を迎えることを念頭に策定されますので、実態貸借対照表からさらに減額を行います。
早期に売却が可能な価額にまで評価を落としますので、実態貸借対照表で使用した時価とは大きく異なることとなります。
<現預金>:預金口座にある各種預金と借入金との相殺を行います。
<売掛債権>:20%の減額を実施するのが通例です。
<商品>:商品特性を鑑みて、市場での早期の売却を念頭に90%の減額を行っています。
<貯蔵品>販促物の売却可能性はないのでゼロ評価としています。
<貸付金>従業員貸付金ですが、早期に全額の回収は困難なので20%の減額をしています。
<有形固定資産>土地以外は販売可能性がなくゼロ評価とし、土地は正常価格の30%評価減した早期売却価格(特定価格)で評価しています。
<保証金>従業員の社宅借り上げマンションの原状回復費用を計上。
<敷金>全国8カ所の営業所の事務所の原状回復費用を計上。
<未払金>解雇予告手当1か月分と清算費用として専門家への報酬予想額を計上。
以上のような修正を計上して、破産した場合の企業価値を表す清算貸借対照表を作成します。
▲1,333,912千円まで実質債務超過額は膨らみます。
負債組替表の作成
次に、貸借対照表上のビジネス的な機能別の勘定科目を、法律的な視点にたった勘定科目に組み替えます。
(単位:千円) | |||||
負債科目 | 20XX/3 | 優先債権 | 別除権付債権 | 共益債権 | 一般債権 |
清算BS | |||||
買掛金 | 140,580 | 140,580 | |||
未払金 | 93,510 | 21,938 | 10,000 | 61,572 | |
賞与引当金 | 18,850 | 18,850 | 0 | ||
預り金 | 12,670 | 12,555 | 115 | ||
未払法人税等 | 21,005 | 21,005 | 0 | ||
未払消費税 | 12,882 | 12,882 | 0 | ||
長期借入金 | 1,522,437 | 315,000 | 1,207,437 | ||
退職給付引当金 | 240,650 | 240,650 | 0 | ||
負債合計 | 2,062,584 | 327,880 | 315,000 | 10,000 | 1,409,704 |
<未払金> | |||||
未払人件費 | 6,938 | 優先債権 | |||
解雇予告手当 | 15,000 | 優先債権 | |||
清算費用 | 10,000 | 共益債権 | |||
その他 | 61,572 | 一般債権 | |||
合計 | 93,510 | ||||
<預り金> | |||||
源泉所得税 | 6,430 | 優先債権 | |||
住民税 | 6,125 | 優先債権 | |||
その他 | 115 | 一般債権 | |||
合計 | 12,670 |
優先債権とは、破産等における債権者への弁済について、優先的に弁済を受けることができる債権をいい、税金等の公租公課、従業員への給料等の労働債権等をさします。
共益債権とは、債権者全体の利益となるような請求権等で、他の債権に先立って弁済を受けることができる債権をいい、破産手続きを進める弁護士費用等を指します。
別除権付債権とは、破産手続きによることなくいつでも弁済を受けることができる債権をいい、不動産の担保等で保全された債権をいいます。
以上のような、法律的な観点からの勘定科目へ、ビジネス上の機能的な勘定科目を振り替えます。
上記の表は特に負債組替表と呼ばれます。
破産配当率の算定
(単位:千円) |
||
財産評定による総資産額 | 728,672 | |
優先債権 | 327,880 | |
別除権付債権 | 315,000 | |
共益債権 | 10,000 | |
小計 | 652,880 | |
差引 | 75,792 | |
一般債権 | 1,409,704 | |
破産配当率 | 5.4% |
財産評定上の総資産額とは、清算貸借体表表上の資産総額を指します。
この資産から優先的に、優先債権、別除権付債権、共益債権の順に弁済を実施して、残った資産価値(75,792千円)がその他の一般債権の弁済に充当されます。
一般債権の額が1,409,704千円に対して、その弁済の原資となる資産は75,792千円しかないので、一般債権を持つ債権者への弁済はほとんど残っていないことがわかるでしょう。
この2つの数字から計算される破産配当率が5.4%になります。
金融債権者の回収額の算定
(単位:千円) | |||||||||
20XX/3 | 相殺 | 保証付債権 | 別除権付 債権 | 差引:一般債権 | 破産配当率 | 配当額 | 回収額合計 | 回収率 | |
修正後BS | |||||||||
A銀行 | 960,500 | (157,218) | (200,000) | (185,650) | 417,632 | 5.4% | 22,454 | 565,322 | 58.9% |
