経営破綻と事業再生との関係【その峻別は市場の効率化にも影響】

経営破綻した会社が事業再生に取り組むって話を新聞報道をよく見かけるが、経営破綻したら必ず事業再生に取り組んでもらえるんだろうか・・・そもそも経営破綻ってどんな状態をいうんだろう。倒産とは違うのかな。
うちの会社も経営破綻したり倒産したりしたら、事業再生で助けてほしいな。

こんなことを考えている経営者の方も中にはいらっしゃるかもしれませんね。

本記事を読むことで経営破綻とはいったいどういう状態なのか、経営破綻の状態になったら必ず事業再生に取り組んでもらえるのかどうか、経営破綻を回避する方法などが理解できます。

本記事は、中堅・中小企業の事業再生にたずさわって20年以上、200社超の事業再生案件に関わって、マーケティング、管理会計、組織再編の力で再生に導いた事業再生のプロである公認会計士が解説します。

経営破綻とは何か?

経営破綻とは何か?「経営破綻」と言う言葉は法律用語ではなく、明確な定義がなされている言葉ではありません。

「破綻」の「破」は形が壊れることや物事が立ち行かなくなること、「綻」は縫い目がほどけることを意味しますので、「破綻」は修復ができないほどにうまくいかなくなることを意味します。
従って、「経営破綻」とは経営が修復できないほど行き詰ってしまった状態をいいます。

では、経営が修復できないほど行き詰ってしまった状態とはどんな状態をいうのでしょうか。
それは資金繰りに窮してしまった状態です。

明日仕入先に支払わないといけない買掛金の決済のめどが立たないとか、明日の銀行への借入金の返済の引き落としができないなど、資金が逼迫してその支払いができなくなった状態、もしくは近いうちにそうなる可能性が極めて高い状態が、実質的な経営破綻の状態です。

銀行の債務者区分を表す言葉に「実質破綻先」というものがありますが、これは法的・形式的な経営破綻の事実は発生していないものの、深刻な経営難の状態にあり、再建の見通しがない状況になると認められるなど実質的に経営破綻に陥っている債務者のことをいいます。

ここでいう深刻な経営難の状態というのは資金繰りが破綻している状態、もしくは、近いうちに破綻する可能性が極めて高い状態をいうものと解されます。

債務超過額が大きいと実質的に経営破綻しているという言われ方をすることもありますが、債務超過額がどれだけ大きくてもキャッシュが回っている間は経営を続けることはできますよね。したがって、たとえ債務超過の額が大きくても、資金が回ってビジネスを展開できている間は経営破綻しているとは言えないのです。

事業再生における債務超過の取り扱いについては、下記の記事を参考になさってください。

また、法的・形式的に経営破綻の事実が発生した状態、つまりは、裁判所に対して代理人の弁護士が破産の申立、特別清算の申立、会社更生法手続きや民事再生手続きの申立等を行い、倒産手続きが開始された場合には、実質的な経営破綻の状態、つまりは自力で資金繰りが回せない状態になっている、もしくは近い将来にそうなる可能性が高いという条件をを満たしていますから、こういった場合は経営破綻していると言えます。

廃業手続きを賢くする方法については、下記の記事を参考にされてください。

経営破綻にある企業はすべて事業再生の対象になるのか?

経営破綻にある企業はすべて事業再生の対象になるのか?結論から申し上げると、全ての経営破綻している(しそうな)企業が事業再生の対象になるわけではありません。

経営破綻に陥った原因が過剰な債務を背負っていることにあって、事業そのものは棄損しておらず一定の収益力もあるような企業の場合には、その有する事業は事業再生の対象となる可能性は高いものと考えられます。

一定の収益力があるということは、その企業の提供する商品やサービスが世の中から必要とされているという証であり、世の中に対して何らかの価値を提供できているわけですから、こういった企業の有する事業をそのまま破綻させてしまうことは社会的にも大きな損失であると考えられるからです。

また、そういった世の中に価値を提供できている事業に携わっている従業員は、価値の創出に大きく貢献できているわけなので、彼らの雇用も確保してその仕事が世の中に残るようにするべきだからという点も考慮されるべきでしょう。

また、経営破綻に至った企業の有する事業について、現状は赤字の事業なのだけれども、戦略転換を行ったり、商品やサービスの市場におけるポジショニングを転換させることや、商品やサービスのカテゴリー・チェンジを実施するような、既存ビジネスの大きな方向転換(ターン・アラウンド)を実施することで、黒字に転換できるような事業の場合には、やはり事業価値があって世の中に貢献できる事業と考えられるので、事業再生の手を借りて事業を存続させるべきということになります。

