ダイレクト・レスポンス広告は、ダイレクト・マーケティングで使用する広告ってことはなんとなく理解できるのだけども、具体的にどんな特徴をもった広告を指すのか、よくわからないので詳しく教えてほしい。
なんとなくの感覚で、チラシを作ってはまいてはいるのだけど、いまいち反応がよくないのは、そもそも作り方が間違っているのかもしれないからね。
こんなお悩みをお持ちの経営者は実はとても多いのではないかと思っているのですが、それは、私の事業再生の実務の中でお仕事をさせていただいた会社のほぼすべてが、そのような状況にあったからなのですね。
この記事を読むことで、ダイレクト・マーケティングで使うダイレクト・レスポンス広告の特徴が良く理解でき、明日からあなたの作る広告は段違いにポイントをついたものになります。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生に取り組んで20年以上、200社超の会社の事業再生に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロフェッショナルである公認会計士が書きました。
ダイレクト・レスポンス広告とは?
ダイレクト・レスポンス広告とは、広告を見たユーザーが商品の購入やサービスの問い合わせ、あるいは資料の請求など、具体的なアクションを起こしてもらうことを目的としている広告をいいます。
つまりは、広告を見た人が、その場で、広告された商品を買ってもらうための広告が、ダイレクト・レスポンス広告になります。
例えば、「最近仕事が忙しくて生活が不規則になって、食生活も乱れているよな。野菜もちゃんと摂らないとな・・・」と思っている人に、「有機野菜100%の飲みやすくて美味しい青汁です!」というキャッチコピーの広告を見せて、「あっ、これは私のための商品じゃないか!買って飲まなきゃ!」と、その場で購入してもらうようなものです。
このように、ダイレクト・レスポンス広告は、広告を見た人にその場で商品の購入につなげるため、広告の中に必ず、申し込みや購入方法などを記載しておくことが必須になります。
ダイレクト・レスポンス・マーケティングとの関係
ダイレクト・レスポンス・マーケティング(以下、ダイレクト・マーケティング)とは、広告に対して何らかの反応があった人に対して直接商品等の販売を行うマーケティング手法をいいます。
そして、ダイレクト・マーケティングには満たすべき要件がいくつかありますが、その要件に、「双方向のコミュニケーションを行って、注文や問合わせなど、行動として現れる「反応」を獲得すること。」が挙げられています。
この「双方向のコミュニケーションを行う」場所と、「注文などのレスポンスを獲得する」場所のいずれもが、広告の中に存在する、つまり、商品の認知から販売まで一気通貫に行ってしまう場所としての広告がダイレクト・レスポンス広告になのです。
言い換えれば、ダイレクト・マーケティングが展開される場所が、ダイレクト・レスポンス広告であるという関係にあります。
ダイレクト・レスポンス広告とブランド広告の違い
ダイレクト・レスポンス広告とブランド広告の違いの違いをまとめると下記の表のようになります。
ダイレクト・レスポンス広告 | ブランド広告 | |
マーケティング手法 | ダイレクト・マーケティング | リテール・マーケティング |
実店舗の有無 | 必ずしも前提としない | 必ず必要 |
広告の役割 | 認知~販売まで | 実店舗まで送客すること |
伝えたいメッセージ | この商品を今ここで買ってほしい | 会社や商品についての良いイメージ |
情報量 | スペースに詰め込めるだけ詰め込む | 少ない(余白の美) |
デザイン | デザインは二の次 | 洗練されたデザイン |
広告主 | 中堅・中小企業~大企業 | 大企業が中心 |
オファーの有無 | あり | なし |
購入の導線 | あり | なし |
広告効果 | 測定可能 | 測定不可能 |
ダイレクト・レスポンス広告とブランド広告は、おのおのコミュニケーションの手法を指す言葉であって、各々のコミュニケーションが前提としているマーケティングの手法は、ダイレクト・マーケティングとリテール・マーケティングです。
リテール・マーケティングとはリテール(小売り)における販売の現場で展開されるマーケティングをいいます。
そして、ダイレクト・マーケティングで利用される生活者とのコミュニケーション手法が、ダイレクト・レスポンス広告であり、リテール・マーケティングで利用される生活者とのコミュニケーション手法がブランド広告であるという関係にあります。
