信用保証協会には求償権消滅保証とかいう制度があるらしいのだけれど、どのような制度なのだろう。
信用保証協会の保証付きの借入金の返済ができなくなったら、信用保証協会が銀行に代位弁済するから、債務者企業はその後は信用保証協会に対して求償債務を返済していくことになることは理解した。
信用保証協会に対する求償債務の返済は、毎月数万円の返済でOKとのことだけど、そうなると求償債務の返済に超長期の時間がかかってしまって、事業再生に必要な新たな資金の借入などはどうすればいいのだろう。
永久に新規の借入ができないってことだろうか?
事業再生に取り組んでいる企業の経営者などで、信用保証協会の代位弁済に至ってしまった場合には、新規の融資の可能性については気になって気になって仕方ないですよね。
この記事を読むことで、信用保証協会の求償債務の返済を一定期間誠実に継続することで、求償債務を消滅させることができる道が開かれる求償権消滅保証制度の利用が可能になり、その結果、事業再生のための前向きな投資等の新規の借入金の調達が可能となります。
本記事は20年以上に渡って中堅・中小企業の事業再生に関わり、200件以上の事業再生案件に関わって、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロである公認会計士が書きました。
求償権消滅保証の利用を目指しましょう。
信用保証協会の保証付き融資について、信用保証協会から銀行に代位弁済が行われた結果、債務者企業は信用保証協会に対して求償債務の返済を行うことになりますが、それ以降、新規の借入をすることはできなくなります。
多くの経営者がここで打ちひしがれて、進めるべき事業再生を諦めてしまうことも多いようですが、数年後に利用できる可能性のある求償権消滅保証を目指して、資金がなくてもできる範囲で事業再生を進めておきましょう。
数年の間、求償債務の返済を実直に続けることが、求償権消滅保証の利用に繋がり、再び銀行から新たな資金の調達が可能になるのです。
代位弁済に至ってしまっても、まだまだ会社を良くする方法はあるのですから、とにかく諦めないことです。
資金のない中での事業再生をいかに進めるかについては、1人であれこれ考えるよりも、信頼できる事業再生の専門家に相談することが賢明です。
代位弁済については下記の記事を参考になさってください。
信用保証協会の代位弁済が行われた場合には、その後は誰に対してどのように返済していけばいいのだろう。また、代位弁済が行われた後でも、銀行から新規の借入は依然と同じようにできるのだろうか。事業再生を進めていく中で、新たな資金も必要だろうしね。
求償権消滅保証とは何か?
求償権消滅保証とは、信用保証協会の保証付き融資が何らかの理由で返済不能となり、最終的に代位弁済に至った結果、それ以降銀行との間で正常な金融取引ができなくなってしまった事業者を救済して、金融取引の正常化を図る保証制度をいいます。
信用保証協会の保証付き融資が、延滞等の結果、最終的に代位弁済に至ると、以降は、債務者企業は信用保証協会に対して求償債務の弁済を行うこととなります。
そして、求償債務の返済を実行している間は、銀行から新規の借入をすることはできません。
これは日本政策金融公庫や商工中金でも同様であり、事業再生の中で新規の投資等が必要となっても新たな借入金として資金調達することができなくなります。
代位弁済後に、事業再生に注力をして売上が増加し利益も大幅に増加して、従前とは見違えるような立派な決算書を銀行に提出たとしても、決算書添付の勘定明細書の中に相手先として「信用保証協会」の文字があるだけで、新規の借入金を起こすことはできないのです。
そうであるならば、求償債務を完済するまでの間、新規の借入を我慢すればいいではないかという意見もあろうかと思いますが、多くの場合、求償債務の毎月の返済額は数万円となることから、求償債務の完済には超長期間を要することとなり、求償債務の完済を待つことも現実的ではありません。
また、事業再生によって早期に再起を図りたい企業からすれば、事業再生の中で必要な投資資金等が確保できないがために、事業再生が計画通りに進まず、収益機会を逸してしまうようなケースも少なからずあろうかと思われ、そのような事態は日本の経済の活性化の観点からも大きなマイナスになってしまいます。
そこで、信用保証協会は、求償債務の返済を行っている債務者企業のうち、一定の要件を満たすものに対して、求償権消滅保証を利用することで銀行との金融取引の正常化を図り、当該債務者企業の事業再生を後押しすることとしています。
求償債務が消滅する仕組み
~求償権消滅保証の流れ~
①債務者企業は信用保証協会に対して求償債務の返済を毎月誠実に実行する。
