地域経済活性化支援機構(REVIC)とは、いったいどんな仕事をしている機関なのだろう。
地域経済の活性化に関わる仕事なんだろうけど、個別の企業の事業再生なんかも扱っているのだろうか。
扱っているのならば、他の私的整理の手続きとどのように違うのだろうか。
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、中小企業再生支援協議会ほど知名度も高くなくて身近でもないので、どういった仕事としているのか知らない経営者は多いですよね。
この記事を読むことで、地域経済活性化支援機構(REVIC)の業務内容がよく理解でき、その業務の1つである事業再生支援業務を知ることで、他の私的整理を扱う公的機関との比較がしやすくなり、実際に事業再生に取組む時の選択肢の1つとして比較検討する対象とすることができ、より適切な公的な支援先の選択ができるようになります。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、200社以上の再生案件に関与して、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が書きました。
地域経済活性化支援機構(REVIC)の功罪
結論から申し上げると、地域経済活性化支援機構の地域資源の再開発により、日本全国のあちこちに同じようなテイストの「魅力的な田舎」が誕生することで、新たなる「同質的な競争が」が生まれることになってしまい、旅行者数の増加を図る政策パッケージなしでは、どの「魅力的な田舎」へも旅行者数が大きく増えるとは思えない、片手落ちの施策ではないかという気がしてなりません。
株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)の進めている事業再生支援業務を通じた地域再生への取組は素晴らしいと思います。
株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)の取組によって、これまで手が入れられることのなかった地方の観光資源が魅力的に再開発され、新たな旅行者等の需要も生まれ、観光収入の増加を通じて地域経済が潤うことになることもあろうかと思います。
ところが、国内旅行に限って言うと、年間の1人当たり旅行回数の増加がなければ、ある地方への旅行は別の地方への旅行の犠牲の上に成り立っているのであり、ある地方の観光収入の増加は、別の地方の観光収入の減少を伴うわけです。
これを回避するためには、1人当たり年間旅行回数の増加が必要ですが、旅行回数の増加には、可処分所得の増加と余暇日数の増加が必須となります。
したがって、こういった課題に対する解決策なしに、各々の地域が観光資源の再開発を実施して、日本の至る地方が「魅力ある地方」化しても、日本全体のマクロ的な観光収入に変化はなく、地域間で不良債権飛ばしをしているに過ぎなくなります。
したがって、地域経済活性化支援機構(REVIC)のミクロ的な政策と同時に、日本人の可処分所得の増加と余暇日数の増加を実現する政策の実施を同時並行的に行う必要があるのです。
では、株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)の歴史を概観した後で、幅広い業務の内容を見ていきましょう。
地域経済活性化支援機構(REVIC)とは何か?
株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)は、株式会社地域経済活性化支援機構法に基づき設立された、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている中堅・中小企業、その他の事業者の事業再生を支援する官民ファンドです。
株式会社地域経済活性化支援機構は、英訳すれば「Regional Economy Vitalization Corporation of Japan」であり、頭文字をとって「REVIC」と呼ばれています。
地域経済活性化支援機構(REVIC)の資本金は、預金保険機構への政府及び金融機関からの出資・拠出金に基づく同機構からの出資等により組成されており、約131億円となっています。
また、地域経済活性化支援機構(REVIC)の事業遂行に必要な資金は、市中から政府保証付きで借入れを行うことにより調達しています。
地域経済活性化支援機構(REVIC)が設立された背景には、アメリカの大手投資会社のリーマン・ブラザーズの破綻に起因するリーマン・ショックによる世界的な急速かつ大幅な金融経済の悪化がありました。
日本でも、リーマン・ショックの影響を受けて地域経済が低迷しましたが、そんな中で地域経済の再建を図るために、地域において有用な経営資源を有しながら、過大な債務を負っている事業者の事業再生を支援することを目的として、「株式会社企業再生支援機構法」にもとづき、2009年10月に株式会社企業再生支援機構として設立されました。
