企業を取り巻く環境が大きく変わって、お客様の消費行動を大きく変化した結果、昔のように儲けることがだんだんと難しい時代になってきました。
そんな中、資金繰りも厳しくなって、銀行からの借金ばかり増えて、自社のビジネスの先行きが不安な経営者は多くいらっしゃることと思います。
そんな時に、銀行の担当者から「そろそろ事業再生に本気で取り組むべきでは?」と話が出た時に、「事業再生って何をすればいいんだろう。なんだか難しそうで大変そうだな。」とお悩みの方も多いはずですね。
さらに、事業再生って本当に必要なの?これまでのやり方で商売をやっちゃいけないの?と疑問に思う方もいらっしゃるはずです。
そこで、この記事では、事業再生とはどういうものなのか、なぜ事業再生を実施するべきなのかという事業再生の目的をわかりやすく説明します。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生の世界に身を置いて20年、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。
事業再生とは?
事業再生という言葉は、「事業」と「再生」という2つの言葉からできています。
したがって、事業再生という言葉の意味を理解するためには、「事業」と「再生」という2つの言葉の意味を確定、つまり定義しなければなりません。
事業とは、有機的機能的一体としての資産を利用しながら、営利目的で継続的に経済活動を行うことと定義できます。
有機的機能的一体としての資産とは、なんとも難しい言葉の遣いまわしですが、簡単にいうと、商売をするときに使う機械やパソコンや自動車や社員さんたちのことで、それらは単独で存在しているのではなくて密接につながって全体として会社の利益の獲得に貢献しているよね、ということです。
また、営利目的とは、儲けようとする意図を持っているということであり、継続的とは1回だけの取引ではなく自分がやめようと思うまでずっと半永久的にその経済活動を続けることをいいます。
たとえば、あなたが街の本屋さんであれば、賃貸であれ自社物件であれお店を用意して多くの素敵な本を本棚に陳列し、レジに社員のスタッフを配置し、一体としてのこれらの資産を使いつつ、あなたのお店に来るお客様に毎日素敵な本を販売し続けていますよね。
つまり、あなたは本の販売事業を営んで儲けようとしているわけです。
また、あなたが繁華街にレストランを出店しているのであれば、賃貸であれ自社物件であれお店を用意して、厨房機器を揃えて客席を整え、毎日の食材を市場から仕入れて、一体としてのこれらの資産を使いつつ、あなたのお店に来るお客様に毎日美味しいハンバーグステーキを提供し続けていますよね。
つまり、あなたはレストラン事業を営んで儲けようとしているわけです。
これらが事業という言葉が指すものです。
具体例があるとわかりやすいですね。
一方、再生とは文字通り再び生かすことを意味しており、ビジネスの文脈でこの言葉を遣えば、昔のように儲けていた状態に戻すことと定義されます。
そもそも事業を立ち上げた当初から赤字続きの会社、もしくはそれに近いような経営状況の会社の場合には、再生という言葉を遣うのは間違っているということですね。
このように、事業再生とは、有機的機能的一体としての資産を使いつつ継続的な経済活動によって利益を上げていた事業の収益力が落ちた時に、昔の儲かっていた状態にまで儲ける力を回復させることと定義できるのです。
本来事業再生の定義とはこのようなものとなるはずですが、世の中で広く行われている事業再生はこの定義から大きくずれたものとなっています。
日本の事業再生は、財務の再生又はB/Sの再生と呼ばれる片手落ちのものでしかなく、事業そのものの再生を企てることができる専門家は極めて少数なのです。
日本の事業再生の抱える問題点については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に問題点ってあるのだろうか。来月から真剣に取り組むことになったんだけど、そういったポイントを事前に知っておけば過度に期待しなくて済むからね。こんなお悩みを抱えた経営者の方は必見です。事業再生の問題点を包み隠さずお話します。
企業再生とのちがい
事業再生と企業再生という言葉はよく似ているのだけど、同じ意味と考えていいのか、それとも全く違うのかよくわからないなと思われている経営者の方はとても多いように思います。
