社員教育を実りあるものにあるためには、どのような方法があるのだろう。
これまで我が社では、大企業を初め世の中の多くの企業が実施しているように、新入社員研修、3年目研修、管理職研修等々、社歴等によってその年代や役職に必要と思われる知識やスキルを身に着けてもらうための社員教育の場を提供してきた。
しかし、このような従来型の社員教育は、本当に社員の能力の開発や涵養の方法として適切なのだろうか。
また、これからの時代に本当にビジネスに貢献できる社員を育成する社員教育として必要なことは何だろう。
こんなことでお悩みの経営者の方は、昨今多いのではないでしょうか。
この記事を読むことで、中小企業における社員教育の重要性と、これからの時代に必要な社員を育てるために大事なポイントが理解できます。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生に20年以上取り組んで、200社以上の再生案件に関与し、その多くで人材育成のための教育プログラムをも提供してきた、事業再生のプロであるととともに、社員教育のプロでもある公認会計士が書きました。
社員教育の方法
結論から申し上げると、中途半端な形だけの社員教育などやめて、ビジネスに貢献できるアウトプットを出せる社員を育成するという明確な目的の下、思考スキルとマーケティング思考の習得に重点を置いた社員教育制度を、早急に社内に導入するべきでしょう。
経営環境が大きく変わっている現代は、昔ながらの勘と経験だけで通用する定常状態の社会などでは最早ありません。
そこでは、これまでのアナログな方法論だけでは通用しないことは明白ですから、「論理」と「科学」をベースに置いた経営を基礎として、クリエイティブな発想をも使いこなせる組織へと転換を図ることが、多くの中小企業において求められていることなのです。
「うちは中小企業だから・・・」というような言い訳で逃げることができない時代に突入していることを自覚して、AI時代に最も大事な経営資源である「ヒト」の育成を戦略的に行うことが、これからの中小企業が生き残る唯一の道だと行っても過言ではないのです。
経営環境の変化については、下記の記事を参考になさってください。
日々の変化は小さいけれど、あっという間に変化する経営環境。この変化に気付かず今までの経営のやり方を踏襲している中小企業の経営者は圧倒的に多い。特に老舗企業なんかだと、守ることに主眼が置かれ変えることには抵抗感バリバリ。これでは非常にマズい。
中小企業に優秀な社員などいない
これまで多くの中堅・中小企業に関与させて頂いてきましたが、そこでは、地頭が良くて、できるまでやり続けることができるモノゴトの遂行能力が高くて、仕事を通じて世の中をより良い世界に作り替えるのだというヴィジョンを公言できるようなスタッフには出会えることはありませんでした。
なぜいないのかというと、そのような人材は、大学を卒業すると同時に起業するか、より賃金の高い大企業へ就職するかのいずれかなので、中堅・中小企業へ就社することはほぼないからです。
考えてみたら当たり前のことですね。
このように、中堅・中小企業は大企業に比べて、採用する人材の資質の面で大きくハンデを背負っているわけですが、入社後の社員教育に充てられる教育投資への大きな差が、そのハンデをますます拡大させることになります。
大企業に入社すれば定期的に社員教育を受けることになりますし、海外展開している企業であれば、海外赴任のチャンスなどもあって、世界の多様な文化に触れることで、物事を見る多様な視点を涵養する機会さえあります。
一方、中小企業は大企業のように社員育成に関する投資におカネをかけることはできないので、OJTが中心の社員教育に留まってしまうのが通例で、社外の研修講座を受ける時に若干の補助が出ればいいほうです。
このように、人材の資質の点で、大企業と中堅・中小企業とでは、入社時点ですでに大きな差があるのですが、その差は社歴が長くなればなるほど拡大する一方となってしまいます。
中堅・中小企業が、これから大きく経営環境が変わる中で、大企業と伍して戦って生き残っていくためには、これまでいい加減な対応しかしていなかった社員の能力の涵養のための社員教育につとめて、スタッフを活躍できるように育て上げて、自社の経営の成果に繋げていく必要があります。