株式会社企業再生支援機構は、設立から5年間で業務を完了することが意図されていた時限的な組織であり、設立から原則2年までに支援先を決定し(支援決定)、支援決定から3年以内の支援完了を目指していました。
これは、2003年に設立され、41社の再生支援を行って2007年に解散した産業再生機構を模範としており、同機構とほぼ同じ機能を持ち、金融機関からの債権の買取や出資、経営者の派遣も行っていました。
そして株式会社企業再生支援機構は、全国の中小企業などの事業再生支援に取り組んできました。
しかし、リーマン・ショックの尾を引いて地域経済の混迷が続く中、地域の再生現場の強化や地域経済の活性化に関する支援を推進していくことが喫緊の政策課題となったことを踏まえて、2013年3月に、事業再生支援にかかわる決定期限の5年の再延長や、それまでの事業再生支援の取組に加えて、地域経済の活性化に関する事業活動の支援を行うことをも目的とする支援機関への改組などが盛り込まれた法律の改正がなされました。
また、「株式会社企業再生支援機構法」から「株式会社地域経済活性化支援機構法」へ法律名の変更に伴い、商号を「株式会社地域経済活性化支援機構(REVIC)」に変更しました。
さらに、2014年5月には、事業再生や地域活性化の支援を効果的に進めていくことを目的とする機構法の改正がされ、同年10月に施行されました。
具体的には、再チャレンジ支援業務や、事業再生ファンド・地域活性化ファンドに対する無限責任組合員出資(ゼネラルパートナーとしてファンドの業務執行を行う。)等の業務が追加されました。
加えて、2018年5月には、昨今の地域経済をめぐる状況を鑑み、地域における総合的な経済力の向上を通じた地域経済の活性化を引き続き図るために、業務の一部期限を3年延長する機構法の改正がされました。
最後に、2020年6月には、新型コロナ・ウイルスの影響による地域経済の疲弊状況を勘案して、地域経済活性化支援機構(REVIC)の出資決定期限を2021年3月からさらに5年間延長して、2026年3月までとすることが決定されました。
5年という期間については、新型コロナ・ウイルスの影響がいつまで続くのか現時点では不透明であることに起因しています。
業務内容
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、先程述べたように地域経済の活性化を担うという使命を遂行するという観点から、その取扱業務の範囲を拡充し、現在では様々な業務を執り行うようになっています。
特定専門家派遣業務
(出典:REVIC特定専門家派遣業務より図を引用)
特定専門家派遣業務とは、地域経済活性化や事業再生に関して、専門的なノウハウを持つ地域経済活性化支援機構(REVIC)の人材を、そういった活動の地域における担い手である金融機関等やその支援・投資先である事業者に対して派遣する業務をいいます。
特定専門家派遣業務は、地域経済活性化支援機構(REVIC)が持っている知見やノウハウを移転・浸透することを目的とし、派遣される専門家は、金融機関等が行う事業性評価や事業者の課題解決に対するアドバイス等を行うものです。
また、地域経済活性化支援機構(REVIC)では、同機構にてこの業務を実際に体験できる「短期トレーニー制度」を設けています。
「短期トレーニー制度」は6か月間のプログラムで、事業性評価、事業再生等に必要な基礎研修を受けた後、地域経済活性化支援機構(REVIC)の専門家の指導を受けながら、実際に金融機関の取引先の事業性評価を行うOJTを受けることができるものです。
2019年3月31日時点で、特定専門家派遣を受けた地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、地域ファンド運営会社等の数は197社に上っており、多くの地域金融機関に対して、事業性評価の分析手法や融資先の業況改善に関するアドバイスを行っています。
活性化ファンド業務
(出典:REVIC活性化ファンド業務より図を引用)
活性化ファンド業務とは、地域の経済成長を牽引する事業者を支援するため、地域金融機関等と共同して、地域活性化ファンドの運営を行う業務をいいます。
ファンドの組成には上図の二つの方式があります。
どちらの場合も、活性化ファンドを地域金融機関等と共同で運営することで、地域経済活性化支援機構(REVIC)の持つノウハウを地域金融機関等に移転し、地域金融機関等の支援能力向上を涵養することにより、各々の地域における事業者に対する支援の質が向上することが期待されます。
活性化ファンド業務には、「観光産業支援ファンド」「ヘルスケア産業支援ファンド」「地域中核企業支援ファンド」「ベンチャー・成長企業支援ファンド」「災害復興・成長支援ファンド」があります。