ブランド広告を利用するマーケティングはブランド・マーケティングではないのかと反論される方もいらっしゃるかと思いますが、正しい言葉の遣い方は上記の通りなのです。
ダイレクト・マーケティングの発祥は、国土が広く小売店舗など近くにないことも多かった1800年代のアメリカです。
実店舗などなくても広告やカタログで欲しいものを見つけたらその場で注文ができることはとても便利でした。
このように、ダイレクト・マーケティングにおけるダイレクト・レスポンス広告は、元来実店舗を前提としないコミュニケーションの手法なので、商品の認知から最終的な購買まで一気通貫でその役割を担います。
一方、ブランドマーケティングは、実店舗の存在を前提として、その実店舗までターゲット顧客を送り込むことまでがその役目であって、最後の背中を押して購買してもらうことは実店舗の役割であってブランド広告の役割ではないのです。
ダイレクト・レスポンス広告は、広告を見た人にその商品を買ってもらうまでの役割を担いますから、伝えたいメッセージは、最終的には「この商品を今ここで買ってください。」となりますが、ブランド広告は広告を見た人に今すぐここで買ってもらうことを前提とせず、とにかく実店舗へ顧客をお送りこむことなので、商品やブランドについての良いイメージを刷り込むことなのです。
ダイレクト・レスポンス広告は、広告を見た人にその商品を買ってもらうまでの役割を担いますから、広告を見たターゲットが購買に至ることができるように様々な情報を広告スペースに詰め込みます。
一方、ブランド広告は詳細な情報を伝えても、実店舗に行くまでの時間はありますので、忘れてしまうのが見えています。
そもそもニーズもウォンツも高まっていなターゲットの詳細な情報をつたえてもスルーされるのがオチです。
覚えていてくれるのは、「この商品、なんだかいいよな。このブランドはかっこいいよな。」などのイメージ程度のものなので、実店舗を訪れた時に記憶してもらっている「良いイメージ」の醸成に努めるのが、ブランド広告の役割なのです。
このようなことから両者の広告の情報量には大きな差異が出るのです。
ダイレクト・レスポンス広告は、広告を見た人にその商品を買ってもらうまでの役割を担いますから、デザインなどは二の次でよく、とにかく広告を見て購買まで繋げることに全神経を注ぎます。デザインが良ければ売れることはないので、デザインは二の次なのです。
一方、ブランド広告は「良いイメージ」の醸成なので、情報を詰め込んで広告の洗練さがなくなることは避けるべきと考えるのです。
ブランド広告はほぼ大企業の独壇場であり、中堅・中小企業でこの種類の広告を出稿している企業は多くありません。
ブランド広告はリテール(小売店舗)の存在を前提としますが、大企業の多くがスーパーやコンビニなどの売り場の棚を抑えているので、その売り場へ送客するまでの役割しか持たない広告を展開することが多くなります。
売り場まで送客したら、そこでブランド広告の役割は終わって、あとは、販売の現場であるリテール(小売り)における販売促進策にお任せするのがリテール・マーケティングなのです。
一方、中堅・中小企業は一部の例外を除いて、なかなかスーパーやコンビニの棚を確保することができていませんから、売り場をもつというブランド広告の前提が整っていません。
したがって、中堅・中小企業においては、ブランド広告ではなく、ダイレクト・レスポンス広告を用いたダイレクト・マーケティングが主流になるのです。
ダイレクト・レスポンス広告は、とにかく広告の前で足を止めてもらって、商品の認知をとるところから始めないといけませんし、また、ワンステップ・マーケティングが通用しなくなっている昨今では、無料サンプルや、期間限定割引などのオファーを使って、見込客を集めるところから始めないといけません。
したがって、オファーを準備しておくことはダイレクト・マーケティングでは必須となっています。
2ステップ・マーケティングについては、下記の記事を参考にされてください。
2ステップ・マーケティングという集客方法が、ダイレクト・マーケティングの顧客獲得に使われるという話なんだけれども、どういった手法なのかを詳しく知りたい。 新規顧客の獲得には苦労されていて、こんな疑問をお持ちの経営者の方に詳しく解説します。
一方、ブランド・マーケティングの役割は実店舗への送客にあり、そのために商品やブランドに対する良い記憶の形成を行うことですので、オファーなどの用意は必要ないことになります。