中小企業の社員に欠けている資質
私は、スタッフの立場でビジネスで成果を出す人に共通している要素は3つあると思っていますが、中堅・中小企業で働く社員のほとんどにそのすべてが欠けています。
1つには、地頭の良さ。
地頭の良さは、2つの要素からなっています。
一方の要素は、モノゴトを論理的、構造的に捉えることができて、明快に言葉で言語化できる力です。
学校教育で、論理というものを直接学ぶ機会がないので、ほとんどの日本人が身に付けていないスキルが論理思考なのです。
大企業なんかだと社員教育の一環で学ぶ機会があると思いますが、中小企業ではまず学ぶ機会などありません。
他方の要素は、圧倒的な知識量です。
今の世の中の風潮は、知識偏重の教育はダメだの、知識だけではただの頭でっかちで役に立たないだのと、知識という言葉に対する偏向があるように思えてなりませんが、新しいことを考える源泉になりうるのは、既存の知識以外の何ものでもありません。
既存の知識の新しい組み合わせこそが、クリエイティブの源泉なのですから。
クリエイティビティの重要性なども盛んに強調されますが、クリエイティビティなんてゼロから何かを生み出すことなどでは決してなくて、既存の知識を使って新しいアイデアを生み出すことに他なりませんから、ビジネスに必要な知識が多種大量にインプットされていないと、ビジネスで活躍するなんてことはまずできないのです。
大量の知識があれば、その組み合わせの数も膨大になりますし、多様な知識があれば、それらの組み合わせ方がより多様になりえます。
世の中でクリエイティブな仕事をしている人ほど、時間を見つけては本を読みまくっていますし、多様なエンターテインメントを体験する時間を作っていますよね。
ところが、残念ながら、中小企業のスタッフには、この2つの要素のどちらもありません。
2つ目には、やると決めたことをできるまでやり抜くことができる遂行力。
ビジネス上の大半のことは、やろうと決めて途中で止めてしまうことがなければ、実現できます。
そもそもできもしない絵空事をビジネスでやろうなんて決めないので、決めたことはある程度時間を変えればほぼ遂行できるはずなのです。
ところが、ほとんどの中小企業の社員はこれが大の苦手です。
こちらが、びっくりするくらい最後までやり抜くことができないのです。
途中でうまくいかなくなったら、そこでなぜうまくいかないのかを考えて代替策を考えたりするものですが、大方の社員はここで諦めて止めてしまうのです。
子供の頃から何かに取り組んでしつこく結果が出るまで取り組んだ経験がなかったり、そもそも、学校の勉強というやれば結果が出ることが明白なことにさえ取り組まなかった人が多いのが中小企業の社員なので、「結果が出るまでやり抜く」ということの大切さを身をもって経験していないことが一番大きな原因だと思います。
3つ目には、ビジョンを描ける力。
中小企業の社員には、自分の仕事を通じて世界をこんなふうに素晴らしい世界に変えていくんだという、未来の素敵な風景を描ける力が全くありません。
これはどちらかというと経営者に求められる資質ではないかと思われる方も多いと思います。
もちろん、経営者にもビジョンを描いて、そのビジョンで関係者を動かす力が必要ですが、私は社員にもビジョンを描く力を持ってほしいと思っています。
ビジョンを頼りに新しいビジネスを考えることが可能なので、多様なビジョンを描く人が何人も社内にいれば、新しいビジネスの可能性が社内に大きく広がるからです。
日々目の前の仕事をこなすのに必死な中小企業の社員には、仕事を通じて社会を良くするなどというビジョンを描く時間さえ持てないことも重々承知ですが、こういった力も欠いているのが中小企業の社員なのです。
社員教育に必要なコンテンツ
このようなことから、中小企業の社員教育のコンテンツとして、必要なものは以下の3つになると私は考えています。
論理思考等の思考スキル
モノゴトを論理的に構造的に捉えて、自分の言葉で言語化して説明できることは、ビジネスではとても大切です。
そのようなことができると、ビジネス上の問題に気付いた時に、その問題から出発して論理的に結論である具体的な解決策を導きだせるようになるのです。
