資金繰りがどうにもいかなくなって今月末には資金ショートしそうだな・・・こういう時は弁護士さんに相談にいけばいいのかな・・・こんなこと初めてだから誰に相談したらいいのかわからないな・・・
資金ショートした経験などないにこしたことはありませんが、リーマンショックの時や、今回のコロナショックでも、こんな声がたくさん聞こえてきそうですよね。
そこでこの記事では、事業再生において弁護士にできることについて説明をしていきますね。
この記事を読むことで、弁護士が事業再生の中でできることがしっかり理解できるようになり、御社の再生に取り組むにあたって弁護士に何を依頼すればよいのかがわかります。
本記事は20年以上に渡って中堅・中小企業の事業再生に取り組んで、200社以上の事業再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロである公認会計士が書きました。
事業再構築補助金に採択される方法については、下記の記事を参考にされてください。
事業再構築補助金に応募したが採択されなかった。第3次以降の公募で何とかこの補助金を獲得したいのだが、今サポートをお願いしている認定支援機関の先生ではどうも力不足の感が否めない。このようなお悩みをお持ちの経営者のお悩みにお答えします。
事業再生において弁護士にできることは何か?
結論を申し上げると、事業再生において弁護士ができることは法律関係の事項に限定されます。
弁護士の知識とスキルを規定するものは、司法試験の試験科目であり、さらに試験合格後に自らが選んだ専門分野の法律に造詣が深くなります。
事業再生を専門にされている弁護士の先生は、倒産法や会社法の大家となり、そのあたりの法律や実務の取り扱いには極めて詳しくなられます。
一方、法律以外のこととなると、ほぼ全ての弁護士は門外漢といった様子であり、中には税理士登録をされている弁護士の先生もいらっしゃいますが、税務実務に耐えうる知識を持った方はほぼいません。
したがって、事業再生を進めるにあたって必要となるマーケティング、オペレーション、戦略論、財務会計、管理会計、税務、組織再編税制等々の知識については、弁護士は全く身に付けていないと考えて差し支えありません。
ここで例示した組織再編は法人税だけでなく、会社法にも規定がありますので、会社法からのアプローチについては詳しい方もいらっしゃいますが、組織再編の会計と税務の取り扱いまで理解されている弁護士はほぼ皆無です。
このような状況なので、事業再生の相談先として弁護士は全くふさわしくないのですが、なぜかその相談を弁護士に最初にされる経営者の方はとても多いようです。
弁護士の先生から、法律面からのアドバイスを受けることはできても、ビジネスそのものの再生に関しては全くの素人ですから、相談する先としては全く適切ではありません。
民事再生や会社更生の法的整理手続きをとることをすでに決定しているとか、会社を清算して事業を畳むということであれば、弁護士の先生に相談されることは適切でしょうが、今後事業を再生して、昔のように収益性の高い事業に変えていくために事業構造の改革を行いたいのであれば、彼らに相談するのは全く不適切なのです。
では、以下で、弁護士の仕事の範囲を規定する知識とスキルを見ていきましょう。
基本的スキル
弁護士の基本的なスキルの大前提となるものは、司法試験の試験科目です。
最難関の国家資格といわれる司法試験に合格するためにはたくさんの時間を勉強にかけなければならないことは誰でもご存じでしょう。
司法試験を受験するためには、法科大学院課程を修了するか、司法試験予備試験に合格するかしなければなりません。
法科大学院とは、法曹(裁判官、検事、弁護士)に必要な学識および能力を培うことを目的とする専門職大学院をいいます。
予備試験とは、法科大学院終了課程と同程度の知識・能力があるかを判定する試験をいいます。
予備試験に合格すると、法科大学院を修了していなくても司法試験の受験資格を得ることができます。
さて、その司法試験の試験科目は下記に記載のとおりです。
毎年5月に短答式試験と論文式試験が実施され、旧試験制度のように口述試験は実施されていません。
短答式試験の試験科目は、憲法、民法、刑法の3科目です。
