PEST分析とは何か?【重要:事業再生には必須です!】

PEST分析というフレームワークを学んではみたものの、マーケティングのどの場面でこの分析を行えばいいのか、また、具体的にどのように行えばいいのかが、いまいちよく理解できていない。
だれか、わかりやすく詳しく説明してほしい。

このようなお悩みをお持ちの経営者の方はとても多いように思われます。

この記事を読むことで、マーケティング戦略を考える際に、PEST分析を実施するフェーズと、その分析方法が理解でき、ビジネスに役立つマーケティング戦略を立案できる可能性が高まります。

本記事は中堅・中小企業の事業再生に取り組んで20年以上、200社超の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生へと導いてきた、企業再生のプロフェッショナルである公認会計士が書きました。

PEST分析とは何か?

PEST分析とは何か?PEST分析とは、経営戦略やマーケティング戦略を策定するに際して、「Politics(政治)」「Economy(経済)」「Society(社会)」「Technology(技術)」という4つの視点から企業を取り巻く外部のマクロ環境を分析するフレームワークです。

マーケティング戦略におけるPEST分析上記の図を見ていただければわかるように、PEST分析はマーケティング戦略の策定の最初のステップになります。

企業を取り巻く外部環境には、マクロ環境とミクロ環境の2つがあります。
マクロ環境とは、企業の外部の経営環境のうち、政治や経済の動向、社会の趨勢、技術革新など世の中全体に関するものであり、自社ではコントロールできないという特徴を持つものです。
これに対して、ミクロ環境とは、顧客のニーズや競合先の動向などといった、自社の行動に対して何らかの反応を生じせしめることが可能で、一定程度影響力を行使できる外部環境をいいます。

つまり、PEST分析が担うのは、自社でまったくコントロールできない外部のマクロ環境の分析になります。
自社ではコントロールできない外部環境を様々な視点で分析することによって、対処するべき危機や活用すべき機会を可視化することができます。

ちなみに一定程度の影響力を発揮できるミクロ環境分析は3C分析や5フォース分析がその役割を担います。

3C分析については、下記の記事を参考になさってください。

5フォース分析については、下記の記事を参考になさってください。

PEST分析の必要性

PEST分析の必要性PEST分析を実施する必要があるのは、経営戦略やマーケティング戦略の策定に必要だからです。
なぜならば、事業の成否はそれを取り巻く外部環境の影響を大きく受けるので、その分析なしに戦略の策定を行っても、策定された戦略の有意性は著しく毀損されることになるからです。

昨今ですと、新型コロナウイルスの感染拡大によって非常事態宣言が出され、飲食店などは営業時間の制限を受けたり、不要不急の外出の自粛が求められると飲食店以外でもお客様の来店が大きく減少し、事業収益に大きな打撃を与えています。
一方で、コロナ禍でもGotoキャンペーンなどが政府主導の政策として実施されたことによって、お客様の減少に歯止めをかける効果はとても大きかったでしょう。

過去を見渡してみても、1986年の男女雇用均等法の施行の結果、外国のハイファッション・ブランドが大挙して銀座の一等地に店舗を構えましたし、それらのファッションを紹介する女性向け雑誌の刊行が相次ぎ、ファッション産業とその周辺産業への経済効果はとても大きなものとなりました。

2007年にapple社からĪphoneが発売されたことで、我々のコミュニケーション手法が大きく変化を遂げ、2009年の家電エコポイント制度は、リーマンショック後の経済対策として実施されましたが、同制度のおかげで液晶テレビの普及率が一気に高まって、液晶メーカーは空前の好景気を享受しました。

2011年の東日本大震災による通信網の分断を契機として、TwitterFacebookといったSNSが社会インフラとして定着し、生活者の検索行動に変化を与えたり、広告への関与自体にも影響を与えました。

このように政治の動向、経済環境の変化、社会の趨勢、技術の革新等の環境の変化は、互いに密接に影響をしあって、企業の事業に対して大きな影響を与えることになります。

以上のようなことから、事業の開発、構築、維持、改編等を行う時には、外部環境の分析を実施して、現在のみならず今後環境との折り合いをどのようにつけながら自社の事業を推進していけばいいのかを考えることは、事業を成功させる上でとても重要なファクターになるのです。

PEST分析の4つの要素

PEST分析の4つの要素ここでは、PEST分析を構成する4つの要素について、各々どのような情報を分析の対象とすべきか、また、それらの情報をどのように整理して分析すればいいのかをみていきましょう。

