事業再生の問題とは何だろう?【事実:たくさんあって困ります。】

中小企業再生支援協議会から紹介を受けた外部の専門家の先生も決まったし、いよいよ事業再生に取り組むことになったんだけど、事業再生ってどんな問題をはらんでいるのかな?
問題点を知っておくと、過度に期待せずに済むからな・・・

事業再生に寄せる期待と不安をかかえながら、こんなお悩みをかかえていらっしゃる経営者の方は多いものと思われます。

この記事を読むことで、事業再生が抱える問題点は何かが理解できるようになり、御社の再生を進めていく上でい抱きがちな過度な期待を持たなくて済むようになります。

本記事は、20年以上に渡って中堅・中小企業の事業再生に取組んで、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきた事業再生のプロである公認会計士が書きました。

事業再生の問題解消の歴史

事業再生の問題解消の歴史事業再生が伝統的に抱えていた問題の解消は、2000年以降徐々に進展してきました。
2000年4月に使い勝手の悪かった和議法に代わって民事再生法が施行され、中小企業の法的再生に適った法制度が整備されました。

翌年の2001年9月には私的整理ガイドラインが公表され、法的手続きを行わずに債権者と債務者との合意に基づいて、債権放棄等を行うための手続きが規定されました。
私的整理ガイドラインはその後幾度かの改正を経て、現在のそれに至っています。

その後も、様々な制度の設置によって私的整理の枠組みが拡充され、法的整理による事業価値の棄損という問題を避けつつ事業を再生する道が整備されつつあります。

また、事業を再生するだけでなく、円滑に廃業するための制度も整備されつつあり、従前より大きな問題となっていた経営者保証の問題にも大きく切り込んだ制度が整備されつつあります。

2003年:中小企業再生支援協議会の発足
2007年:事業再生ADRの制度化
2009年:株式会社地域経済活性化支援機構を設立
2013年:事業再生型特定調停スキームの開始
2013年:経営者保証に関するガイドラインの公表
2017年:廃業支援型特定調停スキームの開始
2018年:事業承継税制が時限立法で制度化。
2019年:経営者保証に関するガイドラインの特則の公表

このように、法的整理、私的整理ともに、各々の枠組みが抱えていた問題を解消し、事業再生の取り組みを円滑にして再生実務を後押しする制度の整備が行われてきましたが、課題がなくなったわけではありません。

事業再生に係る問題は大きく分けて、制度上のものと、実施上のものに分けることができます。

制度上の問題は、法的整理上のものと、私的整理上のものに分けてお話しますね。

事業再生の種類のついては、下記に記載の記事を参考になさってください。

法的整理の制度上の問題

法的整理の制度上の問題点2000年に民事再生法が和議法に取って代わって再生手続きが円滑になりましたが、法的整理そのものの持つ大きな問題はいまだ解消されていません。
これは会社更生法についても同様です。

それは、法的整理は裁判所の手を借りて、公平性と客観性と担保しながら進めることが大前提となっているため、倒産事件そのものの存在が外部に公表されてしまうという問題です。

また、裁判手続きの中ですべての債権者に通知されますので、取引先に法的整理に入った事実が知られてしまうという問題も依然として残されたままです。

この事実を知った商取引の債権者(仕入先等)は、今後取引を停止するかもしれないですし、以降の取引にあたって、現金払いに取引条件を変更したり、取引保証金を求めてくるかもしれないという問題をはらんでいます。

さらには、取引を継続してくれるとしても、カットされた債権に見合う金額を将来の取引額に加算して請求してくることというような問題も十分起こり得ます。

このように、法的整理はその公平性と客観性の確保というメリットを享受するために、債務者企業の事業価値の棄損という問題を負担せざるを得ないのです。
最悪の場合には、法的再生の倒産手続きを選択したおかげで仕入が困難となって事業の継続が不可能となり、結局、破産へ移行するケースもありえるのです。

また、一旦法的整理の手続きに入ると、手続終了まで数年以上かかることもあって、手続きに関与すること自体で債務者企業は大きく消耗するという問題も生じますし、法的整理の申立てにあたって裁判所に多額の予納金を納めなければならないことも大きなネックとなっています。

このように、中小企業が事業再生にあたって法的整理を選んだとすると、多額の予納金も大きな負担になりますし、事件の公表による風評被害による取引条件の悪化が、会社の再生に対して致命的な障害になる例が散見されるという問題を抱えているのです。

このような法的整理の問題を避けて、つまり商取引条件の悪化による事業価値の棄損という大きな障害を解消するために、私的整理の枠組みが拡充されてきたわけですが、私的整理にも問題がないわけではありません。

