ターンアラウンドって事業再生のことをいうらしいのだけど、ターンアラウンドって本来どのような意味を持つ言葉なのだろう。
そして、日本において行われている再生の実務は、本来の意味でのターンアラウンドと呼んでいいのだろうか。
そこで、この記事では、ターンアラウンドについて深く考えてみようと思います。
この記事を読むことで日本の、特に中小企業レベルで実施されている事業再生が、本来の事業再生=ターンアラウンドの意味からどれだけ乖離しているかがよく理解できます。
本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、200社超の事業再生案件に関わって、マーケティングと管理会計と組織再編の力で再生に導いてきたターンアラウンドのプロである公認会計士が書きました。
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ターンアラウンドとは何か?
ターンアラウンドを英語表記すれば「turn around」となります。
動詞で遣うと「ふりむく」と言う意味となり、他にも「意見を変える」、「回転する」、「(事態が)好転する」といった意味にもなります。
また、名詞で遣うと「方向転換」の意味となります。
さらに、ビジネスの世界で「turn around=ターンアラウンド」というと、「業績が回復する」という意味で遣われ、「損失から利益への転換」を意味し、日本語訳の「事業再生」という意味合いの言葉になります。
欧米では「turn around=ターンアラウンド」と似た言葉に「work out=ワークアウト」と呼ばれるものがあります。
これは1980年代に当時GE(General Electric)のCEOを務めたジャック・ウェルチが社内で業績改善を実践する中で名付けた言葉で、部署間や役職の有無の壁を越えて現場参加型で問題解決、業務改善を行う手法のことを指し、比較的短期に結果を求める業況改善のための手法です。
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「turn around=ターンアラウンド」は「work out=ワークアウト」とは異なり、短期的に改善を実施して結果を出すという位置づけにはなく、もっとビジネスの本質的な部分にまで踏み込んで、会社のビジネス構造自体を大きく変革することまでも含意しています。
つまり、「ターンアラウンド=事業再生」とは小手先の改善の積み重ねだけではなく、生活者の頭の中におけるポジショニングの変更や、戦略そのものの変更にまで踏み込んで変革を求める言葉であるのです。
会社ビジネスの構造的な転換まで踏み込んで改革を実施する中心となる人物を「turn around manager=ターンアラウンド・マネージャー」と呼び、欧米では尊敬の念で見られる存在です。
通常社内にはそのような人は存在せず、特別な専門職として社外から招聘されるのが通例です。
ターンアラウンド・マネージャーは、戦略、マーケティング、オペレーション、ファイナンス、アカウンティング等、ビジネスの再生に必要なあらゆる知見を有し、専門職として多くの修羅場を経験しており、知見と経験を兼ね備えた稀有な存在です。
会社が窮境に立たされると社外からターンアラウンド・マネージャーが招聘され、半年ほどその会社に入り込んで調査、現場スタッフとのディスカッション等を通じ、戦略の再構築を行い、マーケティングを使って会社の再生する道筋を描きます。
その内容は事業面から営業、財務、組織構造に至るまで多岐にわたります。
その後ようやくバンクミーティングが開催されて、金融機関に対する支援の要請が具体的に行われます。
この間の運転資金の不足分は、金融機関によってDipファイナンスとして資金提供されるのが通例で、その後万が一法的整理(chapter11=日本の民事再生に該当)に移行しても、その部分は共益債権として優先的に弁済されることが通例となっています。
このように欧米の「ターンアラウンド=事業再生」は、ターンアラウンド・マネージャーが半年間会社に入り込んで、事業そのものの再建の可能性を見極め、可能性があればどういった方向で会社を構造的に蘇らせるのかを徹底的に検討し、その後に資金の提供者である金融機関とファイナンスの詰めを行うという実務の流れが定着しています。
このような、事業そのものの抜本的構造変換を伴うものこそが、「ターンアラウンド=事業再生」と呼ばれるものなのです。
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日本の事業再生の本質
日本において一般に事業再生と呼ばれているもの、特に中小企業に対して実施されている再生実務とは一体どういったものなのかを考えてみましょう。
日本には、ターンアラウンド・マネージャーと呼ばれる職にある人は欧米に比べると極端に少なく、存在したとしてもそういった人は大企業のターンアラウンド向けの人材であり、中小企業にはそのような人とは全くご縁がないのが普通です。
日本の中小企業の場合、メイン銀行が主導して事業再生が実施されるわけですが、多くの場合、中小企業再生支援協議会に持ち込まれて、そこから紹介される認定支援機関に登録している税務の専門家の税理士や、会計・監査の専門家の公認会計士に、再建計画書の作成が依頼されることになります。
そのクライアントに入って調査をする税理士や公認会計士が、欧米のターンアラウンド・マネージャー並みの調査力、戦略立案力、マーケティング力、事業構想力があるかというと、全くそのような知見を有していないので、欧米でいうところの「ターンアラウンド=事業再生」を実施することなど全くできていないわけです。