P(=Politics:政治的要因)

P(Politics:政治的要因)とは、法律や条例の制定又は改廃、あるいは規制、補助金制度など、一企業ではコントロールできない行政レベルのルールの変化のことをいいます。

政治的要因を見る時に重要な視点は、「市場のルールを変化させる変化」であるかどうかです。

1つの法律や新たな制度の導入によって市場のルールが変わると、市場の競争環境がガラッと変わることが多く、これまで利潤を独占していた企業が低収益企業へ転落したり、新興企業が突然業界の覇権を握ったりという様なディスラプションが目に付くような規模で起こります。

市場のルールを変化させるものとしては、法律や法改正(規制、緩和)、税制や減税、増税、裁判制度や判例、政治や政権交代、政治団体の傾向、デモ、補助金制度・交付金制度・特区制度の変化などがあげられます。

これらの市場のルール変更は、いずれも国や地方自治体レベルで決定される事項であり、一企業がその決定に対して何らかの力を行使できるものではありません。

こういった法律の制定・改廃などは頻繁に起こりますが、その中でも自社のビジネスに対して非常にクリティカルな影響を与えうる可能性がある分野におけるルール変更に対しては、事前にシュミレーションしておくことが肝要です。

たとえば、食品業界ではそれまで認可や認証が必要だった「トクホ(特定保健用食品)」や「栄養機能食品」に対し、規制緩和により、届け出さえすれば誰でも表示が許される「機能性表示食品制度」を201541日にスタートさせました。

トクホ(特定保健用食品)は、健康効果について関係省庁に科学的根拠を示して、有効性や安全性についての審査を受けた上で許可を得ることとなっていますが、機能性表示食品は、対象となるサプリメントや加工食品や生鮮食品などについて、国のガイドラインに沿った安全性・機能性の根拠となる情報を揃えて届け出をして受理されれば、60日後には販売できてしまうという制度です。

このような規制緩和により、事前の情報を察知して事前に対応に着手したブランドにとっては「機会」となったはずですし、反対に情報不足から、規制緩和への対応の検討が遅れたブランドにとっては「脅威」となったことでしょう。

この規制緩和までは、法律によって「食品の機能性表示の有無」は明確に区別されて市場も分かれ、競争を分けて棲み分けを行うことが可能であったものが、機能性表示食品制度の解禁により、事実上、市場間をまたいだ競争に変化しているものです。

このようにPEST分析では、マクロ環境の変化が市場そのものの構造を変えたり、ときには市場が分裂したり、合体したりするなどに発展することを見据えて予測を行うことが大切なのです。

E(Economy=経済的要因)

E(Economy:経済的要因)とは、経済成長や景気の動向、物価や為替など、経済に関する環境の変化のことをいいます。

日本国内の経済指標だけに限定せず、アメリカ、EU,中国などの大国のそれにも関心を持つ必要があります。
経済的要因の具体例としては、景気動向の変化、賃金動向の変化、物価・消費動向の変化、為替の変化、金利の変化、株価の変化等があります。

こういった経済的要因の変化は、「売上」や「投資・コスト」に対して大きな影響を与えることが多くなります。

人口減少の影響を受けて運送業のような業態ではスタッフの雇用をいかに確保するかが経営課題にもなりつつありますし、為替が1円動くだけでも輸出産業や輸入産業の利益には大きなインパクトをもたらします。
さんまが不漁な年には、その価格は高騰しますし、ウナギの養殖が盛んになった現代ではその価格の変動は小さくなりました。

このように経済の基本は需給バランスにありますが、天変地異などの影響で需給バランスが崩れると、価格の変動を通じて企業の収益に大きな影響を与えることになります。

また、景気が悪化する局面ではヒトの心理にマイナスの影響を与えて消費支出が抑制されますし、日経平均株価の上昇は、ヒトの心理にプラスの影響を与えて消費支出が増加します。
このように、経済的要因の変化は、ヒトの心理へも影響する結果、企業収益にも影響を与えることになります。

以上のように「経済的要因」の変化は、経済の基本である需給バランスに影響を与え価格の変化を介して、もしくは、ヒトの心理へ影響を与えることを通じて、企業収益に影響を与えることになるのです。

S(Society=社会的要因)

