ターゲティングとは何か?【中小企業こそ絞り込みましょう!】

ターゲティングで対象顧客を絞り込めって話なのだけれども、絞り込んだらお客さんの数が減ってしまって、売上につながらないと思うんだけど。

なぜ、ターゲティングしなければならないのかを教えてほしい。

このようなお悩みをお持ちの、学びと実践を大切にする経営者の方はとても多いように思われます。

この記事を読むことで、マーケティング戦略を考える際に、ターゲットを絞り込む重要性が理解でき、ビジネスに役立つマーケティング戦略を立案できる可能性が高まります。

本記事は中堅・中小企業の事業再生に取り組んで20年以上、200社超の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生へと導いてきた、企業再生のプロフェッショナルである公認会計士が書きました。

ターゲティングとは何か?

ターゲティングとは何か?結論から申し上げると、中堅・中小企業こそ、教科書通りにしっかりとターゲティングを行って、顧客を絞り込んだ上で、商品・サービスの開発や、コミュニケ―ションの設計を行うべきであるということです。

ターゲティングをしないという戦略、役に立たないターゲティングからはそろそろ卒業をして、教科書通りにマーケティングを徹底的に実施することが求められている時代なのです。

マーケティング戦略におけるターゲティングターゲティングとはセグメンテーション(市場細分化)の後を受けて、そのうちの特定のセグメンに標的を定めることをいい、言い換えれば、限りある経営資源をどのセグメントの顧客層に集中させるかを決めることです。

ターゲティングはそれ単独で考えるということはなく、通常はマーケティングのSTPという流れの中で、セグメンテーションの後を受けて行われ、次に検討されるポジショニングにつなげていくフェーズとなります。

様々な切り口で定義した市場のセグメンテーションを行いますが、各々のセグメントに属する顧客の属性や嗜好は異なるため、各々のセグメントで求められる商品やサービスのコンセプトは異なります。

そうであるにも関わらず、対象市場全体、つまりは全てのセグメントに対して同じ商品やサービスを提供したとすると、全く興味さえわかないために、顧客から見向きもされないセグメントがたくさん出てきてしまいます。

このような事では、望みもしない商品やサービスの情報を知らされる生活者は、情報の取捨選択の効率が悪化しますし、企業側としてもマーケティングの効率が非常に悪くなりますので、どちらにとっても効率的とは言えない状況が生み出されてしまいます。

このように、ターゲティングの本質的な目的は、消費者とブランド両者の利益を最大化させることであり、どのセグメントに商品を必要としてもらいたいのかを明確にすることなのです。

マーケティングのSTP

マーケティングのSTPマーケティングのSTPとは、フィリップ・コトら―先生がまとめられた概念で、対象市場をセグメンテーション(Segmentation:細分化)し、その後に特定のセグメントをターゲティング(Targeting:標的化)し、その特定セブメントの顧客層に自社を独特の存在であると、頭の中にポジショニング(Positioning:位置づけ)してもらう一連の思考プロセスをいいます。

セグメンテーション(Segmentation

セグメンテーションとは、対象市場の顧客を、性別、年齢、所得や、居住地域や人口密度や、趣味、嗜好、ライフスタイル、さらには行動特性といった様々な切り口で細分化してグルーピングすることをいいます。

もし、セグメンテーションを行わず、対象市場に含まれるあらゆる顧客のニーズに合った商品やサービスを提供しようとすると、すると、極めて特徴のない平均的な商品やサービスに近づき、誰にとっても魅力のない商品やサービスのなってしまいます。

このようなことを避けるために、対象市場を自社の最適な軸でセグメンテーションすることで、適切な顧客に対してアプローチができる道が切り開かれることになります。
セグメンテーションはマーケティング活動の基礎となりますので、ここで自社にとって最も意味のある軸で対象市場を細分化することができるかどうかが、その後に続くマーケティング戦略の巧拙に大きく影響を与えることになります。

セグメンテーションについては、下記の記事を参考にされてください。

ターゲティング(Targeting

ターゲティングとは、セグメンテーションで細分化した複数のセグメントのうち、どのセグメントを標的市場として定めるかを決定することをいいます。

限りあるヒト、モノ、カネなどの経資源を有効に使い、生活者とブランドの双方の利益を最大か知るために、ターゲティングで選択した特定のセグメントに集中してマーケティング戦略を策定することが必要なのです。
この記事では、このターゲティングに限定して説明しています。