ダイレクト・レスポンス広告は、広告を見たターゲットがその場で商品の認知から購買に至ることを企図していますので、無料サンプル等のオファーを申し込んだり、本商品の注文を行ったりすることができるように、電話番号等の連絡先の記載が必須になりますが、ブランド広告は、商品の購入は実店舗で行ってもらう前提ですので、そのような記載は不要になります。
ダイレクト・レスポンス広告では、広告の出稿による見込客の獲得数や、新規客の獲得数の把握を行うことが可能ですので、CPA(=Cost per Acquisition:見込客一人当たりの獲得コスト)やCPO(=Cost per Order:新規客一人当たり獲得コスト)を計算することが可能であり、こういった指標を追いかけていくことで、広告の費用対効果を上げて収益性アップにつなげることが可能になります。
一方、ブランド広告では、広告を出稿した結果、何人のターゲットが実店舗へ足を運んで、そのうち何人が購入するに至ったかなんて数値を把握することはできませんので、ブランド広告の費用対効果を測定することは不可能なのです。
ダイレクト・レスポンス広告が使われる媒体
ダイレクト・レスポンス広告は様々な媒体で使うことが可能です。
①新聞
ダイレクト・レスポンス広告では、昔から新聞は多く活用されている媒体です。
健康食品や化粧品などの通信販売の広告が新聞の広告欄に掲載され、新聞の読者がそこに掲載されているフリーダイヤルやメールアドレスで申込や注文を行うことで、購入手続きができるものです。
②チラシ
ダイレクト・レスポンス広告では、新聞の折込み広告などのチラシも活用することがとても多いです。保険商品やマンションなどの不動産、食品や化粧品などの通信販売、英語や簿記などの通信教育といった様々な分野で活用されています。
特に中小企業が行うダイレクト・マーケティングでは、折込チラシは必須の媒体となっています。
③テレビ通販
ダイレクト・レスポンス広告の代表的なものの1つがテレビ通販です。
皆さんが良くご存じにジャパネットたかたのテレビ通販は、誰もが目にしたことがあるダイレクト・レスポンス広告の代表例です。
よく喋る元気なMCが、まず商品の特徴をあれこれ紹介し、価格を提示した上で、「番組を見た人限定」や「今から30分以内ならもう1個追加」といった限定性と緊急性を加えることで、視聴者を巧みに誘導して商品の販売につなげていきます。
それほど安いわけでもないのに、ついつい電話をかけて買ってしまった経験をお持ちの方も多いことでしょう。
④ダイレクト・メール
ダイレクト・メールにおけるダイレクト・レスポンス広告は、ハガキや封書を活用して行われるのが一般的な形になります。
商品情報と申込先が記載されたハガキをユーザーの住所に送り、無料サンプルを申し込んでもらうことで見込客を確保した後に、約1週間後に本商品の購入を勧めるダイレクト・メールが再度届くような2ステップでの展開が一般的になってきました。
⑤Web広告
リスティング広告に代表されるWeb広告は、そのほとんどがダイレクト・レスポンス広告です。
広告をクリックすることで、商品が紹介されているLP(ランディングページ)に飛び、そこから直接、本商品の購入や無料サンプルの申し込みができるような設計になっています。
Web広告は2014年ごろまでターゲティングの精緻化をテーマにして、様々なものが生み出されましたが、現在ではWeb広告の進化は止まって、あちこちに散在する生活者のデータ統合を目指して広告会社がしのぎを削るフェーズに突入しています。
⑥メルマガ
メルマガの場合、まず企業側が「無料サンプルを提供します!」として、住所や名前、メールアドレスの登録を促します。
ユーザーが登録すると無料サンプルが届くのですが、その後さらに関連商品に関するメールが企業から送られてくるようになり、購入に結び付くといった形がメルマガにおけるダイレクト・レスポンス広告です。
ダイレクト・レスポンス広告のメリットとデメリット
ダイレクト・レスポンス広告には、メリットはもちろん、デメリットも存在します。
メリット
まずは、ダイレクト・レスポンス広告を使うことのメリットを見ていきましょう。
①広告の費用対効果を数値で可視化
ダイレクト・レスポンス広告は、その広告に接触した人の中で、「何人が商品を購入したのか」、「何人が無料サンプルの請求をしたのか」、「何人が問い合わせをしたのか」といったことが客観的な数値として把握することが可能です。
