事業再生のアドバイザーもお願いしないままに、銀行さんに勧められて再生実務に取り組むことになったのだけれども、何しろ初めてのことなので、何からどのように始めたらいいのかわからないし、事業再生ってそもそも何をするべきかさっぱりわからない。
とにかく取り組むからには失敗などできないし、誰か懇切丁寧にアドバイスしてもらえるアドバイザーってどこにいるのだろう・・・
事業再生に取り組むなんてことは、一生に一度あるかないかのことなので、それがいったい何なのか、どのように進めればいいのか、また、アドバイザーをどこで見つけたらいいかなんてわからなくて当然ですね。
この記事を読むことで、プロのアドバイザーなしで経営者一人で再生実務を進めることは全く不可能であること、選んでよかったと後悔しない専門家を見つけるコツ、どんな知識とスキルをもった人が事業再生を成功させるのに適任かということがご理解頂けます。
その結果、再生実務を進めるにあたっての不安が一掃され、頼りになるアドバイザーの知見を借りながら進めることができるようになります。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、200社以上の再生案件に関わって、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。
事業再生アドバイザーとは何か?
事業再生アドバイザーとは、債務者企業が再生実務に取り組むにあたって、「事業(ビジネス)を再生する」ことに対して効果的なアドバイスを提供し、債務者企業が社会的に価値のある商品やサービスの提供を行うことで、企業の収益力を従前なみに、もしくはそれ以上に回復させることを業とする者をいいます。
この定義は、私独自のものですが、定義のポイントは3つです。
第一に、事業再生アドバイザーの仕事は、「事業(ビジネス)を再生する」であるということ、第二に、債務者企業が社会的に価値のある商品やサービスを提供できるようになることを主眼とすること、第三に、その結果、債務企業の収益力を従前並に、もしくはそれ以上に回復させることです。
以下で、これら3つのポイントを順に見ていきましょう。
事業(ビジネス)そのものを再生すること
そもそも事業再生とは、事業(ビジネス)の再生と財務の再生の両方を含んだ言葉であるので、この2つの再生を同時に実施することをいいます。
つまり、事業再生=ビジネスの再生+財務の再生なのです。
ところが、日本で広く行われている事業再生は、ごくごく一部を除いて「財務の再生」でしかなく、多くの事業再生アドバイザーは、財務の再生アドバイザーでしかありません。
財務の再生とは何かというと、資金繰りが破綻している、もしくは破綻する可能性がある債務者企業の資金繰りの逼迫した状況を改善することや、過剰債務が債務者企業の業績や資金繰りに悪い影響を与えている場合に、金融債権者による債権放棄、債務と資本の交換(Debt Equity Swap=DES)や債務の劣後化(Debt Debt Swap=DDS)等の抜本的な財務バランスの改善策を講じることをいいます。
事業再生の両輪である、ビジネスの再生と財務の再生のうち、なぜ日本では財務の再生にだけ注力してきたのかという大きな疑問が生まれます。
なぜ、事業再生アドバイザーと名乗る多くの専門家が、財務の再生アドバイザーでしかないのかという謎です。
これは私の私見ですが、日本で行われてきた再生実務の大半がメイン銀行主導で実施されてきた歴史的経緯があり、行内の関係者の合意形成に重きが置かれた結果、客観的な数字で固められた「再建計画書」がまずは必要とされたからであると思われます。
事業再生を牽引する立場の金融機関が、再生実務の現場で最も頼りにするものが、再生実務のアドバイザーがサポートして作成された「再建計画書」です。
利害関係者を全て納得させるだけの専門性、正確性、網羅性を伴った再建計画書をアドバイザーのサポートの下で作成できないことには、金融機関の関係者は事業再生を「上手に」進めることができません。
そして、この専門性、正確性、網羅性を伴った再建計画書を債務者企業が作成するのをサポートするアドバイザーとして、公認会計士と弁護士が適任だったのでしょう。
金融庁の検査に汲々としていた当時の金融機関からすれば、そういった検査にも耐えられる数値計画の作成に日本で最も信頼のおける職種としての公認会計士と、法律の専門家である弁護士に事業再生のアドバイザーとしてサポートさせることで、その後の手当て(金融庁検査への対応)も同時にできるわけです。