S(Society:社会的要因)とは、生活者のライフスタイルや価値観の変化などをいいます。

マーケティングを学んだ者であるならば、最もなじみやすい要因ではないかと思いますが、法律の制定・改廃、客観的な数字などで具体的に把握ができるP(政治的要因)E(経済的要因)とは異なり、どちらかと言えば対象が漠然としており、また極めて広範に渡ることから、4つの要因の中では最も把握することが難しい要因ではないかと思います。

S(Society:社会的要因)は、対象が広範囲に及びますが、検討するべきものはあくまで「変化」なので、あれもこれもと分析して時間を無為に消費することは避けて、変化のないものはスルーして、変化のあるものだけにフォーカスして分析することに注意しましょう。

社会的要因の具体例としては、人口動態の変化、ライフスタイルの変化、社会的インフラの変化、新しい流行、さらには人々の意識を変えるような社会的事件、大きなイベントなどです。

たとえば、サッカーのワールドカップや今年日本でも開催予定の五輪大会などは、人々の意識に大きな影響を与え、消費行動を変えるほどのインパクトを持つものです。

また、単身者世帯が増加しているのは、未婚者の増加、離婚者の増加、単身高齢者の増加の3つが大きな原因です。
こういったトレンドに対応して、スーパーなどを覗けば、小さく小分けされた野菜や惣菜が人気ですし、飲食店などでも「おひとりさま」が利用しやすいようなスタイルのお店が増えています。

社会的事件の例としては、2016年以降に次々に明るみになった大手企業の過労死事件をあげることができるでしょう。
勤勉な国民意識が強い日本では、昔から「時間外労働=美徳」という価値観が根付いていましたが、こういった一連の事件が表面化した結果、「時間外労働=悪」という価値観が一気に広まり、2021年の現在においても、「働き方改革」という言葉はバズワードとなって、多くの企業や生活者の消費行動に影響を与えています。

このように社会的要因の変化は、ヒトの心理に影響を与えてインサイトを変化させる結果、態度変容や行動変容を起こしやすいため、外部環境の分析には必須の項目となっています。

 T(Technology:技術的要因)

T(Technology:技術的要因)とは、商品開発技術、生産技術、通信技術、あるいはマーケティング技術などの変化をいいます。

技術の進歩や革新により、それまで業界において一般的であった技術が一夜にして陳腐化し、競争力が失われたり、あるいは、新しい技術自身が新しい市場を創り出したりするなどの、技術水準の変化は企業の業績や生活者の消費行動に大きな影響を与えるものです。

技術的要因の変化として主な項目を示すと、ビッグデータ、IT・デジタル技術、設計技術、研究開発技術、生産技術などがあげられます。

たとえば、自動車業界では、ガソリン車からハイブリッド車や電気自動車など次世代車へのシフトが進んでいます。
このシフトを可能にしているのは、電池技術の革新だったわけですが、この技術の進化が意味することで重要な点は、自動車の動力がエンジンからモーターに置き換わるという点です。
つまり、自動車産業への参入障壁であったエンジンの開発が不要になるということで、電気自動車産業では、これまで自動車の開発・生産に縁のなかった企業の参入が見込まれて、新たな競争環境が生まれることを意味しているのです。

GAFAの一角であるGoogleGoogleカーを開発して自動運転の世界を実現するべく参入できたのも、エンジンからモーターへと自動車の動力系の置換と、運転中に生じる様々な事象の変化をセンサーで察知することで自動運転を可能にするセンシング技術の革新、および膨大なデータ処理を瞬時にこなすクラウド・サーバーの設置であったわけです。

この自動車の事例からも理解できるように、技術革新による要素技術の転換とIT技術の革新は、1つの大きな業界の競争環境を一変させてしまうくらいのインパクトを持つものなのです。

また、自動車産業に限らず、企業経営者がセンシティブになっておくべき「技術的要因」の中でも最も身近で、インパクトが大きいのが「IT・デジタルテクノロジー」であることには、誰も異論をはさまないことでしょう。

近年、IT・デジタルテクノロジーの技術革新によって、マーケティングは大きな変化の真っ只中にあります。

たとえば、Googleなどのプラットフォーマーの出現によって、安価な広告やウェブサイトのABテストを実施することが可能となり、ビジネス・アイデアを素早くデザイン思考で揉んだら、すぐに市場に問いかけてみて、その反応の結果によってそのビジネス・アイデアをスケールさせるかどうかの決定を行うことができるようになってきました。