反対に、現状赤字であって、どのような戦略の転換を図っても、外部環境が大きく変化してしまっていて、世の中の生活者の潜在ニーズはもちろん、顕在ニーズにさえ合致させることが難しい事業に対しては、事業再生という名のもとにニューマネーを手当てしてまで延命を図ることは慎まねばなりません。

なぜなら、社会に何らかの価値を提供できない事業は、もはや存在意義がなく、早期に市場から退出させて、経営者には別の新しい事業で再チャレンジしてもらうことのほうが、社会全体の資源配分を考えると望ましいからです。

したがって、そのような企業は早期に経営破綻させて市場から退出して頂き、経営者には新しいビジネスで再起を図って頂くことが社会厚生的にも望ましいわけです。

事業再生の対象となる会社の要件についての詳細は、下記の記事を参考になさってください。

事業再生の対象企業の選択の問題

事業再生の対象企業の選択の問題経営破綻に至った(至りそうな)企業の有する事業について、事業再生の対象とするかしないかの選択に関する問題としては以下の2点が考えられます。

事業再生の対象とするべき事業が切り捨てられている可能性

赤字の事業であっても、戦略転換を行ったり、商品やサービスの市場におけるリ・ポジショニング、あるいは、カテゴリー・チェンジを行うことで、既存ビジネスの大きな方向転換(ターン・アラウンド)が可能な場合には、一気に黒字化を図ることも可能なわけですが、この目利きができる専門家が再生実務に関わっている者の中でどれくらいいるかがはなはだ疑問です。

最初に相談した相手が、マーケティングなどの知見には疎い弁護士であったりすると、赤字で見込みがないと判断して破産手続きへ移行させてしまうような例も多くあるのではないでしょうか。
つまり、本来であれば事業再生を実施して社会に価値を提供し続けるべき企業が、相談した相手の見識のなさから経営破綻に追い込まれているケースも少なからずあるということです。

事業再生における弁護士の役割については、下記の記事を参考になさってください。

商品やサービスのリ・ポジショにングを行うということは、その市場で一般的となっている競争軸の転換を図るわけですが、この新しい競争軸は一般の生活者さえも自分自身では気づいていないようなインサイトに基づくものである場合が多いので、そういった新しい切り口を見つけ出す作業はマーケティングに造詣が深い専門家にしかできません。

事業再生は会計や税務や法律という偏った専門領域の知識とスキルで進めるものではありません。
もちろん、そういった専門分野の知識とスキルが特定の場面では必要であることは間違いありませんが、その分野だけで再生の実務にあたることは本当にやめるべきです。

事業再生に必要な知識とスキルについては、下記の記事を参考になさってください。

事業再生の対象とするべきでない事業を延命させている可能性

リーマン・ショックを契機として中小企業の資金繰りを支援するために当時の亀井静香金融担当大臣の肝入りで「中小企業金融円滑化法(通称:モラトリアム法)」が、2009年12月に立法化されました。

この法律は金融機関が融資先に対して返済猶予や金利の減免などを通じて中小企業の返済負担を軽減し、中小企業の資金繰りを支援するもので、多くの中小企業が返済の猶予等を金融機関に要請を行いました。

もっともその判断は各々の金融機関の判断に委ねられたものの、金融庁が各金融機関にその実施状況の報告義務を課したために、同法の実行率は95%に達し、ほぼ無条件で融資先からの要請に応じたものとなりました。

したがって、多くの中小企業が経営破綻を回避できたという点で評価されるべき立法でしょう。

モラトリアム法自体は2013年3月で終了しましたが、金融庁はその後も実施状況の報告義務を課しましたので、実質的に同法は延長されたと言っても過言ではない状態が続きました。

その後、2016年に森長官が金融庁のトップに就かれて以降、金融行政は大きく変貌しました。
それまでは、当局による検査を想定した自己査定なるものを金融機関が自ら行って、不良債権を一掃することを金融行政の柱と位置付けられてきました。
小泉・竹中路線がずっと踏襲されてきたわけです。

ところが森長官に代わって、不良債権処理はひと段落着いたとの認識のもと、中小企業の事業そのものの支援を一層深く実施することを金融庁は各金融機関に求めました。

こういった森長官の打ち出した金融行政と、それまで実質的に延長されたといっても過言ではないモラトリアム法の影響の中で、必要以上の資金が中小企業に流れ込んでいます。

モラトリアム法の下での同法の実行率が95%に上ったという事実、また同法終了後も金融機関に対する要請の90%以上に応じたという事実は、本来であれば資金繰りの逼迫から経営破綻をきたして市場から退場しておくべきであった企業が多く市場内にとどまり、現在では経営破綻予備軍として待機しているような状況だと推察されます。

この期間内に再生支援協議会などの手を借りて、事業再生に取り組んだ企業の中には経営破綻をきたして市場から退出するべきであった企業が多く含まれていたことと思われます。

