事業再生における清算価値【必須:これを超える弁済を!】

事業再生における清算価値とは何だろう。

事業を再生するのに会社を清算した場合の清算価値を算定するのはなぜだろう。

事業再生を進めて、会社の再建を図ろうとしているのに、清算価値などという会社を清算してしまった時の企業価値を算定するのってよくわからないですよね。

この記事を読むことで、事業再生において清算価値を算定する意味が理解できるようになって、銀行等の金融債権者による債権放棄の額がどのようにして決まるのかが理解できます。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生に取組んで20年以上、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

事業再生における清算価値とは何か?

事業再生における清算価値とは何か?事業再生における清算価値には、2つの意味があります。

1つは債務者企業を破産させた場合の企業の価値をいいます。
企業価値と呼ぶものには2種類のものがあって、1つはこの清算価値、他方は継続価値と呼ばれるものです。

企業は半永久的に事業を継続してキャッシュを獲得するものと捉えられ、たとえば、ある事業をM&Aで買収する場合には、その事業から生み出される将来キャッシュフローの割引現在価値が継続価値と呼ばれ、買収価格の1つの目安となります。

一方、会社事業を継続することが困難となった場合には、会社を清算して資産を現金化し、債権者に弁済を行わなくてはなりませんが、その場合に企業の資産と負債を時価に引き直して評価しますが、この時の企業の価値を清算価値と呼ぶのです。

清算価値のもう1つの意味は、債務者企業を破産させた場合の債権者の回収額を指します。

前述の企業を破産させた場合の企業の清算価値をベースに算定される、各々の債権者の回収可能額をさして清算価値と呼びます。

このように清算価値には2つの意味があるので、文脈によってどちらの意味で遣われているのかを判断しなくてはなりませんが、再生実務の現場で清算価値と呼べば、大方は後者の意味、すなわち各々の債権者の回収可能額を指します。

清算価値の算定方法

清算価値の算定方法清算価値を算定するためには、企業が記帳した結果としての簿価ベースの貸借対照表から、会計理論的に適正とされる実態貸借対照表を策定し、次に、その実態貸借対照表をベースに清算貸借対照表を作成して企業を破産させた場合の純資産額を確定します。