ターゲティングについては、下記の記事を参考にされてください。

ポジショニング(Positioning

ポジショニングとは、ターゲティングしたセグメントに含まれる顧客の頭の中に、ブランド独自の魅力や役割を作り上げることをいいます。

よく誤解されることですが、ポジショニングは競争を前提とした差別化を目的に行うものではなく、競争がない状態を作り出すために他社とは違う自社の独自性を構築することを志向するものです。

つまり、ブランドのターゲットにとって唯一無二の独自の存在となることで、そもそも他社とは比較すらされないようにして、競争しなくて済むような状況を作り出すことが、ポジショニングの考え方になります。

これまでにないポジショニング軸を見つけ出すことで、激しい競争環境の中で、競争に勝つのではなく、競争しないで勝つことができる状態を作り上げることを目指します。

ポジショニングについては、下記の記事を参考にされてください。

リポジショニングについては、下記の記事を参考にされてください。

やってしまいがちなターゲティング

やってしまいがちなターゲティング私が中堅・中小企業の事業再生に関与する中で、多くの企業で見られた代表的なターゲティングは以下の2つです。

ターゲティングしないという戦略

多くの中堅・中小企業で見られるターゲティングです。

新しいクライアント先などで、「ターゲットは明確になっていますか?」というお話をさせて頂く機会はとても多いのですが、その際に「当社はターゲティングしないという戦略なんだよね。」と返答される経営者の方は少なからずいらっしゃいます。

確かに、ターゲティングし過ぎないことが成功へのキーとなる、商材や市場の事例もありますが、それでも全くターゲティングにないという選択はさすがに問題であり、その理由は下記のとおりです。

まず、大企業に限らず中小企業であってもマーケティングはチームで進めることが必要になりますが、ターゲティングをしていないとなると、チームの構成員の各々が想定する顧客像(=ペルソナ)がバラバラになってしまいます。

新聞折り込みチラシやダイレクト・メールなどのダイレクト・マーケティング系の担当者、WebSNSのコンテンツを担うブランド・マーケティング担当者と役割が別れているような場合には、各々の想定する顧客像(=ペルソナ)が異なってしまうのが通常なので、全社で一貫したマーケティング施策が採りにくくなります。

担当者ごとで採用する施策が単発でバラバラのものとなって、かけた費用の割には効果が得られないというような結果に終わることが多くなってしまいます。

次に、ターゲティングしないということは、対象市場に含まれる様々な嗜好やライフスタイルを持つ顧客を一括りにして同質的な顧客と扱うことに他なりません。

そして、全ての顧客に共通するニーズを取り出して開発した商品やサービスは、どの顧客にとっても魅力のない凡庸な商品・サービスで終わってしまうので、結局、誰にも買ってもらえないというような事態に陥ることになります。

そこで行われるコミュニケーションは、全ての顧客のニーズに合致しそうな価格やスペックや機能に終始せざるを得ず、ブランドを作り出す独自性などを打ち出すことが出来なくなってしまます。

性別・年齢によるターゲティング

これも、中小企業によくありがちなターゲティングの設定の例です。

ターゲティングはしているのだけれども、その場合多くは、性別と年齢だけでターゲティングしています。

たとえば、新しい高級チョコレートを開発して売り出そうと思った時に、ターゲティングを「30代の女性」とするようなケースです。

昭和の時代であればこのターゲティングは有効であったかもしれませんが、現代ではあまり有効なターゲティングとは言えません。

なぜならば、昔の「30代の女性」であれば、結婚して10年以上経過した専業主婦で、子供は3人、上の子は小学校低学年、毎日が子供の世話で忙しいといったような行動特性等で一括り出来ました。

ところが、現代の「30代の女性」には多種多様な方がいらっしゃるわけで、同じ30代でも、既婚女性と独身女性は大きくライフスタイルや価値観も異なるでしょうし、同じ既婚者の中でも、有職者の女性と専業主婦の女性でも、さらには、子供の有無によってもそれらは大きく異なります。

このように置かれた環境や生活している文脈が大きく異なると、ニーズや価値観にも違い生まれ、求めているブランドや、商品・サービスも大きく異なることが容易に想像できます。

にもかかわらず、性別と年代で一括りにターゲット設定してしまうと、「ターゲティングしない戦略」の時と同じように、「30代の女性」が共通して持つ嗜好やライフスタイルに合わせた魅力のない、最大公約数的な凡庸な商品が出来上がってしまうことになります。

性別と年齢でターゲティングが可能なケースとは、そのセグメントに含まれる顧客の価値観やライフスタイル等が同じであるという大前提があるということです。

このように、性別と年齢だけでターゲティングをすることは、そのセグメントに属する生活者の気持ち(インサイト)もわからないし、行動特性もわからないことになりますから、ターゲティングの精度としては粗いと言わざるをえないのです。