実施できるのは概ね、無駄な固定費の削減、不要不急の固定資産の売却だけであり、欧米でいうところの「work out=ワークアウト」の入口程度のものでしかありません。
本来の意味での「ターンアラウンド=事業再生」は、赤字を黒字に転換し、戦略を大きく転換し、事業構造を大きく変えて、生活者の頭の中を大きくリポジショニングすることまでを含む概念です。
日本の中小企業の再生実務に関わっている専門家の力量は、現状では全くそのレベルから程遠いことは、再生の現場にいる関係者全員が肌で感じていることではないでしょうか。
そして、金融機関が債務者企業を資金面でサポートする際に避けて通れない行内の稟議で必要な「再建計画書」を見栄えよく作成することが、彼ら認定支援機関の主たる仕事であり、事業にかかわる抜本的な方向転換や構造改革を含んだ内容はどこにもないという空虚な「再建計画書」が作成されるわけです。
また、こういった空虚な「再建計画書」を作成することをもって「事業再生」だと勘違いしている士業の先生方はまだまだたくさんおられます。
事業再生は「turn around=ターンアラウンド」であって、再建計画書の策定自体を指す言葉ではありません。
このように中小企業レベルで実施されている事業再生は、マーケティングや戦略論という専門的な知見を基礎として分析され、生活者の頭の中でのポジショニングの変更を伴うようなリポジショニングからは程遠いものとなっています。
本来のターンアラウンドの意味は、小手先の改善の積み重ねだけではなく、生活者の頭の中におけるポジショニングの変更や、戦略そのものの変更にまで踏み込んで変革を求める言葉であるのです。
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日本の事業再生をターン・アラウンドとするために
日本で、特に中小企業の再生実務の現場で実施されている再生の実務では、一時的な資金手当てを実施しているにすぎず、ターンアラウンドとは程遠いものとなっています。
認定支援機関に登録している一般の会計士や税理士が中心となって、形式的な経営改善計画書を策定し、この計画書を拠りどころとして金融機関が様々な金融支援を行います。
計画書の形式性ばかりが重視されて、肝心の事業構造の転換などのビジネスの改革を伴わない計画書では、事業そのものの方向転換、つまりはターンアラウンドなどできないわけです。
このような形式的計画書を拠り所にして、金融機関は資金的な支援を実行するわけですが、このような方法で一時的に資金繰りがよくなっても、根本的な問題が解決されていないので、早晩再び資金繰りが逼迫する状態になる債務者企業が後を絶たないのです。
2016年に金融庁長官が森長官となって以降、金融庁による金融機関の有する不良債権のチェックは終了し、亀井静香代議士の主導したモラトリアム法(中小企業金融円滑化法)の名残で、現在多くの中小企業に資金が多く流れ、不良債権が見えにくくなっています。
隠れ不良債権の存在については、下記の記事を参考になさってください。
信用保証協会の代位弁済率と保証承諾数の推移を見ると、どんなことが言えるのだろう。コロナ禍で、多くの中小企業が資金繰りに追われ、承諾数が大きく増加していることは間違いないが、膨れ上がった融資残高に対して金融庁はどんな方針でいるのだろう。
バブルの後遺症で増加した不良債権処理の一掃に10年以上かかった過去を持つ我国ですが、森長官以降の金融庁の方針の大転換によって、不良債権の把握ができなくなっています。
金融検査マニュアルが厳格に機能していた時代には、債務者区分の低い債務者には融資などできなかったものが、現在では実抜計画や合実計画などの形式的要件を満たすことで、債務者区分をランクアップさせてまで融資が可能な状況を作り出しているような始末です。
実抜計画と合実計画にについては、下記の記事を参考になさってください。
実抜計画と合実計画という2つの経営改善計画があるらしいが、各々どのような違いがあるのか、また、どんな場面でその策定が求められるのか、さらには、これらの計画を策定することで何かメリットがあれば合わせて教えてほしい。こんな疑問にお答えします。
今回のコロナ禍で金融債務の総額が大きく膨らんだ中堅・中小企業はとても多いのですが、収益力が今後大きく伸びることが期待できない中で、その返済に窮する事態が早晩訪れることは目に見えており、ターンアラウンドを必要とする中堅・中小企業がこれからどんどん顕在化するものと思われます。
万が一、そのような事態になり事業再生に取組む場合には、できるだけ早く専門家に相談するに越したことはありません。
事業再生に取組むにあたって、相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。
事業再生に取り組むにあたって誰に相談すればいいのだろう。再生支援協議会に行くと会計士や税理士を紹介してもらえるそうだけど、それで本当に事業再生は成功するのかな?こんなお悩みをお抱えの経営者の方は必見です。誰に相談するべきかがわかります。
そういった場合に備えて、中小企業の一番身近な専門家である多くの税理士や公認会計士が、マーケティングや戦略的な思考能力を身につけて、ターンアラウンド・マネージャーとして中小企業に対するビジネスの指導が実効性あるものにしておきたいものです。
当社では、ビジネスのデザインができる、つまりは、ビジネスの事業構造改革にまで踏み込んで検討できる会計専門家や経営者の養成も行っています。
詳しくは、「問題解決倶楽部」まで。