事業再生ってうちみたいな中小企業でも取り組めるのかな?
今日テレビで事業再生の特集をやっていて、小さな田舎の旅館の事業再生の取組が紹介されていたけど、うちみたいな小さい町工場でも事業再生に取り組ませてもらえるのかな?
明日銀行の担当者が来る日だから、聞いてみるか・・・
こんな感じで、事業再生に取組みたいけれど、中小企業だからと躊躇されている経営者の方もいらっしゃるかもしれませんね。
そこで、この記事では、中小企業にこそ事業再生は必要なことをお話ししようと思います。
この記事を読むことで、中小企業における事業再生の必要性が理解ができ、明日からでもその取組を開始しようと思ってもらえるはずです。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生に20年以上取り組んで、200社以上の再生案件に関わって、マーケティングと管理会計と組織再編の力で多くの会社を再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。
事業再生は中小企業でも取り組めるの?
結論から申し上げますと、事業再生は規模の大きい企業のみが取り組むものであって、中小企業が取り組めるものではないと誤解されている方が多いようですが、全くそのようなことはなく、規模の小さい会社でも大企業と同じように取り組むことができます。
業況が悪化して事業再生に取り組むことになれば、基本的に銀行等の金融機関の協力を得る必要がありますが、昔と違って今では金融庁の銀行等への監督行政の方針の変更もあって、規模の小さい中小企業であっても銀行等の協力は得やすくなっているからです。
特に地方の場合、大企業自体の数が少なく、地銀の融資先の大半は中小企業になります。
地銀の融資先エリアは比較的限定されていますから、既存の中小企業の融資先を失うことになると、地銀の中長期的な収益力に大きな問題が生じることになるので、既存の中小企業の融資先を大切に育成することも、彼らの大きな仕事と位置付けられているからです。
また、こういった地域では地銀の悪いうわさが広まることを極端に恐れるからという消極的な理由もありますね。
なので、たとえ中小企業であっても、事業再生に取組む環境は整っていますので、銀行に取り組む決意を表明して、金融支援等の協力を得るようにしましょう。
万が一ですが、事業再生への取り組みに対して、銀行等の金融機関の協力が得られなかったとしても、再生へ向けた取組を諦めることなく開始するべきです。
なぜならば、事業再生の両輪である「財務の再構築」と「事業の再構築」のうち、前者の「財務の再構築」に大幅に手を付けられないというだけであって、再生実務の本丸である後者の「事業の再構築」を進めることは中小企業であっても可能だからです。
日本の事業再生の問題点については、下記の記事をご参考になさってください。
事業再生に問題点ってあるのだろうか。来月から真剣に取り組むことになったんだけど、そういったポイントを事前に知っておけば過度に期待しなくて済むからね。こんなお悩みを抱えた経営者の方は必見です。事業再生の問題点を包み隠さずお話します。
中小企業こそ取り組むべき理由
事業再生というと、資金繰りが悪化して明日にも倒産しそうな会社が手を付けるもの、赤字が継続してこのままではいずれ資金が枯渇する可能性が高い会社が取り組むべきものというような見方がされているのが一般的です。
しかし、どんなに高収益で素晴らしい企業に見える会社であっても、社内には多くの問題が目に付くものです。目につかない潜在的な問題も含めれば会社は問題で溢れているといっていいくらいです。
「当社には何一つ問題はない。」と言い切ること自体、実は「問題が見えていないという問題」を抱えているのです。
そして、事業を再構築するということは、事業にかかわるそういった問題を解消して、さらに高いステージを目指すということに他なりませんから、資金繰り的に何ら問題がなかったとしても、事業再生に取り組むという言い方は決して間違っているわけではありません。
また、中小企業をなぜそのように呼ぶかと言えば、それは売上が小さいからです。
そして、なぜ売上が小さいかというと、本当にニッチな市場を狙って意図的に中小企業のままでいる会社は除けば、会社自体、もしくはその提供する商品やサービスが世の中に知られていないからという理由に該当する会社はとても多いですね。
これを「認知の壁」と言い、この壁を越えらない中小企業はとても多いのです。
そもそもそんな壁があること自体に気付いていない経営者が大半だと言っていいくらいです。
売上が大きいのが望ましいとは言い切れませんが、少なくとももっと売上を伸ばしたいと考えている中小企業経営者の方は大半だと思いますので、そういった経営者にとっては、そもそも中小企業の最大の問題は「企業規模が小さいこと」なのです。
このように考えれば、中小企業のすべてが事業再生の対象となりうるということであり、売上高の小さい企業こそが再生実務に取り組むべきであるということになります。
多くの中小企業が抱える問題
私はこれまで業種にかかわらず多くの中小企業を見てきました。
その中には資金繰りが悪化して明日のも倒産しそうだという着物関係の会社もあれば、今は高収益だけど収益率が徐々に低下傾向にあり近い将来が不安だという半導体機器のメーカー、事業再生で業況は良くなったけれども次の経審の審査でランクが落ちそうだという建設会社、後継者がいなくて社員に事業を譲りたいと考えている経営者のいるアパレル会社等々、業種も収益レベルも抱えている問題も様々です。
こういった中小企業の全てに共通している問題点は、社内にマーケティング思考がほぼ存在しないということです。
大企業であれば必ずマーケティング部などの独立した部署があって、それにかかわる施策全般を企画し実行しています。
そういった会社はこの専門部署があることで、それ以外の営業部や製造部等でもマーケティング的な思考が浸透し社内全体に根付いています。