広告を複数パターン準備しておいて、その効果を比較検討するA/Bテストを実施することで、効果の高い広告と低い広告に分別することができ、より効果の高いものを選別することで、広告の費用対効果を徹底的に追及することが可能となります。
このように、PDCAを素早く回すことで広告の費用対効果を追いかけることができるのが、ダイレクト・レスポンス広告の最大の特徴でありメリットなのです。
②ターゲットの絞り込みが可能
ダイレクト・レスポンス広告は、その広告に接触して商品を購入した人や問い合わせをした人の割合だけでなく、どんな人がレスポンスをしたのかということがわかるのも、大きなメリットの一つです。
ダイレクト・レスポンス広告に対してレスポンスの多い層を可視化にすることで、「このメディアでは、30代独身の女性からのレスポンスが多いから、この層向けに広告を改善したほうがいい」といった判断をすることが可能になります。
PDCAを回して、ターゲティングの精緻化を図ることで、広告の費用対効果をさらに上げていくことが可能になります。
③多様なメディアで効果を発揮
ダイレクト・レスポンス広告は、あらゆるメディアで効果を発揮することができるマーケティング手法です。
テレビ、Web、SNS、YouTubeのみならず、新聞、チラシ、ダイレクト・メールなどの紙媒体など多岐に渡ります。
ターゲットによって主に接触するメディアが異なりますので、ある特定のメディアだけで広告出稿するよりも、様々なメディアで出稿し広告のリーチの幅を広く持てたほうが広告効果は高まります。
このように、ダイレクト・レスポンス広告は多様な媒体で活用できるので、それだけ多くのターゲット層からレスポンスを得ることが可能になります。
④少予算から開始できる
ダイレクト・レスポンス広告は、ブランド広告と異なって文字を主体にして、ターゲット層の購買に必要な情報をつたえていくマーケティング手法になります。
そのために、広告出稿のためのコストは比較的低く、低予算からでも始めることができるのが特徴であり、少予算から始めて、効果検証を行いつつ、成果が高い広告のクリエイティブを把握しつつ、少しずつ広告費を増やしていくという理想的なスタイルをとることが可能です。
デメリット
次に、ダイレクト・レスポンス広告を使うことのデメリットを見ていきましょう。
①情報量が多くデザインが煩雑になる場合がある
ダイレクト・レスポンス広告は、広告に接触したターゲットを一気にその場で購買にまでもっていくことを目的としていることから、必然的に限られた広告スペースに記載する情報量は、ブランド広告に比べると格段に多くなります。
したがって、ブランド広告のようにすっきりした余白の多いものとは対照的な、ごちゃごちゃとした印象の広告になりがちであり、ブランドに対するイメージの悪化につながることもあります。
②押しが強すぎて嫌われる可能性がある
ダイレクト・レスポンス広告は、広告に接触したユーザーを一気にその場で買ってもらうことを目的にしているので、広告表現の押しが強すぎると、押し売りをされているイメージを与えてしまうことがあります。
広告が嫌われている時代に、生活者にこのような感覚を与えてしまうと、ブランド自体に対する嫌悪感を醸成してしまうことにもつながりかねません。
③Web広告の場合、ユーザビリティを阻害する可能性がある
Web広告の場合には、使用する広告の種類によっては、コンテンツ閲覧者のユーザビリティを阻害してしまう恐れがあります。
たとえば、フローティング広告という画面上を浮遊するような広告を採用した場合には、ユーザーが閲覧しているコンテンツを隠すことになって、ユーザーからすれば目障りでしかないと感じてしまうこともあり得ます。
そのため、出稿する広告の大きさを事前に検討して調整したり、ユーザーサイドで広告を消せる「閉じるボタン」を設置するなどの対策の要否を検討することも必要になります。
ダイレクト・レスポンス広告の制作・運用上のポイント
ダイレクト・レスポンス広告は、通行人に広告の前で足を止めてもらって、一気に購入まで導くことを目的にしていますが、そのためには、まずは一瞬で広告に興味を持ってもらう必要があります。
広告に目を止めてもらうためには、キャッチコピーの役割が非常に大きいため、ターゲット層の琴線に触れるキャッチコピーを準備する必要があります。
また、一回の出稿でできるだけ多くの人に買ってもらいたいと考えてしまう経営者は多いのですが、ターゲットを幅広くとって誰もが興味を持つようなキャッチコピーや情報にしてしまうと、結局は誰にとっても魅力のない広告になってしまう結果、レスポンス率は大きく悪化してしまいます。