とはいうものの、「財務の再生用の再建計画書」をアドバイザーが作成するにも、相当の知見が必要になります。
財務会計、管理会計はもとより、倒産法や会社法、組織再編税制、グループ法人税制、その他一般的な税務の知識、旧金融検査マニュアルなどの基礎的知見を備えていないと、誰もが納得せざるを得ない、専門性、正確性、網羅性をもった「財務の再生用計画書」を作成することができません。
ちなみにここでいう管理会計は、税理士が導入を勧めることの多い予算実績差異分析のことではありませんのでご注意ください。
税理士が勧める管理会である予算実績差異分析の実態については、下記の記事を参考になさってください。
顧問税理士の勧めもあって、管理会計の予算実績差異分析を導入し、毎月顧問税理士とその差異の検討の場を設けているのだけれど、これって何らかの意味があるのだろうか。毎月多くの時間をこれに割かなくてはならないのだが、継続するべきか教えてほしい。
こういった基礎的知見を備えていると思われる公認会計士や弁護士を中心とした事業再生のアドバイザーのよって、「財務の再生用計画書」が作成され、それに基づいて事業再生という名の財務の再生がアドバイザーを中心に実施されてきたのです。
このように、金融機関、公認会計士や弁護士という士業がアドバイザーの役割の中心を担って日本の再生実務が進められ、ビジネスそのものの再生には重きが置かれることはありませんでした。
というよりはこれらのアドバイザーが、債務者企業のビジネスそのものをアドバイスして事業の再構築を図れるだけの知見を備えていなかったために、「ビジネスそのもの再生は、社長の仕事でしょ。」という割り切りが、日本の事業再生アドバイザーの世界に生じていたのだと思われます。
もちろん、財務の再生は非常に重要であり、財務の再生はビジネスの再生の基礎をなします。
財務の再生が図られない中で、ビジネスの再生をすることなど全く不可能であり、足元の資金繰りが安定して初めて、ビジネスの構造改革に着手できるからです。
ビジネスの再生と財務の再生が、事業再生の両輪をなすものであり、どちらが欠けても所期の目的を達成することはできません。
ところが、日本の多くの事業再生アドバイザーは、財務の再生を実施して、資金繰りが落ち着いたところで安心してしまうのか、そこでビジネス自体が良くなったという錯覚を抱いてしまうのかわかりませんが、肝心かなめのビジネス自体の再生を積極的に指導することがほぼありません。
事業再生の本丸は、ビジネスそのものの再生なのですが、財務の再生だけをもって事業再生だと思い込んでいる日本の多くの再生実務のアドバイザーが、まだ圧倒的に多いことが、日本の抱えている大きな問題なのです。
事業再生は財務の再生だけを指すものではありません。
財務の再生を実施することはもちろんのこと、その先にあるビジネスそのものの再生に着手して結果を出すことが、再生実務のアドバイザーの本当の仕事なのです。
日本の事業再生の抱えている問題点については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に問題点ってあるのだろうか。来月から真剣に取り組むことになったんだけど、そういったポイントを事前に知っておけば過度に期待しなくて済むからね。こんなお悩みを抱えた経営者の方は必見です。事業再生の問題点を包み隠さずお話します。
社会的に価値ある商品やサービスを提供することのお手伝いをすること
日本の企業再生が勃興した小泉・竹中の時代には、その対象となる企業は、バブル期に不動産や金融商品への投資で大きな穴を開け、貸借対照表が大きく傷んだ企業が中心でした。
したがって、この頃の企業再生の中心はBSの再生が中心で、それは財務の再生と言い換えることができましたので、財務の再生のアドバイザーで事足りたわけです。
ところが2020年の現代では、こういった貸借対照表自体を直接傷めることで再生が必要になる企業はほとんどなく(出尽くしましたから)、事業そのものが低収益に喘いでいる、もしくは営業段階で赤字である事業を抱えて企業がほぼ全てです。
つまり、事業そのものがダメになってまず損益計算書を傷めて、その結果貸借対照表が傷んでいるタイプの企業が大半をしめているのです。
そして、そういった企業に対する打ち手には2種類のタイプがあって、1つはオペレーション改善型で、もう1つは事業構造改革型です。