性別と年齢でターゲティングを行うということは、その前にフェーズで行われたセグメンテーションの時点で、性別と年齢という2つの切り口で対象市場を細分化しているわけなので、2つの切り口のうち1つ以上をデモグラフィック変数以外のサイコグラフィック変数やビヘイビア変数を使うことが望ましいと言えます。

ターゲティングのフレームワーク

ターゲティングのフレームワークSTP分析の流れのなかでターゲティングを行う際に、有効なフレームワークとして「6R」が存在します。
この「6R」を使うことで、ターゲット設定をより効果的に行うことが可能になります。
1つずつ説明していきましょう。

有効な市場規模(Realistic Scale):十分な市場規模があるか?

ターゲティングを行うに当たっては、選択した特定のセグメントに十分な市場規模があるかどうかを考慮する必要があります。

どれだけ自社ブランドがターゲティングしたセグメントの人々のニーズを満たしていようと、そこに事業が成り立つのに十分な市場規模があることが必要になるからです。。

一般に、ブランドの売上は下記のように因数分解できます。

  • 自社ブランドの売上高=ターゲットセグメントの市場規模×自社ブランドのシェア
  • 自社ブランドの売上高=自社ブランドの購入者数×購入頻度×客単価

ターゲティングを実施する際には、情報を収集の上、いずれかの公式に当てはめて、自社のビジネスを継続していけるだけの市場規模があるのかどうかを判定するべきです。

完全に正確な情報などは通常取れないものなので、意思決定をミスリードしない程度の粗い情報でも問題はありませんから、こういったシュミレーションを行うことで、ターゲティングが現実的なものかどうかの判断はできるはずです。

競合状況(Rival):強い競合ブランドが存在しないか?

ターゲティングする際に選択する特定のセグメントに、すでに競合ブランドが存在する場合には、そうでない場合に比べて、市場の魅力度は大きく低下します。

それに対して競合がそれほど強くなく、市場の競争環境が激しくない市場では、独自のポジションを構築しやすく、大きな地位を獲得できる可能性があります。

ターゲティングする際には、できるだけ強い競合ブランドが存在せず、かつ、競合ブランドの数が少ない市場を選択するべきでしょう。(現実的にはなかなか見つけられませんが。)
市場の競争環境の分析フレームワークには、ミクロ環境の分析ツールとして5フォース分析、3C分析などがあります。

特に、5フォース分析によって市場の競合度を検討しておくのが良いでしょう。

5フォース分析については、下記の記事を参考にされてください。

3C分析については、下記の記事を参考にされてください。

成長性(Rate of Growth):これからニーズが増えそうなターゲットか?

ターゲティングによって選択する市場は、その規模がただ大きければ良いというものでもありません。
調査・分析を行った時点では十分な大きさがあった市場でも、時間が経つに連れてシュリンク(衰退)していく可能性も十分にあるからです。

したがって、市場規模の大きさだけでなく、その市場の今後の成長性の有無を検討することもターゲティングを行うに当たっては注意するべきポイントになります。

逆に言えば、現時点で市場の規模が小さくても、今後大きく成長する可能性が高いと判断できるならば、成長が見込める有望なターゲット市場となりうるのです。

例えば、少子高齢化の進む現代の日本では、シニア市場の成長はかなり高い確度で見込めますし、今後ますます生産年齢人口が大きく減少し、女性の未婚率も低下することが考えられないため、働く独身女性の市場は、大きく成長が見込まれています。

特定セグメントの市場が今後大きく成長するかどうかは、その見極めが難しいものですが、人口動態についての予測が関係するものについては、その確度はかなり高くなりますので、市場の成長性を検討する際に参考にしてください。

優先度(Rank/波及効果(Ripple Effect):優先度が高く、その結果口コミ波及の発信源となるか?

提供する商品やサービスに対して、顧客の優先度や関心が高いかどうかも重要になります。

顧客の優先度・関心が高いものならが、顧客が自ら自社ブランドの商品やサービスを発見してもらい易くなりますし、関心が高い結果、SNSへの投稿などによって拡散されることで、まわりの顧客に対する波及効果も期待できるからです。

マーケティングに投下できる経営資源の有限性を考えれば、少ない投資で広く認知がとれてコンバージョンにつながる波及効果の影響は計り知れないものがあります。

したがって、細分化された多くのセグメントの中でも、周辺へ波及効果の高いセグメントにターゲティングすることはとても効果的なのです。

性別、年齢を問わず、ブログを資産化し、SNSを自在に操る生活者が増加している現代では、多くのフォロワーを抱えた個人を「インフルエンサー」として情報拡散のために有効なハブとして利用することも検討することが必要な時代になっています。

特に競合が多数ひしめく化粧品業界や健康食品業界などにおいては、商品数が多すぎて自分では選べない、自分で選んだら後悔しそうなので結局選べないという生活者が増加していますし、ITデバイスや金融商品など、その選択には高度な専門的知識を要する業界においては、自社ブランドを自ら進んで積極的に自分のフォロワー等に薦めてくれる、ブランドのファンとなったインフルエンサーの影響力は無視できないものとなっています。

到達可能性(Reach):販売チャネルやメディアを通じて到達可能か?