私的整理の制度上の問題

私的整理の制度上の問題点私的整理の枠組みは様々なものがありますが、全ての私的整理に共通する問題点は、対象となる債権者(金融債権者)の全員の同意が必要であるという点です。

対象となる金融機関の数が少ないと私的整理は機能しやすいのですが、債権者の数が多くなると各々の債権者の利害が錯綜しますので、全債権者の同意を得ることがとても難しくなるという問題があるのです。

たとえば、私が経験した中で、債権者間の調整に時間がかかった例としては次のようなものがあります。

<ケース1>
債権者の中に地方の小さな信用金庫があって、「債権放棄になど前例がなく応じられないし、そもそもうちは組合だから、組合員に説明できないから債権放棄には応じるわけにはいかない。債権放棄を強要するならば、当庫はこの手続きから降りる。」と言われました。

債権者平等のプロラタでの負担が私的整理の大原則ですが、比較的体力のあるメイン銀行以下数行の了解を取り付けて、当金庫だけは長期リスケという形で決着をさせました。

<ケース2>
これも地方の老舗の案件でしたが、債権放棄を求める計画で各債権者にプロラタでのご負担をお願いしたところ、「同じ業種でここよりもずっと悪い先がいくつもあるのに、ここだけに債権放棄をするなんていうことはできるわけがない。そんなことしたら、行内が大混乱になる。」という銀行がありました。

本件では、他の銀行はプロラタでないと計画に乗れないと強硬に主張されたので、メイン寄せなども使えず、当該銀行を説得して、債権放棄でなくファンドへ債権を売却してもらうことで決着をつけました。

両事例とも最後まで私的整理の枠組みで過剰債務の処理をすることができたわけですが、全債権者の同意が必要という問題は思うより厄介なのです。
債権放棄を伴わない長期リスケなんかだとそうでもないですが、債権放棄という実損が生じるスキームでの全債権者の同意はハードルが高いですね。

では、私的整理の各々の制度における問題点を見ておきましょう。

事業再生ADR

事業再生ADRは、2007年の産業活力再生特別措置法の改正により事業再生の円滑化を目的として創設された新しい制度で、裁判所の手続きによることなく、債権者と債務者の話し合いで紛争を処理することになります。

事業再生ADRは、手続きが非公表であり、事業価値の棄損が避けられること、債務免除益に対する評価損益等の通算の税制措置が講じられていること、専門家の監督による信頼性の確保等、多くのメリットもありますが、一方で問題も存在しています。

事業再生ADRの手続には債権者に対する強制力がありません。
債権者間の話し合いで合意が得られなかった場合には、民事再生手続といった法的整理に移行せざるを得ないので、この点は他の私的整理の枠組みと何ら変わりがない問題をはらんでいます。

また、手続きが煩雑であるだけでなく、ADR手続きを進める専門家費用がとても高額であることから一般の中小企業ではハードルが高くとても使えないため、比較的大企業が利用者の中心となっているというコストの問題があります。

事業再生ADRについては、下記の記事を参考になさってください。

中小企業再生支援協議会

中小企業再生支援協議会は、産業活力再生特別措置法41条に基づき、2003年に発足し、中小企業再生支援業務を行う者として認定を受けた商工会議所等の認定支援機関を受託機関として同機関内に設置されています。

この中小企業再生支援協議会には、事業再生に関して深い知識と経験を有する公認会計士、税理士、弁護士、中小企業診断士等が統括責任者として常駐しています。

同協議会には外部専門家として認定支援機関(経営革新等支援機関)を利用することで最大200万円までの専門家費用を補助する制度もあります。

同協議会を利用した中小企業再生支援協議会スキームに乗れば、一定の税務メリットを享受できるなどのメリットも存在しますが、同協議会の立ち位置からくる制度的な問題点があります。

同協議会は、公正中立な第三者機関であり、中小企業(債務者)の代理人でも金融機関(債権者)の代理人でもないですし、さらにはファンドやスポンサーの代理人でもありません。

あくまで公正中立な第三者としての立場から、外部専門家の実施した調査の結果をレビューし、再生計画立案をレビューし問題点を指摘し、その後に金融機関調整を実施するにすぎません。調査自体を実施することもないし、再建計画書の作成自体にも関わりません。

中立的立場で、かつ、責任者の力量不足もあるので、強い指導力を発揮して債務者企業をあるべき方向へリードするという役目には応えられていないというのが大きな問題と言えるでしょう。