観光産業支援ファンド
(出典:REVIC観光産業支援ファンドより図を引用)
地域経済の活性化のキーコンテンツとなりうるのは観光産業であろうことは疑う余地はありません。
各々の地域に特有の風光明媚な自然や歴史遺産、また地域の人々が培って積み上げてきた地域文化には、多くの生活者が興味を持っています。
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、活性化ファンドを通して、観光産業の事業者の成長を資金と人材の両面で支援しています。
昨今、生活者を取り巻く環境が大きく変化し、スマートフォン利用の常態化、ソーシャルメディア利用者の急増、爆発的なデジタル情報量の増大による流通情報量の爆発的増加、格安レンタカー、カーシェアリング、LCC等の移動コストの低下、モノ消費より体験消費への移行などが、観光客の消費ニーズをも大きく変えています。
そのため、地域で営業する観光事業者にはこうした生活者のニーズの変化に対応できる柔軟な思考力が求められる時代になっています。
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、観光産業に特化したマザーファンド及び各地域の活性化ファンドを運営しています。
地元の事業者には当たり前すぎて気付くことができないような新たな観光資源の掘り起こしや、大きく変わりつつある生活者の消費ニーズの変化に対応しようとする地域の観光事業者を、活性化ファンドを通して資金と人材の両面から支援しています。
ヘルスケア産業支援ファンド
(出典:REVICヘルスケア産業支援ファンドより図を引用)
世界に先駆けて進む日本の超高齢化社会では、医療サービスやヘルスケアサービスに対する需要は年々増加の一途を辿っています。
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、地域における包括ケアの成立と医療・ヘルスケア産業の振興を主な目的として、今後成長期を迎えるであろうこういった事業者に対して、事業を成長させるための資金の供給と役員の派遣、経営支援の両面でバックアップし、その成長を力強く後押ししています。
(出典:REVICヘルスケア産業支援ファンドより図を引用)
地域経済活性化支援機構(REVIC)のヘルスケア産業支援ファンドでは、事業者を点として支援するのではなく、地域における包括ケアの担い手である地域の中核医療機関や周辺事業者、セールス・マーケティングの強みを発揮する異業種の事業者等との連携を勘案し、医療サービスやヘルスケアサービスの事業者の成長を促しています。
地域中核企業支援ファンド
地域経済活性化のためには、地域経済を牽引する「地域中核企業」の成長が必要不可欠です。
地域経済活性化支援機構(REVIC)は地域中核企業のためのファンドを通じて、成長資金と経営支援人材を投入し、早期経営改善及び成長、もしくは再成長をバックアップし支援していま
(出典:REVIC地域収穫企業支援ファンドより図を引用)
地域経済活性化支援機構(REVIC)及びエスネットワークスが出資する、REVICパートナーズが地域中核企業支援ファンドを運営してします。
同ファンドの規模は290.5億円で、各々の地域の金融機関と連携し、専門的な知見を有する人材の供給を通じて、民間機能の補完及び償還型エクイティ性資本の提供を推進しています。
ベンチャー・成長企業支援ファンド
新しい産業分野を開拓するベンチャー企業の誕生や、これからまだまだ成長の余地がある地域企業の存在は、地域経済に大きな活力を与えることになります。
地域経済活性化支援機構(REVIC)はこうした「日本の未来、地域の未来」を支えるベンチャー・成長企業支援ファンドを各地域で運営し、成長に向けた経営支援をバックアップして支援しています。
(出典:REVICベンチャー・成長企業支援ファンドより図を引用)
地域経済においては、雇用増加を支える創業、ベンチャー企業、成長フェーズにある企業に対する支援体制が十分とは言えないことから、地域の大学や研究機関、もしくは企業が保有しているビジネスのポテンシャルが十分に発揮されていません。
各々の地域での創業及び、ベンチャー企業や成長フェーズにある企業の成長が停滞してしまうことは、地域における雇用の拡大と地域経済の停滞につながります。
(出典:REVICベンチャー・成長企業支援ファンドより図を引用)
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、地域の金融機関などのステーク・ホルダーと協調してベンチャー・成長企業支援ファンドを組成します。
例えば、地域の大学発の技術シーズに関する事業化を支援するファンド、地方公共団体の産業振興施策と連携する特定地域向けベンチャー支援ファンド、地域の金融機関と共同で地域内企業の成長支援を行うファンド等を組成します。