市場規模が大きく、さらなる成長も見込めて、競合企業も存在しないような非常に魅力的なセグメントを見つけたとしても、そのセグメントの顧客に到達する販売チャネルや、情報を伝えるためのメディアが存在しなければ、そもそもマーケティング活動を行って成果を収めることはほぼ不可能です。
不可能ではなくても、おそらくその効率は著しく悪いものとなります。

たとえば、スノボショップを沖縄県那覇市にオープンしても、スノボをする、もしくはしたい層にリーチすることはかなり難しいと思われますので、沖縄県というジオグラフィックなセグメントでのターゲティングは止めた方がいいでしょう。

測定可能性(Response):アクションに対する効果が測定可能か?

広告などを使ってターゲティングした市場にアプローチをしたとしても、そのレスポンスや効果を計数的に測定できないセグメントは、その後のPDCAを回した改善効果が活かせないことになります。

広告のクリエイティブについても、ターゲティングした特定セグメントの選択はあくまで仮説の中で実施せざるを得ないものなので、その仮説検証を行うためには、広告等の施策の効果を測定できることは、効率的なマーケティング施策を実施していく上では必須のものとなるのです。

何をどのように測定して管理すれば良いのかについては、KPI管理の範疇になります。
ターゲットを設定するにあたっては、中長期的にPDCAを回していくこと、その際に利用するKPI管理のことも念頭に置いておく必要があるのです。

6Rのポイント

6Rのフレームワークに準拠して、ターゲティングを行う時には、個々の指標に注目することも大事ですが、より大切なことは、それら6つの視点を総合的に判断してターゲティングを行うということです。

市場規模がすごく大きくて魅力的であっても、競合ブランドがひしめき合っていては、継続していくだけの利益を上げることさえ困難になるでしょうし、どれだけSNSによる波及効果が見込める市場であっても、今後シュリンクしていく可能性の高いセグメントにターゲティングすることはリスクが極めて高いと言えます。

6つのうち、特定のRに目を奪われることなく、あくまで総合的に6つの視点から俯瞰して、ターゲティングすることを心がけることが肝要です。

ターゲティングの事例

ターゲティングの事例ターゲティングをとても上手に行った、クイックル・ワイパーの事例を見てみましょう。
クイックル・ワイパーは、不織布シートを使ったフローリング床専用の掃除用具で、1994年に発売されて空前の大ヒットとなりました。

クイックル・ワイパーの写真(出典:花王株式会社)

見た目はダスキン社のモップによく似ていますが、柄先のゴムでできたワイパーに、別売りの不織布シートをはさんで埃を絡め取り、このシートは使い捨てなので非常に衛生的である点が従来からあるモップとは違います。

また、柄にアルミを使っているためとても軽いので、力のないお年寄りや子供にも簡単に扱うことができ、埃が気になったときにさっと取り出し手軽に掃除ができる便利なお掃除アイテムです。

このようなメリットが消費者に支持されて、現在ではカーペット用やハンディタイプなどライン展開されるなど、年間200億円を売り上げる新しい市場、紙モップ市場を作り上げました。
それまで埃を取る掃除用具といえば、電気掃除機、化学モップ、ほうき、雑巾ぐらいしかありませんでしたが、紙モップ市場という新しい市場の創造に成功したのでした。

さて、この紙モップ製品であるクイックル・ワイパーをどのセグメントにターゲティングしていけばいいのかは相当頭を悩ませたのではないでしょうか。

全体の対象市場は、フローリング床の住宅環境を持つ世帯のすべてと定義が出来るでしょうが、この対象市場をデモグラフィック軸である、世帯の種類、性別、既婚・未婚、子供の有無等でセグメントすると、下記のようになります。

クイックル・ワイパーのターゲティングクイックル・ワイパーという商品は、柄先のゴムでできたワイパーに、別売りの不織布シートをはさんで埃を絡め取り、このシートは使い捨てなので非常に衛生的である点が売りの商品です。
発売元の花王としては、買ってもらいたいのは本体ではなく、消耗品である不織布シートであり、これを何度もリピート購入してもらうことが花王の利益につながります。

