事業再生の種類【結論:私的整理がおすすめです】

銀行から勧められて事業再生に取り組む決心はできたのだけれど、「事業再生」でググってみたら、なんだかいろいろと種類があるみたいなんだけど、どれを選べばいいのかさっぱりわからないな・・・

事業再生って種類も多いから、どれを選ぶかを決めるのにも相応の知識がないと難しいのだろうな。

このように、事業再生の種類の多さに圧倒されて、事業再生に取組むことを躊躇している経営者の方は多いことと思います。

そこで、この記事では、事業再生にはどういう種類のものがあって、各々の種類はどう違うのか、さらにどれを選ぶべきなのかについてもご説明しますね。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生に取組んで20年以上、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

事業再生の種類

事業再生の種類上記の表を見ていただくと事業再生の種類は一目瞭然ですね。

一般的に広義の事業再生は上記のマトリクスで表現され、ここにすべての事業再生の種類が網羅されています。

横軸は裁判所の手を借りるのか借りないのかの種類の違いであり、縦軸は再生を目指すのか、反対に再生を目指さずに会社をたたむこと、すなわち会社の清算を目指すのかという違いになります。

横軸2X縦軸2で、事業再生の種類には大きく分けて4パターンがあることがわかります。

再生型-私的整理、再生型-法的整理、清算型―私的整理、清算型―法的整理の4種類のパターンですね。
なお、ここでは、清算型も「マイナスの再生」と捉えて広く事業再生に含めています。

一般的には、上記の表の破線で囲まれた再生型の種類をもって事業再生と呼びます。

各種類の手続きの違い

各種類の手続きの違い

純粋私的整理手続

純粋私的整理とは、次項の「準則型私的整理手続き」によらない手続きの総称であり、金融債権者(銀行等)と債務者とが話し合いによって、返済スケジュールの長期化や債権放棄などに合意して、債務者の事業の継続を図る種類のものをいいます。

もともと、「純粋私的整理」などという言葉が存在したわけではなく、私的整理ガイドライン(平成13年9月策定)、中小企業再生支援協議会(平成15年2月発足)、事業再生ADR(平成19年11月施行)などが順次制定され、これらに則った種類の私的整理を「準則型私的整理手続き」と呼ぶようになった結果、それ以外の私的整理をこれらと区分して「純粋私的整理」と呼ぶようになりました。
すでに実務界では定着した言葉です。

純粋私的整理は、上記のごとく、何らかの明文化された指針等もない種類の手続ですので、弁護士や会計士等の再生実務の専門家が自分たちのデザインした形で柔軟に進める手続きである、というのが現実に即した理解であろうと思われます。

しかしながら、各々の再生実務家が柔軟に進めているからといっても、各々の実務家の進める手続きに大きな違いが出ることはありません。

平成13年9月に制定された私的整理ガイドラインも、実務界に定着していた私的整理における慣習をまとめたものと考えられるように、再生実務の専門家に任される純粋私的整理も、準則型私的整理手続きに準じたものとなっており、何らかの特別な種類の手続きであるわけではありません。

準則型私的整理手続

準則型私的整理手続きは、私的整理のうち、一定の準則・ルールに基づき実施される種類のものをいいます。

私的整理手続きは、金融債権者(銀行等)と債務者と話し合いによって、金融支援につき合意を目指すものですが、その手続きを一定の制度の下で定められた手続きとして統一し、準則・ルールを定めて、そのもとで実施されるようにすることによって、手続きの公平性、公正性が担保され、透明性も確保されるという利点を債権者、債務者共に享受できることとなります。

準則型私的整理手続きの代表例としては、以下の4つがあります。

  • 事業再生実務家協会による事業再生ADR
  • 地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生支援スキーム
  • 中小企業再生支援協議会による協議会スキーム
  • 弁護士会による特定調停スキーム

これら1つ1つを概観していきましょう。

事業再生実務家協会による事業再生ADR

平成16年に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」が制定されました。

その第2条によれば、「裁判外紛争解決手続とは、民間事業者が、紛争の当事者が和解をすることができる民事上の紛争について、紛争の当事者双方からの依頼を受け、当該紛争の当事者との間の契約に基づき、和解の仲介を行う手続をいう」、とされています。

そして、事業再生ADRは、この裁判外紛争解決手続きを、過剰債務に苦しむ債務者企業と金融債権(銀行等)に適用したものであり、平成19年度に産業活力再生特別措置法の改正が行われた結果、民間主体で事業再生の環境を整備するために創設された制度です。
(ADRはAlternative Dispute Resolutionの略称であり、「裁判外紛争解決手続き」と邦訳されます。)