前者は、オペレーションが悪くてモノの流れや情報の流れが悪くて、製品やサービスの単位当たり製造原価が高止まりしているようなケースであり、提供している商品やサービスと世の中のニーズ自体にはズレがない場合です。
このタイプの場合は、改善が課題となるオペレーション上の問題であり、その解決はそうそう難しいものではなく、少し時間をかければ収益性を高めることは間違いなく出来ます。
なので、このタイプであれば、事業再生のアドバイザーではなく、経営改善のアドバイザーで十分です。
後者は、オペレーションとかそんな表面的な話ではなく、そもそも世の中のニーズに、自社の提供している商品やサービスが合わなくなったことを原因とした収益性の低下です。
実はこのタイプの企業が最近特に増えていて、特に老舗さんと呼ばれているような昔の名門企業に多いのが特徴であり、このタイプの問題は経営改善型のアドバイザーでは歯が立たず、事業再生のアドバイザーが必要となります。
そして、この種類の低収益性は性質(たち)が悪いのですが、この問題がなぜ性質(たち)が悪いかというと、それは債務者企業も自分たちでそのズレに全く気付いていないからです。
オペレーション上の問題は詰まっているボトルネックを見つければ改善はたやすいのですが、こちらのニーズからズレたタイプの場合には物理的に異常を感知できることがほぼできないのです。
したがって、データも参考にしながら自分なりの原因仮説を設定して検証を繰り返すことが必要になります。
そして、提供している商品やサービスが、世の中のニーズからズレている場合には、これも2種類のタイプがあって、単に見せ方、つまりコミュニケーションの方法がズレている場合と、商品やサービス自体のコンセプト自体がズレている場合があります。
さて、こういったことを考えて収益性低下の原因仮説を立てるのですが、その時に事業再生のアドバイザーに必須の知見がマーケティングなのです。
ビジネスそのものの再構築をすることが事業再生(=ターン・アラウンド)の原義なのですが、ビジネスのターン・アラウンド(=方向転換)を指導する際に必須の知見がマーケティングであり、その知見を身に付けてアドバイスできるのが、真の意味での事業再生アドバイザーです。
事業再生はビジネスの再生と財務の再生とからなると先に申し上げましたが、そのビジネスの再生を担う基礎的な知見がマーケティングです。
マーケティングの素養がないアドバイザーでは、先に述べた2つ目のタイプの収益性の低下の問題には全く対処できないどころか、その問題にさえ気付くことがありません。
気付けないのでどうするかといえば、全く本質的ではないオペレーションの問題を低収益性の原因にして、オペレーションの改善に時間を割いてみたり、ひどいアドバイザーになると、オペレーション上の問題にさえ気付かないで、固定費のカットだけに終始するという愚策に終始したりします。
事業再生アドバイザーの要件の2つ目にあげた、「社会的に価値ある商品やサービスを提供することのお手伝い」をすることができるためには、マーケティングの基礎的知見が不可欠であり、さらに言えば、そこにロジカル・シンキングとクリエイティブ・シンキングという再現性のある思考の体系を身に付けている必要があります。
経営改善と事業再生のちがいについては、下記の記事を参考になさってください。
経営改善と事業再生という2つの言葉はなんとなく同じことを指しているように見えるけど、意味が違うのかな?経営改善コンサルタントと事業再生コンサルタントも仕事の中身は違うのかな?こんなお悩みを抱えた経営者の方は必読です。
ターンアラウンドの本意については、下記の記事を参考になさってください。
日本で行われている事業再生と、欧米で盛んなターンアラウンドとは同じものなのかな。また、日本の専門家も欧米のターンアラウンド・マネージャーのような仕事ができるのかな。こんなことでお悩みの経営者の方は必読です。日本と欧米では大きく異なります。
債務者企業の収益力を回復させること
事業再生アドバイザーがなぜ請われて、債務者企業の再生プロジェクトに参加するかといえば、最終的な目標である「収益性の回復、もしくは収益性の飛躍」を実現することを求められるからに他なりません。
小泉・竹中時代の事業再生では、経営者の無駄な経費の私消などが目立つ企業も相当あり、経費のカット、固定費のカットも収益性の回復には一定の効果があったと思いますが、最近の再生案件の事例は、そもそも経費カットは債務者企業自身で行き着くところまで実施していて、それでも低収益に苦しんでいる企業がほとんどです。