論理思考なんて多くのビジネスマンが身に付けだしている昨今では、同じような環境や文脈における問題ならば、そういったビジネスマンの出す解決策は同質的なものになるという問題点が指摘されることがあります。
そして、クリエイティブな発想こそが大事で、今の時代では論理思考など役に立たないという言い方さえされることもあります。
しかしながら、クリエイティブとは論理思考における「思考の枠」を外したり、ずらしたりすることに他ならないので、論理思考の基本を会得しておかないことには、クリエイティブ思考の領域には達することなどできないのです。
論理思考とクリエイティブ思考は全く次元の異なる思考法などではなく、論理思考の延長線上にクリエイティブ思考があるのですね。
思考スキルの基本としての論理思考と、その応用としてのクリエイティブ思考の両輪の力があって初めて、ビジネスに役立つ思考を生み出すことが可能となります。
こういった思考スキルは、OSとして機能するインフラのようなものなので、頭の中に備わっていないと、多種多様な多くの知識を詰め込んだとしても、それらの知識が有機的につながって、成果としての良質なアウトプットを生み出すことはできないのです。
マーケティング理論等の知識
論理思考などの思考スキルを頭の中に備えたとしても、アプリとして動いてくれるマーケティング論や戦略論やオペレーション論の体系的な知識がないと、これまた成果としての良質なアウトプットを生み出すことはできません。
様々なビジネスに関する情報を五感で収集しても、それらの情報の種類を判別し、繋ぎ合わせることに効果を発揮するこういったビジネスで必要な専門的な知識の体系がないことには、ビジネスで役立つような解決策やアイデアを生み出すことができないのです。
そして、こういったビジネスに必須の専門的知識の体系で圧倒的に重要なものがマーケティングだと私は思っています。
マーケティングは経営そのものであると言っても過言でないくらい、ビジネスにとってのマーケティングは欠かせないものなのです。
ところが、私がこれまでに関与した中堅・中小企業の全てにおいて、マーケティング的な思考が存在している会社は全くありませんでした。
大して役に立たない伝統的な管理会計などは積極的に自社に取り入れようとする経営者の方はとても多いのですが、一番重要なマーケティング志向を社内に根付かせようとする経営者の方は、ただの1人もいませんでした。
なぜ、ここまでマーケティングが軽視され、役に立たない伝統的な管理会計が重視されるのかは、中小企業に最も近い専門家である税理士の存在が大きいのだと私は考えています。
以上のように、論理思考とその応用であるクリエイティブ思考、そしてマーケティング論を中心とする各種の専門的な知識の体系を身に付けることがまずは必要なのです。
座学をバカにする風潮は、実務の世界ではとても強いのですが、こういった知識とそれをベースにするスキルは、座学で基礎をみっちりとやる時間を持たないと、「考える力」などはまず涵養できないと、ここで断言しておきましょう。
マーケティングの重要性については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生にマーケティングは必要じゃないのかな。再生のアドバイザーが銀行の紹介で入ってきたけど、どう見ても普通の税理士でマーケティングなんてできそうにないんだけど、本当に当社の再生はうまくいくのかな。こんなお悩みを抱えた経営者の方は必見です。
業務遂行力
どんなに素晴らしい戦略を描いても、どんなにインサイトに溢れた解決策を実施しても、結果が出るまでやりきらないことには、最終的な成果(利益)には結びつきません。
「結果が出るまでやり抜く」という経験をこれまでの人生で持ったことがなかったとしても、ここはある程度システムで対応することが可能です。
そのシステムこそが、管理会計システムなのですが、ここでいう管理会計とは、多くの税理士さんが顧問先に導入を勧めている、全く役に立たない「予算実績差異分析」などではありません。
予算実績差異分析については、下記の記事を参考になさってください。