金融庁の監督という御旗の元、市場機能によって淘汰されるべきであった企業がゾンビのごとく生きながらえていることは、今後再び小泉・竹中路線に再帰する可能性も少なからずあるのだろうと思われるのです。

生産性の低い企業が生きながらえて、生産性の高い企業の足を引っ張ることがあってはなりません。

本来であれば資金繰りの逼迫から経営破綻し、市場から退出するべき企業が延命措置を施されて市場に残っていると、大方のそういった企業に競争力はありませんから、価格を引き下げて価格競争に打って出る他ありません。

そうなると、市場全体が値崩れを起こし、本来であれば今後市場をリードするべき企業であったはずの足を引っ張ることになります。

また、モラトリアム法には、10年以内に経営の改善が見込めるような再建計画を作れば、返済条件を変えても不良債権として扱われないというルールが存在していました。
そうであれば貸倒引当金を積んでP/Lを傷めることもないので、金融機関にとっては渡りに船の法律だったわけです。

その間、金融機関の目利き能力、審査能力は確実に衰えていったことと思われます。
こういった目利き能力の低下が、さらなる不要な融資の積み上げに拍車をかけてゾンビ企業を生きながらえさせるのです。

モラトリアム法のおかげで、経営破綻をまぬがれて息を吹き返し健全な経営状態に戻った企業も少なからずあったことでしょう。

ところが、モラトリアム法は金融業界の与信機能を衰弱化させ、退場するべきであった多くの企業を市場内に留めてしまった結果、市場の新陳代謝を遅らせて、中長期的にみた日本の競争力をそぐ結果になってしまったともいえるのではないかと思います。

モラトリアム法については、下記の記事を参考になさってください。

隠れ不良債権の存在については、下記の記事を参考になさってください。

経営破綻を回避する方法

経営破綻を回避する方法一旦経営破綻の状況になると、再生させるべきかそのまま破綻させるべきかの峻別を、銀行員や一般の士業の先生方が行うことになるので、市場の効率性を歪める決定をしてしまう可能性が生まれることになります。

したがって、経営者は経営破綻の状況に至らないように日々学びを続けて経営の舵取りを行って頂く必要があります。

しかしながら、経営破綻を回避できるテクニック的なものは何も存在しません。
一方、以下の事項を実施して頂けると、経営破綻に至る可能性は格段に低くなると断言できます。

学び続けること

失礼ながら、日本の中小企業の経営者は本当に勉強をしません。
多くの企業、多くの経営者を見てきましたが、びっくりするくらい自ら学ぼうとしないです。

たまに研修などを受けることが好きな経営者を見かけますが、多忙なこともあってか、研修を受けっぱなしで、研修後に復習して自分の頭で考える時間を持つことがないですよね。
一か月もすればほぼすべて忘れてしまって、研修を受けた時間が全くの無駄になってしまっています。
勿体ないったらありませんね。

経営の実践を教科書通りに実直にやることはとても大事なことです。
机上の学びと実践は違うなどと言い切って、全く学ばない経営者も多いですが、これは明らかに間違っています。

抽象的な机上の学問など学んでも、実際の経営には役立たないと言って憚らない経営者たちは、単に抽象的な概念を具体化して、現実の自分のビジネスの場面に落とし込むという「具体化」という思考ができないだけです。
人間にのみ与えられた「具体⇔抽象」という思考方法を放棄して、自分は頭が悪いと公言しているようなものなのです。

様々な理論を学んでいく中で自分なりの思考方法が頭の中で整理されて、物事を論理的に考える力は着実についていきます。
そのロジックに従って実践をすれば外した時にもその原因を理解できるので修正も早いものなのです。
学び続けることからすべては始まるのだし、学ばない人には転機はやってこないのです。

すぐに相談できる経営参謀を持つこと

客観的に経営を見てくれて、適切な質問であなたの頭を揺さぶってくれる経営参謀をそばに置くべきです。

上記で学び続けることと言いましたが、自分が不得意なこともあるでしょうから、自分で答えが見つからないこともあるはずです。

そんな時に、適切な質問で課題を見つけさせてくれるメンター的な経営参謀を持つべき時代です。
自分がうまくアイデアを引き出せるように、上手に質問を繰り返してくれるメンター的な参謀が望ましいと思います。

自ら進んで学び続けること、すぐに相談できる経営参謀をそばに置いておくことは、経営破綻を回避してこれからの激動の時代を乗り切っていく上で経営者として必須の行動でしょう。

事業再生に取組むにあたって、相談するべき専門家の選び方については、下記の記事を参考になさってください。

事業再生アドバイザーについては、下記の記事を参考になさってください。

経営参謀については、下記の記事を参考になさってください。