B銀行 | 556,450 | (192,198) | (60,000) | (129,350) | 174,902 | 5.4% | 9,404 | 390,952 | 70.3% |
C信用金庫 | 210,590 | (5,687) | (20,000) | 0 | 184,903 | 5.4% | 9,941 | 35,628 | 16.9% |
D政府系金融機関 | 150,000 | 0 | 0 | 0 | 150,000 | 5.4% | 8,065 | 8,065 | 5.4% |
信用保証協会 | 0 | 280,000 | 280,000 | 5.4% | 15,054 | 15,054 | 5.4% | ||
借入金合計 | 1,877,540 | ▲ 355,103 | 0 | ▲ 315,000 | 1,207,437 | 0 | 64,917 | 1,015,020 | 54.1% |
上記の金融債権の回収額の表の中のA銀行で説明しますね。
A銀行の貸付残高は960,500千円ですが、債務者企業のA銀行への預貯金は破産の申立てがあれば相殺がかけられて回収されます。このケースでは157,218千円が相殺で回収できます。
次に、破産となれば保証協会の保証が付いた債権は、信用保証協会から代位弁済がなされますので、保証協会から回収ができることになります。このケースではA銀行は200,000千円の代位弁済によって回収できます。
さらに、プロパー融資について債務者企業の有する土地等の不動産に担保設定をしていますので、この不動産の売却収入からの回収ができます。このケースでは、A銀行は185,650千円の回収を行えます。
相殺、保証協会からの代位弁済、担保権を設定した土地の売却収入からの弁済を受けると、最終的に417,632千円の裸の債権が残ります。
この裸の一般債権について、破産配当率の5.4%で配当額を受け取ることになります。このケースでは22,454千円の一般配当額を受け取ることとなります。
以上からA銀行は破産に至った場合には、相殺、保証協会の代位弁済、不動産担保からの回収、一般配当額からの回収ができることとなります。このケースではA銀行は565,322千円の回収ができることとなり、当初の債権額のうち、58.9%を回収したことになります。
B銀行、C信用金庫、D政府系金融機関も上記と同様の計算で回収可能額を算定します。
信用保証協会については、代位弁済を行った後で、債権者として参加することとなりますが、不動産緒担保等を流用していない限り、全額が一般債権となり、破産配当率を乗じた金額しか回収できなくなります。
信用保証協会は、ここで生じた損失についてはそのいくばくかを日本政策金融公庫から保険によって回収することになっています。
ここでの各金融債権者の回収可能額を、清算価値と呼んでいます。
清算価値の意義
さて、ここまでで計算してきた清算価値の意義はなんでしょうか。
事業再生において、金融債権者が債権放棄を実施する場合には、この清算価値の概念はとても重要になります。
法的整理であれ、私的整理であれ、事業再生において、金融債権者が債権放棄まで踏み込んで債務者企業の金融支援を実施しようとするためには、少なくとも破産させた場合の回収額、すなわち清算価値を上回るような回収額が見込めないことには、そのような再建計画に同意することなどできないわけです。
破産させずに再生させた時の回収額が清算価値を下回るならば、債権者からすれば、事業再生なんてめんどくさいことやらないですぐに破産して返済してよというに決まっていますよね。
このようなことから、清算価値には、債権者の回収額の最低限を画する機能があるということができます。
つまり、清算価値を下回るような回収額しか提示できない再生計画などは存在しないということです。
どのような再建計画も、清算価値を上回ることが求められることを「清算価値保証の原則」と呼びます。
また、清算価値を上回る回収額があることを「経済合理性が満たされている」または単に「経済合理性」と呼んでいます。
経済合理性の詳細については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生における経済合理性とはいったいどんな概念なのだろう。銀行が債権放棄まで踏み込んで支援を行うような場合に出てくる概念のようだが、その概念は本当に経済的に合理的と呼べるようなものなのだろうか。こんな悩みを持つ経営者の方にお答えします。
事業再生アドバイザーについては、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に取り組むにあたっては、適切なアドバイザーに依頼することは必須です。経営者が自分一人で進めることにはそもそも無理がありますので、多少のコストをかけてでも依頼するべきです。本当の意味で再生できるアドバイザーの選び方を教えます。