各々の地域単位での創業支援、地域内成長企業の支援を促すことで、創業・ベンチャー・成長企業に対する地域内における支援体制の構築を目指しています。
災害復興・成長支援ファンド
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、熊本地震、西日本豪雨災害及び令和元年台風等被害で被災された事業者、並びに新型コロナ・ウイルス感染症の影響により経営環境が悪化した事業者に対して、各ファンドからの必要資金の提供や人的支援等を通して、対象地域の早期の復興・再生を支援しています。
また、東日本大震災における被災地域の復興・成長ファンドへは、LP出資を行っています。
<事例1:熊本地震事業再生・復興支援ファンド>
(出典:REVIC災害復興・成長企業支援ファンドより図を引用)
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、熊本地震で被災された事業者を支援する事業再生ファンドや九州広域で直接的・間接的を問わず被災された事業者及び地域活性化に資する事業者、並びに新型コロナ・ウイルス感染症の影響により経営環境が悪化した事業者を支援するファンドの運営を行っています。
<事例2:西日本広域豪雨復興支援ファンド>
(出典:REVIC災害復興・成長企業支援ファンドより図を引用)
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、広島県、岡山県、愛媛県、福岡県、山口県、島根県、鳥取県、高知県、兵庫県、京都府、岐阜県、徳島県及び香川県に本店または主要事業拠点を有する、西日本豪雨災害により被災された事業者及び同地域の災害復興に資する事業者、並びに新型コロナ・ウイルス感染症の影響により経営環境が悪化した事業者を支援するファンドの運営を行います。
<事例3:令和元年台風及び新型コロナ・ウイルス等被害東日本広域復興支援ファンド>
(出典:REVIC災害復興・成長企業支援ファンドより図を引用)
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、岩手県、宮城県、福島県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、新潟県、山梨県、長野県、静岡県、北海道、青森県、秋田県及び山形県に本店または主要事業拠点を有する、台風等災害により被災された事業者及び同地域の災害復興に資する事業者、並びに新型コロナ・ウイルス感染症の影響により経営環境が悪化した事業者を支援するファンドの運営を行っています。
<事例4:近畿中部広域復興支援ファンド>
(出典:REVIC災害復興・成長企業支援ファンドより図を引用)
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、富山県、石川県、福井県、岐阜県、愛知県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県に本店または主要事業拠点を有する、新型コロナ・ウイルス感染症または災害の影響により経営環境が悪化した事業者及び地域再活性化に資する事業者を支援するファンドの運営を行っています。
<事例5:東日本大震災復興・成長支援ファンド>
(出典:REVIC災害復興・成長企業支援ファンドより図を引用)
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、株式会社日本政策投資銀行(以下、「DBJ」という。)及び株式会社岩手銀行、株式会社七十七銀行、株式会社東邦銀行(以下、「3地方銀行」という。)とともに2014年12月に震災復興・成長支援ファンドに出資しました。
本ファンドは、東日本大震災の復興が、生産設備の回復等といった復旧段階から、生産を再開した企業の販路新規開拓、複数企業の協働による産業競争力強化、インフラ整備・機能強化等の復興・成長段階へと移行しつつあることに対応したものであり、被災地域の復興・成長に資する事業を行う企業(他地域からの進出企業や新設企業も含む)に対して、劣後ローンや優先株等を活用したリスクマネーを提供することで、全国のモデルとなる先進的な取組みを促進し、地域の成長と活性化を支援しています。
また、リスクマネーの供給に加え、DBJ及び3地方銀行の持つネットワークやノウハウを活用したビジネスマッチングや事業化支援、ならびにREVICの持つ専門家派遣機能を活用した経営支援等にも注力し、事業者と被災地域の復興・成長支援に取り組んでいます。
ファンド出資業務(特定組合出資)
ファンド出資業務(特定組合出資)とは、地域活性化ファンドや事業再生ファンドに対し、LPとして出資を行う業務です。
地域経済活性化支援機構(REVIC)が出資を行い呼び水となることによって、民間によるリスクマネーの供給や地域経済活性化・事業再生支援の担い手である地域金融機関等の事業者に対する、地域経済の活性化・事業再生支援能力の向上も期待できます。