本体部分は1回買えば壊れない限り繰り返し使用可能なので、本体部分のビジネスとしては全くうま味がない一方、消耗品である不織布シートは何度も購入するものなので、ビジネスとしてこちらの販売が利益の源泉になるのです。

こういった商品の特性を考えると、掃除の回数が少ない単身世帯のセグメントは、市場規模の観点からターゲティングの対象からは消えます。

クイックル・ワイパーの商品のベネフィットは、簡単にフローリングの汚れやほこりを拭き取れるという新しい機能なので、この機能を訴求するのであれば、家の外で仕事をこなしつつ家事の負担も大きい兼業主婦にターゲティングして、「時短商品」として訴求するのは効果が高そうです。

兼業主婦にターゲティングするということは、専業主婦はターゲティングから外すということなので、単純に言えば市場の半分を切り捨てることになるのですから、できることならば、兼業主婦から専業主婦への波及効果があるようにしたいはずです。

しかし、兼業主婦にターゲティングして「時短商品」としてクイックル・ワイパーを訴求すると、波及効果が見込めない可能性があります。
兼業主婦に「時短商品」として訴求すると彼女たちに喜ばれる一方で、専業主婦の「時短商品なんて家事に手を抜く悪い主婦が使うもの」という反感を買うということです。

そこで、「家事の時間を削りたい」というインサイトを持つ兼業主婦をターゲティングすることは避けて、「毎日家の中をピカピカにしておきたい」インサイトを持つ家事好きの専業主婦にターゲティングしたものと考えられます。

そういったコミュニケーションは、当時の床嶋佳子さんのCMのクリエイティブからも見てとれます。

このターゲティングは、世帯の種類や性別等のデモグラフィック変数によるセグメンテーションに、インサイトというサイコグラフィック変数を追加してターゲティングしたものです。

デモグラフィック変数だけによるセグメンテーションよりも、デモグラフィック変数にサイコグラフィック変数を追加したセグメンテーションで細分化した市場の特定セグメントをターゲティングする方が、より効果的であることを示してくれる良い事例です。

消費者インサイトについては、下記の記事を参考にされてください。

事業再生におけるターゲティング

事業再生におけるターゲティング私の経験から言えば、中堅・中小企業の事業再生において、再生のフェーズに落ち込んでいる企業のほぼすべてにマーケティングという概念さえ社内にはほぼ存在しません。
裏を返せば、マーケティング思考に欠けている結果、事業再生のフェーズに落ち込んだと言えるケースも少なくないのです。

良いモノを作れば売れる、美味しいモノを作れば買ってもらえるはずという視点でしかビジネスを見ることができない経営者が本当に多いのが実情ですので、マーケティング思考など社内には根付く様子すらありません。

そのような状況なので、大方の案件ではセグメンテーションから始めてSTPを考えましょうと提案はするものの、ターゲットを絞り込むという思考がどうしてもなじめない経営者が本当に多くて、「なぜ、わざわざ市場を分けてその一部にだけ特化しなくてはいけないのかが理解できない。売れる可能性がある他の市場を切り捨ててしまう意味が解らない。」といった感じで強い抵抗感を示されます。

大手の食品メーカーなどであえてターゲティングを緩く設定し、大規模なマス広告で広く認知をとり、後は販売の現場での販促でコミュニケーションの弱さをカバーするという様な戦略をとることもありますが、この場合でも全くターゲットを設定しないというようなことはありません。

そもそも中小企業がマス広告を大規模に打って出て、大企業のように認知を取るということはコスト的に不可能なので、特定の市場でニッチにブランドを築く必要があるのです。
その特定の市場の選定が、適切な軸での市場の細分化=セグメンテーションであり、その後のターゲティングであるわけです。

中堅・中小企業の事業再生の現場では、それまでは社内で考えたこともなかったSTPを徹底的に考え抜くことで、収益力の回復につながり、再生のフェーズから抜け出ることが出来るケースが、私の経験ではとても多いように思います。

このように、中小企業こそマーケティング戦略の基本であるセグメンテーションとターゲティングを適切に行い、その後のポジショニングで他の競合会社にはない独自性を生活者の頭の中に築く必要があるのです。

教科書通りにきっちりとやるべきことをやり続ける。
成功への近道なのだと思います。

中小企業が事業再生を成功させるポイントについては、下記の記事を参考にされてください。

破綻懸念先のランクアップの方法については、下記の記事を参考にされてください。

事業再生を相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考にされてください。