論文式試験の試験科目は、公法系の科目(憲法および行政法に関する分野の科目)、民事系の科目(民法、商法および民事訴訟法に関する分野の科目)、刑事系の科目(刑法及び刑事訴訟法に関する分野の科目)と、選択科目の4科目で実施されます。
選択科目は、知的財産法、労働法、租税法、倒産法、経済法、国際関係法(公法系)、国際関係法(私法系)、環境法の中から1科目を選びます。
見て頂ければわかりますが、法律科目一色ですね。
公認会計士試験が、会計、法律、経済、経営と試験範囲が非常に広範に及ぶのとは違って、司法試験は、まさに法律という人1つの専門分野に特化した専門家を選抜するための試験です。
これは税理士試験にもあてはまることであって、税理士試験は法律の中でも税法という分野に特化した専門家を選抜するための試験ということができます。
そして司法試験を突破した合格者は、司法修習生として法曹資格(裁判官、検事、弁護士)を得るために必要な幅広い知識と実務を1年間かけて学び、司法修習の後に、司法修習生考試(2回試験)を受け、これに合格することで、判事補、検事、弁護士のいずれかになる資格が与えられるのです。
これらのことから理解できるように、弁護士という資格を持った専門家は、徹底的に法律分野のスペシャリストとして教育・訓練を受けた人たちであり、逆に言えば、事業再生の本質的な仕事に必要な「ビジネスにおける論理思考やクリエイティブ思考」といった思考インフラ、そのインフラの上で動くアプリとしてのマーケティング理論、戦略論、組織論、オペレーション論、さらには財務会計や管理会計といった異分野の知識を持ち合わせてはいません。
弁護士は法律の専門家であり、経営の専門家とはなりえないため、事業再生の場面では法律分野に特化して活躍することとなります。
事業再生における会計士、および税理士の役割については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生を会計の専門家である会計士に任せてもちゃんとやってくれるんだろうか?彼らにビジネスを儲かるように立て直すことなんてできるのかな?こういった悩みをお持ちの経営者の方に向けて事業再生の専門家である公認会計士自身が書きました。
事業再生を税理士に任せても大丈夫なのだろうか。税理士は税金の専門家であって経営の専門家ではないのだから、事業再生をお願いしても無理があるのではないか。こんなお悩みをお抱えの経営者は多いのではないでしょうか。そんなお悩みにズバリ回答します。
弁護士にできること
弁護士は経営の専門家ではないため、事業再生では活躍する場面が少ないのかというと、全くそのようなことはありません。
通常、事業再生を行わなくてはならない会社においては、売上を上げることによって収益力を昔のレベルにまで上げるという本質的な仕事以外に、専門的な法律の知識がないとスムーズに仕事が進まないことがたくさんあるからです。
これまでに弁護士と一緒に多くの事業再生の案件をこなしてきましたが、弁護士の仕事の具体例をいくつか下記に記載しておきます。
- 伝統のある老舗の企業が債務者の場合には、親族の多くが取締役に名を連ねて会社の経営を担っていることがよくあります。
中には、取締役とは名ばかりで取締役会等にも実際には出席せず、取締役の報酬を多額にとっていたりします。
こういった経費は全くの無駄なので、社長を通して取締役を辞任してもらったりしますが、この辞任した取締役がかなり多くの株式を所有しているような場合に、その株式の譲り渡しを依頼すると、現実の株式の価値よりも相当に高い株価での買取を要求してきたりします。
こういった場合にも弁護士に入ってもらい、先方との買取価格の調整をお願いしたりします。
また、辞任でなく解任したりすると、解任無効の訴え等を提起してくることもあり、こうなると弁護士に任せないとどうにもなりません。 - 事業再生に取り組むことが必要になっているということは、利益の確保をしないことにはいずれ資金繰りも破綻しますから、往々にしてサービス残業が横行していたりします。
事業再生に外部の専門家としてサポートに入った場合に、それ以前にすでに退職した従業員が、未払賃金の支払いを求めてくることが最近は特に多くなってきました。
このような場合には、弁護士に入ってもらって、相手方と交渉を任せることがあります。