再チャレンジ支援業務(特定支援)
再チャレンジ支援業務(特定支援)とは、経営者保証の付いた貸付債権等を地域経済活性化支援機構(REVIC)が金融機関等から買取り、事業者の全ての金融債務の整理と「経営者保証に関するガイドライン」に沿った経営者個人の保証債務の整理を一体で行う業務です。
これによって、事業の継続が困難な事業者の円滑な市場からの退出を促し、経営者の再チャレンジや地域経済の新陳代謝を促します。
(出典:REVIC再チャレンジ支援業務より図を引用)
再チャレンジ支援業務の大まかなながれは下記の通りです。
①事前相談
主に事業者の取引金融機関(以下、「持込金融機関」という。)から最初の相談を受けていますが、事業者、代表者等保証人からの相談も可能です。
②資産査定/私財調査
事業者、代表者等保証人の特定支援活用の意向が確認できたら、守秘義務契約を締結の上、財産状況を開示する必要があります。
その後、地域経済活性化支援機構(REVIC)にて資産査定・私財調査を行い、弁済計画の策定を支援をします。
③支援決定/弁済計画合意
事業者、代表者等保証人及び持込金融機関の三者連名で特定支援申込み、特定支援決定を行います。その後、他の関係金融機関より弁済計画への合意を得るため、地域経済活性化支援機構(REVIC)が調整を行います。
④債務整理/保証解除
全金融機関の合意を得られた段階で、事業者の債務整理、代表者等保証人の保証解除等を行います。
再チャレンジ支援業務の要件は下記の通りです。
①三者連名での申込み
事業者、代表者等保証人及び持込金融機関の 三者連名での申込みが必要となります。
②過大な債務を負っている事業者の存在
事業者が過大な債務を負っている必要があります。
③一般債務等の⽀払能⼒
一般債務、租税債務、労働債務等の全額が支払い可能である必要があります。
④代表者等保証人の再チャレンジ表明
代表取締役等、事業の経営に重大な影響を与える保証人が必要です。
また、保証人には再チャレンジすることを表明する必要があります。
法的整理(自己破産)の場合には、一定の財産を失い、官報に記載され、信用情報が登録され、職業や資格取得制限がありますが、地域経済活性化支援機構(REVIC)のこの制度を利用することで、一定の財産を失うことはあるものの、保証人情報は非公開となり、再チャレンジをするための資金が確保できる可能性があります。
再チャレンジ支援業務(特定支援)を活用することにより、代表者等保証人は破産せずに金融機関に係る保証債務を整理することができるため、例えば、信用情報機関に登録されない、官報等で個人情報が公表されないなど、大きなメリットがあります。
また、事業者は、金融機関に対する債務以外の債務を支払うことができ、商取引先等の関係者に大きな影響を与えないというメリットもあります。
事業再生支援業務
事業再生支援業務とは、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている事業者について、事業再生計画に基づき、過大な債務の削減等を通じた財務の再構築や事業内容の見直しによる事業構造の再構築によって、競争力の回復と事業再生を支援する業務です。
(出典:REVIC事業再生支援業務より図を引用)
地域経済活性化支援機構(REVIC)の活用による事業再生支援業務には下記に記載する6つのメリットがあります。
①公的・中立的立場で利害調整を円滑化
地域経済活性化支援機構(REVIC)は公的・中立的な第三者であり、当事者だけでは難航しがちな金融債権者の間で生じる利害の調整等に対応できます。
また、債権回収の一時停止要請や債権の買取りを行い、事業再生計画の遂行をスムーズにすることができます。
②出資・融資による資金支援
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、金融機関等が有する貸出債権の買取りや事業者に対する出資・融資による資金提供を行うことができ、事業再生をより強力に推進できます。
③プロフェッショナル人材のノウハウ活用
地域経済活性化支援機構(REVIC)には、金融や事業再生、法務、会計等のプロフェッショナルが多く集結しており、案件に応じて、事業者に最適な人材を選定・派遣して、事業再生に関する助言・指導等の支援を行うことが可能です。
④事業者・金融機関双方の税負担軽減
地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生支援決定を受けて債務免除が行われた事業者は、評価損の損金算入及び期限切れ欠損金の優先控除が認められるので、債務免除益への課税を回避することができます。また、金融機関等は、債権放棄した金額を貸倒損失として損金の額に算入することができます。
⑤金融機関における債務者区分の改善