次に、貸借対照表上のビジネス的な機能別の勘定科目を、法律的な視点にたった勘定科目に組み替えます。この組替作業は負債組替表上で行います。

その後、清算貸借表上の資産査定額を用いて破産配当率を算定し、各債権者の回収可能額を算出することになります。

簡単な設例を使って、各債権者の清算価値を算定する流れを見ていきましょう。

実態貸借対照表の作成

まず、簿価ベースの貸借対照表から、会計理論的に適正とされる実態貸借対照表を作成します。

実務上は下記に示した実態貸借対照表策定ワークシートを用います。

(単位:千円)
20XX年/3月 AJE1 AJE2 AJE3 AJE4 AJE5 AJE6 AJE 20XX年/3月
修正前B/S 回収不能債権 商品の減額 貸付金の減額 PPE 引当金 その他 Total 修正後B/S
小口現金 11,699 0 11,699 小口現金
A銀行 157,218 0 157,218 A銀行
B銀行 192,198 0 192,198 B銀行
C信用金庫 5,687 0 5,687 C信用金庫
現預金合計 366,802 0 0 0 0 0 0 0 366,802 現預金合計
受取手形 15,120 ▲ 1,870 ▲ 1,870 13,250 受取手形
売掛金 295,744 ▲ 5,194 ▲ 5,194 290,550 売掛金
商品 55,280 ▲ 19,600 ▲ 19,600 35,680 商品
貯蔵品 22,868 ▲ 20,380 ▲ 20,380 2,488 貯蔵品
貸付金 165,650 ▲ 100,000 ▲ 100,000 65,650 貸付金
前払費用 3,809 ▲ 3,809 ▲ 3,809 0 前払費用
貸倒引当金 2,821 ▲ 2,821 ▲ 2,821 0 貸倒引当金
流動資産合計 928,094 ▲ 7,064 ▲ 39,980 ▲ 100,000 0 0 ▲ 6,630 ▲ 153,674 774,420 流動資産合計
建物 488,550 ▲ 78,030 ▲ 78,030 410,520 建物
建物付属設備 85,630 ▲ 35,180 ▲ 35,180 50,450 建物付属設備
構築物 5,454 ▲ 2,769 ▲ 2,769 2,685 構築物
機械装置 12,754 ▲ 7,076 ▲ 7,076 5,678 機械装置
什器備品 12,870 ▲ 8,370 ▲ 8,370 4,500 什器備品
土地 450,000 0 450,000 土地
有形固定資産合計 1,055,258 0 0 0 ▲ 131,425 0 0 ▲ 131,425 923,833 有形固定資産合計
ソフトウェア 3,987 ▲ 3,987 ▲ 3,987 0 ソフトウェア
電話加入権 1,091 ▲ 1,091 ▲ 1,091 0 電話加入権
無形固定資産合計 5,078 0 0 0 0 0 ▲ 5,078 ▲ 5,078 0 無形固定資産合計
出資金 1,500 ▲ 300 ▲ 300 1,200 出資金
投資有価証券 54,560 ▲ 39,980 ▲ 39,980 14,580 投資有価証券
保証金 14,500 ▲ 7,000 ▲ 7,000 7,500 保証金
保険積立金 115,858 ▲ 50,373 ▲ 50,373 65,485 保険積立金
会員権 30,000 ▲ 25,200 ▲ 25,200 4,800 会員権
敷金 65,680 ▲ 36,400 ▲ 36,400 29,280 敷金
投資その他の資産合計 282,098 0 0 0 0 0 ▲ 159,253 ▲ 159,253 122,845 投資その他の資産合計
固定資産合計 1,342,434 0 0 0 ▲ 131,425 0 ▲ 164,331 ▲ 295,756 1,046,678 固定資産合計
資産合計 2,270,528 ▲ 7,064 ▲ 39,980 ▲ 100,000 ▲ 131,425 0 ▲ 170,961 ▲ 449,430 1,821,098 資産合計
買掛金 140,580 0 140,580 買掛金
未払金 55,450 13,060 13,060 68,510 未払金
賞与引当金 0 18,850 18,850 18,850 賞与引当金
預り金 12,670 0 12,670 預り金
未払法人税等 21,005 0 21,005 未払法人税等
未払消費税 12,882 0 12,882 未払消費税
流動負債合計 242,587 0 0 0 0 18,850 13,060 31,910 274,497 流動負債合計
長期借入金 1,877,540 0 1,877,540 長期借入金
退職給付引当金 0 240,650 240,650 240,650 退職給付引当金
固定負債合計 1,877,540 0 0 0 0 240,650 0 240,650 2,118,190 固定負債合計
負債合計 2,120,127 0 0 0 0 259,500 13,060 272,560 2,392,687 負債合計
資本金 50,000 0 50,000 資本金
別途積立金 75,000 0 75,000 別途積立金
自己株式 ▲ 20,000 0 ▲ 20,000 自己株式
繰越利益剰余金 45,401 ▲ 7,064 ▲ 39,980 ▲ 100,000 ▲ 131,425 ▲ 259,500 ▲ 184,021 ▲ 721,990 ▲ 676,589 繰越利益剰余金
純資産の部合計 150,401 ▲ 7,064 ▲ 39,980 ▲ 100,000 ▲ 131,425 ▲ 259,500 ▲ 184,021 ▲ 721,990 ▲ 571,589 純資産の部合計
負債及び純資産の部合計 2,270,528 ▲ 7,064 ▲ 39,980 ▲ 100,000 ▲ 131,425 0 ▲ 170,961 ▲ 449,430 1,821,098 負債及び純資産の部合計
売上高 1,845,000 0 1,845,000 売上高
売上原価 1,346,850 2,225 17,560 19,785 1,366,635 売上原価
売上総利益 498,150 0 0 0 ▲ 2,225 ▲ 17,560 0 ▲ 19,785 478,365 売上総利益
販売管理費 452,025 1,285 5,425 6,710 458,735 販売管理費
営業利益 46,125 0 0 0 ▲ 3,510 ▲ 22,985 0 ▲ 26,495 19,630 営業利益
営業外収益 13,580 0 13,580 営業外収益
営業外費用 46,580 0 46,580 営業外費用
経常利益(損失) 13,125 0 0 0 ▲ 3,510 ▲ 22,985 0 ▲ 26,495 ▲ 13,370 経常利益(損失)
特別利益 8,505 0 8,505 特別利益
特別損失 5,654 7,064 39,980 100,000 127,915 236,515 184,021 695,495 701,149 特別損失
税引前当期利益(損失) 15,976 ▲ 7,064 ▲ 39,980 ▲ 100,000 ▲ 131,425 ▲ 259,500 ▲ 184,021 ▲ 721,990 ▲ 706,014 税引前当期利益(損失)
法人税等 4,560 0 4,560 法人税等
当期純利益(損失) 11,416 ▲ 7,064 ▲ 39,980 ▲ 100,000 ▲ 131,425 ▲ 259,500 ▲ 184,021 ▲ 721,990 ▲ 710,574 当期純利益(損失)
前期繰越利益(損失) 33,985 0 33,985 前期繰越利益(損失)
当期未処分利益(損失) 45,401 ▲ 7,064 ▲ 39,980 ▲ 100,000 ▲ 131,425 ▲ 259,500 ▲ 184,021 ▲ 721,990 ▲ 676,589 当期未処分利益(損失)