事業再生という言葉については前節で定義してご説明したとおりですので、ここではまず企業再生という言葉についての定義から始めますね。
企業再生という言葉は、「企業」と「再生」という2つの言葉からできています。
したがって、企業再生という言葉の意味を理解するためには、「企業」と「再生」という2つの言葉の意味を確定、つまり定義しなければなりません。
企業とは、有機的機能的一体としての資産を利用しながら、営利目的で継続的に経済活動を行う組織体のことをいいます。
その組織体の多くは株式会社、合同会社、合資会社、合名会社の4つの会社です。
会社とは会社法という法律に基づいて設立された法人格を有する組織体です。
以上から、事業再生と企業再生という2つの言葉は、どちらも再生という言葉を含みますが、事業と企業という言葉の違いから、再生する対象に違いがあるのだということがわかります。
事業再生は組織体の枠(法人格)にとらわれず、あくまで経済活動のかたまりという枠を重視していますが、一方、企業再生は経済活動のかたまりという枠にとらわれず、組織体の枠(法人格)を重視するということです。
具体的な例をあげましょう。
株式会社まぐろは、漁師さんを社員として雇用し毎日沖へ出て新鮮で安全な魚を獲って市場で仲買人に売っています。
また、東京では自社の漁師さんが獲った新鮮な魚を使った美味しくてリーズナブルな居酒屋を経営しています。
最近、株式会社まぐろは近畿大学が養殖する近大まぐろに押されて業況が悪化し、資金繰りも厳しくなってきました。
さてこのようなケースで、株式会社まぐろを事業再生するといった場合には、再生の対象とするべき事業は、魚獲事業なのか、居酒屋事業なのかを決める必要があります。
なぜなら、事業とは組織体の枠(法人格)とは関係なく、経済活動のかたまりという枠の視点で見る言葉だからであり、漁獲事業と居酒屋事業は活動の種類が異なるからです。
このように、魚獲事業と居酒屋事業はその各々の事業を行うために必要な活動の種類が明らかに違うので、普通は別々の事業と見ますが、一方で広くまとめてお魚に関連する事業ととらえれば1つの事業とも解釈することも可能となります。
この場合は、魚獲事業と居酒屋事業をまとめて1つの事業と見ることになります。
事業という言葉はこのように、言葉の階層を上下するのが得意な自由な言葉なのですね。
ちなみに事業の定義という考え方はマーケティングでは極めて大切になります。
さて、今度はこの株式会社まぐろを企業再生するといった場合には、どうなるでしょう。
企業再生という言葉が再生の対象とするのは組織体の枠(法人格)というものでしたから、株式会社まぐろが有する事業すべてが対象となることとなります。
つまり、魚獲事業と居酒屋事業の両方が当然に再生の対象となるということとなります。
もう1つだけ例をあげましょう。
株式会社イノキは、子会社2社を傘下に持つホールディングカンパニーです。
子会社の1つの株式会サカグチはドッグフードの製造事業を、他方の子会社である株式会社フジナミはドッグフードの販売事業を行っています。
株式会社イノキグループ全体の業績が、新しいコンセプトの商品を引っ提げて華々しく業界デビューした新興企業の躍進の影響を受けて大きく悪化したような場合に、イノキグループを事業再生しようといった時には、組織体(法人格)の枠を超えてグループ3社で1つの事業を営むとみて、3社すべてを再生の対象とします。
一方で、株式会社イノキを企業再生しようという場合には、子会社2社は再生の対象からは除かれるということとなってしまいます。
したがって、このような場合には明らかに3社をまとめて再生の対象としなくては意味がないので、このケースでは事業再生という言葉しか遣うべきではありません。
以上のように、事業再生と企業再生という2つの言葉には、前者が経済活動のかたまりを重視した言葉であり、後者が組織体(法人格)の枠を重視した言葉であるという違いがあります。
厳密な言葉の定義から2つの言葉の違いを説明すると以上のようになりますが、実務の世界では専門家でさえきちんとその違いを理解し定義して遣っている者も少なく、同じような意味で遣っているのが現状です。
どちらを遣っても、置かれた文脈からその意味は理解できますし、コミュニケーションに困るということはありませんからね。
民事再生とのちがい
さて、もう一つよく似た言葉に事業再生と民事再生という言葉があります。
これら2つの言葉は、言葉の抽象度が大きく違います。