事業再生ADRは、事業再生の実務を担う専門家が、中立的な第三者的立場から過剰債務を抱えて苦境に立つ債務者企業と、金融債権者の間の利害調整を行うことよって、企業再生実務の円滑化を図ることを目的とする制度です。

また、事業再生ADRは、ADR法の施行を受けて法務大臣の認証を受けた事業再生ADR事業者が、経済産業省令で定める基準に適合する方法で実施する種類の事業再生です。

2020年4月末時点で事業再生ADR事業者として認定を受けた者は、一般社団法人事業再生実務家協会のみであり、これ以外に中小企業における債権債務の整理に関する紛争の解決を図る事業者として、企業再建・承継コンサルタント協同組合が認定事業者となっています。

事業再生ADRについての詳細は、下記の記事を参考になさってください。

地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生支援スキーム

株式会社地域経済活性化支援機構(Regional Economy Vitalization Corporation of Japan、略称REVIC)は、株式会社地域経済活性化支援機構法に基づき2009年10月に設立された、有用な経営資源を持ちながら過剰債務を負っている中堅中小企業、その他の事業者の事業再生を支援する官民ファンドです。

当機構は、個々の企業の事業再生への取り組みを支援することだけでなく、事業再生・地域活性化ファンドを運営する会社の設立・運営を行ったり、地域に根を張っている地域金融機関へ専門家を派遣するなど、地域経済活性化に向けた取り組みを支援する種類の業務も行っています。

地域経済活性化機構へ事業再生の相談を持ちかけた場合も、事業者の事業再生の取り組みをサポートする支援を行ってもらえます。

REVICの関する詳細は、下記の記事を参考になさってください。

また、REVICは官民ファンドと呼ばれるものの1つになります。
官民ファンドについての詳細は、下記の記事を参考になさってください。

中小企業再生支援協議会による協議会スキーム

中小企業再生支援協議会とは、産業活力化強化法134条に基づき、中小企業再生支援業務を行う者として認定を受けた商工会議所等の認定支援機関を受託機関として、同機関内に設置されており、中小企業の事業再生の支援を行う公的機関です。

同協議会では、事業再生に関して深い知識と経験を有する金融機関出身者、公認会計士、税理士、中小企業診断士等が統括責任者として常駐し、経営悪化に陥った中小企業事業者経営者からの相談を受けて、解決に向けた助言等を行い、再生計画の策定を支援しています。

同協会へ事業再生の相談を持ちかけた場合も、事業者の再生への取り組みをサポートする支援を行ってもらえます。

中小企業再生支援協議会に関する詳細は、下記の記事を参考になさってください。

また、中小企業再生支援協議会のメリットとデメリットの関する詳細は、下記の記事を参考になさってください。

弁護士会による特定調停スキーム

特定調停スキームは、2013年に中小企業金融円滑化法が終了したことを受け、日弁連が中小企業の逼迫する資金繰りを支援するために創設したものです。

中小企業金融円滑化法は、リーマン・ショックを境として中小企業の資金繰りが急激に悪化しことを受けて、中小企業支援のために2009年12月に当時の金融担当大臣であった亀井静香代議士の肝いりで立法化された法律です。

時限立法であった同法は一度の延長(東日本大震災による)を経て2013年3月末で終了しましたが、同法の終了によって再び中小企業の資金繰りの悪化を危惧した日弁連が創設したものが特定調停スキームです。

民事再生などの法的再生を活用すると取引業者との関係が悪化して事業継続が非常に難しい中小企業が、弁護士等の支援を受けて再生計画を策定して特定調停を行い、借金を整理して事業の再生を目指す種類のスキームです。

民事再生手続

民事再生手続きは民事再生法に準拠した裁判手続きをいい、民事再生法とは平成12年4月に施行された、経済的に困窮した状況下にある債務者(法人または個人)の事業を再生させることを目的とする法律です。

民事再生手続きは、法的再生を目指すものであり、裁判所や裁判所によって選任される監督委員の監督のもと、現経営陣が主体的に手続に関与して、企業の再建を図っていくというものです。

これは、再生債務者の再建を迅速に図ることを目的とした手続であり、従来の同じ企業の再建目的で用いられてきた和議法(平成12年廃止)よりも、手続のスピード化と要件の緩和が図られています。

会社更生手続

会社更生手続きとは、会社更生法に準拠した裁判手続きをいい、会社更生法とは経営破たんに陥った企業を倒産させることなく事業継続を図りながら、会社を再生することを目的とする法律です。

会社更生手続きは、法的再生を目指すものであり、裁判所や裁判所から選任される管財人の監督のもと、現経営陣は全員が退任し、新しい経営陣の下で企業の再建を図っていくものです。

民事再生法が会社や個人にも適用可能なのに対して、会社更生法は株式会社のみに認められた手続きであり、大規模な会社を想定したものであるということができます。

どの種類の手続きを選ぶべきか?