②求償債務の返済を数年間誠実に繰り返していると、信用保証協会から求償権消滅保証を利用して、銀行との金融取引の正常化を図らないかとの提案がくる。
この時、求償債務残高が2,000万円だったとする。
③信用保証協会は、窓口となる銀行に対して求償権消滅保証を2,000万円付ける。
④信用保証協会から求償権消滅保証を受けた銀行は、債務者企業に対して2,000万円の融資を実行する。
⑤2,000万円の求償権消滅保証付きの融資を受けた債務者企業は、これを原資として信用保証協会の求償債務の一括返済を実施する。
⑥⑤により求償債務は消滅することとなったので、債務者企業は、これ以降は求償権消滅保証付きの新規融資2,000万円の約定返済を銀行に対して実施する。
以上のような、求償権消滅保証付きの融資のおかげで、債務者企業には求償債務は完済したこととなるので、この新規融資の返済を約定通り実施することで、半年後くらいには、信用保証協会の他の保証メニューの活用もできるようになり、銀行取引の正常化を図ることができるようになります。
非常にテクニカルな保証実務ではあり、実態としては同じではないかという議論もあろうかと思いますが、求償債務の返済を誠実に実行している債務者企業の事業再生を後押しする保証実務であり、非常に良い制度であると個人的には考えています。
保証を受けるための要件
信用保証協会の保証付き融資が何らかの理由で返済不能となり、最終的に代位弁済に至り、求償債務の返済を行わざるを得なくなったという事実は、明らかに一度経営に失敗したことを示すものです。
また、返済できなかったことにより債権者には少なからずご迷惑をかけているということも、経営者としては真摯に受け止めなくてはならない事実でしょう。
そのようなことから、求償債務の返済を行っている間に、仮に事業再生が功を奏して売上が伸び、利益が大きく増加したとしても、その事実だけをもって求償権消滅保証制度を使わせてもらえるほど甘くはありません。
どのような要件を満たせば、求償債務の返済を継続している債務者企業に求償権消滅保証制度の適用があるのかについては、全国の個々の保証協会によるとしか言えませんが、いくつかの保証協会が、求償権消滅保証の取り扱いについて公表等を行っていますので、それらを見てみましょう。
たとえば、新潟県信用保証協会は、「求償権消滅保証事務取扱要領」(平成30年3月9日改正)を公表しており、当該要領の前文には以下のような記載がなされています。
中小企業者の事業再生の円滑化のため、事業再生に資すると判断した場合(東日本大震災に起因した二重債務問題への対応による場合を除く。)に行う、求償権の全部又は一部を消滅させることを目的とする保証(以下「求償権消滅保証」と いう。)に係る事務の取扱いについて定める。
そして続く第1条の求償権消滅保証の要件として、求償権消滅保証が以下のいずれかの計画に基づくものであることを求めています。
- 中小企業再生支援協議会が策定を支援した再建計画
- 独立行政法人中小企業基盤整備機構(以下「中小機構」という。)が策 定を支援した再生計画
- 中小機構が出資を行った投資事業有限責任組合が策定を支援した再建計画
- 株式会社整理回収機構が策定を支援した再生計画
- 株式会社地域経済活性化支援機構が株式会社地域経済活性化支援機構法第25条の規定により再生支援決定を行った事業再生計画
- 特定認証紛争解決事業者による特定認証紛争解決手続に従って策定された事業再生計画
- 私的整理に関するガイドラインに基づき成立した再建計画
- 特定債務等の調整の促進のための特定調停に関する法律(以下「特定調 停法」という。)に基づく調停における調書(同法第 17 条第1項の調停条 項によるものを除く。)又は同法第20条に規定する決定において特定された再生計画
- 経営サポート会議による検討に基づき作成又は決定された事業再生の計画であって、中小企業診断士、税理士又は公認会計士のいずれか1名(信用保証協会の役職員(退職者含む。)である場合を除く。)が策定を支援したもの。なお、策定支援を受けたことの確認として「事業再生計画の策定支援について」(別紙様式1)の添付を要する。
群馬県信用保証協会等でも、同様の再生計画についての要件を定めており、どの保証協会と協議するにしても、上記の中のどれかに該当する再生計画に基づく保証であることが必要となるものと思われます。
経営改善計画書についての詳細は下記の記事を参考にされてください。
経営改善計画策定支援事業という制度があるらしく、銀行にリスケなどの条件緩和などを依頼する時に必要な計画の策定を外部の専門家に依頼すれば、専門家費用を補助してくれるらしい。この事業について、もっと深く教えてほしい。こんな悩みに回答します。
また、新潟県保証協会は、再生計画に関する要件以外にも、その再生計画の中に下記の事項が記載されていることを要件としています。