事業再生のほうが言葉の抽象度は高く、その1つの具体例が民事再生ということになります。
つまり、民事再生という言葉は、事業再生という言葉に包含されるという関係にあります。
事業再生は、裁判所の手を使って遂行するか否かで法的整理と私的整理という2つに区分されます。
裁判所の手を借りる者が法的整理であり、裁判所の手を借りずに債権者と債務者との間の協議で進めるものを私的整理といいます。
そして、法的整理の代表的なものが民事再生であるので、事業再生と民事再生という言葉はその抽象度が全く違うものであることがわかります。
つまり言葉の階層(=レイヤー)が全く違うということであり、民事再生は事業再生に包含されるという関係にあります。
事業再生の種類についての詳細は、下記の記事を参考になさってください。
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事業再生の目的
事業再生の意味や、企業再生、民事再生との違いもよくわかったけど、そもそもなぜ事業再生をしなくてはいけないのか思われる経営者の方も多いと思います。
そこで、この節では事業再生を実施する目的について説明しますね。
事業再生を実施するべき目的は、社会厚生を最大化するということにあります。
社会厚生の最大化というのも難しい概念ですが、経済学的な概念で、簡単に言うと、世の中に生きる全ての人の満足度の社会全体での総量を社会厚生といい、それが大きければ大きいほどよいとする考え方です。
事業再生の対象となる企業は、以前と比較して収益力が落ちていますから、そこで働く従業員のお給料も長い間上がらなかったり、サービス残業が横行してしまったりして従業員の満足度は下がっています。
また、仕入業者への支払いも期日通りに行えなくなったりすると、仕入業者さんの資金繰りに甚大な影響を与えていますから。彼らの満足度も下がっています。
さらに利益が減ってキャッシュが減ると、銀行への借入金が返済できなくなったりして、銀行は困りますよね。
銀行は貸倒引当金を積むことが会計的に求められたり、ひょっとしたら貸出債権の減損を認識しなくてはならなくなります。
加えて、利益が落ちてくれば税金が払えなくなりますから、国や地方の満足度は下がります。
このように、1つの企業の収益性の悪化は、その企業だけの問題ではなくなってぐるりと回って社会全体の満足度を下げてしまうのです。
上の例では悪化の波及の一巡だけを記載していますが、現実には給料が減った従業員は消費を抑制しますから、いつも買い物をする八百屋さんや魚屋さんの売上減少に繋がります。
貸倒引当金をたくさん積んだ銀行はその会社への新規の融資は実行しにくくなり収益機会を失います。
このように企業業績の悪化の影響はスパイラル的にさらに悪い方向へと社会全体を導いていくのです。
このような状況に陥ってしまった会社は、社会厚生の悪化につながった原因を除去して収益力を回復する必要があります。
その収益力を取り戻すために行うのが事業再生であるということです。
事業再生を行うことは、その会社だけに役立つのではなく、その会社を取り巻く社会全体にとっても大きく役立つものなのです。
事業再生を実施することのメリットとデメリットについては、下記の記事を参考になさってください。
事業再生のメリットとデメリットって何だろうと思い悩んで、それに取り組むことをためらっている経営者の方は多いのではないでしょうか。特にデメリットが気になって仕方ないですよね。結論を申し上げれば、事業再生は良いこと尽くめなので安心してください。
事業再生における金融支援の方法については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生の金融支援にはどのような手法があるんだろう。金融支援の手法によっては、経営者である私にも責任を問われることがあるのかな。事前に知っておくと、事業再生に取り組むにあたって不安にならずにすむな。こんなお悩みを抱えた経営者は必見です。
事業再生における手続については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生ってどんな手順を踏むんだろう。来月から事業再生に取り組むことなったんだけど、どんな手順で進んでいくのか知っておかないと不安で仕方ないしな・・・こんなお悩みを抱えた経営者の方は必見です。その道20年のプロである公認会計士が書きました。