官民ファンドとは?【事業再生なら、官民より民間がおすすめ!】

官民ファンドと呼ばれる事業再生ファンドは、一般の民間のファンドとはどういう違いがあるのだろう。
万が一、銀行に当社向けの貸出債権を事業再生ファンドに譲渡されるとして、官民ファンドと民間ファンドのいずれかを選べるとしたら、どちらを選ぶべきなのだろう。

事業再生ファンドといっても、官民ファンドと民間ファンドでは結構違うものなのです。

そしてどちらへ送られるかで、その債務者企業の事業再生の進捗にも、実は大きな影響が出てきます。

この記事を読むことで、官民ファンドとは何なのか、また、官民ファンドと民間ファンドとの違いはどんな点なのかがよく理解でき、どちらのほうが事業再生を進める環境としては優れているのかが理解できます。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生に取組んで20年以上、200社超の再生案件に関わって、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

官民ファンドと民間ファンド、どっちがいい?

官民ファンドと民間ファンド、どっちがいいの?私ならば、間違いなく民間ファンドを選んで、自社の事業の収益性が高まるまでお世話になると思います。

なぜなら、官民ファンドは投資期間の設定が厳格であり、予定通りに事業再生が進捗しなかったとしても、期間が来たら元々の銀行にリファイナンスを受けて卒業させられてしまうからであり、民間のファンドならばそのあたりの取り扱いにある程度幅を持たせることができるからです。

その他にも理由はありますが、以下で順次説明していきたいと思います。

官民ファンドとは何か?

官民ファンドとは何か?官民ファンドとは、国の政策に基づいて政府と民間が特定の目的のために共同で出資するファンドをいいます。

これまでの官民ファンドは、政府の緊急経済対策として時限立法で創設されることが多く、2003年に創設され2007年に解散した産業再生機構や、2009年7月に創設された産業革新機構、同10月に創設された地域経済活性化支援機構(創設時の名称は、企業再生支援機構)などが該当します。

現在稼働中の官民ファンドの主要なものは下記のとおりです。

No. 官民ファンドの名称 所轄 ファンド額
1 株式会社産業革新機構  

経済産業省

最大約2兆円
2 独立行政法人中小企業基盤整備機構 5,191億円
3 株式会社地域経済活性化支援機構(Revic) 内閣府 約1兆2千億円
4 株式会社農林漁業成長産業化支援機構 農林水産省 318億円
5 株式会社民間資金等活用事業推進機構 内閣府 200億円
6 官民イノベーションプログラム(東北大学) 文部科学省 125億円
7 官民イノベーションプログラム(東京大学) 文部科学省 417億円
8 官民イノベーションプログラム(京都大学) 文部科学省 292億円
9 官民イノベーションプログラム(大阪大学) 文部科学省 166億円
10 株式会社海外需要開拓支援機構 (クール・ジャパン) 経済産業省 523億円
11 耐震・環境不動産形成促進事業 国土交通省/環境省 300億円
12 株式会社日本政策投資銀行における特定投資業務 財務省 1,300億円
13 株式会社日本政策投資銀行における競争力強化ファンド 財務省 1,500億円
14 株式会社海外交通・都市開発事業支援機構 国土交通省 643億円
15 国立研究開発法人科学技術振興機構 文部科学省 25億円
16 株式会社海外通信・放送・郵便事業支援機構 総務省 108億円
17 地域低炭素投資促進ファンド事業 環境省 93億円

この表の中で、事業再生に関連するファンドは、

  • 独立行政法人中小企業基盤整備機構(経済産業省)
  • 株式会社地域経済活性化支援機構(Revic)(内閣府)
  • 株式会社農林漁業成長産業化支援機構(農林水産省)
  • 株式会社海外需要開拓支援機構(クール・ジャパン)(経済産業省)
  • 株式会社日本政策投資銀行における特定投資業務(財務省)