したがって、ターゲットを限定して、広告を制作することは非常に大切になりますし、同じターゲットであっても、購買までの距離の大きさによって訴求する内容も異なってくることには注意しましょう。
さらに、ターゲット層に興味を持ってもらって広告の前で立ち止まってもらうためには、オファーはとても重要になります。
オファーとは簡単にいうと特典のことですが、特典がつくことによって、ユーザーの心理的なハードルが下がるため、商品やサービスの利用を後押しすることができます。
オファーにかかる経費を気にして、見込客を集めることができな事例をよく見かけますが、ダイレクト・マーケティングにおいてオファーにかかる経費は、コストではなく、新規顧客を獲得してその後顧客維持政策で収益を獲得するための投資であるという理解はとても重要になります。
ダイレクト・レスポンス広告の制作・運用のポイントの課題については下記の記事を参考になさってください。
ダイレクト・レスポンス広告を制作する際に気を付けるべき課題にはどのような事項があるのだろう。課題が理解できていれば、レスポンスがしっかり獲得できる広告を作ることができるだろうな。こんなお悩みを抱えた経営者の方のために書きました。
2つのコミュニケーション手法と消費者行動モデル
ダイレクト・マーケティングにはダイレクト・レスポンス広告が、リテール・マーケティングにはブランド広告が、各々のコミュニケーション手法として用いられますが、各々の組み合わせと消費者行動モデルとの結びつきを確認しておきましょう。
ダイレクト・レスポンス広告
ダイレクト・マーケティングにはダイレクト・レスポンス広告が用いられますが、広告そのものが店舗であり、受発注が一体化した類の広告です。
ダイレクト・マーケティングは、実店舗の存在を前提とせず、広告に接したその場で購入まで一気に向かわせることを志向していますので、商品やブランドを記憶に残してもらう必要などないわけですから、一般的に用いられるAIDMAの中に含まれるM(=Memory:記憶)は必要ないということになりますので、消費者行動モデルとしては、AIDAモデルが適切だと思われます。
ブランド広告
リテール・マーケティングにはブランド広告が用いられますが、広告と店舗販売は分離していることを前提としています。
ブランド広告の目的は、商品やブランドに対する良好な記憶の形成であり、小売(リテール)の店頭にまでお客を連れてくるまでが、その役割とされています。
店舗に連れてきたら、あとは店舗における販売促進策に任せるわけです。
マス広告でよく使われる消費者行動モデルのAIDMAモデルの、A⇒I⇒D⇒Mまでがブランド広告の責任範囲であり、最後のA(=Action=購買)は、店頭において、ターゲット顧客の背中を後押ししてね、というモデルです。
ブランド広告の場合、ターゲットの購買タイミングは、広告に接触したその場所ではなく、店舗という別の場所になります。
ターゲットが良好な記憶を形成したのちに、実店舗まで足を運ぶまでの時間と距離を考えると、ブランド広告の目的は買わせることではなく記憶(Memory)させることにあるということができるので、リテール・マーケティング(ブランド広告)は、AIDMAという購買行動モデルを採用するわけなのです。
ダイレクト・レスポンス広告の事例
テレビCMでブランド広告とダイレクト・レスポンス広告の比較をしてみましょう。
ブランド広告としてAmazonのCMを、ダイレクト・レスポンス広告としてジャパネットたかたのCMを取り上げてみます。
どちらのCMも皆さんは目にしたことがあるかと思います。
まずは、ブランド広告としてのAmazonのテレビCMです。
ブランド広告であるAmazonのCMは、15秒(または30秒)のCMが多くの頻度で放映されています。
そうすることで、同じ予算で放映できる広告の回数、リーチできるターゲット人数が最大化され、シンプルで印象に残るメッセージを生活者の記憶に焼き付け、その結果、テレビの前の多くの視聴者を店舗(ネット)まで送り届けて、売上に良い影響を与えることができるからです。
このおばあちゃんのバージョンや、ゴールデンリトリバー・ライオンのバージョンは非常に好感度が高くて、Amazonに対して非常に良い印象を持つことになって、それまでAmazonを使ったことがない方でも、ネットで買い物をする必要性が出た時に、Amazonで買ってみようかとなった方は多くいらっしゃるのではないでしょうか。