このワークシートの左側には、債務者企業の簿価ベースの貸借対照表を勘定科目と金額とで記載します。
これは、直近の決算書をそのまま用いればOKです。

この事例では適当に数値を作って架空の簿価ベースの貸借対照表を用いていますので、財務分析上の勘定科目の数値のバランスについては無視してください。

中堅・中小企業の場合、公認会計士の会計監査を毎期受けているわけではなく、税務申告用に記帳がなされているだけですので、この簿価ベースの貸借対照表は会計理論的に適正なものではありません。

ここで適正とは、企業を取り巻く利害関係者の経済的意思決定をミスリードすることがない程度に適正であるという意味です。
会計理論的に全く正しい金額である必要はないわけですが、会計士監査では会計理論的に正しい金額に修正をするのが通例です。

この事例では、AJE1~AJE5までの5つの修正をかけて貸借対照表の適正化を図っています。
ちなみにAJE=Adjusted Journal Entry=修正仕訳の意味です。
紙面幅の関係でAJE5にはいくつかの修正仕訳をまとめて1つの仕訳としています。(後述)

では、AJE1~AJE5までの5つの修正の内容を見ておきましょう。

①AJE1
売掛債権(受取手形、売掛金)の残高確認を実施(確認状の送付と回収)し残高の正確性を確認するとともに、債権の年齢調べを基礎として債権の回収可能性を検討した結果、受取手形1,870千円、売掛金5,194千円の回収可能性に大きな疑義が生じたため、同額を直接減額した。

②AJE2
商品については、毎期決算期末に実地棚卸を実施しているわけではなかったので、決算日から3ヶ月過ぎた時点で実地棚卸を実施し、その時点での確定数量から商品払出帳の記録から逆算して基準日時点の商品在庫数を確定した。
また、実地棚卸時に、長期滞留商品、不良品等の仕分けを徹底的に行って商品在庫の資産性を確認して、評価を行ったところ、19,600千円の評価減が必要と判断された。

貯蔵品は、販促用のポスターや店頭陳列小物、チラシが主たるものであり、今後の店頭プロモーション等で利用可能性がある物を除き、全て資産性がないものと判断して、20,380千円の評価減を実施した。

③AJE3
貸付金は、従業員貸付金制度によるものと、販売子会社に対する貸付金1億円とからなるが、子会社は近いうちに清算予定であることから、全額回収可能性はないと判断し全額を減額した。

④AJE4
有形固定資産は過年度において減価償却不足額が認めれらる。税務的には減価償却費は任意償却であり、当期利益額等を見ながら償却額を毎期決定しているが、会計的には一定の基準に則って毎期規則的に償却を実施することが求められるので、毎期の償却限度額までの不足分の累計額を過年度減価償却費として計上する。

うち、当期の期に属するものは、製造経費と販売管理費にわけて損益計算書に計上している。
その他の償却額は過年度損益調整項目として、特別損失に計上している。

⑤AJE5
引当金として、退職給付引当金と賞与引当金を計上した。

会社は従来から、退職金会計については現金主義を採用していたため、企業実態を現す発生主義の観点で、退職給付引当金の設定を行った。

退職給付引当金は、会社の退職金規定に基づき、期末自己都合要支給額を計算し、中小企業退職金共済からの期末における資産積立額を控除して未積立退職給付債務を算定し、この額をもって会計上計上するべき退職給付引当金とした。

賞与に関する会計につても同様に現金主義会計であったことから、発生主義に従って賞与引当金の設定を行った。

会社の賞与規定から、夏季賞与の支給対象期間から当期に属する期間を抜き出し、夏季賞与の予定支給額を按分して、当期の期に属するべき賞与費用の算定を行い、賞与引当金の計上を行った。