こういった流れは、スモール・スタートアップと呼びますが、潤沢な資金がなくても、優れたビジネス・アイデアがあれば、起業をすることができるようになって、起業自体のハードルが昔に比べれば格段に下がっています。

また、マーケティングのデジタル化によって、すべての生活者のデジタル上の動きがデータとしてリアルタイムに可視化することが可能となった現在では、リアルタイムでPDCAを素早く回して改善を行えるようになり、マーケティング施策の最適化を早期に実現することが可能になっています。

さらに、スマホの浸透によって、企業は24時間生活者と繋がることが可能となり、生活者側から見ても、好きな時に好きな場所でブランドとのタッチ・ポイントを持つことが可能になっています。

こういった、IT・デジタルテクノロジーの技術革新は、生活者の心理に影響を与えてインサイトを変化させる一方、生活者の消費行動にも大きな影響を直接与えることが可能であるので、企業側からすれば、競争環境の変化による業界の序列の逆転などは、明日は我が身的に備えておく必要がとても高いと思われます。

経営環境の変化については、下記の記事も参考になさってください。

PEST分析の手順

PEST分析の手順

PEST分析を実施する目的を確認する

実際に分析に入る前に、必ずPEST分析をする目的を確認します。
PEST
分析は、自社がコントロールすることができないマクロ環境を整理して把握し、現時点での競争環境の状況と今後起こりうる変化を仮説ベースで把握することで、自社にとって最適な事業戦略を描くための情報の収集を行うことです。

さて、PEST分析を実施する目的は、大きく分けると2つありますが、それは、外部のマクロ環境の変化を把握して、事業機会(Opportunity)を見出すことと、自社の事業にとっての脅威(Threat)を見出すことです。

PEST分析でよく見かけるのが、PEST分析を実施すること自体が目的化していて、そこで得られた情報を、事業戦略策定のためのどのステップで活かすのかということが理解できていないパターンです。

マクロ環境の分析フレームワークであるPEST分析を実施することで、ミクロ環境の分析フレームワークである3C分析を実施するための参考情報として活用することになりますし、SWOT分析の機会(Opportunity)と脅威(Threat)の情報を収集していることにもなります。

PEST分析で得られた情報が直接的に事業戦略の策定の役立つわけではないのですが、3C分析やSWOT分析に役立てることで間接的に事業戦略の策定に貢献している訳です。
PEST
分析を実施する前には、こういった位置づけを再度確認することで、分析のための分析になることを避けることができます。

4つの視点(PEST)で情報を収集する

PEST分析の手順の2番目は情報収集と分類になります。
P=政治的要因」「E=経済的要因」「S=社会的要因」「T=技術的要因」の各要素に該当する情報を収集します。

PEST分析でよく見かける悪い事例は、単に現状の情報を集めだけに過ぎないものです。

PEST分析の目的が、最終的に事業戦略を策定することにあるわけですが、戦略が近い未来の自社の事業の在り方を規定するものであることを考えれば、単に現状の情報を集めるだけでは事足りず、その先に仮説としての外部環境の未来に向けての変化の動向を考えておくことが求められます。

つまり、PEST分析では、まずは市場の現状に着目して情報を収集しますが、さらにそれらの情報から今後の外部環境の趨勢を仮説として想定して初めて、優れた事業戦略の策定につなげることができるのです。

したがって、PEST分析においても、仮説思考は重要であり、分析に入る前にあらかじめ「仮説」を準備しておくとスムーズに進むことになります。

機会(Opportunity)と脅威(Threat)に分ける

PEST分析の最後の手順のは「機会(Opportunity)と脅威(Threat)に分ける」ことです。

先ほども書いたように、PEST分析はミクロ環境分析の3C分析へ、さらにはSWOT分析へとつなげていきますが、次の分析フェーズで役立つように、得られた情報を「機会(Opportunity)と脅威(Threat)に分けるのです。

ちなみにSWOT分析は、SxWが自社の経営資源分析(VRIO分析)から情報を取集することになりますが、OxTが外部環境分析(PEST分析、5フォース分析、3C分析)からの情報を活用することになります。

SWOT分析についての詳細は、下記の記事を参考になさってください。

PEST分析のポイント

PEST分析のポイントPEST分析は、良く知られたフレームワークなので、当然に競合企業も実施していると考えるのが普通です。
そして、自社が分析して得た情報と、競合企業が分析して得た情報にそれほど大きな差異があるとは思えません。