Amazonというブランドは単に買い物をするプラットフォームではなく、買い物を通じて人の生活を豊かにするブランドなのだ、というブランドの価値が透けて見えるCMでした。
次に、ダイレクト・レスポンス広告としてのジャパネットたかたのテレビCMを見てみましょう。
ダイレクト・レスポンス広告であるジャパネットたかたのCMは、1日に何度も放映されるものではありません。
たとえば、一日に一回だけ30分の尺のCMを放映するといった放映の仕方を選んでいて、Amazonなどのブランド広告とはCMの流し方が全く対極にあります。
ジャパネットたかたの場合には、同じ予算で15秒のCMを120回放映するよりも、30分のCMを1回放映したほうが、購買を喚起するのに必要な情報をしっかりと伝えることができるからです。
このCMはダイレクト・レスポンス広告なので、CMを視た生活者がその場で購買するフェーズまで引き上げなければなりませんから、様々な情報を送らなければならないので、長尺のCMが必要となるわけです。
こういったCMは、インフォメーション+コマーシャルの形をとるので、特にインフォマーシャルと呼ばれています。
ダイレクト・レスポンス広告で重要なのは、ブランド広告のようなリーチ人数でなく、そこから得られるレスポンス数そのものなのです。
ダイレクト・レスポンス広告とブランド広告の融合
再春館製薬所の事例
「初めての方にはお売りできません。」という何とも挑戦的なキャッチフレーズが耳に残っている再春館製薬所のテレビCM。
ナレーションで語られるのは、製品づくりに対してどれだけ真摯に取り組んでいるか、お客様の喜びをどれだけ重視しているか、その姿勢を社員全員でいかに共有しているかという、企業姿勢の在り方や、そこから導かれる唯一独自の存在としてのブランド・アイデンティティです。
このCMを視た人は、「再春館製薬所って、ちゃんとしたいい会社だな~」と多くの人が感じるはずでしょうし、ビジネスに対する真摯な姿勢には誰もが共感して、いい会社として記憶に残ることと思われます。
このCMを視聴した時点で、ドモホルンリンクルを使うような肌の状態にはなっていなくて、ニーズもウォンツも無いような生活者でさえ、良い記憶が頭の片隅に残ると思います。
いくつかのバージョンのCMが制作・放映されましたが、最後には必ず、「無料サンプルのご請求は0120-444-444」で終わります。
最後だけ見ると、ダイレクト・レスポンス広告なのだとわかりますが、そこまでのナレーションとクリエイティブを眺めていると、一般的なダイレクト・レスポンス広告が備えている情報、およびその情報と生活者の間で暗黙の裡になされるインタラクションなコミュニケーションはありません。
つまり、このCMの最後を除いてはブランド広告の役割を果たしており、CMを視た人に商品や企業に対する良い記憶の形成を促進していますが、最後の無料サンプル請求のところで、一瞬にしてダイレクト・レスポンス広告に切り替わっている、全体としては、「ブランディングを伴ったダイレクト・レスポンス広告」であるということができるCMなのです。
一般的には、ダイレクト・マーケティングとリテール・マーケティングは全く目的が異なるので、両者のコミュニケーション手法であるダイレクト・レスポンス広告とブランド広告を融合させるべきではないというのが、広告業界のセオリーだったようですが、このCMは実に上手にダイレクト・レスポンス広告をブランディングを行いながら展開している傑作といってもよいレベルのクリエイティブだと思います。
ジャパネットたかたのように、最後のアクション(電話によるお申込み)を取らせるまでに、アクションに必要と思われる情報をできるだけ多くMCに喋らせて、納得しもらって購買につなげていますが、再春館製薬所のドモホルンリンクルの場合には、ブランドに対する信頼性を高めるためにブランド広告の手法を用いて、最後のアクション(電話による無料サンプルのお申込み)につなげているのです。
再春館製薬所のドモホルンリンクルのCMは2004年放映のもの(消える製造ライン)をリンクを張っていますが、この頃から、ダイレクト・レスポンス広告とブランド広告の融合は始まっていたのです。
ダイレクト・マーケティングにブランドの視点が必要な時代
ダイレクト・マーケティングはニーズやウォンツの顕在化した顧客を刈り取って、目の前の売上につなげる短期視点の手法ですが、中長期的な潜在顧客の育成には役に立たないという大きな欠点を抱えています。