そんな中で、アドバイザーがさらなる経費カットや固定費カットを実施しても、それは企業のキャパシティを削ぎ落すだけの愚策でしかありません。
固定費カットを収益性アップの柱に据えて再生実務を行うアドバイザーもまだまだ散見されますが、そのような本質的ではない課題に着目して無為に時間を遣うよりも、マーケティング思考を使って世の中のニーズに基づく生活者インサイトの発見に時間を割くべきでしょう。
そして、最終的に、世の中のニーズとのズレを修正して、最終的な目標である「収益性の回復、もしくは収益性の飛躍」を実現するのが本当の意味での事業再生アドバイザーの仕事なのです。
中小企業の事業再生のポイントについては、下記の記事を参考になさってください。
中小企業が事業再生に取り組む時に、経営者が念頭に置いておくべきポイントって何だろう。中小企業が事業再生のフェーズから抜け出すために必要なことって色々言われているけど、その道のプロの人からしたら、どんなポイントを押さえるべきなんだろう。
アドバイザーを選ぶ時のコツ
まず、再生実務に取り組むにあたっては、事業再生のプロフェッショナルのアドバイザーを選ぶことは必須だと思ってください。
経営者一人でやってやろうじゃないかって、その心意気は大好きですが、様々な意味で外部の知見を借りるべきでなのです。
財務の再生だけでなく、ビジネスの再生まで実施して、真の意味での事業再生を成し遂げるためには、経営者一人では全く不可能であるという自覚を経営者自身がまず持つことが必要であり、その上でプロフェッショナルなアドバイザーを探すべきでなのです。
なぜなら、「経営顧問」に関する記事でも書きましたが、人間が自分が見えていることなんて極めて矮小な世界でしかないからです。
広い視野で、高い視座で、複数の視点から俯瞰してあなたの会社のビジネスを診ることができる事業再生のプロフェッショナルであるアドバイザーを探さなくてはいけません。
経営顧問については、下記の記事を参考になさってください。
当社も経営顧問のような人を探して、何でも相談できるようにしないといけないな。デジタル化の波で経営環境も大きく変わっているのに、経営手法が昔から全く変わっていない当社はやばいでしょ。どんな人がいいのかな。こんな悩みにズバリお答えします。
すぐれたプロフェッショナルのアドバイザーを雇うには相応のコストがかかりますが、役に立たないアドバイザーを安く雇うことができたとしても、結果的には高くつくことは間違いありません。
また、事業再生に取組むにあたって発生するコストを超える収益力の増強を図ることができるならば、結果的にゼロ円でアドバイザーを雇ったことになるのですから。
そして、事業(ビジネス)そのものの構造改革まで行いうる事業再生アドバイザーを見つけることを望むならば、何らかのご縁で出会った再生実務のアドバイザーにたった1つだけ質問をしてみてください。
「あなたは、マーケティング思考を使って事業の再構築を図れますか?」と。
この答えに窮する事業再生のアドバイザーならば、他を探すことが賢明です。
マーケティング思考については、下記の記事を参考になさってください。
マーケティング思考という言葉を耳にする機会が増えたのだが、その内容は一体どういうモノなのだろう。ビジネス上の問題を解決するために役立つ思考法ならば、是非教えてほしいし、実践できるようになりたい。こんなお悩みを持つ経営者のために書きました。
事業再生に取組むにあたって相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に取り組むにあたって誰に相談すればいいのだろう。再生支援協議会に行くと会計士や税理士を紹介してもらえるそうだけど、それで本当に事業再生は成功するのかな?こんなお悩みをお抱えの経営者の方は必見です。誰に相談するべきかがわかります。
マーケティングの重要性については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生にマーケティングは必要じゃないのかな。再生のアドバイザーが銀行の紹介で入ってきたけど、どう見ても普通の税理士でマーケティングなんてできそうにないんだけど、本当に当社の再生はうまくいくのかな。こんなお悩みを抱えた経営者の方は必見です。