さらに、中小企業再生支援協議会による解決には強制力はなく、全債権者の同意が求められ、多数決で決することはできません。

加えて、同意が得られない対象債権者を拘束することはできず、一部の対象債権者の同意が得られないときは再生計画が成立しないという問題も抱えています。

中小企業再生支援協議会の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

認定支援機関の詳細については、下記の記事を参考になさってください。

私的整理ガイドライン

「私的整理に関するガイドライン」は、企業の私的整理に関する基本的な考え方を整理したものです。

そこでは、私的整理の進め方、私的整理の対象となる企業、再生計画案の内容等についての事業再生に関わる関係者に共通の認識を持ってもらうために、「私的整理に関するガイドライン研究会」によって取りまとめられ、2001年9月に公表されました。

私的整理ガイドラインは、金融機関の不良債権の処理を早期に進めるために、私的整理を実施する場合の関係者間調整の手続きを規定したものです。

私的整理ガイドラインに則って、私的整理を実施した場合には、一定の税務上のメリットが得られることとなっており、事業の棄損する確率の高い法的整理に比して優れた手続きになっています。

この私的整理ガイドラインも他の私的整理の枠組みと同じく、対象債権者全員の同意が必要なので、計画案に対して対象債権者全員の同意が得られないときは、このガイドラインによる私的整理は終了し、債務者は法的倒産処理手続開始の申立てなど適宜な措置をとらなければならないという問題を抱えています。

私的整理ガイドラインは、それまでの純粋私的整理に比べれば、債権者調整などを行いやすいフレームを提供してくれているものの、金融債権者調整を公平・迅速に行うための手続を定めた、あくまで紳士協定であって対象債権者を強制するものとはなっておらず、債権者間の調整をスムーズに行うものとしては不十分な手続であるという問題をはらんでいます。

私的整理ガイドラインの詳細については、下記の記事を参考になさってください。

以上のように、私的整理で事業再生を進めることができる枠組みは拡充されては来ているものの、全ての個々の私的整理の枠組みにおいては、どれもが「全債権者の同意が必要である」ことと、「法的強制力がない」という大きな問題を抱えているということができます。

私的整理の実施上の問題

私的整理の実施上の問題点中小企業の事業再生に取り組むにあたって、その実施上の問題は3つに分けることができます。
まずは、外部専門家のスキル不足の問題、次に債権者たる金融機関の問題、最後に債務者の問題です。

1つずつ説明していきましょう。

外部専門家

中小企業の事業再生を担うことが多い外部専門家は、公認会計士、税理士、弁護士、中小企業診断士、その他コンサルタントですが、金融機関が財務調査結果や再建計画の数値計画を重視することが多いため、外部専門家として選ばれるのはほぼ公認会計士か税理士です。

時には中小企業診断士が事業デユ―デリジェンスを担当して彼らをサポートしますが、数値作成能力がないので外部専門家としては主役足り得ません。

公認会計士は会計と監査の専門家であり、税理士は税務の専門家です。

事業再生で最も重要なのは事業の再構築です。
そのために事業デユ―デリジェンスの結果をもとにして、苦境に至った原因の把握と、その除去に向けた課題の設定と具体的対策の立案と実施を行わなくてはなりませんが、全ての税理士と多くの会計士はそもそも事業デユ―デリジェンスを実施した経験などないので、まともに調査すらできないというのが大きな問題です。

原因を解消することが困難な場合には戦略を作って、活動をデザインすることも必要なのですが、戦略を作ることもほぼできないという問題も併せて抱えています。

このように外部専門家のスキル不足が原因で、事業の再構築という事業再生の中で最も大切な部分がすっぽりと抜け落ちて、リスケをする再建計画書を作成することが事業再生の仕事だと勘違いしている専門家もとても多く、事業再生の実施上の大きな問題となっています。

しっかりサポートをできるだけの知識とスキルを身に付けて、再生の現場に臨んでほしいと思います。

ターンアラウンドに関する詳細は、下記の記事を参考になさってください。

事業再生を遂行するために必要なスキルについては、下記の記事を参考になさってください。

事業再生におけるマーケティングの重要性については、下記の記事を参考になさってください。

債権者たる金融機関

アメリカにおける事業再生は、まずはターンアラウンドマネージャーが3か月~半年ほど債務者企業に入り込んで短期的な立て直しを行い、そこでの収益力を目安にして財務面のリストラが実施されるようです。つまりは事業の再生を実施してから財務の再生を行います。