退職給付費用については、当期の期に属する部分は製造費用又は販売管理費として計上し、それら以外は過年度損益修正損益として特別損失へ計上した。
賞与費用は、製造費用又は販売管理費で計上している。

⑥AJE6
AJE6には紙面幅の関係で複数の修正仕訳をまとめて計上している。

<前払費用>
前払費用3,809千円は全額が信用保証協会への保証料であるので、資産性がないものとして全額を減額した。

<貸倒引当金>
貸倒引当金2,821千円は、税務上の貸倒引当金であるので全額を戻入れた。

<ソフトウェア>
ソフトウェアはホームページ作成費用であるがその内容から収益貢献度はゼロであると評価して資産性がないものと判断し、全額の3,987千円を減額した。

<電話加入権>
固定電話の電話加入権1,091千円は、市場での売却が困難なのでゼロ評価した。

<出資金>
同業者から作る協会への出資金であるが、協会の活動実績もなく返金もされるものではないので全額300千円を減額した。

<投資有価証券>
上場有価証券については時価評価して差額について減損を認識し、未上場の投資先については毎期の決算報告書の内容から判断して減損を認識し、合計で39,980千円を減額した。

<保証金>
役員3名のフィットネスクラブへの入会保証金のうち、退会時に返金されない7,000千円を減額した。

<保険積立金>
役員3名の生命保険料のうち、損金経理できない部分を資産計上したものであるが、基準日時点での解約返戻金の額を問い合わせて、簿価との差額25,200千円について減損を認識した。

<会員権>
ゴルフ会員権の時価(買い相場)を会員権取扱業者公表のデータから把握し、3業者の平均価格をもって時価とし、簿価との差額25,200千円の減損を認識した。

<敷金>
全国8カ所の営業所の事務所の敷金のうち、退去時に返還されない部分36,400千円を全額減額した。

以上のように修正仕訳を計上して、会計理論的に適正な貸借対照表(実態貸借対照表)を作成すると、ワークシートの右側の数値となり、修正前の純資産額が150,401千円の資産超過であったところ、修正後には▲571,589千円の債務超過となりました。

ここまでの会計処理が、企業の実態を表す時価ベースの実態貸借対照表の作成プロセスとなります。

実態貸借対照表はあくまで継続企業を前提とした評価方法となり、破産を前提とした次項の生産貸借表とは全く異なるものです。
同じ時価を使うと言っても、時価の種類が大きく異なります。

清算貸借対照表の作成

実態貸借対照表が作成できたら、次はこれをベースに清算貸借対照表を作ります。

(単位:千円)
20XX/3 相殺 別除権 その他    清算調整 20XX/3 摘要
修正後BS 清算BS
小口現金 11,699 11,699
A銀行 157,218 ▲ 157,218 0
B銀行 192,198 ▲ 192,198 0
C信用金庫 5,687 ▲ 5,687 0
現預金合計 366,802 ▲ 355,103 0 0 11,699
受取手形 13,250 ▲ 2,650 10,600 80%評価
売掛金 290,550 ▲ 58,110 232,440 80%評価
商品 35,680 ▲ 32,112 3,568 10%評価
貯蔵品 2,488 ▲ 2,488 0 ゼロ評価
貸付金 65,650 ▲ 13,130 52,520 80%評価
前払費用 0 0
貸倒引当金 0 0
流動資産合計 774,420 ▲ 355,103 0 ▲ 108,490 310,827
建物 410,520 ▲ 410,520 0 ゼロ評価
建物付属設備 50,450 ▲ 50,450 0 ゼロ評価
構築物 2,685 ▲ 2,685 0 ゼロ評価
機械装置 5,678 ▲ 5,678 0 ゼロ評価
什器備品 4,500 ▲ 4,500 0 ゼロ評価
土地 450,000 ▲ 135,000 315,000 特定価格評価
有形固定資産合計 923,833 0 0 ▲ 608,833 315,000
ソフトウェア 0 0
電話加入権 0 0
無形固定資産合計 0 0 0 0 0
出資金 1,200 1,200
投資有価証券 14,580 14,580
保証金 7,500 ▲ 5,000 2,500 原状回復費用控除
保険積立金 65,485 65,485
会員権 4,800 4,800
敷金 29,280 ▲ 15,000 14,280 原状回復費用控除
投資その他の資産合計 122,845 0 0 ▲ 20,000 102,845
固定資産合計 1,046,678 0 0 ▲ 628,833 417,845
資産合計 1,821,098 ▲ 355,103 0 ▲ 737,323 728,672
買掛金 140,580 140,580
未払金 68,510 25,000 93,510 清算費用10,000千円、解雇予告手当15,000千円
賞与引当金 18,850 18,850
預り金 12,670 12,670
未払法人税等 21,005 21,005
未払消費税 12,882 12,882
流動負債合計 274,497 0 0 25,000 299,497
長期借入金 1,877,540 ▲ 355,103 1,522,437
退職給付引当金 240,650 240,650
固定負債合計 2,118,190 ▲ 355,103 0 0 1,763,087
負債合計 2,392,687 ▲ 355,103 0 25,000 2,062,584
資本金 50,000 50,000
別途積立金 75,000 75,000
自己株式 ▲ 20,000 ▲ 20,000
繰越利益剰余金 ▲ 676,589 ▲ 762,323 ▲ 1,438,912
純資産の部合計 ▲ 571,589 0 0 ▲ 762,323 ▲ 1,333,912
負債及び純資産の部合計 1,821,098 ▲ 355,103 0 ▲ 737,323 728,672