一方で、ブランド広告を使うリテール・マーケティングは、中長期的にはブランドへの関心を高めてファンを作ることには貢献しますが、目の前の売上を作ることに役立つものではありません。
このように、各々のマーケティング手法は長所と短所を併せ持っていることから、二律背反なものとして扱われてきました。
しかしながら、この再春館製薬所の事例を視れば理解できるように、中長期的にブランディングを行いながらダイレクト・レスポンスを短期的にとることは、必ずしも不可能なことではありません。
これからの時代は、ブランディングとダイレクト・レスポンスの両立を意識しながら、マーケティングを組み立てていく必要があるのでしょう。
現代は、特に、ダイレクト・マーケティングがブランドに注目し出している時代であるということができると思います。
生活者は、自分が抱えている何らかの問題を解決するために商品やサービスを買い求めるわけですが、あらゆるカテゴリーにおいて競合ブランドが増えて、そのどれもが「私を買って買って!」と広告で話しかけてきますが、選択肢が多すぎて選べない、もし買って失敗したらどうしようという心配が先行する結果、心理的な負担が大きくなりすぎてしまって、結局買えず自分の問題解決には至らないケースが増えています。
しかし、その中でブランディングをしっかり行って、ブランド買いができるようになれば、生活者の選択することの心理的負担は大きく軽減されることになります。
企業側からしても、ブランドを確立しないままに差別化競争をしても、その差別化要素はすぐに模倣されてしまって、間もなく差別化要素ではなくなり、また違う視点での差別化要素の開発を行い・・・という望ましくない悪循環に陥っているのが市場における競争環境の状況です。
企業側からしても、ブランディングを行って競争しなくても指名買いしてもらえるような状況を作り出すことが望ましいという当たり前の事実に再度気が付き始めているような状況なのです。
ダイレクト・マーケティングにおいては、競合会社の増加とともに、CPA(=Cost per Acquisition:見込客一人当たり獲得単価)やCPO(=Cost per Order:新規客一人当たり獲得単価)が上昇を続けており、収益性の悪化が顕著になりつつあって、従来通りのダイレクト・レスポンス広告に頼り切ったダイレクト・マーケティングの手法を継続することに対して疑義が生じ始めているという背景もあるのです。
こういったことから、従来型のダイレクト・レスポンス広告に頼り切ったダイレクト・マーケティングから脱却し、ブランディングの視点を取り入れた新しいダイレクト・マーケティングは今後ますます注目を集めることになりそうです。
事業再生とダイレクト・レスポンス広告
中堅・中小企業の事業再生の世界に長きに渡って身を置いている者からすると、ダイレクト・レスポンス広告を上手に使いこなしている企業はほぼ皆無です。
中にはテレビCMなどを使って広告コストをかけて見込客を集客していた企業もありましたが、広告コストを回収することもできずに、要管理先に落ち込んでしまっていました。
詳しくは書けませんが、その会社は、広告クリエイティブ自体に大きな問題があったこともありますが、新規顧客の獲得に注力しすぎて、CRMを使った顧客維持政策が全くできておらず、マーケティングのバランスが非常に悪かったことが大きな原因でした。
その他の多くの企業では、テレビCMを使うなどということはできなくて、ダイレクト・マーケティングには、ウェブ広告を除けばチラシを使うことがほとんどです。
そのチラシも、経営者が書きたいことを書きたいように記載しているものばかりで、書くべきことを考えて書いて広告出稿を行っている企業はなかったように思います。
ダイレクト・マーケティングで使用するダイレクト・レスポンス広告のクリエイティブを見直すだけで、レスポンスが大きく改善されて売上が昔の水準にまで回復した事例は多くあります。
事業再生のフェーズに落ち込んでいらっしゃる経営者の方は、たかがチラシと侮ることなく、なんとなくの感覚でレスポンス広告を出稿することはやめて、ロジカルに書くべきことしっかり書き切ることに挑戦してみてはいかがでしょうか。
事業再生のコンサルティングについては、下記の記事を参考にされてください。
事業再生のコンサルティングを誰に依頼するかはとても大切なポイントで、再生の成否を大きく左右します。また早期に相談することもとても大事で、悩んでいるうちにどんどん事業は悪化しています。すぐに行動して適切な専門家に相談しましょう。