PEST分析による外部環境の現状分析結果が同じならば、策定される事業戦略も似たり寄ったりのものとなって、同じようなポジショニングのブランドだなと生活者に認識されてしまえば、最終的には価格競争に突入せざるを得なくなってしまいます。

そこで、先程も書きましたが、単なる外部環境の過去から現在の変化に注目するだけでなく、その変化によって今後どんな影響がミクロ環境、自社の経営資源および競争環境に影響を与えるのかを仮説として予測することが、非常に大切になるのです。

例えば、新型コロナウイルスによって、外食産業は大きな打撃を受けましたが、ワクチンの接種によって多くの人々が免疫を獲得することで、コロナ禍を克服する結果、以前のように外食産業にもお客様が戻ってくるという予測を大方の人がするのだと思います。

しかし、そこで立ち止まって、コロナ禍を克服した時に、本当に我々は昔のように外食に出かけるのだろうかと考えて見ることも必要なわけです。
コロナ禍を克服した時に、外食に全く出かけないということはないでしょうが、それでも以前と同じような頻度で出かけるだろうか、それよりも今回経験した外出自粛の中での家族との食事の時間の大切さや、自分で料理を作ることの楽しさに目覚めたというような人は多かったのではないか。
そうであるならば、コロナ禍を克服したとしても、外食産業へお客様は以前のような頻度では訪れないのではないか、特に高級店などはその傾向が強いのではないか。

そういうシナリオも十分に考えられるのですから、通販事業を開始できるだけの食品開発と、自社Webサイトへの集客ができるだけのコンテンツの製作を行って、来るべき脱コロナ禍に備えねばならないのかもしれません。
これまでは、理解できるスタッフが社内にいなかったことを理由にして、ほとんど手を付けてこなかったウェブ・マーケティングを本格的に開始するべきなのかもしれないのです。

このように過去から現在への外部環境の変化を捉えて、現在から未来へどのような変化があるのだろうかということを自分なりにシナリオ分析を行って戦略の方向付けを行うことが、独自性のある戦略を策定するためには必須なのです。

PEST分析の事例

PEST分析の事例ここでは、PEST分析の事例として、2009年5月にコカ・コーラから発売された「い・ろ・は・す」を取り上げてみます。

開発の経緯

20095月の発売から、わずか3年半で販売数が20億本を超える大ヒットとなり、輸入水のシェアが高かったミネラル・ウォーター市場で一躍トップに君臨する製品へと成長したのが、日本コカ・コーラの「い・ろ・は・す」です。

「コカ・コーラ」や「アクエリアス」など誰もが知る強力なブランドを数多く持つ日本コカ・コーラですが、当時、ミネラル・ウォーターのカテゴリーでは、ブランド力の強い製品が少なかったところに着目して、2008年に社内に「ミネラル・ウォーター開発チーム」が設けられ、新しいブランドを立ち上げる挑戦が始まりました。

この当時、街中では、おしゃれなエコバックを持って闊歩する女性が徐々に目に付くようになっており、多くのアーティストが集うロック・フェスティバルでも「エコ」や「環境」を謳うものが出始めており、エコが今後大きなトレンドとして広がりを持ちそうな空気感が漂っていました。

そんな中でプロジェクト・チームの技術部門から提案されたのが、従来よりも4割も軽い、国内最軽量12グラム(500ml)のペット・ボトルでした。
また、CSRチームからの提案は、ストレートに「環境」でした。

超軽量ペット・ボトルは、飲み終わったら片手で簡単に握りつぶすことができ、嵩張ることなくリサイクル・ボックスにと破棄できます。
飲み終わった後に片手で潰すということは、「エコの可視化」ということでもあるのです。
その後、ペット・ボトルの原料は植物由来のものが使われるようになっています。

そして、環境をキーワードにして、超軽量ボトルを使うことが、新しいミネラル・ウォーターのコンセプトとなりました。
つまり、コンセプトは「環境にやさしいミネラル・ウォーター」。

ブランド名の「いろはす」は、物事の基本を表す「いろは」と、地球環境に配慮した無理のない生き方を表す「ロハス=Lifestyle of Health and Sustainability」の造語であり、ひらがな表記として、子供から老人まで覚えやすいようにしています。

