ここ3年で売上が大きく減って赤字続きで資金繰りも本当に大変になってきたから、銀行が言ってるように事業再生に取組んで、しっかり利益を出すために社員のリストラも本気で考えなくちゃいけなくなってきた。
でも、社員のリストラってそんなに簡単にできるわけないよな。
ずっと一緒にやってきた家族みたいなもんだし・・・
どうしたらいいんだろう・・・
銀行から従業員のリストラを求めれて、このような悩みをお持ちの経営者は多いものと思います。
ずっと一緒にやってきた従業員をリストラするのは経営者として何とも忍びないですよね。
この記事を読むことで、銀行から社員のリストラを求めれた場合に、どう考えるべきかがわかります。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。
事業再構築補助金に採択される方法については、下記の記事を参考にされてください。
事業再構築補助金に応募したが採択されなかった。第3次以降の公募で何とかこの補助金を獲得したいのだが、今サポートをお願いしている認定支援機関の先生ではどうも力不足の感が否めない。このようなお悩みをお持ちの経営者のお悩みにお答えします。
事業再生とリストラの関係
リストラとは何か?
リストラとはRestructuring(リストラクチャリング、以下リストラ)の略称ですが、Restructuringの本来の意味は、「環境の変化に合わせて構造を変えること」をいいます。
つまり、企業が環境変化に合わせて収益構造を単に改善するのみならず、収益構造の抜本的革新を図ることをも含む概念です。
日本ではリストラというと、不採算事業の整理、余剰人員の削減というような後ろ向きの意味と捉えられており、この言葉から受けるイメージは非常にネガティブなものとなっています。
しかし本来は、収益構造の転換を図るという、非常にポジティブな意味を持つ言葉なのです。
2つのリストラ
事業再生の局面において、リストラには2種類のものがあります。
1つは財務リストラであり、もう1つが事業リストラです。
財務リストラ
財務リストラは貸借対照表を見ればわかりますが、貸借対照表の構成要素別に、アセット・リストラ、デット・リストラ、エクイティ・リストラの3種類からなります。
まず、アセット・リストラは、遊休資産の売却によって貸借対照表の借方を軽くすることを指します。
たとえば、バブル期に投資用に購入した不動産や株式など、本業とは関係ない資産を売却して現金に変えることをいいます。
このように単独としての資産の売却もありますが、本業とシナジー効果が得られない事業もリストラの対象となりえます。
この場合は売却する事業に関連する資産や負債も一緒に事業の買収先に移転することになり、通常はM&Aによって営業譲渡か会社分割の手法によって買収先に移転することになります。
次に、デット・リストラは有利子負債からくる負担を軽くすることを指します。
有利子負債そのものを削減する債務免除や、債務免除の中でも有利子負債の一部を免除する代わりに残債を一括返済するDPO(Discount Pay Off)、有利子負債の全部または一部を資本金に転換するDES(=Debt Equity Swap)、有利子負債の一部を劣後化させて返済の猶予を一定期間与えるDDS(Debt Debt Swap)などがあり、その他にも、返済期間の長期化を図るリスケジュール、支払利息の削減を行う金利の減免があります。
こういった手法の全ては、有利子負債の負担に伴うキャッシュアウトフローの削減を伴いますから、デット・リストラと言います。
デット・リストラについては下記の記事が詳しいので、参考にされてください。
事業再生の金融支援にはどのような手法があるんだろう。金融支援の手法によっては、経営者である私にも責任を問われることがあるのかな。事前に知っておくと、事業再生に取り組むにあたって不安にならずにすむな。こんなお悩みを抱えた経営者は必見です。
最後の、エクイティ・リストラとは、資本構造を変えることによって、債務超過額を圧縮させたり、株主の議決権行使等を制限したりすることをいいます。
先ほどデット・リストラで例示した有利子負債の全部または一部を資本金に転換するDES(=Debt Equity Swap)は、法律上返済義務を負い、かつ、約定により利息の支払義務のある有利子負債(借入金等)を、法律上返済義務のない、かつ、利払いの義務のない資本金に振り替えることで資本を増強し、債務超過の圧縮または資産超過への転換を図ることができる手法です。