近年は退職した元従業員からのこういった未払賃金の請求案件は特に増えていますので、弁護士の仕事としてもこの種の依頼は増えているようです。 - 債務者企業の金融債権者が非常に多い私的整理(金融債権者(銀行)との話し合いの中で、一定の債権を放棄してもらうなどの金融支援を受けること)では、債権者間の利害関係の調整がうまくいかないことが多々あります。
そのような事業再生のケースでは私的整理はあきらめて、裁判所の手を借りる法的整理(民事再生や会社更生)に移行せざるを得なくなります。
こういった場合には、弁護士に依頼して民事再生手続き等の代理人となってもらって、裁判所、債権者との関係では表に立ってもらいます。
もちろん、法的整理へ移行しなくても、私的整理の枠内でバンクミーティングには債務者側として弁護士に出席してもらって、法的側面をサポートしてもらうこともとても多いです。 - 債務者企業が複数の企業グループからなる時に、主たる企業が債務超過でその解消に数十年を要するような場合、その主たる企業から子会社へ事業を資産負債とともに移すことがあります。
この時に、組織法上の行為として会社分割(税制非適格の吸収分割)スキームを使って資産・負債ととも事業を移転しますが、この時に金融機関から債権放棄を受けて、借入金を圧縮してもらうことがあります。
そうすると主たる企業は金融機関から免除を受ける借入金だけが残る空っぽの会社になりますから、これを特別清算で法人格を抹消する必要があります。
特別清算は、債務超過企業が清算をするときに使う特別な手法で、裁判所の手を借りることが必要になるのですが、専門家である弁護士に特別清算手続きを依頼することになります。
上記に示したように、事業再生の実務の中では、特に会社法、倒産法、労働法が絡む分野で弁護士に依頼することが多くなります。
特に私的整理手続きではなく、法的整理手続きである会社更生手続きや民事再生手続き、または破産手続きや特別清算手続きになると、弁護士がいないと仕事が全く進まなくなります。
また、スポンサー型のM&Aを伴うような再生案件では、組織再編スキームとして会社分割を採用することが多いのですが、このような時には組織再編のかかわる一連の法的手続きをまとめて弁護士にサポートしてもらうことになります。
法律のことをここまで広く深く知っている専門家は弁護士以外には存在しないので、事業再生の現場に身を置く者からすると本当に助かります。
失敗しない事業再生のために
弁護士法人や弁護士事務所に相談する時の注意点
グーグル検索で「事業再生 弁護士」と検索すると、多くの弁護士法人、または弁護士事務所のウェブサイトが多くヒットします。
これらの弁護士法人等はウェブサイトのどこかのページを読めば、そういった法人が事業再生に関するサービスを提供していることがわかります。
ほとんどの弁護士法人や法律事務所が事業再生と謳ったサービスの中で主にできることは、私的整理または法的整理という事業再生の大きな枠組みの中で、法律的な事項のサポートをすることだけです。
そして、私的整理となった場合には、弁護士は金融債権者(銀行など)との債務者の間の利害を調整する立場で、また、組織再編等を使う場合には、弁護士はその再編スキームにおける法律的側面に関すアドバイスをすることになります。
また、法的整理となった場合には、弁護士は、民事再生、会社更生、特別清算等の手続きの法律的サポートを行います。
また、弁護士に事業再生を依頼すると、財務デユ―デリジェンスが必要な場合には公認会計士にその調査を依頼しますが、最も大事な収益力の回復のためにマーケティングの専門家を外部から招くとかの売上拡大のための施策を講じることは全くなく、ビジネス関連については基本的に債務者企業に任せるというのが弁護士の普通のスタンスのようです。
東京の先進的な若手の再生専門の弁護士なんかだと、再生案件にデザイナーを投入する先生もいらっしゃるようですが、このような非常に優れた取り組みはまだまだ一般的ではありません。
誤解のないように書いておきますが、デザイナーを投入するというのは、何もその企業の企業ロゴをデザインしなおしたり、商品パッケージを新たにデザインするためではなく、一流のデザイナーの持つクリエイティブな思考を再生企業に持ち込んで、斬新なビジネスアイデアを得ようとする取り組みなのです。
このように弁護士法人や弁護士事務所に事業再生の相談をすることはもちろん正しい(ただし例外があります。次項をご参照ください)のですが、弁護士は事業そのもののアドバイスを頂けるわけではないので、この点は期待するべきではありません。