アメリカの慣行を見れば、事業再生は事業の再生が肝であることがよくわかると思いますが、日本の場合には伝統的に財務の再生から入ります。
メイン銀行が主導する形で必要ならば過剰債務について債権放棄を実施して、財務リストラを行います。

そして多くの場合、そこで一件落着で、事業の再生は債務者企業まかせで、事業をどのように再構築するかは気におらず、私の経験でも、バンクミーティングなどで事業の再構築について質問してくる銀行員はほぼいませんでした。

気にしないというか、銀行員にも事業をどうすればいいのかわからないので、何を質問していいのかさえわからない状態なのだと思います。

このように、日本の多くの事業再生と呼ばれるものの多くは財務の再生であって、事業の再生ではありません。
または、よく耳にする言葉で言うと、B/Sの再生であって、P/Lの再生ではないという、とても大きな問題を抱えています。

このように、金融機関側にも事業再生の本当の意味が理解されていないこと、結果、事業再生は財務の再生だというような誤解があること、債務者の事業そのものに対する知見が不足していることも大きな問題と言えるでしょう。

また、財務の再生を実施した後に、残債の部分について保全割合が高かったりすると、銀行員の関与のインセンティブが下がり、債務者企業の事業の行方に対しての関心が極端に薄れてしまうという問題も存在します。

さらに、私的整理の枠組みの中で、債務免除という金融支援の方法が選ばれた場合に、債務者企業の経営者保証の問題をどう考えるのかという点もあまり深く考えてこられなかった問題でした。これは私的再生の場合のみならず、法的再生や廃業の場面でも問題となることでした。

こういった経営者保証の問題に対しては、2013年に「経営者保証に関するガイドライン」が、また2019年以はこれを補完する形で、「経営者保証に関するガイドラインの特則」が公表されています。

2013年に経営者保証に関するガイドラインは、経営者保証によって身ぐるみはがされて再起が困難な状況に追い込まれてしまうこれまでの保証の履行の仕方を改めて、経営者が再起を果たしやすい状況を作ろうという意図が見えます。

2019年の経営者保証に関するガイドラインの特則は、事業承継時の経営者保証をどうするかに焦点を絞って、廃業の増加という社会問題に照らし合わせて経営者保証の問題を考察しています。

債務者

上で説明したように、外部の専門家が事業そのものをてこ入れする術を持たず、財務リストラにしか興味のない債権者たる金融機関の間で、債務者は初めて経験する事業再生の手続きの中で右往左往するばかりです。

最後のバンクミーティングが終わってみれば、事業の再構築に関する有益なアドバイスは何もなかったなと気付く経営者もいるでしょうが、ほとんどの経営者は資金繰りが落ち着いたことに安堵してしまい、事業の現状に変化がないにもかかわらず、まるで会社がよくなったかのように錯覚してしまって、相変わらず依然と同じスタイルで仕事を続けることが多いという問題も存在します。

世の中のニーズに合わなくなったから業況が悪化しているのですから、そこを放置したままでいくら財務リストラをやったところで、また実務で手を付けやすい経営改善で対応したりしたところで、事業の状況は何ら変わらず、しばらくすると資金繰りが再び悪化してしまうのは当たり前のことです。

2次破綻という問題に至るケースが多い理由もご理解いただけると思います。

素晴らしい外部専門家にたまたまめぐり合わせて、事業再構築に関する的確なアドバイスを得られたならばラッキーですが、そうでないならば、専門家の力量を見極めて自分で事業の再構築に関するアイデアを考えなければなりません。

事業再生の現場では、事業の再構築を自らできない経営者の存在自体も大きな問題といえます。

日本の事業再生は財務の再生でしかない

日本の事業再生はB/Sの再生でしかないこのように、日本で広く行われている事業再生はB/Sの再生であって、P/Lの再生ではないという大きな問題を抱えています。
財務の再生をもって事業再生と呼ぶ異常な文化が、日本の中小企業の事業再生の現場では深く根付いています。

また、財務の再生の一環として税理士が導入を勧める管理会計は、財務の再生などにはつながらないのでご注意ください。

税理士が広く勧めている管理会計の実態については、下記の記事を参考になさってください。

中小企業の再生を本当に効果があるものとするためには、事業そのものの再生こそに注力するべき風土を作らねばなりません。
中小企業の事業再生に関わる方々の意識が、ここで書いたように変わるように強く願うばかりです。

事業再生にあたって相談すべき専門家の選択については、下記の記事を参考になさってください。

事業再生を成功させるポイントについては、下記の記事を参考になさってください。

事業再生の論点については、下記の記事を参考にされてください。