また、第3者割当増資による新株発行を実施することで資本を増強し、同様に、債務超過の圧縮または資産超過への転換を図ることができます。
さらに、普通株式を他の種類株式に転換することで、株主としての議決権行使を制限したりすることも可能です。
このような場合には、優先配当付き株式と無議決権株式をセットにした種類株式を発行するのが通例です(議決権がないことにする代わりに配当につき優先権を与えるもの)。
事業リストラ
事業リストラとは、企業を取り巻く外部環境の変化に合わせて、事業の再定義、戦略の再構築、生活者の頭の中における自社ブランドの立ち位置の変更(リ・ポジショニング)、商品やサービスのカテゴリー・チェンジなどを指します。
もちろん後ろ向きなイメージの強い不採算部門からの撤退や規模の縮小、事業所の統廃合、分社化、M&Aを通じた事業の統廃合をも含む概念です。
先ほども書いたように、日本でリストラというと後ろ向きの業務リストラのことを指すのが一般的であり、削減や縮小という文脈で語られる、不採算部門からの撤退や規模の縮小、事業所の統廃合、分社化、M&Aを通じた事業の統廃合、およびそれの伴う人員の整理だけを指すことが一般的ですが、本来のリストラは、ここに書いたようなポジティブな意味でも使うことが多い概念なのです。
事業再生とリストラの関係
事業再生は、財務の再生と事業の再生とに分けられます。
それはまさにここに書いてきた財務のリストラと事業のリストラに他なりません。
日本語でリストラというと削減や縮小という文脈で語られる不採算部門からの撤退等のみを意味すると捉えられがちですが、そうではなく、環境の変化に合わせて収益構造を変えることを指すポジティブな側面も含んだ言葉が、まさにリストラなのです。
従って、事業再生とは事業リストラ(環境変化に合わせた再構築)そのものに他ならないのです。
財務のリストラは日本の中小企業の事業再生の現場では、財務の再生という文脈で必ず検討されるものです。
メイン銀行が主導で融資先の事業再生をリードした歴史が長い日本の事業再生の実務では、財務のリストラは、財務の再生という文脈で細かく検討されます。
一方、事業のリストラは事業再生の場面では、事業の再生を指しますが、日本の中小企業の事業再生の現場では、ほとんど手が付けられていないのが現状です。
残念ながら、日本の中小企業の事業再生の現場では戦略の転換等の前向きな意味でのリストラが検討されることはほとんどなく、あっても事業撤退等の後ろ向きな、「撤退、縮小、削減」の文脈においての事業リストラだけです。
日本の事業再生の抱える問題については、下記の記事を参考にされてください。
事業再生に問題点ってあるのだろうか。来月から真剣に取り組むことになったんだけど、そういったポイントを事前に知っておけば過度に期待しなくて済むからね。こんなお悩みを抱えた経営者の方は必見です。事業再生の問題点を包み隠さずお話します。
経営改善と事業再生にちがいについては、下記の記事を参考にされてください。
経営改善と事業再生という2つの言葉はなんとなく同じことを指しているように見えるけど、意味が違うのかな?経営改善コンサルタントと事業再生コンサルタントも仕事の中身は違うのかな?こんなお悩みを抱えた経営者の方は必読です。
ターンアラウンドの意味については、下記の記事を参考にされてください。
日本で行われている事業再生と、欧米で盛んなターンアラウンドとは同じものなのかな。また、日本の専門家も欧米のターンアラウンド・マネージャーのような仕事ができるのかな。こんなことでお悩みの経営者の方は必読です。日本と欧米では大きく異なります。
人的リストラについて
事業再生の場面でリストラという言葉で真っ先に想像されるのは、従業員の解雇ではないでしょうか。
日本ではリストラというとほぼ同義で従業員の解雇を思いつく人が多いでしょう。
赤字が継続して資金繰りが逼迫してくると、多くの経営者が固定費のカットに手を付けます。
本来であれば、事業の再構築、つまりは戦略の転換や自社ポジショニングの転換を図ったり、販売チャネルを見直したり、広報やコミュニケーションを見直したりなどをまずは検討・実施するべきなのですが、固定費のリストラにまずは着手します。