ラベルのサイズも出来るだけ小さくし、消費原料の無駄を省き、ブランド・カラーもエコを訴求しやすい緑にしています。

コミュニケーションは、これまでにないポジショニングの商品なので、競合ブランドとの差異性を訴求するために、阿部寛を使ったロックな世界観で動的なCMに仕上げました。

世の中のトレンドの芽に乗った結果、20095月の発売から、わずか3年半で販売数が20億本を超える大ヒットとなったのでした。

ヒットの要因

環境分析を行う際に、街角ウォッチングを実施して、「エコ意識」の萌芽を随所にみつけたプロジェクト・チームは、その萌芽を見逃さず、今後どれが大きなトレンドになるのではないかとの仮説に基づいた予測をしっかり立てたことが、「い・ろ・は・す」の大ヒットの大きな要因となっています。

小さなトレンドの芽を見つけられなかったり、見つけられてもスルーしてしまっていたら、この商品はこの世に生まれてくることはなかったのでしょう。

また、ミネラル・ウォーターの購買決定基準(KBF)は、「〇〇山脈の美味しい水」のような、日本であれば名水百選に選ばれるような「産地」でした。
外国産のものでも、同じようにアルプス山脈はフィジーなどの「産地」が購買決定要因となっていました。

このような中で、日本コカ・コーラは購買決定基準の書換えを行い、そこに「エコ」を持ち込んだのです。
世の中の空気に、サステナビリティ-を言う概念が現れ始め、生活者の気持ちの中には、「エコ」に対しての関心が増しつつある中で、「環境に対して貢献したい」という生活者のエンジェルなインサイトを上手く刺激して、まだまだ潜在的であった「エコ」に対する関心を呼び起こし、見事に購買決定基準にまで昇華させたのでした。

そして、カテゴリー内で、「エコ=環境に優しい水」という独自のポジショニングを取り、「環境に優しいミネラル・ウォーター」という全く新しいコンセプトの商品として生活者の記憶に強烈に残った結果、短期間で爆発的な売上を記録することができたのです。

ポジショニングやコンセプトが言語化された後に決定されるマーケティング・ミックスにおいても、コンセプトに従って4Pが展開され、ブランド名、ボトル、ラベル、コミュニケーションと、すべての活動に一貫性を持たせたことも成功の大きな要因であることは言うまでもありません。

事業再生におけるPEST分析

事業再生におけるPEST分析中堅・中小企業の事業再生の現場で長きに渡って仕事をしていて、再生のフェーズにある会社の経営者とお話をしていて感じることは、そういった企業の経営者の大半が、競争環境の変化に対するセンシティブさが大きく欠けているということです。
自分が体感できる肌感としての景気の良し悪し以外のことは、自社が属する業界に大きな影響のある法規制に関するものは除くと、自社を取り巻く経営環境の対して無頓着であるように見えて仕方がありません。

先代が創業した頃のように、人口ボーナスの恩恵を受けて右肩上がりで経済が成長していた環境では、多少の環境の変化などは無視しても、ビジネスは成長することができたので、そういった先代のやり方を踏襲しているような企業の経営者は特に環境の変化に対して無頓着です。

マクロ環境は、市場(顧客)や競合先の戦略等のミクロ環境に影響を与えることによって、自社の経営資源や戦略に間接的に影響を与えてきます。

特に市場(顧客)の心理に与える影響が大きく、これまで生活者が価値があると感じていた製品やサービスに対して、もはや価値を感じなくなってしまうことが原因で、売上減少という形で現れて、事業再生のフェーズに会社を突き落すことになるのです。

そうなると、提供している商品やサービスのポジショニングの変更、つまりはコンセプトの見直しの必要性が出てくるわけですが、こういった因果の構造は目に見えないものなので、経営者が自ら気付くことがなかなか難しく、売上の回復を企図してチラシの回数を増やしたり、通販事業に乗り出したりと、本質から外れたプロモーションにコストをかけてしまって、さらに状況が悪化することも珍しくありません。

貴社が提供している消費や商品の価値は、単独で存在しているものなどではなく、マクロ環境やミクロ環境とのつながりのある文脈の中で顧客が感じる相対的なものなので、そういった環境や文脈の変化に対応して、商品やサービスのコンセプトの見直しも当然に必要になるものなのです。

過去に商品やサービスを提供した後に、現在に至るまで、どのような環境の変化があり、その変化がどのように生活者の心理に影響を与えたのかを見てみることは、再生の1つの大きなきっかけになります。

中小企業が事業再生を成功させるポイントについては、下記の記事を参考にされてください。

事業再生におけるマーケティングの必要性については、下記の記事を参考にされてください。

事業再生を相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考にされてください。