中小企業の場合、独立した部署を作ることはほぼできませんが、社内にマーケティング的思考を根付かせることは十分に可能です。
ところが社内にこういった思考がないことをそもそも問題と感じている中小企業の経営者は、私が出会った中では全くいませんでした。
経営者がすべて学生時代に学んでいたわけではないでしょうが、その知見に詳しい中小企業経営者が少数でもいてもおかしくないはずです。
ところが、マーケティングを語れる中小企業の経営者は皆無でした。
中小企業が「認知の壁」を超えられないという問題を抱えている原因、それらの企業が窮境に陥って事業再生に取り組むことになった原因、窮境に陥って一時的に金融機関の協力で資金繰りがよくなったとしても、再び資金繰りに窮する時がやってくる原因、これらの原因の全てがマーケティング思考が社内に存在しないことであると私は考えています。
中小企業にかかわる、経営者に最も身近な外部専門家、たとえば税理士や会計士にその知見が少しでもあれば、その専門家の発する言葉を通じて、中小企業にマーケティング思考が浸透する可能性もあるわけですが、残念なことにそういった企業にかかわっている税理士や会計士にそもそもその素養がありません。
マーケティングの力を借りれば、中小企業から脱却する可能性だってあるのですが、多くの経営者の課題意識が現状のままでは、それも期待できるものではありません。
マーケティング思考については、下記の記事をご参考になさってください。
マーケティング思考という言葉を耳にする機会が増えたのだが、その内容は一体どういうモノなのだろう。ビジネス上の問題を解決するために役立つ思考法ならば、是非教えてほしいし、実践できるようになりたい。こんなお悩みを持つ経営者のために書きました。
認知の壁とは何か?
消費者購買行動モデルという理論の中に、AIDMAという有名な行動モデルがあります。
A(=Attention:認知)→I(=Interest:興味・関心)→D(=Desire:欲望)→M(=Memory:記憶)→A(=Action:購買)という、消費者が世の中に商品やサービスが存在することに気付いて(認知)から、最終的に、それらの商品等を購買するに至るまでに通る基本的なステップを5つに集約してまとめた概念です。
このモデルが示唆していることはいくつかありますが、その中の1つは、最終的に購買に至るには、まず「認知」から始まるということです。
言い換えれば、購買行動モデルの「認知」というフェーズを超えないことには、買うべきものも買えないということであり、これを「認知の壁」と呼ぶのですね。
多くの中小企業の企業規模が小さい理由は、会社が提供している価値を体現している商品やサービスの存在を認知している人が世の中には圧倒的に少ないからです。
この「認知の壁」を超えるためには、会社自体や会社の提供している商品やサービスの存在を広く世の中に伝えていくことが必要になります。
そして、その役割を担うのがPRも含めたマーケティング・コミュニケーションであるわけですが、マーケティング思考に欠ける多くの中小企業では、「認知の壁」を超えるという発想自体が残念ながら存在しないので、いつまでも会社の規模が大きくならないわけです。
事業再生におけるマーケティングの重要性については、下記の記事をご参考になさってください。
事業再生にマーケティングは必要じゃないのかな。再生のアドバイザーが銀行の紹介で入ってきたけど、どう見ても普通の税理士でマーケティングなんてできそうにないんだけど、本当に当社の再生はうまくいくのかな。こんなお悩みを抱えた経営者の方は必見です。
中小企業こそ事業再生に取組むべき
事業再生は大企業だけのものではなく、むしろ中小企業こそが取り組むべきものです。
中小企業の最大の問題は、「認知の壁」を超えられないことであり、その問題を解決する最大のきっかけを与えてくれるものがマーケティング思考を伴った事業再生への取組なのです。
中小企業が事業再生に取り組むことの最大のメリットは、会社を再生するという機会をきっかけとして、マーケティング思考を伴った事業再生が、会社組織の文化を変えて社内にマーケティング思考を根付かせることにあります。
もちろん、中小企業が事業再生に取組むにあたっては、それをサポートする外部専門家の存在は必須であり、その外部専門家がマーケティング思考を身に付けていることが大前提になります。
中小企業が事業再生を成功させるポイントについては、下記の記事をご参考になさってください。
中小企業が事業再生に取り組む時に、経営者が念頭に置いておくべきポイントって何だろう。中小企業が事業再生のフェーズから抜け出すために必要なことって色々言われているけど、その道のプロの人からしたら、どんなポイントを押さえるべきなんだろう。
企業再生のコンサルタントについては、下記の記事をご参考になさってください。
企業再生のコンサルタントに相談をして、様々な問題の解決に向けてアドバイスが欲しいのだけれど、企業再生コンサルタントって、なんだか古臭いイメージがあるから、現代的なマーケティングや、ウェブ・マーケティングの指導なんかもしてもらえるのかな。
大阪における事業再生については、下記の記事をご参考になさってください。
大阪で事業再生を進めることは、他の地域と比べて難しいのだろうか、または比較的易しいのだろうか。大阪にある当社の再生を進めることが難しいのならば、どういった対策を取ればいいのかも合わせて教えてほしい。こんな大阪の経営者のお悩みにお答えします
事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選び方については、下記の記事をご参考になさってください。
事業再生に取り組むにあたって誰に相談すればいいのだろう。再生支援協議会に行くと会計士や税理士を紹介してもらえるそうだけど、それで本当に事業再生は成功するのかな?こんなお悩みをお抱えの経営者の方は必見です。誰に相談するべきかがわかります。