金融庁の監督指針において、地域経済活性化支援機構(REVIC)が策定支援する事業再生計画が、「実現可能性の高い抜本的な経営再建計画」と認められる場合は、当該事業再生計画に基づく貸出金は「貸出条件緩和債権」に該当しないものと判断して差し支えないとされているため、債務者区分の改善が期待できます。
⑥病院や学校を含む幅広い支援対象
地域経済活性化支援機構(REVIC)の支援対象先は、支援対象から除外される事業者(大規模事業者・地方三公社・第三セクター等)以外の全ての事業者が対象となります。
また、個人事業主を含め経営形態を問わず、病院や学校等を含む全ての業種が支援対象となるため、幅広い事業者の再生支援を行うことができます。
事業再生ファンド業務
(出典:REVIC事業再生ファンド業務より図を引用)
事業再生ファンド業務とは、地域経済活性化支援機構(REVIC)では、事業再生ファンドの運営を通じて、窮境にある事業者に対する貸付債権を金融機関から買い取るほか、再生に必要な新たな資金を社債や融資の形で提供する業務です。
従来から各都道府県で、事業再生ファンドは広く作られてきましたが、地域経済活性化支援機構(REVIC)はそれらが存在していない空白地域においてファンドを組成し、運営します。
再生支援対象事業者
支援対象となり得る事業者
①事業規模
「支援対象から除外される事業者1.大規模な事業者」を除く全ての事業者が支援対象になります。
②業種
全ての業種が対象となります。製造業、小売業、サービス業、建設業、運輸業等の各業種に加え、病院、学校等も支援対象になります。
③地域
全ての地域が対象となります。地方圏に限らず、東京や大阪等の都市圏の企業も支援対象になります。
④会社形態
株式会社だけでなく、持分会社、個人事業主、非営利法人も支援対象になります。また、社団法人、財団法人のような公益法人のほか、医療法人、社会福祉法人、学校法人等も広く支援対象になります。
支援対象から除外される事業者
①大規模な事業者
大規模な事業者とは、資本金の額又は出資の総額が5億円を超え、かつ、常時使用する従業員の数が1千人を超える事業者をいいます。大規模な事業者に該当する事業者は、原則として支援対象から除外されますが、下記(注)に記載しているように、主務大臣が認める事業者については、例外的に支援対象となり得ます。
(注)地域経済活性化支援機構(REVIC)による再生支援によって、事業の再生が図られなければ、その事業者のみならず地域全体における経済活動に著しい障害が生じ、地域経済全体が疲弊し、地域の信用秩序の維持や地域の雇用の状況に重大な影響を及ぼすおそれがあると主務大臣が認める事業者。
②地方三公社
地方住宅供給公社、地方道路公社及び土地開発公社は対象となりません。
③第三セクター
以下に該当する第三セクターについては対象となりません。
第三セクターとは、国や地方公共団体と民間が合同で出資・経営する企業をいいます。
・国又は地方公共団体が1/4以上を出資している法人(ただし、株式会社の場合、1/4以上の議決権を保有しない場合は除く。)
・国又は地方公共団体からの派遣職員等が役員の1/2超を占める法人
・国又は地方公共団体からの補助金、委託費等が収入の2/3以上を占める法人
・国又は地方公共団体がその子法人等と合わせて1/4以上を出資している法人(ただし、株式会社の場合、1/4以上の議決権を保有しない場合は除く。)
再生支援決定基準
地域経済活性化支援機構(REVIC)のによる再生支援の決定基準は下記のとおりです。
①有用な経営資源を有していること。
②過大な債務を負っていること。
③例えば、主要債権者との連名による申込みであること等、申込みに当たり事業再生の見込みがあると認められること。
④再生支援決定から5年以内に「生産性向上基準」(注1)及び「財務健全化基準」(注2)を満たすこと。
⑤機構が債権買取り、資金の貸付け、債務の保証又は出資を行う場合、支援決定から5年以内に申込事業者に係る債権又は株式等の処分が可能となる蓋然性が高いと見込まれること。
⑥機構が出資を行う場合、必要不可欠性、出資比率に応じたガバナンスの発揮、スポンサー等の協調投資等の見込み、回収の見込み等を満たすこと。
⑦労働組合等と話し合いを行うこと。
(注1) 「生産性向上基準」: 以下のいずれかを満たすことが必要とされています。
・自己資本当期純利益率が2%ポイント以上向上
・有形固定資産回転率が5%以上向上
・従業員1人当たり付加価値額が6%以上向上
・上記に相当する生産性の向上を示す他の指標の改善
(注2) 「財務健全化基準」: 以下のいずれも満たすことが必要とされています。
・有利子負債(資本性借入金がある場合は当該借入金を控除)のキャッシュフローに対する比率が10倍以内(キャッシュフロー=留保利益+減価償却費+引当金増減)
・経常収入が経常支出を上回ること