などがあげられると思われますが、日本の各地方で創設されている事業再生ファンドは、独立行政法人中小企業基盤整備機構が有限責任社員(GL)となって運営されているものが多くあり、同機構は、日本の事業再生に関する官民ファンドの中心的役割を担っています。

また、内閣府が所管の官民ファンドである株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)については、下記の記事を参考にされてください。

2003年~2007年まで時限立法で存在した官民ファンドである産業再生機構(IRCJ)については下記の記事を参考になさってください。

では、以下でその官民ファンドの特徴を民間の事業者が運営するファンドとの比較でみていきましょう。

事業再生ファンドの比較~官民ファンドと民間ファンド~

官民ファンドと民間ファンドの比較

官民ファンド

2009年の円滑化法施行の少し前あたりから、経済産業省の外郭団体である中小企業基盤整備機構と地域金融機関とが共同出資して設立した、いわゆる「官民ファンド」が各地域に続々と作られました。

これらの官民ファンドは、「投資事業有限責任組合契約に関する法律」に準拠して設立され、有限責任社員(Limited Partner=LP)として、中小企業基盤整備機構と地域金融機関が、無限責任社員(General Partner=GP)として地域金融機関などが設立したサービサー等の子会社などが、各々の出資金額や投資期間を定めます。

LPたる地域金融機関が各々自行の融資先向けの貸付債権を持ち込み、GPである子会社に出向者を送り込んでファンド運営をさせて、投資期間が終了すれば債権を持ち込んだ金融機関がリファイナンスを実行して債権を引き取るというような取引形態が典型的なファンドの活用の仕方になります。

たとえば、2013年12月20日に設立された「関西広域中小企業再生ファンド投資事業有限責任組合」という官民ファンドがありました。
(この官民ファンドは、2019年4月30日に全ての投資案件について回収が完了したことをもって解散決議を経て、同年6月27日に清算結了しています。)

この官民ファンドは、過剰債務等により経営状況が悪化しているものの、本業には相応の収益力があり、財務改善や事業見直し等により再生が可能と見込まれる関西地域の事業者を支援することを目的として設立され、債権の買取や株式出資等の投資による債務の軽減、人材派遣等の経営支援により、対象事業者の再生を図るものでした。(ファンド金額33億円)

このファンドの出資者を列挙すると下記のようになります。

LP 株式会社りそな銀行
株式会社池田泉州銀行
株式会社関西アーバン銀行
株式会社紀陽銀行
株式会社近畿大阪銀行
株式会社但馬銀行
株式会社みなと銀行
大阪厚生信用金庫
大阪シティ信用金庫
大阪信用金庫
北おおさか信用金庫
きのくに信用金庫
日新信用金庫
播州信用金庫
姫路信用金庫
大阪信用保証協会
兵庫県信用保証協会
和歌山県信用保証協会
独立行政法人中小企業基盤整備機構
GP ルネッサンスキャピタル株式会社
REVICキャピタル株式会社

GPとして、中小企業のファンド運営歴の長いルネッサンスキャピタル株式会社と、地域経済活性化支援機構(REVIC)の子会社であるREVICキャピタルがファンド運営を行っていました。

こういった官民ファンドにはメリットとデメリットがあるのですが、その各々を以下で見ていきましょう。

メリット

まず、多くの地域金融機関の共同出資となりますので、資金調達がしやすく、そこそこの規模のファンドを組成しやすいことがまず挙げられます。
一定規模の投資資金を確保できていないと思うような投資ができなくなりますが、多くの地域金融機関が出資者となることで、そういった投資資金の不足で頭を悩ませることはありません。

次に、民間だけでなく公的機関が出資者として名を連ねることで、事業再生ファンドの中立性が保てるというメリットがあります。

さらに、金融機関、ファンド運営会社、公的機関等々多彩なプレーヤーが出資者に名を連ねることで、多種多様な専門家を招聘しやすくなって、投資先企業の事業再生を進めやすくなるという点もメリットです。