清算貸借対照表は、企業を破産させて早期に債権者への弁済を実施して、清算結了を迎えることを念頭に策定されますので、実態貸借対照表からさらに減額を行います。

早期に売却が可能な価額にまで評価を落としますので、実態貸借対照表で使用した時価とは大きく異なることとなります。

<現預金>:預金口座にある各種預金と借入金との相殺を行います。

<売掛債権>:20%の減額を実施するのが通例です。

<商品>:商品特性を鑑みて、市場での早期の売却を念頭に90%の減額を行っています。

<貯蔵品>販促物の売却可能性はないのでゼロ評価としています。

<貸付金>従業員貸付金ですが、早期に全額の回収は困難なので20%の減額をしています。

<有形固定資産>土地以外は販売可能性がなくゼロ評価とし、土地は正常価格の30%評価減した早期売却価格(特定価格)で評価しています。

<保証金>従業員の社宅借り上げマンションの原状回復費用を計上。

<敷金>全国8カ所の営業所の事務所の原状回復費用を計上。

<未払金>解雇予告手当1か月分と清算費用として専門家への報酬予想額を計上。

以上のような修正を計上して、破産した場合の企業価値を表す清算貸借対照表を作成します。
▲1,333,912千円まで実質債務超過額は膨らみます。

負債組替表の作成

次に、貸借対照表上のビジネス的な機能別の勘定科目を、法律的な視点にたった勘定科目に組み替えます。

(単位:千円)
負債科目 20XX/3 優先債権 別除権付債権 共益債権 一般債権
清算BS
買掛金 140,580 140,580
未払金 93,510 21,938 10,000 61,572
賞与引当金 18,850 18,850 0
預り金 12,670 12,555 115
未払法人税等 21,005 21,005 0
未払消費税 12,882 12,882 0
長期借入金 1,522,437 315,000 1,207,437
退職給付引当金 240,650 240,650 0
負債合計 2,062,584 327,880 315,000 10,000 1,409,704
<未払金>
未払人件費 6,938 優先債権
解雇予告手当 15,000 優先債権
清算費用 10,000 共益債権
その他 61,572 一般債権
合計 93,510
<預り金>
源泉所得税 6,430 優先債権
住民税 6,125 優先債権
その他 115 一般債権
合計 12,670

優先債権とは、破産等における債権者への弁済について、優先的に弁済を受けることができる債権をいい、税金等の公租公課、従業員への給料等の労働債権等をさします。

共益債権とは、債権者全体の利益となるような請求権等で、他の債権に先立って弁済を受けることができる債権をいい、破産手続きを進める弁護士費用等を指します。

別除権付債権とは、破産手続きによることなくいつでも弁済を受けることができる債権をいい、不動産の担保等で保全された債権をいいます。

以上のような、法律的な観点からの勘定科目へ、ビジネス上の機能的な勘定科目を振り替えます。
上記の表は特に負債組替表と呼ばれます。

破産配当率の算定

(単位:千円)

財産評定による総資産額 728,672
優先債権 327,880
別除権付債権 315,000
共益債権 10,000
小計 652,880
差引 75,792
一般債権 1,409,704
破産配当率 5.4%