ここで挙げられている再生支援のための要件は、私的整理ガイドラインや中小企業再生支援協議会による再生支援基準と実質的には大きな差異はありません。
過剰債務を負ってはいるが、再生の可能性があることを求めていて、5年以内の数値基準のクリア(正常先となること)を求めている点は共通しています。
ただ、地域経済活性化支援機構(REVIC)は、時限立法によって設立された事業再生のための公的機関であることから、債権の買取や出資を行った場合にはスポンサーの確定する見込みがあることを要件としている点が大きく異なります。
また、「労働組合等と話し合いを行うこと」を要件としているのは、地域経済活性化支援機構(REVIC)の前身である企業再生支援機構の時代に支援を行った案件(日本航空)で、労働者のリストラを行って固定費の大きな圧縮を実施したことに対する世論の批判があったことを鑑みてのことだろうと推察されます。
このような再生支援決定基準をクリアした多くの企業が地域経済活性化支援機構(REVIC)の下で支援を受けつつ再生の途上にあります。
(出典:REVIC再生支援業務より図を引用)
2020年3月30日時点で再生支援が決まった案件数は112件あり、そのうち売上高が30億円未満の企業が58.0%と半数以上を占めており、中小企業を中心に支援決定されていることがわかります。
他の準則型私的整理の手続きとの相違
地域経済活性化支援機構(REVIC)の事業再生支援は、一般商事債権者を除外し、原則として金融債権者のみによる金融支援を行う、私的整理手続きの1つです。
他の私的整理手続きによる事業再生と比べた地域経済活性化支援機構(REVIC)の事業再生支援の最大の特徴・メリットは以下の2点です。
(1)地域経済活性化支援機構(REVIC)が主体となって金融機関調整を行うこと
地域経済活性化支援機構(REVIC)、持込金融機関及び対象事業者で支援内容を固め、再生支援決定を行った後、地域経済活性化支援機構(REVIC)が関係金融機関へ事業再生計画を送付します。
その後、地域経済活性化支援機構(REVIC)と関係金融機関との間で調整等を行い、地域経済活性化支援機構(REVIC)に対して、関係金融機関から事業再生計画への同意等に関する回答書を提出することにより、債権者の合意形成を図ります。
私的整理ガイドラインや中小企業再生支援協議会スキームの場合などは、債権者によるバンクミーティングによって、すべての金融債権者の合意を図りますが、地域経済活性化支援機構(REVIC)が扱う案件の場合には、バンクミーティング等の会議を持つことはありません。
(2)資金供給機能及び経営人材のハンズオン支援
地域経済活性化支援機構(REVIC)は必要に応じて、銀行等の債権者から債権の買取り、債務者に対する出融資等の資金支援や、経営に精通した人材の派遣(ハンズオン)等による人材支援を行うことができるなど、事業再生に必要な機能を包括的に備えており、債務者企業の事業再生を総合的に支援することが可能です。
以下に、他の準則型の私的整理手続きの異同をまとめておきます。
私的整理ガイドライン | 中小企業再生支援協議会 | 事業再生ADR | REVIC | |
対象 | 限定なし | 中小企業のみ | 限定なし | 限定なし(※注) |
申立者 | 債務者(主要債権者を通じて) | 債務者(債権者を通じても可) | 債務者 | 債務者及び債権者の連名 |
対象債権者 | 原則として金融債権者のみ | 原則として金融債権者のみ | 原則として金融債権者のみ | 原則として金融債権者のみ |
調整主体 | 主要債権者(メイン銀行) | 中小企業企業再生支援協議会 | 代理人弁護士 | REVIC |
(手続実施者) | ||||
金融調整の進め方 | バンクミーティングの場で、各金融債権者の意見を調整 | バンクミーティングの場で、各金融債権者の意見を調整 | バンクミーティングの場で、各金融債権者の意見を調整 | 支援決定された事業再生計画に基づき、REVICが各金融債権者と個別に調整 |
計画検証主体 | 主要債権者、 事業再生アドバイザー等 |
統括責任者または 専門家(弁護士、会計士等) |
代理人弁護士 | REVIC |
(手続実施者) | ||||
計画の成立要件 | 全員同意 | 全員同意 | 全員同意 | 全員同意 |
債権買取・貸付/出資機能 | 無し | 無し(中小企業再生ファンドと連携) | 無し | 有り |
公表義務 | 無し | 無し | 無し | 無し (ただし、大企業は有り) |
私的整理ガイドライン、中小企業再生支援協議会、事業再生ADR、整理回収機構(RCC)については下記の記事を参考になさってください。
私的整理ガイドラインという事業再生のバイブルと呼ばれているものがあるらしいのだが、読んだこともないのでその内容を教えてほしい。その他の私的整理手続きには中小企業再生支援協議会スキームなどがあるが、それらとの違いについても併せて知りたい。