最後に、金融機関によって持ち込まれた債権の貸付先である債務者企業に対しては、官民ファンドを使って本腰を入れて事業再生に協力するのだという強いメッセージを送ることができる点もメリットの1つでしょう。

デメリット

官民ファンドの場合、地域の多くの金融機関が出資に応じているわけですが、持ち込まれた債権の貸付先の事業再生が上手くいかず、最悪の場合に投資期間中に破綻してしまったような場合を考えてみると、その場合には、投資金額を全額回収することは不可能となるのが通例です。

そのような場合には、そこで発生した損失は、持ち込んだ金融機関だけでなく、有限責任の範囲とはいえ、全ての出資者の出資金を棄損する結果となります。

各々の出資者はこのような損失が発生する事態は極力避けたいと考えます。
自行が持ち込んだ案件で他の金融機関の出資を棄損するのはとても忍び難いはずでしょうし、反対に自行の出資が、他行の持ち込んだ案件で棄損することは、やはり避けたいと思うはずです。

このようなことから、官民ファンドに持ち込まれる案件は、「再生可能性が高くて、投資リスクが低い案件」に限定されることになり、多種多様な人材の利用が可能であるにもかかわらず、官民ファンドでは、難しい案件の持ち込みは避けられてしまうことになるのです。

また、官民ファンドでは投資期間が明確に定められており、投資期間等の延長などの融通はほぼ利かないということも大きなデメリットでしょう。
投資期間の中で目標とする投資利回りを上げる必要は勿論ありますし、予定された投資期間が満了する時点で、債務者企業のために今しばらく投資を継続してさらなるバリューアップをしようとしても、それはできないということです。

さらに、官民ファンドで求められる経営改善計画は、合理性と衡平性を兼ね備えたものが求められ、特定の利害関係者だけが不当な利益を享受していないか、負担するべき者が応分の負担をしているかについて十分にチェックされます。
経営者としての経営者責任や連帯保証人としての保証履行等もその一部です。

このような合理性や衡平性を兼ね備えた経営改善計画は、当たり前のことなのですが、経営者の中には、経営責任を取って経営者の地位を追われることを良しとしない者も少なからずいるものです。

そういったケースでは、経営改善計画の衡平性が確保されないものとして、事業再生ファンドへの債権の譲渡が実行できないことになり、事業の再生可能性が高く、再生後に地域経済への貢献度も高いと判断されたとしても、私的整理の枠組みの中で事業再生の機会が与えられないという結果になり、法的整理へ移行せざるを得ないこともあるのです。

このように、官民ファンドは、事業再生を推進するにあたって、実は大きな問題をはらんでおり、地域経済への貢献という意味では中途半端なものに終わってしまう可能性があるファンドであると言うことができます。

では、官民ファンドに対して、民間のファンドはどうでしょうか。

民間ファンド

民間ファンドの場合には、他の出資者への影響を考える必要がないので、自らのリスク許容度の範囲内で、難易度の高い案件にもチャレンジすることが可能です。

また、投資当初にはイグジットまでの目標期間は勿論あるものの、必ず守るべきものでもなく、比較的自由に投資期間を設定することが可能です。
債務者企業の収益水準等を考えると、今しばらく債権を抱えたままの方が良さそうであれば、リファイナンスを先送りして、いましばらくの間事業のバリューアップに手を貸すこともできるというメリットがあります。

さらに、事業再生ファンドに債権が譲渡されると、債務者企業は事業再生ファンドに対して債務の弁済を行うことになります。
順調に弁済が継続するに越したことはないですが、天災等の影響や、そうでなくても市況の変化で売上が落ちて計画通り業況が推移せず、ファンドへの弁済が計画通りに進まないこともあるでしょう。