どの種類の手続きを選ぶべきか?

私的整理と法的整理。どちらを選ぶべき?

民事再生手続きや会社更生手続きの法的整理を採用した場合に、一番問題となる点は、取引先(仕入先)への債務も金融債務(銀行借入金)と同様に債権カットの対象となってしまうことです。

民事再生法も会社更生法も債権者平等の原則を重視し公正な手続きを重視するので、債務者企業としては本当なら支払いたい取引先(仕入先)への債務も、債権カットの対象となってしまいます。

これが債務者企業へどのように影響してくるかというと、民事再生を申し立てた時点で債務者企業が負担していた債務は一律に債権カットの対象となりますから、申立以降、仕入先がこれまでと同じように材料や商品の供給を継続してくれればいいのですが、仕入先側からすれば債権カットされたような企業との取引などは今後したくないと言えば、材料や商品の調達ができなくなってしまいます。

それでも、代替できる仕入先が見つかればいいですが、民事再生中の会社は取引リスクが高いので、喜んで取引してくれる仕入先はそうそうありませんし、あったとしても掛取引には応じず、現金払いを求められ、資金繰りが逼迫するという新たな種類の問題を抱えることとなります。

万が一代替的な仕入先が見つからなければ、事業を継続することが不可能となり、清算手続きへと移行しなければならなくなります。

これに対して、私的整理は金融債権(銀行借入金等)だけを債権カットの対象とし、金融債権以外の一般債権は債権カットの対象とはしません。
したがって、法的整理のケースで述べたような仕入先からの材料や商品の調達に支障をきたすリスクは大きく軽減されます。

また、民事再生手続きや会社更生手続きは、官報に掲載されるとともに、仕入先などの一般債権者にも通知が行きますので、広く世の中に認知される結果となる種類の手続きです。
業界によっては風評被害が生じて、ブランドが棄損し、顧客離れが起こったりするなどして事業の継続が困難になるケースも散見され、最終的に破産に移行せざるを得ない場合もあります。

これに対して私的整理では、金融債権者(銀行等)と債務者企業が債権カット等について話し合いをして解決するものなので、広く世の中に認知されることはまずありません。

以上から、私的整理と法的整理とを比較した場合には、私的整理を選択するべきことは明白です。

事業譲渡や会社分割等の手法を用いて、M&Aを利用したスポンサー型の事業再生の場合でも、法的整理の中で行うよりも私的整理の枠組みで実施するほうが、M&Aの対価等の条件もよくなりますから、M&Aを利用する場合でも私的再生を優先させるべきことは変わりません。

法的整理は私的整理が順調に進まなくなった時に最終手段と考えるべきでしょう。

私的整理の枠組みの中では、どれを選ぶべきか。

事業再生実務家協会による事業再生ADR、地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生支援スキーム、中小企業再生支援協議会による再生支援スキーム、弁護士会による特定調停スキームの4つの種類の手続きを代表例としてあげました。

各団体には、事業再生の経験も豊富な専門家がおりますし、私的整理ガイドラインも広く世の中に浸透しておりますので、選ぶ手続きの種類によって事業再生の仕事の質に差異があることは実質的にほとんどないと思われます。

事業再生に取り組むにあたって資金調達を金融債権者からの融資に頼らざるを得ない場合でも、どこを使うかで取り扱いや内容、条件が異なることもほぼありません。
したがって、どの手続きを選んでも大きな違いはありません。

ただ、この中では、事業再生ADRは専門家費用が高額となるので、中小企業にはコスト負担が大きすぎて利用のハードルはとても高いです。

多くの金融機関は中小企業再生支援協議会の利用に慣れているので、同協議会を使うのが最も一般的な事業再生の手法となっています。

また、中小企業再生支援協議会と特定調停スキームを合わせて使うことも可能であり、再生支援協議会の再生支援スキームに乗せて、経営革新等支援機関(=認定支援機関)を使うことで、外部専門家費用が一定の範囲内で補助されますので、資金繰りの厳しい事業再生のフェーズにある中小企業にはお勧めです。

したがって、この4つの中から選ぶとすれば、中小企業再生支援協議会の利用を考えてみるのもいいかもしれません。

経営革新等支援機関(=認定支援機関)の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。