マーケティング思考については、下記の記事を参考になさってください。
マーケティング思考という言葉を耳にする機会が増えたのだが、その内容は一体どういうモノなのだろう。ビジネス上の問題を解決するために役立つ思考法ならば、是非教えてほしいし、実践できるようになりたい。こんなお悩みを持つ経営者のために書きました。
事業再生を遂行するにあたって必要なスキルについては、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に必要なスキルって何だろう。今度事業再生に取り組むことにしたんだけど、それに必要なスキルが理解できれば、どの専門家に相談するべきかもわかるだろうし、アドバイザーを誰に頼むべきかもわかるよね。こんなことでお悩みの経営者は必見です。
認定支援機関については、下記の記事を参考になさってください。
認定支援機関(経営革新等支援機関)に登録している専門家には、税理士がとても多いんだけど、事業再生のスキルは身に付けているのかな。当社の事業再生を認定支援機関の税理士にまかせても大丈夫だろうか。経営者のこんなお悩みをズバリ解決します。
どの弁護士法人や弁護士事務所に相談するべきか
各々の弁護士が全ての法律に精通しているかというと、そんなことは不可能であって、各々の弁護士はいくつかの専門分野を持ちます。
離婚訴訟専門に業務を行っている弁護士は、離婚案件にはめっぽう強いですが、倒産手続にはとても疎いといった感じです。
事業再生は、会社法と倒産法の両分野にかかわる分野ですが、すべての弁護士がその分野に詳しいかというと全くそんなことはなく、再生実務に精通している弁護士は極めて少数です。
そしてそういった弁護士のほぼ全員が東京と大阪の大手弁護士法人に在籍しています。
わかりやすい例で言うと、たとえば、地方の会社が事業再生の必要性に駆られて民事再生を申し立てようと思った場合に、地方の弁護士事務所に相談すると、そこの先生では手に負えないので東京か大阪の大手の大手法人の弁護士が代理人となります。
新聞などを見ていても、地方の再生案件なのに申立代理人が東京の大手弁護士法人の弁護士であるケースがとても多いですが、地方の弁護士はそういった再生案件の経験がないので、全く対応できないからなのです。
また、再生業務の経験のない地方の弁護士に相談すると、再建できるのに倒産案件として清算、特別清算または破産での処理を勧められてしまうこともあるようで、下手をすると事業廃止に追い込まれてしまいます。
このように事業再生を最初に相談する相手を弁護士とするならば、東京か大阪の大手弁護士法人に所属する実績豊富な再生専門の弁護士がよいと思います。
再生実務の経験豊富な彼ら弁護士ならば、間違った方向へは導くことはありません。
中小企業が大手の弁護士法人の弁護士に相談することはとてもハードルが高いと思われる経営者の方も多いと思いますが、大方の弁護士は会社の規模に関係なく親身に相談に乗って頂けますし、費用が高いわけでもありません。
当社ではよい弁護士の先生をご紹介できますので、ご一報下さればお繋ぎいたします。
事業再生に取組むにあたってどの専門家に相談するべきかについては、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に取り組むにあたって誰に相談すればいいのだろう。再生支援協議会に行くと会計士や税理士を紹介してもらえるそうだけど、それで本当に事業再生は成功するのかな?こんなお悩みをお抱えの経営者の方は必見です。誰に相談するべきかがわかります。
中小企業の事業再生のポイントについては、下記の記事を参考になさってください。
中小企業が事業再生に取り組む時に、経営者が念頭に置いておくべきポイントって何だろう。中小企業が事業再生のフェーズから抜け出すために必要なことって色々言われているけど、その道のプロの人からしたら、どんなポイントを押さえるべきなんだろう。
中小企業の事業再生支援協議会のメリット・デメリットについては、下記の記事を参考になさってください。
事業再生を進めていく上で、中小企業再生支援協議会を利用することを銀行の担当者から依頼されたけど、中小企業再生支援協議会を使うメリットとデメリットを教えてほしい。何も知らずに利用したらメリットなくてデメリットだけだったなんて嫌ですもんね。