また、使用している機械設備の中で生産に不可欠な機械の取替投資が急に必要になった時には、ファンドへの返済を数か月停止させて、プールした資金で取替投資の資金手当てを行わせるなどの臨機応変な対応も可能です。
この点、官民ファンドであれば、多くの出資者の調整等も必要になり、なかなか面倒なことになるかもしれません。

最後に、先程官民ファンドのところで経営改善計画の衡平性の問題を取り上げましたが、民間ファンドの場合には、もちろん原則は経営改善計画の衡平性を求めることに変わりはないのですが、個々のケースごとに柔軟に対処することが可能であり、何が何でも経営者責任を履行してもらうとするよりは、落としどころを見つけて全体感の中で調整することも可能だと思われます。

官民ファンドと民間ファンドの比較

以上、官民ファンドと民間ファンドを比較してきましたが、投資期間の柔軟性や返済のリスケに対する柔軟性、形式的議論よりも実質重視の傾向等を勘案すると、官民ファンドでお世話になるよりも、民間のファンドにお世話になったほうが事業再生が成功する確率は高いのではないかと私は思っています。

実際の再生率をデータで見れば、官民ファンドの方が高いだろうと思います。
しかし、それは、官民ファンドの事業再生ノウハウが高いからというわけでは決してなく、そもそも投資決定の段階で難易度の高い案件は避けられて、再生可能性が高い案件が選ばれる傾向が強いことと無関係ではないでしょう。

サービサーについては下記の記事を参考になさってください。

事業再生ファンドについては下記の記事を参考になさってください。

事業再生ファンド等への債権の譲渡価格の決まり方については下記の記事を参考になさってください。

官民ファンドへ送られたら、どうするべきか?

官民ファンドへ送られたらどうするべきか?地域金融機関が中小企業基盤整備機構と共同出資をして、その地域の事業再生をすすめるために官民ファンドを設立している場合、そのエリアの中堅・中小企業で、旧検査マニュアルの基準で言えば、要管理先以下に区分されている債務者で、比較的取り組みやすい事業再生案件の場合には、その官民ファンドへ債権が譲渡される可能性が極めて高くなります。

先程も見たように、官民ファンドには投資期間が存在するので、その期間内に全ての投資案件が事業再生を果たせる保証はどこにもなく、投資期間が終了して元々の金融機関がリファイナンスでその債権を引き取ったとしても、十分な収益力まで回復できていないことは往々にしてあります。

官民ファンドに常駐しているスタッフも、金融機関からの出向者であることが多く、民間のファンドからの派遣されたスタッフだとしても、そのスタッフの前職が銀行マンだったという職歴の方が非常に多いのが特徴です。
したがって、ファイナンス的なアドバイスは得意でも、事業そのものに関するアドバイスができるスタッフはかなり限られてきますので、事業そのものがよくなって収益性が高まったという例は少ないことが往々にしてあります。

リファイナンス時に、何とか黒字が出ていますという状況でも、その利益がぎりぎりにまで固定費を圧縮して絞り出した利益であるような場合も多く、そのような場合には、債務者企業のスタッフ等が疲弊してしまってその黒字は長続きしません。

このようなことから、官民ファンドへ債権を送られてしまった会社の経営者は、事業そのものについてしっかりアドバイスができる経験豊富な事業再生に専門家にいつでも助言を求めることができるような態勢をとっておくべきでしょう。

官民ファンドへは送らないでくれと銀行に嘆願しても、おそらく聞き入れてもらえないでしょうし、官民ファンドを卒業する頃には、ご褒美を頂けることになる可能性が高いので、そのようなまたとない良い機会をみすみす逃がすものではありません。

そして、アドバイザーの下で事業再生を急ピッチで進めて、官民ファンドでお世話になる一定の期間を過ぎ、官民ファンドを卒業する頃には、一定の収益力を確保できるようにすることが望ましいと考えます。

事業再生アドバイザーについては、下記の記事を参考になさってください。

大阪における事業再生については、ご参考になさってください。

事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選定については、下記の記事を参考になさってください。