事業再生を相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考にされてください。
事業再生に取り組むにあたって誰に相談すればいいのだろう。再生支援協議会に行くと会計士や税理士を紹介してもらえるそうだけど、それで本当に事業再生は成功するのかな?こんなお悩みをお抱えの経営者の方は必見です。誰に相談するべきかがわかります。
事業再生コンサルティングの依頼は、下記の記事よりどうぞ。
事業再生のコンサルティングを誰に依頼するかはとても大切なポイントで、再生の成否を大きく左右します。また早期に相談することもとても大事で、悩んでいるうちにどんどん事業は悪化しています。すぐに行動して適切な専門家に相談しましょう。
ダイレクト・レスポンス広告を学ぶための書籍
①「売る」広告:デイビッド・オグルヴィ
2010年に復刊された伝説の名著で、復刊前は中古でも1万円以上の値がついていました。
「現代広告の父」と呼ばれたデイヴィッド・オグルヴィによる広告のバイブル書的存在であり、今から40年以上も前に書かれたもので、中には古さを感じるものありますが、オグルビィを学ぶには最高の本ですし、ダイレクト・マーケティングを学ぶ方の書斎には一冊あるべき本でしょう。
②ある広告人の告白(新版):デイビッド・オグルヴィ
オグルヴィは、ビル・バーンバック(ビートルの広告製作者)と並ぶ20世紀を代表するコピーライターの巨人だと思っていますが、本人によれば、コピーライティングよりも、そのもととなるリサーチのほうが得意であったとのこと。
彼は、調査や事実をもとに広告を作ることをモットーにしていたコピーライターであり、「良い広告とは、広告に注目を集めることはなく、商品を売る広告である。※P165」というように何よりも「売る」ことに注力をした実践的な広告人でした。
広告業界で生きていく人のために書かれた部分も多いですが、ダイレクト広告に対する考え方は深いものがあります。
③確実の販売につなげる驚きのレスポンス広告作成術(同文館出版:岩本俊幸)
基本的な消費者行動購買モデルであるAIDMA(Attention=注意、Interest=興味、Desire=欲求、Memory=記憶、Action=購買)をベースとしつつ、オリジナルな進化形のモデルであるAUMFA(Awake=感情の喚起、Understand=理解を深める、Memory=記憶、Fade=矛盾の解消、Action=購買)が消費者の行動心理を考えるに当たり大切であると説明しています。(第5章)
この本は、身近な事例が特に豊富なので理解が進むと思います。
書道教室、カイロプラクティック、美容室、エステサロン、生花店、住宅販売、リフォーム、学習塾、食品販売などの様々な業種のダイレクト・レスポンス広告の事例を学ぶことができます。
④「ダイレクト・レスポンス広告」を使って高額商品をバンバン売る方法:辻壮慈
ダイレクト・マーケティング系の本の中では圧倒的に文章がわかりやすいと思います。
著者の実践にうらうちされた具体的な事例で説明していますので、ダイレクト・レスポンス広告の本質的な部分が良く理解できます。
ダイレクト・レスポンス広告に関する書籍は、どちらかと言うとコピーライティングに偏ったものが多い中、しっかりとその全体像の体系化がなされているので、読みやすく学びやすい良い本だと思います。
ダイレクト・マーケティングの定義、特徴等については、下記の記事を参考にされてください。
ダイレクト・マーケティングって、わかったような気になってるけれど、よく考えたらその内容も理解できていないし、定義すらできないことにお気づきの経営者は多いのではないでしょうか。本記事では、ダイレクト・マーケティングの本質的な意味に迫ります。
ダイレクト・マーケティングの戦略策定フレームワークについては、下記の記事を参考にされてください。
ダイレクト・マーケティングの戦略設計を考えたいのだが、あれもこれも考えるべきことが多すぎて、何から考えればいいのかよくわからないし、それを戦略として捉えるならば、どのようなフェーズに分けて考えればいいのだろう。こんなお悩みにお答えします。
マーケティング・コンサルティングの依頼は、下記の記事よりどうぞ。
中小企業のほとんどに欠けているものがマーケティング思考です。中小企業にマーケティング思考を導入することができたら、中小企業が中小企業を脱却できる可能性だってあるのですが、実際にはその必要性を感じている経営者は少ないのです。中小企業こそマーケティングを導入するべきなのです。