中小企業再生支援協議会を利用して経営改善計画の策定と金融機関調整を行いたいとメイン銀行から提案されたが、中小企業再生支援協議会は具体的に何をしてくれる機関なのだろう。事前に知ることで、来る事業再生に備えたい。こんな経営者の悩みに答えます。
事業再生ADRをググってみたら、どの記事にも法的整理と私的整理の各々のメリットを取り込んだとてもいい手続きだと書いてあるが、本当かな。我社のような中小企業でも事業再生ADRって使えるのかな。こんなことでお悩みの経営者の方は必見です。
整理回収機能(RCC)は、昔ほど名前をきかなくなったが、今でも業務を行っているのだろうか?昔は整理回収機構(RCC)といえば、できるだけ多く回収して倒産の追い込むというような悪いイメージしかなかったけど、実のところどうなんだろうか。
REVICの問題点
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、個別の企業の事業再生のみならず地域全体の再生までも目指した、これまでにない再生業務を目指している公的機関です。
これまで民間事業者ではリスクが高くてなしえなかった地域経済への投資を行い、地域経済の疲弊に対して人を呼び込める観光資源の再開発等にまで踏み込んで実施し、地域経済の復興を目指しています。
取組自体は非常に素晴らしく、各々の地域の地域資源を生かしながら、地域再生の肝である観光資源の開発を上手くマネージしていると考えられます。
地域経済活性化支援機構(REVIC)の対象とする地域は幅広く、これまで地域ファンドが組成されていなかった地域にまで活性化ファンドを組成して、投資等を行い、各々の地域には、これまであった地域独特の建築物のリノベーション等によって、観光地としての魅力を取り戻しつつあります。
こういった取組はミクロの視点から見れば誠に素晴らしく、そういった魅力的な観光資源が再開発されたことで、新たな旅行者等の需要も生まれ、地域にはこれまでなかった人の流れが生まれて、観光収入の増加を通じて地域経済が潤うことになるのは間違いないでしょう。
ところが、観光旅行をする人からすれば、幾つもの旅行先候補からある場所を選択し旅行するわけで、この旅行者の年間の旅行回数がそうそう増えるわけではありません。
つまり、旅行回数を不変とするならば、新しい地方への旅行は、別の地方への旅行の回避という犠牲の上に成り立っているのです。
旅行回数の増加には、可処分所得の増加と余暇日数の増加が必須と思われますが、こういった課題に対する解決策なしに、各々の地域が観光資源の再開発を実施して、日本のいたるところが地方が「魅力ある地方」化してしまうと、どのようなことが起こるでしょうか。
これまでの旅行先は従前のように選択されなくなってしまい、その地域の事業者の収益が低下してしまうことになります。
結局、事業再生っていうのは、全体の需要の増加を伴わなければ、不良債権の飛ばしを地域間や事業者間で行っていることに他ならないのです。
全体需要が一定の下で、各々の地域の魅力競争をしても、際限のない「同質的な地域間魅力競争」に陥るのではないでしょうか。
したがって、地域経済活性化支援機構(REVIC)のミクロ的な政策と同時に、日本人の可処分所得の増加と余暇日数の増加を実現する政策提言とその実施、インバウンド需要のさらなる拡大を同時に実施するべきだと思うのです。
地域経済活性化支援機構(REVIC)が抱える官民ファンドとしての問題点については下記の記事を参考になさってください。
官民ファンドか、民間ファンドか、事業再生ファンドを選べるとしたらあなたはどちらを選びますか?同じ事業再生ファンドといっても、官民ファンドと民間ファンドではずいぶんと異なる点があります。そのあたりを抑えておくことも経営者としては必要ですね。
サービサーについては下記の記事を参考になさってください。
サービサーってよく耳にする言葉だけど、事業再生においていったいどんな役割を果たしているプレーヤーなのかよくわからない。サービサーが再生実務に置いて果たしている役割について詳しく教えてほしい。こんなお悩みをお持ちの経営者の方向けの記事です。
事業再生ファンドについては下記の記事を参考になさってください。
事業再生ファンドに債権を譲渡されてしまった場合に、もうこれでおしまいだと事業再生を諦めてしまう経営者もいまだに多いようですが、それは大きな誤解です。再生ファンドへ債権が譲渡されたら、自社の再生が成功する確率がぐんと上がったと喜ぶべきなのです。
事業再生ファンド等への債権の譲渡価格の決まり方については下記の記事を参考になさってください。
銀行からサービサーや事業再生ファンドへ債権が譲渡される時に、その債権評価はいったいどのように行われているのだろう。安く買っているのは想像がつくけど、評価方法を知って債権の売却額の概算を算定できれば、サービサーとも上手に交渉できて有利だよね。