顧問税理士の勧めもあって、管理会計の予算実績差異分析を導入し、毎月顧問税理士とその差異の検討の場を設けているのだけれど、これって何らかの意味があるのだろうか。毎月多くの時間をこれに割かなくてはならないのだが、継続するべきか教えてほしい。
戦略を作り込む時には、戦略目標(Ex:売上〇〇億円)を達成するために最も効果が高いと思われる活動を絞り込んで、その活動と成果の因果関係の強さを確認します。
その後実際に活動を実施しますが、その活動の選択が正しかったのか、その活動の効果が出ているのか、出ているとしたらどの程度出ているのかを定期的に確認し、戦略目標の達成可能性の判断を見極めることになりますが、この時に使うシステムが管理会計の一種であり、具体的にはKPI(=Key Performance Indicator)管理と呼ばれるものになります。
この中間目標としてのKPIという指標を追いかけさせることで、業務を遂行することに対してゲーム性を持たせることが可能になりますので、KPI管理は結果が出るまでやりきることを手助けしてくれる極めて有効なツールなのですね。
戦略を作り込んだら、KPIを設定して、それを定期的に追いかけさせることで、業務遂行能力を飛躍的に高めることができるのです。
管理会計のより詳しい解説は、下記の記事を参考になさってください。
管理会計の導入のコンサルティングを受けたいのだが、どこに頼めばいいのだろう。管理会計で経営に役立つ情報提供システムを構築したいが、税理士の主導する管理会計である予算実績差異分析は全く役に立たないし。このようにお嘆きの経営者に朗報です。
幹部候補の選抜にも役立つ
社員教育の機会を得て、こういった思考スキルと、マーケティング等の知識やスキルを身に付けることができると、中小企業の場合、将来の幹部候補生になり得る要件を備えたといってよいと思います。
ただ、中小企業の場合、社員の全員がこういったことを学んだとしても、日常の実務で使いこなせるようになるのはごく一部です。
私の経験ではせいぜい全社員の3~5%程度ですね。
何と少ないではないかと思われるかもしれませんが、中小企業においては、こういったスキルを身に付けた社員が1人、2人いるだけで全く状況が変わってくるのです。
こういった社員が将来の会社の幹部となって戦略的な部分を担当し、他の社員は実務的な部分を担当するという役割の分担が明確にできることとなります。
経営者が事業承継で変わった時には、その右腕となって、将来に向けて経営者を支えていく存在となる人材を育成することが可能となるのです。
少子化の影響で、新卒の社員の確保にさえ汲々としている中小企業が多い中で、今いるスタッフに社員教育という成長の機会の場を提供して、全体の底上げを図って1人当たりの労働生産性を高める必要性があることは周知のとおりです。
加えて、社内にマーケティング思考を根付かせ、中長期的に会社の発展を願うのであれば、できるだけ早く、思考スキルとマーケティング思考を重視した社員教育を導入するべきでしょう。
次世代幹部育成研修についてのご相談は、下記のページよりどうぞ。
次世代幹部育成のための研修を行いたいのだが、今の時代にあった研修講座はないものだろうか。生活者のニーズが変化している現代のビジネスに対応するための知見や思考方法を次世代の幹部候補に身に付けさせたい。こんなお悩みに応える講座を準備しました。
マーケティング思考導入コンサルティングについてのご相談は、下記のページよりどうぞ。
中小企業のほとんどに欠けているものがマーケティング思考です。中小企業にマーケティング思考を導入することができたら、中小企業が中小企業を脱却できる可能性だってあるのですが、実際にはその必要性を感じている経営者は少ないのです。中小企業こそマーケティングを導入するべきなのです。
ウェブ・マーケティング・コンサルティングについてのご相談は、下記のページよりどうぞ。
ウェブサイトの製作をウェブ製作会社に数百万円で外注したが、結局集客、売上には何ら効果がなかったという事例はとても多いです。なぜこのようなことが起こるのでしょうか。そのような無駄なコストをかけるくらいなら、良質なコンテンツの製作費用に回したほうがずっと集客や売上には効果があります。