なぜかというと、時間をかけて考えることも必要でなく、効果が短期で100%出るので、簡単で手っ取り早いからであり、そして多くの場合、固定費の際たるものは人件費です。
固定費を削減して短期的に利益を出そうと思えば人件費をカットすればいいわけですから、事業再生のフェーズに入った多くの経営者が人件費のカットを実施しようと、従業員のリストラを敢行します。
ここで経営者が従業員のリストラを敢行すると書きましたが、私が経験した事業再生の実際の事例で言うと、多くの場合、中小企業の経営者は自ら進んで従業員のリストラを実施しているのではなく、与信先の事業再生を進める金融機関からの圧力に屈してやむなく従業員のリストラを実施していたことが多かったです。
「人件費が多すぎるから、社員の解雇を伴うリストラを実施して頂かないと、新たな資金調達には応じられませんよ。」とか、「再生計画に記載されていた人員計画の内容からすると、社員が多すぎるんじゃないの?本気で企業再生を進める気あるの?他に方法があったら教えてよ。」というような圧力(実話です。)に屈して、苦渋の選択で社員をリストラしてしまったことを後で悔いている経営者は何人も見てきました。
中小企業の事業再生を進める銀行員からすると、「債務者の固定費(人件費)の圧縮→赤字幅の解消もしくは黒字化→債務者区分のランクアップ→銀行の貸倒引当金戻入益の計上→新規融資の再開による銀行の収益力アップ!→めでたしめでたし」という直線的な因果関係の構図が頭の中に描かれているのでしょうが、このような直線的な因果関係は成立しません。
たしかに事業再生のフェーズにある中小企業では、従業員をリストラすることで固定費をカットできますから超短期的には赤字幅の解消もしくは黒字化は実現できます。
ところが、事業再生を進める銀行員の頭の中に描かれている上記の因果関係図には大きなモレがあるのです。
それは「債務者の固定費(人件費)の圧縮→赤字幅の解消もしくは黒字化」という因果のロジックのうち、原因となった「債務者の固定費(人件費)の圧縮」は別の結果をもたらすことが見えていないことです。
つまり、「債務者の固定費(人件費)の圧縮→残った従業員のモチベーションの低下と会社および経営者への不信感の発生」という因果関係を捉え切れていないということ。
事業再生のフェーズにある中小企業の人的リストラの場面を想像すればこんな因果関係はすぐに把握できそうなものですが、与信先の経営のリアルな現場に疎い銀行員では、これくらいの想像力をも求めるのは酷なのかもしれません。
銀行の涼しい建物の中で、融資先の工場へなど足を運ぼうともせず、保証協会の保証付き融資の資料をせっせせっせと作成するだけの銀行員や信金マンが増えてしまったことはとても残念ですが、中小企業金融の充実を図ろうとすればするほど、保証協会融資の需要が高まって、金融マンの目利き能力を涵養する機会が失われるというジレンマには、具体的な手当てが必要なのだと思っています。
法的再生であれば、形式的に倒産したという世間のレッテルから社員のモチベーションは大きく落ち込んでいますし、そうではない私的再生であっても、社内の何とも言えない重い空気感に圧倒されてか、大半の社員のモチベーションは下がっています。
そのような中で、仲間の誰かが解雇という憂き目にあったら、その低下したモチベーションはさらに落ち込んで、自ら退職や転職を申し出る社員も出てきて、ビジネスの現場が回らなくなることが往々にしてあります。
このように一旦、人的リストラを断行すると、人員減少によるキャパシティの制約状況が生まれ、残った社員のモチベーションが悪化するというダブルパンチで、さらに売上が落ち込んできますが、こうなるとその回復はとても難しいものになります。
こうなると負の連鎖がものすごい勢いで回り始めて、再生どころの話ではなくなって、倒産への道まっしぐらって感じになってしまいます。
このように、再生実務の現場で金融機関主導で融資先の人的リストラが実施されようとしている現場には、私は何度も遭遇しましたが、そのような場合には、人的リストラは絶対にやめておくようにと経営者には必ず進言してきました。