財産評定上の総資産額とは、清算貸借体表表上の資産総額を指します。

この資産から優先的に、優先債権、別除権付債権、共益債権の順に弁済を実施して、残った資産価値(75,792千円)がその他の一般債権の弁済に充当されます。

一般債権の額が1,409,704千円に対して、その弁済の原資となる資産は75,792千円しかないので、一般債権を持つ債権者への弁済はほとんど残っていないことがわかるでしょう。

この2つの数字から計算される破産配当率が5.4%になります。

金融債権者の回収額の算定

(単位:千円)
20XX/3 相殺 保証付債権 別除権付 債権 差引:一般債権 破産配当率 配当額 回収額合計 回収率
修正後BS
A銀行 960,500 (157,218) (200,000) (185,650) 417,632 5.4% 22,454 565,322 58.9%
B銀行 556,450 (192,198) (60,000) (129,350) 174,902 5.4% 9,404 390,952 70.3%
C信用金庫 210,590 (5,687) (20,000) 0 184,903 5.4% 9,941 35,628 16.9%
D政府系金融機関 150,000 0 0 0 150,000 5.4% 8,065 8,065 5.4%
信用保証協会 0 280,000 280,000 5.4% 15,054 15,054 5.4%
借入金合計 1,877,540 ▲ 355,103 0 ▲ 315,000 1,207,437 0 64,917 1,015,020 54.1%

上記の金融債権の回収額の表の中のA銀行で説明しますね。

A銀行の貸付残高は960,500千円ですが、債務者企業のA銀行への預貯金は破産の申立てがあれば相殺がかけられて回収されます。このケースでは157,218千円が相殺で回収できます。

次に、破産となれば保証協会の保証が付いた債権は、信用保証協会から代位弁済がなされますので、保証協会から回収ができることになります。このケースではA銀行は200,000千円の代位弁済によって回収できます。

さらに、プロパー融資について債務者企業の有する土地等の不動産に担保設定をしていますので、この不動産の売却収入からの回収ができます。このケースでは、A銀行は185,650千円の回収を行えます。

相殺、保証協会からの代位弁済、担保権を設定した土地の売却収入からの弁済を受けると、最終的に417,632千円の裸の債権が残ります。

この裸の一般債権について、破産配当率の5.4%で配当額を受け取ることになります。このケースでは22,454千円の一般配当額を受け取ることとなります。

以上からA銀行は破産に至った場合には、相殺、保証協会の代位弁済、不動産担保からの回収、一般配当額からの回収ができることとなります。このケースではA銀行は565,322千円の回収ができることとなり、当初の債権額のうち、58.9%を回収したことになります。

B銀行、C信用金庫、D政府系金融機関も上記と同様の計算で回収可能額を算定します。

信用保証協会については、代位弁済を行った後で、債権者として参加することとなりますが、不動産緒担保等を流用していない限り、全額が一般債権となり、破産配当率を乗じた金額しか回収できなくなります。

信用保証協会は、ここで生じた損失についてはそのいくばくかを日本政策金融公庫から保険によって回収することになっています。

ここでの各金融債権者の回収可能額を、清算価値と呼んでいます。

清算価値の意義

清算価値の意義さて、ここまでで計算してきた清算価値の意義はなんでしょうか。

事業再生において、金融債権者が債権放棄を実施する場合には、この清算価値の概念はとても重要になります。

法的整理であれ、私的整理であれ、事業再生において、金融債権者が債権放棄まで踏み込んで債務者企業の金融支援を実施しようとするためには、少なくとも破産させた場合の回収額、すなわち清算価値を上回るような回収額が見込めないことには、そのような再建計画に同意することなどできないわけです。

破産させずに再生させた時の回収額が清算価値を下回るならば、債権者からすれば、事業再生なんてめんどくさいことやらないですぐに破産して返済してよというに決まっていますよね。

このようなことから、清算価値には、債権者の回収額の最低限を画する機能があるということができます。
つまり、清算価値を下回るような回収額しか提示できない再生計画などは存在しないということです。

どのような再建計画も、清算価値を上回ることが求められることを「清算価値保証の原則」と呼びます。

また、清算価値を上回る回収額があることを「経済合理性が満たされている」または単に「経済合理性」と呼んでいます。

経済合理性の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

事業再生アドバイザーについては、下記の記事を参考になさってください。