・諸経費の削減及び遊休資産の処分等の自助努力を誠実に行っていること。
・業況不振の原因を招いた経営者等が、退任若しくは役員報酬を削減していること又は個人財産の処分を行っていること等により、一定の経営責任を果たしていること。
上記の2つの要件は、どの公的機関等の支援を受けて再建計画を作ったとしても、その計画内で当然に謳われてしかるべき事項であり、注意的に要件とされているに過ぎないと考えられます。
また、新潟県信用保証協会の「求償権消滅保証事務取扱要領」(平成30年3月9日改正)には記載はありませんが、以下の事項も求償権消滅保証を利用するにあたっては当然の要件となります。
◆信用保証協会の求償債務だけでなく、他の金融債権者がいる場合には、他の金融債権者に対しても誠実に返済を実行していること。
◆金融債権者だけでなく、一般の取引業者に対する支払いも滞りなく実施していること。
◆法人税等の租税債務の支払いも滞りなく実施していること。
要するにすべての債権者に対して誠実に約定通りに支払いを実施しているかどうかという点を、保証協会はとても重視しているということです。
これらの要件も考えてみれば当たり前のことなのですが、一度返済不能に陥った実績がある企業なだけに、最低限この点はクリアできるようになっていることを、求償権消滅保証制度を利用する要件と考えているのでしょう。
群馬県の信用保証協会が、事業再生を後押しするために求償権消滅保証を使って求償債務を消滅させた事例を公表していますので、是非参考になさってください。
群馬県信用保証協会の求償権消滅保証の取組事例はこちら。
この事例を見ればわかりますが、信用保証協会の方々が、誠実に求償債務の弁済を履行している債務者企業の事業再生を何とか後押ししてあげたいという心意気が非常に感じられます。
また、この事例のように、どの保証協会でも最終的に審査会が開催され、学識経験者等の意見も踏まえた上で、求償権消滅保証の制度利用が決定されているようです。
この制度の利用のハードルは決して低いものではありませんが、この制度が利用できるように、求償債務を含めたすべての債務の返済はしっかりと実施しておくべきでしょう。
消滅保証と事業再生
信用保証協会の保証付き融資の返済を延滞すると、最終的に代位弁済となる結果、債務者企業は信用保証協会に対して求償債務の弁済を実行することとなります。
この段に至ると、新規の融資を受けることは不可能となるので、多くの経営者の方が、事業を継続するのは難しいのではないかと事業の再生を諦めてしまい、細々と事業を継続しているだけの状態に陥ってしまうようです。
しかし、信用保証協会も数年間にわたって誠実に求償債務の返済を実施してきた債務者企業に対しては、求償権消滅保証制度を利用して、事業再生を積極的に後押ししてくれます。
したがって、事業再生を早々に諦めるのではなく、数年間は我慢して地道に返済を継続するとともに、資金がなくてもできる事業再生のポイントに絞って、そこに注力し事業再生を進めておきましょう。
そして、数年経過した時点で信用保証協会を訪問して、求償権消滅保証制度の利用の打診をし、中身のある事業再生計画書を提示して、求償権消滅保証を利用できるようにしましょう。
そのためには、事業と財務の双方に対して適切にアドバイスができる事業再生の専門家を活用することが肝要です。
1人で何とかしようと思わずに、事業再生の専門家にご相談されることをお勧めします。
事業再生アドバイザーについては、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に取り組むにあたっては、適切なアドバイザーに依頼することは必須です。経営者が自分一人で進めることにはそもそも無理がありますので、多少のコストをかけてでも依頼するべきです。本当の意味で再生できるアドバイザーの選び方を教えます。
事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選定については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に取り組むにあたって誰に相談すればいいのだろう。再生支援協議会に行くと会計士や税理士を紹介してもらえるそうだけど、それで本当に事業再生は成功するのかな?こんなお悩みをお抱えの経営者の方は必見です。誰に相談するべきかがわかります。
信用保証協会の求償債務に対するその他の対処方法は、下記の記事を参考になさってください。
信用保証協会に対する求償債務自体を債務免除してもらうことは可能なのでしょうか?国民の税金を原資に保証を行う信用保証協会に損失が生じるような債務免除を実施するはずがないという声は良く聞きますが、本当でしょうか。この疑問にズバリ回答します。