そして、事業の再構築の可否を検討した結果、見込める収益力の回復程度に応じて、従業員を解雇するリストラではなく、従業員全員でワーク・シェアリングを実施することを勧めて、収益力が回復したのちに通常勤務に戻すことを経営者に進言しています。
なぜ、私が再生実務の現場で従業員をリストラで解雇することに反対するかは次に示すような実際の体験をしたからです。
事業再生において、人的リストラに反対する理由
某大手商社の依頼で、その協力会社であるニットの縫製会社の事業再生を任された時のことです。
その本社工場は冬はとても寒くて雪深い地方にある会社でした。
商社からの発注量が激減したことで、会社の存続が危ぶまれるくらい売上が激減していました。
調査の初期に損益分析を実施したところ、役員はじめ従業員の方の給与がびっくりするくらい低かったことに驚き、社長に尋ねたところ、
「うちは家族のような関係でみんなで会社をやってきました。業績が悪くなったからと言って社員をリストラで解雇するわけにはいかないんです。業績はいつか必ず回復するから、それまでみんなで頑張ろうと話し合った結果なんです。」ということでした。
この話に私は泣きそうになりました。
社長の月額報酬が10万円、社員の方は3万円から5万円程度というびっくりするくらいの月給でしたが、みなさん明るく振舞って業績が悪い会社とは思えない雰囲気でした。
その後自社ブランドの立ち上げを指導し、別の商社経由の仕事を社長主導で実現できたことで業況は大きく改善でき、給与も元の水準並みに回復させることができました。
(ちなみに我々の報酬は商社から頂戴していますので会社には負担がかかっていません。面倒見の良い商社の方々でした。)
この会社に関わった経験があることと、銀行の主導で人的リストラを断行した多くの会社の再生の進捗状況を比較することで、従業員の解雇を伴うリストラは最後の最後まで絶対にやってはだめだと確信するに至ったわけです。
赤字に陥ったのは従業員のせいなどではなくて、会社の提供する商品やサービスの価値が世の中のニーズに合わなくなってしまったからです。
ならば一刻も早くそのニーズに提供価値を合わせに行けばいいだけの話です。
こういった事業の再構築のフェーズをすっ飛ばして、固定費カット(従業員のリストラ)→赤字の解消という安易なロジックに走ると、残された従業員のモチベーションは大きく低下し、今以上に事業の劣化が進むことは目に見えています。
また、リストラで解雇された元従業員の生活も大きく変えてしまうでしょうし、生活どころか、解雇された本人のみならずその御家族の人生までも大きく変えることになります。
再生実務の現場でもたびたび話題になる人的リストラには、いいことは何一つありません。
事業再生の現場においては、これまで会社のために一生懸命頑張って頂いた従業員、その家族まで大きな悪影響を及ぼすことになる解雇を伴う人的リストラは実施するべきではないと今でも強く思っています。
事業再生に取組むにあたって、相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に取り組むにあたって誰に相談すればいいのだろう。再生支援協議会に行くと会計士や税理士を紹介してもらえるそうだけど、それで本当に事業再生は成功するのかな?こんなお悩みをお抱えの経営者の方は必見です。誰に相談するべきかがわかります。
社員教育については、下記の記事を参考にされてください。
社員教育の効果的な方法ってあるのだろうか。お客様の数もどんどん減って、その高齢化も激しい。デジタル化を進める他社も多いのに、昔ながらの経営スタイルのままの当社はヤバくね?。社員だって育ってないし。こんなことでお悩みに経営者の方は必見です。
中小企業が事業再生を成功させるポイントについては、下記の記事を参考になさってください。
中小企業が事業再生に取り組む時に、経営者が念頭に置いておくべきポイントって何だろう。中小企業が事業再生のフェーズから抜け出すために必要なことって色々言われているけど、その道のプロの人からしたら、どんなポイントを押さえるべきなんだろう。
地方企業の事業再生については、下記の記事を参考になさってください。
地方で商売されている経営者は、事業再生を誰に相談すればよいかお悩みのことと思います。税務顧問の税理士に相談しても全く埒が明かないし、銀行が連れてきた認定支援機関だとかいう会計士もどうも頼りないし。こんなお悩みをお持ちの経営者は必見です。